良運機運
本日は第208話を投稿します!
今回はサンドノ村まで商人のホルスト氏と冒険者パーティー『灰狼』の面々を連れて行ったウィルが、サンドノ村を治めるツァーベル男爵と会った所から話が始まります!
-208-
「この度はホルストを盗賊から助けていただき、誠に有難うございましたッ!」
サンドノ村を治めているエトムント・ツァーベル男爵から現在絶賛謝礼を述べられている俺。
何故こんな事になっているかと言うと、シグヌム市からサンドノ村に向かう途中で盗賊に襲われている商人のホルスト氏と護衛の冒険者パーティー『灰狼』の面々を助けた事を話したからである。そんな大した事はしてないんだがなぁ。
聞くとホルスト氏はツァーベル男爵が今の爵位を賜る前から懇意にしている商人で、昔から色々と融通を利かせてくれていたらしい。つまりはツァーベル男爵はホルスト氏にかなりの恩義を感じていると言う事だ。
「あーっとツァーベル卿、顔をあげてくれ」
俺は少しいたたまれない気分になって彼に声を掛ける。俺の言葉に顔を上げる男爵。
「今回ホルスト氏を助けたのは単なる成り行きだ。君にそこまで感謝されると逆に心苦しいんだが……」
「こ、これはまた失礼致しました!」
俺の言葉に慌てて礼を解く男爵。やれやれ、これでやっと真面に話せるな。
「うふふっ、全くウィルらしいね。でもそうした所もとても素敵なんだけどね♡」
俺とツァーベル男爵の一連のやり取りを黙って聞いていたオルガが、満面の笑みを浮かべてそんな事を宣ったりする。その言葉に同調してアン以下他の婚約者達も一様に頷いていたりする。
「まぁやっている事言っている事は貴族らしくないんですがね」
そんなアン達に苦笑いを浮かべていると、コーゼスト先生から的確なツッコミが入る。
良しコーゼスト、後で徹底的に話し合いな!
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とりあえず玄関前で立ち話もなんだと言う事で、男爵の屋敷の応接間に場所を移し、話の続きをする事にした俺達。勿論うちの従魔達も、『灰狼』のケヴィン達も一緒である。
「あ、あの〜、何で俺らまで一緒に?」
移動中おずおずと尋ねてくるのはリーダーのケヴィン。他の3人も辺りをキョロキョロと見回しており、はっきり言って挙動不審である。
「それは勿論、俺達は途中から応援に入ったから、襲撃の詳細を知らないんだ。君達にはその辺の話を男爵に詳しく話して貰おうと思ってな。まぁ何事も経験だ」
そう簡単に理由を説明する俺。勿論、理由はでっち上げである。俺がケヴィン達から聞いた話を男爵に話しても良いが、単に面倒くさいだけなのだ。主に俺が。
『まぁそうですね。当事者では無いと説明しづらい事もあるでしょうし、妥当な判断だと思います』
そんな俺の思考を読んだコーゼストが珍しく俺の考えに賛成する。明日は雨か?
「──まぁウィルも下の者を上手く使う事を覚えないとね。何しろ上位貴族なんだしね、ヒトに任せられる事はヒトに任せないと」
そっと小声でそう耳打ちして来るのは俺の横を並んで歩くオルガ。そう耳打ちするとにっこり笑みを浮かべる。どうやら彼女も反対では無いらしい。
まあその辺の事は氏族の運営と同じ感覚で良いんだろうな、きっと。
何せ他に比較対象が無いし、そう言う事は先輩のオルガに教えて貰うとしよう。
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応接間に到着し早々、早速襲撃の詳細を改めて男爵に話して聞かせるケヴィン達『灰狼』の面々とホルスト氏。男爵はひと通り聞き終えると
「うむむ、それほどとは……」
ひとつ大きく唸ると
「両閣下には重ね重ね厚く御礼申し上げます。このツァーベル、如何様にしても両閣下の恩に報いる所存です」
「私からも御礼申し上げます。本当に有難う御座いました」
俺とオルガに向かって深々と頭を下げる男爵と男爵夫人。
「私も両閣下からは多大な恩を受けました。その恩に報いねばなりません」
男爵夫妻に続き、ホルスト氏までもがそう言うと深々と頭を下げて来る。このままだとケヴィン達までもが「俺達も助けて貰った恩義があります」とか何とか言いかねないので
「あーっと、俺は冒険者で堅苦しい話は苦手なんだ。君らの感謝の気持ちは有難く受け取らせて貰ったから、この話はここまでと言う事にしよう」
正直ありのままの話をぶち上げる俺。
「そうだねぇ、ツァーベル卿もホルスト氏もここら辺で、ね? 何せウィル──ハーヴィー卿はこうしたヒトからの感謝には不慣れな照れ屋なんだ。私からも頼むよ」
そしてここでオルガから絶妙なタイミングで援護が入り、彼等も「それでは……」と話を切り上げてくれた──やれやれ。
どうもこうした感謝の言葉を投げ掛けられると背中から尻がむず痒くてどうにも堪らない。
我ながら損な性格をしているな、と自覚はあるんだが、一朝一夕で直るものでも無いしな。
結局慣れて行くしかない……のか?
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その日は自分の屋敷に泊まって欲しいとツァーベル男爵に請われ、結局ホルスト氏とケヴィン達共々世話になる事にした俺達。聞けば男爵の屋敷には余裕があるとの事なので遠慮するのはやめた。まぁここで男爵の顔を立てておかないと色々と悪いしな。
そんな事を思いつつ俺とオルガとマーユとコーゼストは男爵に主客房へと案内された。アン達はまた別の客房に通されたみたいだし、ヤト達は一旦送還しておいた。
「ふぅ……やれやれだな」
部屋に設えてあるベッドに腰を降ろしながら盛大な溜め息をつく俺。
「あははっ、ウィル、本当にご苦労様」
「お父さん! おつかれさま!」
「マスター、取り敢えずはお疲れ様でした」
そんな俺にそう声を掛けてくるオルガとマーユとコーゼスト。オルガとコーゼストはやはり部屋に設えてある応接揃の椅子に腰掛けており、マーユに至っては俺の横にちょこんと腰掛けて抱き着いていたりする。それとコーゼスト、取り敢えずってなんだ?
「ったく、ただ単に通りすがりで盗賊達に襲われているのを助けただけなのに……」
そんなマーユの髪をくしゃりと撫でながら少し愚痴を零す。どうしてこうなった?
「まぁまぁそう愚痴らずに。ウィルも辺境伯と言う地位ある人物なんだ。こうした柵は嫌が上にも増えて行くもんさ。だからそれに慣れないとね」
俺の愚痴に懇切丁寧に答えを示してくれるオルガ。そういやこの巡行が始まってから、彼女と話す場面が多くなったなぁ。
「まぁその辺のわからない所は貴族の先輩であるオルガに頼るけど、な」
俺がそう言うとオルガは何だかとても嬉しそうだ。
先輩、本当に頼りにしています!
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「──それでは乾杯ッ!」
「「「「「乾杯!」」」」」
ツァーベル男爵がそう言って銀杯に並々と注がれた葡萄酒を一気に飲み干し、続けてコップのワインを一気に飲み干す俺達。無論マーユのコップに注がれているのは果実水であるが。
あっという間に夜になり、男爵の屋敷ではささやかながら晩餐会が催される運びとなった。となると呼び出さないと行けない者達がいる。
「男爵、俺の従魔のヤトとセレネも今夜の晩餐会に参加させたいんだが……構わないか?」
「おお、あのラミアとモスクイーンですな? 勿論構いませんよ」
男爵の許可も取り付けたので早速ヤトとセレネを召喚する。
「御主人様の一の下僕、ヤト見参! 私の分の料理はまだ残っているかしら?!」
「同じく御主人様の一の下僕、セレネですわ。漸く呼ばれましたわね」
目の前に光と共に顕現するヤトとセレネ。その台詞も最早定番である。ヤトは相変わらず食い意地が張っている台詞であるが。
「「「「「おおッ!」」」」」
魔物2人の登場にどよめくのはケヴィン達『灰狼』のメンバーとツァーベル男爵夫妻。これもまた定番と言うか安定のやり取りである。
「ヤトお姉ちゃん、セレネお姉ちゃん、いらっしゃい! はいっ、お皿とフォークよ!」
「流石はマーユ、良くわかっているじゃないッ!」
「あらあら私の分まで。マーユちゃん、有難うございます」
そんなヤトとセレネに料理を取り分ける小皿とフォークを渡しながら声を掛けるのは我が愛娘のマーユ。
誰にでも屈託の無いマーユに思わず周りの誰もが笑みを浮かべるのだった。
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晩餐会が始まって小一時間程経った頃──
「ハーヴィー閣下には何から何まで本当にお世話になりました」
俺はアン達と共にホルスト氏と色々と話していた。因みにオルガはツァーベル男爵と歓談中で今は席を外しているし、ヤトとセレネはマーユと共に料理を楽しんでいる。
色々と話しているうちにわかったのだが、ホルスト氏はシグヌム市ではネヴァヤさんとトラブルだった例のグーコフ商会とは、いわゆる商売敵だったのだそうだ。常日頃からサーヴァ・グーコフら一派のやり方には反感を持っており、グーコフ商会とは違って真っ当な商売をしていたそうな。
なので今回サーヴァ会頭が商売から身を引く事を誰よりも事の他喜んでいたらしい。そして当然ながら俺がグーコフの件に深く関わっていた事も聞き及んでいた。なので先程の挨拶となる訳である。
「この度はサーヴァ会頭に意見していただき、誠に有難うございました。彼が率いる一派もこれで求心力を失い、真っ当な商売をする者達が報われる様になるでしょう。それも含めての御礼で御座います」
そう言うと改めて深々と頭を下げるホルスト氏。だがちょっと待て。
「するとホルストさんもさぞかし名のある商人なんじゃ……」
「名のあるかどうかは分かりませんが一応商会を経営しております。商会の名はクザーツ商会、私の家名です。申し遅れましたが私はホルスト・クザーツと申します」
俺の指摘ににこやかに答えるホルスト氏。
どうやら俺はとんでもない人物を助けたみたいである。
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「なるほどクザーツ商会の会頭だったのかい」
俺らとホルスト氏の話に背後から声が掛かる。振り返ると男爵と語り終えたオルガが男爵を伴い此方に近付いて来ていたのだ。
「ん? オルガはクザーツ商会の事は知っているのか?」
「まぁね。ひとつの店舗の規模はグーコフ商会なんかより小さいけど、グループとしての規模はグーコフ商会なんかよりも巨大なグループさ。そこの会頭は会頭の職に就きながらも基本を忘れない為に自ら現役の行商人みたいに働いているとか何とか……単なる噂だと思っていたんだけど真逆本当だったとはね」
俺の問い掛けにこれまた懇切丁寧に答えるオルガ。
「セルギウス閣下のお耳にまで入っているとは……恐縮で御座います」
そんなオルガの答えにしきりに恐縮するホルスト氏。この辺はあのサーヴァ会頭とは全くの真逆な感じである。敢えて言うなら巧言令色なのがサーヴァ会頭だとすると、此方は正反対の質実剛健を地で行く様なのがホルスト氏──ホルスト会頭と言うべきか。
「全く……マスターウィルのこうしたヒトの繋がりを手元に引き寄せる運は本当に卓越していますね」
今まで黙って一連の話を聞いていたコーゼストが感心した様な物言いで、自身の考えを声に出す。その声に同意を示して頷くアン達。
それに関しては俺が一番驚いているんだが?!
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「ですが良い運を引き寄せるのと引き寄せた運を使いこなす事は全く違います。どんなに良運を引き寄せても、それをちゃんと使いこなせず結局破滅した商人を私は数多く見てまいりました。僭越ですがハーヴィー閣下は良運を引き寄せ、且つそれ等を上手く使いこなしている様に私には見受けられます」
そこでコーゼストの台詞に反応したのは何とホルスト会頭本人だった。
「無論ツァーベル閣下や私、そして今回助けられた若い冒険者達も含めて、ですが」
そう話を締め括るホルスト会頭。だが彼が言う通りなのだろう。
この前も言ったが冒険者と言うのは「運」頼みな面は否めない。それこそその場その場の局面に於いて、立て続けに賽子の1の目を出し続けられる程の奇跡的な幸運に巡り会えなければ、最悪「死」が待っている職業だからだ。そして更にそうして引き寄せた「運」を上手く使いこなせなければ、やはりその先に待つのは「破滅」か「死」であるのだ。
「結局最後に残るのは己の力量で「運」を捩じ伏せる事が出来た、一部のヒトだけが冒険者として成功するのよ」
ホルスト会頭の話を聞いていた俺の脳裏に、嘗てルストラ師匠が俺に説いた「冒険者としての心得」が思い出されるのであった。
結局ツァーベル男爵邸に泊まる事になったウィル達! それにしても盗賊から助けたホルスト氏が大商会の会頭だったとは! 世の中、何が縁になるか分からないものです。それに悪運だろうと良運だろうと引き寄せるウィルの引きの強さは最早才能かと思います!
さて、サンドノ村に一泊したウィル達は次回いよいよ最後の目的地であるリータグ市へ到着します! 詳しい話は次回をお楽しみに!
*「なぜか俺のヒザに──」本編は今日が今年最後の更新です。次回更新は2022年1月9日となります。
その代わり2022年1月1日から3日まで「なぜか俺のヒザに」スピンオフ!をお楽しみ下さい!
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