作刀依頼、そして婚約狂想曲
本日は第215話を投稿します!
題名を見て察した人は察したかと思いますが……今回は前回からの続き、ウィルがオリハルコン製の刀アマテラスをドゥイリオに見せた真意がわかります!
-215-
マーユとコーゼストを伴って久しぶりに訪れたのは、俺やアン達が世話になっている偏屈な武具職人ドゥイリオのガドフリー武具店。東方大陸で俺が手に入れた神鉄製の刀を見せに行ったのだが、ドゥイリオは手慣れた手付きで俺達の目の前で刀を分解したのである。何でも刀身の握りの部分──茎と言うらしいが──この刀の製作者の銘、所謂サインが刻まれているのを見る為だそうな。
刻まれていたのは刀の製作者の名前と、この刀自体の名前──号。製作者の名前は郝 宇航、そして刀の名は ” 天照 ” 。アマテラスとは東方大陸の太陽を始め光や慈愛、真実などを象徴する、最も尊い神様の名前らしい。そんな御大層な名前の刀とは知らずに気軽に使っていた自分が怖い…… 。
「全く、このカタナを打った鍛冶師はかなりの腕前だな! 惜しむらくはその鍛冶師には会えないと言う事だけだなぁ……」
ドゥイリオはドゥイリオで刀の製作者「郝 宇航」に思いを馳せていた。
銘には彼がアマテラスを作刀した日付も一緒に刻まれていた。それによるとアマテラスが作られたのは今から990年前、名前から察するに郝 宇航は東方大陸の人間だろう。とすると存命している訳が無いのは自明の理であった。
分解したのとは逆の手順でアマテラスを綺麗に組み立て直したドゥイリオは
「本当に昔のヒトには凄いヒトも居たもんだなぁ……」
とただただ盛大な溜め息を吐く。そんなドゥイリオに俺は
「そこでだ、ドゥイリオ。あんたもひとつ刀を打って見る気は無いか?」
そう言葉を掛けるのだった。
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「なにィ!」
俺の言葉に大声を上げるドゥイリオ。またもやマーユがドゥイリオの大声に吃驚している。
「いや何、今こうして見本になる刀が有るんだ。コレを参考にドゥイリオの手で刀を作れないかなと思ってな」
俺は俺で前から思っていた事をそのまま口にする。
ドゥイリオがこうした刀を作りたいのなら、これは千載一遇の機会である筈だ。それにドゥイリオの腕前は前に手渡された緋緋色金の刀剣で実証されているしな。何より俺がドゥイリオがどんな刀を作るのか興味がある。
「そらまぁ、打たせてもらえるってんなら一も二もないが……このアマテラスを目指すってんなら圧倒的に足りないもんがある。オリハルコンがな」
だがそう言うと力無く首を横に振るドゥイリオ。まぁ普通なら確かに簡単に手に入らない物ではあるが──
「コーゼスト」
──此方には「歩く非常識」のコーゼストが居るのをお忘れなく。
「はい──ドゥイリオ殿、これだけ有れば足りますか?」
俺の一言に無限収納から幾つかの壊れた魔道具を出すコーゼスト。
「おいおい、これってオリハルコンかよ?!」
それを見て再びテンションが上がるドゥイリオ。
「はい、その通りです」
一方、飽くまでも冷静な受け答えのコーゼスト。
「どうだドゥイリオ。これだけオリハルコンが有ればアンタが作りたい、アンタだけの刀を打てないだろうか?」
俺は改めてドゥイリオにそう尋ねるのであった。
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「おお、おおッ! これだけ有れば作れる、作れるぞッ!」
俺の台詞を聞いて色めき立つドゥイリオ。どうでも良いがドゥイリオは一々声がでか過ぎである。お陰で愛娘のマーユが三度吃驚しているんだが?
「それにどうせ目指すならアマテラスを超える刀を打ってやろうじゃねぇか!」
そんな事にお構い無しにやたらハイテンションになるドゥイリオ。どうやら焚き付け過ぎたみたいであるが、まぁ良いだろう。
「それじゃあ、そのアマテラスは暫くドゥイリオに預ける事にするとして、どの位で完成まで漕ぎ着けられる?」
「そうさなぁ……ひと月も有れば打てると思うんだがなァ。オリハルコンは昔一度叩いた事があってな、兎に角鍛冶師泣かせだったのを良く覚えているぜ」
何でもヒヒイロカネと比べても、打ち延ばす作業ひとつとってもかなりの労力が掛かるらしい。流石は既知世界でも最高の硬さを誇る金属だけの事はある。「神鉄」と言う名は伊達では無いのだ。
そんな硬いオリハルコンをどうやって加工出来るのかと聞くと、その辺は「秘伝」らしい。
「兎に角、俺の方からは急かせたりしないからな。ドゥイリオの満足がいく逸品を打ってくれ」
そう言って右手を差し出す俺。その手をしっかり握り返すと
「おう! 任せておけッ! 今の俺の最高の逸品を打ってやるからな!」
と髭面を綻ばせてそう返して来るドゥイリオ。
こうして俺はドゥイリオにオリハルコン製の刀の作刀を依頼し、ガドフリー武具店を辞するのだった。
空いた腰の剣帯には刀剣を吊るしたのは言うまでも無い。
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「マスターウィル、ひとつお聞きしたいのですが」
ガドフリー武具店から屋敷への帰路、唐突にコーゼストが尋ねて来た。
「ん? なんだ?」
「わざわざドゥイリオ殿に新しい刀の製作を依頼したのはどうしてでしょうか? アマテラス1本有れば事足りませんか?」
至極真っ当な意見を述べるコーゼスト。然もありなん。
「んー、理由なら幾つかあるが……」
恐らくそう言われるだろうと思っていた俺は、コーゼストに言葉を返す。
「それを教えて頂いても宜しいでしょうか?」
コーゼストの更なる質問に「良いとも」とひとつ頷くと、彼女の疑問に答える俺。
「俺がドゥイリオが作る刀を見てみたいと思ったのが先ずひとつ、次に俺の──と言うかうちのパーティーの戦闘スタイルだな。俺もだが、エリナやレオナは「守り」よりも「攻め」のスタイルだ。「守り」は基本デュークやお前に任せる事にしているから、単純に攻撃の手数を増やそうと思ってな」
「ふむ……「攻撃は最大の防御」とも言いますからね。確かに理には叶っているかと思いますが……」
「それとな、お前も知っての通り俺が両利きだと言う事も二剣──二刀流にしようと思った理由さ」
「成程、理解しました」
俺の言葉に納得し、素直に意見を引っ込めるコーゼスト。実はもうひとつ、ただ単に二刀流の方が見た目で格好いいからと言う理由もあるが、それは言わぬが花である。
いや、やっぱり格好良いのって重要だぞ? 特にハッタリをかますと言う事に於いては!
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明けて翌日、屋敷に魚人族の女王マデレイネ──マディとジータを呼び寄せる俺。
勿論13時間の時差を考慮して此方で午下の1時過ぎ──マディ達のオーリーフ島で午前6時過ぎにである。
「「ウィルッ! マーユッ! 皆んなッ!」」
屋敷の玄関ホールの床に現れた転移魔導機の魔法陣の輝きが薄れ、姿を現したマディとジータは俺らの姿を認めると一目散に此方に駆け寄って来る。
「お母さぁん! ジータお母さぁん! いらっしゃい!」
「やぁマディ、久しぶり。ジータも元気だったか?」
『『『『『2人ともいらっしゃい! ラーナルー市にようこそ!』』』』』
マーユ、俺、アン達はそれぞれに歓迎の言葉と共に2人を出迎える。
「本当にお久しぶりですねウィル! マーユも暫く見ないうちに大きくなって! 元気でしたか?」
「えへへーーっ、お母さん達も元気だった?」
マディとマーユが久々の再会に手を取り合っているなか
「んでウィル、あたしらを呼び寄せた理由はなんなんだい?」
俺にそう尋ねて来るのはジータ。
「それは全員揃ってから話すよ」
今はそう短く答えるに留める俺。そう言っている間にも再び床に転移魔導機のサークルが出現し、今度はオルガがサークルの中心に姿を現す。
「やぁウィル。アンやエリナやルピィやレオナも1週間ぶり。マディとジータも久しぶりだね」
サークルの輝きが薄れ、俺達の姿を認めるとそう笑いながら声を掛けて来るオルガ。
これで俺の婚約者が全員揃ったな!
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「先ずは3人にはコレを」
キャッキャウフフと中々に姦しいアン達やマディ達を宥めてから、俺はそう切り出しながら後ろに控える家令のシモンが持つ銀のトレーに置かれた布を退かす。そこには輝きを放つ星銀の指輪が3つ、俺はそのミスリルの指輪をひとつずつ手に取るとマディ、ジータ、オルガそれぞれの右手の薬指に次々と嵌めて行く。
「う、ウィル、こ、これって……?」
驚く3人のうち、まずマディがおずおずと口を開く。他の2人も驚いた顔で自分の右手の薬指を眺めていたりする。
「ああ、すっかり遅れてしまったが……婚約指輪さ。3人とも本当に遅れて悪かったな、だがこれで──」
──正式な婚約者だな、と言おうとした俺の台詞は、マディからの情熱的な接吻で口を塞がれて言葉を続ける事が出来なかった。
「ん……ちゅっ、はァ……もう! 貴方ってヒトは、こんな素敵な事をされたら我慢出来ないじゃないの!」
唇を離したマディがそう言って抱き着いて来て耳元で「だから好きよ♡」と熱い台詞を囁く。
そして次にジータと入れ替わると、やはり情熱的なキスをされ
「ホントだよ! こんな粋な事をされて黙っている女がいる訳が無いじゃないか?!」
そしてマディ同様抱き着いて来ると「好きだよウィル♡」とこれまた熱い台詞を耳元で囁いて来る。
そして最後にオルガが俺の首に腕を絡めると
「ウィル、君は本当に女性を虜にするね」
そう言って2人とは違って優しくキスをして、これまた耳元で「でもそう言う所も好きだよ♡」と囁くと、そっと離れて行く。その顔は事の他嬉しそうである。
とりあえず3人とも喜んでくれて何よりだな、と俺は胸を撫で下ろすのだった。
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「それで、ここからが本題なんだが」
婚約指輪を渡した後、中々に姦しくしていた女性陣が落ち着くのを見計らって、俺はそう全員に声を掛ける。俺の言葉に聞く姿勢を取る皆んな。俺は軽く咳払いをすると
「えへん、あーっと、だいぶ前に話した通りに俺は婚約した7人と結婚する。それでその前に7人皆んなの関係者──親や親戚なんかに挨拶に行こうと思っているんだ。まぁ既にエリナの御両親には挨拶をしたから、エリナ以外の6人だな」
そこまで言って言葉を切る。アン達からは特に反対意見が無いようなので話を再開する。
「それで廻る順番を相談したいんだ。具体的には一番近いルピィの家からとして、その次は何処に行けば良いと思う?」
次に話の要点について話す俺。するとアンが婚約者全員を代表して話し始める。
「そうね……近い所からならルピィの次はエリナだけど、今回はオルガさんかしら? その次はレオナか私なんだけど……レオナはどうするの?」
「あたしの所は良いかな? ほら、ウィルに紹介する両親も親戚なんかも居ないしね」
アンに話を振られたレオナは、少し寂しそうに笑いながらそう返事を返す。そう言えば彼女の事情は以前に聞いた事があるな。
「そう……ならルピィの次はオルガさんで、次は私の所で、マディとジータは最後で良いかしら?」
アンの言葉に頷く他の婚約者達。
こうして見ると改めて家庭内序列はアンが序列一位であるらしい。
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兎にも角にもこうして挨拶に回る順番は、特に揉める事も無く無事に決まった。具体的にはルピィ、オルガ、アン、マディ、ジータの順である。
「それでは早速オーリーフに戻ってヨエル達に話さないといけませんね」
「あたしも。戻ってザイラや部下達に話さないとね!」
「私も王都に戻って国王陛下に報告しないとだねぇ」
マディ、ジータ、そしてオルガの3人は直ぐにでも戻りたいみたいだが、ちょっと待て。
「あーっと、あとひとつ言っておかないといけない事が有るんだが……」
俺の言葉に全員が全員、再び聞く姿勢を取る。俺は婚約者達一人ひとりに視線をあわせると
「それでだな。挨拶回りをひと通り終えたら、日を決めて王都ノルベールにある大聖堂で結婚式を挙げるつもりでいるんだが、そのつもりでいてくれないか? 勿論こういう結婚式にしたいと言う要望が有れば遠慮なく言ってくれ」
俺の言葉にアン達婚約者全員、顔に喜色を浮かべると「どんな結婚式にしようかしら」とまたもや姦しくなる婚約者の面々。
「マスターも随分と女性の扱いが上手くなりましたね。これで結婚生活も一安心です」
一連の話を見聞きしていたコーゼストが唐突にそんな事を口にする。頼むから人を好色漢の様に扱わないで欲しいものである。
話が盛り上がるアン達を見ながら、割と本気でそう思う俺であった。
今回の題名通り、ドゥイリオにオリハルコン製の刀の作刀依頼をしたウィル! ドゥイリオが作る刀はどのような刀になるか、興味は尽きません!
そして遅ればせながらマディ、ジータ、オルガに婚約指輪を渡したウィル! ここから結婚まで段々と加速していきますので、引き続きお読みいただけると嬉しいです!
さて、次回から婚約者達の身内への挨拶回りとなります! 次回もお楽しみに!
いつもお読みいただきありがとうございます!




