婚約報告(其ノ参) 〜今度は女侯爵とそして〜
本日は第217話を投稿します!
今回は王都から話が始まります! と言うと当然あの人絡み!
-217-
「良く来てくれたねウィル! 皆んな!」
ルストラ師匠と話をした翌日、俺はアン達婚約者とマーユを伴って、王都ノルベールのオルガの屋敷を訪ねていた。勿論『転移魔導機』を使って、である。便利な物は使わないとな。屋敷の玄関ホールで俺達を笑顔で出迎えるオルガ。
「やぁオルガ、3日ぶりだな」
「「「「こんにちは、オルガさん!」」」」
「オルガお母さん、こんにちはッ!」
出迎えたオルガにそう言葉を掛ける俺とアン達。
「いやはや、『転移魔導機』と言うのは本当に便利な代物だねぇ」
俺に抱き付きながらそんな事を口にするオルガ。何せ一度でも行った所ならコーゼストの支援は必要だが、気軽に行き来できるんだからな。
「とりあえず今日は私の屋敷で寛いでくれたまえ。明日朝旦に国王陛下に会ってもらう様になっているからね」
そう言うとにっこり笑うオルガ。何でも既に国王陛下には遠方対話機で連絡済との事だった。流石はオルガ、仕事が早い。
「国王陛下は何か言っていたか?」
抱き付いたままそんな事を宣うオルガに、苦笑混じりにそう尋ねる俺。
「うん、「それは目出度い」と喜んでくれていたよ。まぁウィルに対しては「ようやく身を固める決意をしたか」とは言っていたけどね」
聞かれたオルガはオルガでそう言ってクスクス笑う。俺とオルガの話を聞いていたアン達も同様だ。
「何だか随分酷い言われようだなッ?!」
そんなオルガの物言いに思わず反論する俺の言葉に、更にどっと沸くアン達女性陣。
悪かったな! どうせ俺は惰弱な男だよ!
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明けて翌日、オルガの馬車に乗って俺達は王城へと登城した。城内では侍従長に先導され長い廊下と幾つもの階段を通ること暫し、当然の如く玉座の間へと通された俺達。
一段高い壇の豪奢な玉座には、エリンクス・フォン・ローゼンフェルト国王陛下がお座りになられ、その向かって右隣の玉座にはマティルダ王妃が座られ、向かって左隣のこれまた豪奢な椅子にはジュリアス王太子が、更にその左隣にはステラシェリー王女が座られていた。ここに国王陛下一家が勢揃いである。
俺達は玉座の前まで敷き詰められた赤い絨毯の上を進み出ると壇の手前で止まり、右膝を床に着き右手を左胸に当てて臣下の礼を執る。アン達やマーユは深々と最上級のお辞儀である。
「エリンクス国王陛下、オルガ・ロア・セルギウス、罷り越しました」
「エリンクス国王陛下、ウィルフレド・フォン・ハーヴィー、並びにアンヘリカ・アルヴォデュモンド、エリナベル・セルウィン、ルピタ・リットン、レオナ・シャルリム、マーユ・ジョゼ・ファンテーヌ、コーゼスト、罷り越しました」
深く頭を垂れて畏まるオルガと俺、そしてアン達とマーユ。
「うむ、大義である」
玉座の国王陛下はそう鷹揚に頷く。こうした様式美は大切な訳なんだが──正直言って面倒臭い。
「セルギウス卿、そしてハーヴィー卿と連れの者達も楽にしてくれたまえ」
エリンクス国王陛下の言葉に礼を解いて顔を上げる俺達。国王陛下は俺が顔を向けると格好を崩しながらニヤリと笑って一言。
「どうだウィルよ。ついに結婚を決意したらしいが、私が結婚と言うモノについての心得を教授してやろうではないか」
何か物凄く聞くのが怖いんだが?! 王妃様と結婚して何かあったんだ、陛下?!
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「うぉっほん、まぁ冗談はさておき、先ずはセルギウス卿との正式な婚約おめでとうと言わせてもらおうか」
警戒する俺の様子を見て更に笑みを深めると、次にわざとらしい咳払いと共にそう祝いの言葉を口にするエリンクス国王陛下。と言うかアレは冗談だったのかい!? 思わず身構えた俺の緊張を返してくれ!
そう思わずツッコミそうになるが、辛うじて踏みとどまる俺。何故なら陛下の隣に座る王妃様の笑顔を見たからである。王妃様、満面の笑みなんだが目がちっとも笑っていないのだ──チョットコワイデス…… 。
「有難うございます、陛下」
なのでそれだけ言うに留める俺。迂闊に薮を突いて大竜蛇を起こす様な真似はしないのだ。
「ハーヴィー卿、セルギウス卿。婚約本当におめでとう。心からお祝い申し上げますわ」
そのマティルダ王妃様は満面の笑みを崩さずにお祝いの言葉を俺とオルガに向けて来る。
「ウィル、私からもお祝いの言葉を贈らせてもらうよ、本当におめでとう!」
「ウィル様、私からもお祝いの言葉を贈らせて頂きますわ! おめでとう御座います!」
続けてジュリアスとステラシェリー王女がそれぞれにお祝いの言葉を贈ってくれる。
「王妃様、それにジュリアスにステラシェリー王女様も本当に有難うございます」
俺は素直な感謝の意味を込めて、国王陛下一家に深く腰を折るのだった。
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「それにしても……繰り返すようだが本当にセルギウス卿との正式な婚約、誠に喜ばしい限りだ」
場所を玉座の間から大応接間に移して話は続いていた。椅子に深く腰掛けながら沁々と声にするエリンクス国王陛下。まぁ陛下はオルガの寄親だしな、寄子とは言え自身の子に当たる者が婚約結婚が決まったと言うのはやはり嬉しいんだろう。
「それにな」
俺が1人納得していると、更に話し掛けて来る陛下。どうやらまだ話は続いているらしい。
「それに……なんです?」
「うむ。セルギウス卿が女性であり、しかもこんな美貌の持ち主だと知れ渡ってから、周りの王侯貴族の幾人かが私にセルギウス卿と繋ぎを取って欲しいと言って来ておってな。正直辟易していたのだ」
そう言うと渋い顔をする陛下。聞けばそうした声は、俺とオルガが婚約と言う話が貴族達に伝わってからも、変わらず続いているとの事だった。その話は初耳だな。俺の横に座るオルガを見るとやはり苦笑を浮かべて黙って頷いている。
「だが流石にウィルがセルギウス卿に婚約指輪を贈ったのが知れ渡れば、そうした不逞の輩も口を閉ざすだろう。そうした意味合いも含めて「喜ばしい」と言ったのだよ」
そう言って笑顔を見せる陛下は間違いなくオルガの父親そのものに見えた。そらまぁ実子ではないとは言え、寄子の、しかも娘と言える存在を政争の具にはしたくない、と言うのが陛下の偽らざる思いなのだろう。
血の繋がりよりも深く濃い親の情がそこにはあった。
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そのあと幾つかの話をエリンクス国王陛下や王妃様と済ませてきた俺。まぁ具体的にはこのあと何処に挨拶に回るのかとか、全ての挨拶を終えてから日を改めて結婚式を挙げる事等々である。最後に大応接間を辞する際に「どうかオルガ嬢の事を宜しく頼む」と、俺に向かって軽く頭を下げた陛下には吃驚したが。
俺だってオルガやアンみたいな長寿の種族の女性と結婚を決意するには人並みに葛藤もあったにはあったが、そう言う事も引っ括めて、彼女達2人の人生を全て受け止める覚悟をしたに他ならない。ある意味俺の我儘なのは否めないが、結婚も恋愛も男女お互いが我儘になる事で成立するものだとは、以前コーゼストに諭された事なのだ。
ならば彼女らに俺の人生を重ねてみるのも決して悪くはないだろう。少なくとも彼女達よりは先に俺の命は尽きるだろうが、彼女達の長い人生の「善き想い出」に俺は大きな痕を残せるのだ。それだけでも彼女達と結婚する意味はある。
勿論俺はオルガやアンのみならず、エリナやルピィやレオナ、そしてマディやジータの事も心から愛している。それは偽らざる思いであり本心だ。彼女達が俺に「愛」を向けて来る限り、俺は彼女達に無償の愛を注ぐ事が出来るのだ。
『その割にはマスターは妹のアドルフィーネさんには冷たいようですが、彼女のはマスターの仰る「愛」とは違うのですか?』
そんな俺の思考を断ち切る様にコーゼストからの念話でのツッコミが入る。
それは違うぞコーゼスト。アイツのは単なる重度の「兄弟恋慕」だ!
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更に明けて翌日はオルガをメンバーに加え、俺達はC級迷宮「深淵の森」近くの町ウルクに来ていた。勿論冒険者ギルドの非常用転移陣を使ってである。
何故こんな所に来たのかと言うと、アンの両親に挨拶に来たに他ならない。彼女の両親を含む森精霊の氏族はこの「深淵の森」の奥に暮らしていると言うのだ。だがここからだと馬鹿でかいと言われる世界樹が何故か見えないんだが? その事をアンに話すと
「世界樹には高度な認識阻害の魔法が掛けられているのよ。その昔、貴森精霊のおひとりが、ヒト族の世界樹を巡る争いを無くす為に掛けたと伝えられているわ」
と教えてくれた。流石はエルフ、魔法ひとつ取っても規模が違う。まぁ古代魔導文明や古代魔族を除いて、と注釈が付くが。
「でもアン、どうやってこの「深淵の森」の奥まで行くの? 真逆ダンジョンを踏破するんじゃないわよね? 今回は私達だけじゃなくてマーユもいるのよ?」
アンの答えにひとり納得していると、傍にいたエリナがもうひとつの懸念をアンに問う。そういやそうだ! ついいつもの通りのメンバーだと思っていたが、今回はマーユが同行しているのを頭からすっかり抜けていた! まぁ最悪うちの従魔達に護らせると言う手もあるが…… 。
「大丈夫よ。ダンジョンの中は通らないから」
俺が思い悩んでいるとアンからそうした答えが返って来た。
中を通らないってどう言う事なんだ?
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疑問に思いながらウルクから馬車で「深淵の森」入口まで来た俺とアン達。
ここ「深淵の森」は深い木々による天然の迷宮で、最低でも銅の認識札持ちの冒険者でないと入宮する事が出来ない中級レベルのダンジョンであり、駆け出しから昇級したての冒険者に割と人気があるダンジョンである。まぁかく言う俺も何度か訪れた事があるんだが、真逆ここにエルフの村があったとは夢にも思わなかった。
そんな事を思いながらダンジョンの入口前に立つ俺、そしてアン達。
「さて、と……ここからどうするんだアン?」
俺はそうアンに声を掛ける。何かするにしてもそれは彼女にしか分からない事だからな。
「ええ、わかっているわ。皆んなこっちよ」
アンも心得たもので、俺達を正規の入口となっている森の切れ目からずっと右脇の方へと誘導する。鬱蒼とした森の淵を歩く事暫し、やがて家1軒分はあろうかと言う大きな樹の前まで連れて来られる。アンはその大樹にそっと手を触れると
「『モンティ・ル・シュマ・ヴィ・レ・ヴィリティ』」
エルフ特有の言霊を小さな声で唱える。するとアンが手を触れた大樹の姿が不意に揺らいだかと思うと、ヒトが余裕で通れる大きな洞が姿を現した! 突然の出来事にエリナ達から驚きの声が上がる。
「何だッ?!」
「此処が私の氏族が暮らす村への直通ルートへの入口なの。普段はやはり認識阻害の魔法が掛けられているけどね」
事なげもなく話すアン。これがさっきの答えって訳か!
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「それでは皆んな、私の後について来て。決して離れない様に気を付けてね」
魔法で隠された通路が出現すると、アンがそう注意を促して先頭に立って洞の中に入って行く。それに続く俺達。仄暗い洞を抜けると再び目の前に鬱蒼とした森が。アンが前方に手を翳して再び言霊を詠唱すると、何と木々が左右に動いてヒトひとり通れる幅の通路が出現する。
「アン、これって……」
その非常識な現象にまた驚いて思わずアンに尋ねる俺。
「これも私達エルフの魔法よ。普段はこうして道を閉ざしているの」
それに対してこれまた事なげもなく答えるアン。どうやらアン達エルフの魔法は俺達が知っている以上に非常に高度なモノらしい。
そんな事を思いながら先に行くアンの後をついて行く俺とオルガ達。俺達が通った後は次々と左右に分かれていた木々が元通りに戻り道が閉ざされて行く。
「これは……また凄いものだな」
「本当に……エルフの魔法は古代魔導文明や古代魔族の魔法と比べても明らかに異質かつ独特な物だよね……」
その様子に思わずそう呟く俺とオルガ。エリナ達やコーゼストまでもがただ頷いているだけである。
兎に角こうして俺達はアンの先導で彼女の氏族が住む村へと深い森を抜けて行くのであった。
さて、これでアンの両親に歓迎されると良いんだが…… 。
オルガさんの関係者=国王陛下御一家への挨拶でした! それにしてもエリンクス陛下はマティルダ王妃と何があったんでしょうか? 凄まじく気になりますが、そこは突っ込まないでおいて下さい(笑)
話後半は一転、アンの氏族が暮らす迷宮「深淵の森」から! エルフの魔法は人族が使う魔法とは根幹が違った独特の物だと言う事が良く分かる話となっております!
さて、次回はそんなアンの氏族とアンの両親との対面が?! お楽しみに!
いつもお読みいただきありがとうございます!
 




