英雄の価値 〜連行、そして来臨〜
本日は第207話を投稿します!
サンドノ村に向かう途中で盗賊から若き冒険者パーティーと、彼等に警護されていた商人を助けたウィル! 結局サンドノ村まで彼等と同道する事になりました! 今回は出発前のあれやこれやから話が始まります!
-207-
「すげぇーーッ! 本物の神鉄の認識札だぁ!」
「これが『英雄』の証のオリハルコンのタグ……」
「おおぉぉ、す、すげぇ……」
「ふわぁぁぁぁ、初めて見ましたぁ……」
目の前に燦然と輝く俺のオリハルコンのタグを見て興奮するケヴィン達『灰狼』の面々。あの後、盗賊の生き残りをロープで縛り上げて竜車の後ろに繋いでから、ケヴィン達に請われた俺はオリハルコンのタグを見せていたりする。何か凄く目をキラキラ輝かせてタグに見入るケヴィン達。
因みに生き残った盗賊はお頭を含めて5人、今はベルタとファウストに見張らせているし、討ち取った盗賊達の亡骸は1箇所に集めてアン、フェリピナ、ヤトの魔法で乾燥焼却されている。
更に因みにキャリーの中でコーゼストに護られていたマーユだが、こうした人死の現場が大丈夫か少し心配していたが本人曰く「大丈夫」らしい。
「ほうほう、これが幻とまで言われた『英雄』の証なのですね」
そんな一方で、何故か盗賊から助けた荷馬車の持ち主でありケヴィン達の雇い主でもあるホルスト氏までもが、興味深そうに一緒になってタグに見入っていたりする。珍しいのはわかるが…… 。
「うんうん、そうだろうそうだろう、何せこのハーヴィー閣下が冒険者ギルドが認めた初の『英雄』なんだからね!」
そして何故か俺の横ではオルガがこれでもかとドヤ顔でそう宣っていたりする。それ、なんだか小っ恥ずかしいからヤメレ。因みにケヴィン達には「辺境伯だからと言ってそんなに畏まらなくても良いから」と、よーく言い聞かせてあったりする。
「全く……マスターは御自身の立場と言う物をもう少し自覚された方が宜しいかと」
俺がケヴィン達にそう「頼む」のを見ていたコーゼストから思いっきり呆れ顔をされてしまったが、仕方ないだろ? こう言う性格なんだよ!
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「あーっと、皆んな落ち着いたかな?」
「「「「あっ、はい」」」」
一頻り俺のオリハルコンのタグを鑑賞し終えたケヴィン達にそう声を掛ける。ケヴィン達もどうやらようやく興奮から冷めたみたいで何よりである。
「いやはや、年甲斐も無くつい燥いでしまい大変申し訳ありませんでした」
同じくホルスト氏も落ち着いた様で何よりだ。
「でも凄いですウィルさん! 俺らも早くクラスを上げてウィルさん達に追い付きたいですッ!」
おっと?! ここにまだ興奮冷めやらぬのが1人、『灰狼』のリーダー、ケヴィンである。流石に18歳ぐらいだと若さ故の何とかだな。
「そうだねぇ、上のクラスを目指すのは冒険者としては正しい姿勢だね。だけどその為には先ずは実力を身につけないとね?」
そんなケヴィンの台詞にオルガは大きく頷くと諭す様に言葉を投げ掛ける。その言葉に「うっ、そ、それはそうですね」と現実に引き戻されるケヴィン。
「オルガが言う通りだな。まずは少しずつでも実力を身につけて、確実に依頼を熟せる様にならないとな。ゆっくりでも確実に依頼を熟せれば、それが結果としてクラスアップに繋がるんだ。君達はまだ若いから焦る必要は無いさ」
オルガの言葉に乗っかって俺もそうケヴィン達を励ます。だが実際の話どんなに着実に確実に依頼を熟しても、最後には結局「運」であるのに他ならない。今回の盗賊みたいに想定外に遭遇する事だってあるのだ。だが彼等も冒険者となった時点で死ぬかも知れない覚悟はしているだろう。
だから俺からはこんな陳腐な言葉しか掛けれなかったのだ。
「──頑張れよ」
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とりあえず俺のタグの話は置いておいて、改めて現実問題と向き合う事にする。現実問題、それは生き残った5人の盗賊の扱いについて、である。
今回の事例の様な場合、近くの大きな町まで生き残った盗賊を連行する必要があるのだ。問題は彼等『灰狼』に任せて大丈夫かと言う事に尽きる。聞けば彼等はつい1ヶ月ほど前にCクラスになったばかりの新星だそうだ。それなら尚更無理をさせる訳には行かない。
「はぁ……これは最後まで面倒見ないと此方の寝覚めが悪くなりそうだな」
そう言うと思わず頭を搔く俺。
「すいません、俺達が不甲斐ないばかりに……」
俺の台詞にリーダーのケヴィンがしょんぼりしている。いやいや、別に君らを責めている訳じゃないんだが? 俺がそう声を掛けようとすると
「まあ今回は運が無かったかな? でも安心したまえ、君達が依頼された主旨は「ホルストさんと荷を守る事」であって、「盗賊を討伐する事」は目的では無いんだ。ちゃんと最後まで送り届ける事に傾注すれば依頼は達成されるんだからね」
オルガが笑いながらケヴィンらにそう話し掛けるのだった。流石はグラマス、そうした事に気が回る。
「まぁそう言う訳だから、君らが気にする必要は無いさ。盗賊はこのまま俺達のドラゴンキャリーで連行させてもらうからな」
俺も自分に出来るだけの笑みを顔に浮かべてケヴィン達に声を掛ける。
「は、はいっ! それじゃあ連行はよろしくお願いします!」
オルガと俺の言葉に元気を取り戻したケヴィンがそう言って、他のメンバーと共に頭を下げてきたのであった。
やっぱり若いと立ち直りも早いな。実に羨ましい。
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話はついたので盗賊達はそのままドラゴンキャリーで連行する事となり、その場をあとに北にあるサンドノ村に向かう俺達。無論ケヴィン達『灰狼』の面々とホルスト氏の荷馬車も同道している。聞けばホルスト氏はシグヌム市からリータグ市にある支店まで荷を運ぶ途中だったらしい。まぁそれはそれとして。
「此奴らは次のサンドノ村で引き渡せば良いか……」
キャリーの後ろをロープに繋がれ歩く盗賊を、客車の窓から見て独り言ちる俺。オルガから聞いた話だとサンドノ村にも小さいが冒険者ギルドの支所があるとの事、そこに此奴らは手渡せば良いだろう。
ただ1つ困った事は此奴らを繋いでいる所為でドラゴンキャリーの速度を上げられない事だ。今地竜は馬で言う所の「常歩」ぐらいゆっくり歩いているのである。これでは明らかにサンドノ村まで時間が掛かってしまう。ケヴィン達『灰狼』の面々もホルスト氏の荷馬車に乗っているのだし、少しでもスピードアップしたい。
「マスター、それでしたらデュークに配下ゴーレムを何体か造ってもらい、盗賊達を運ばせるのも手かと」
俺の思考を読んだコーゼストからそう提案された。確かにその方が手っ取り早いか…… 。
「よしデューク、配下ゴーレムを3体出して、盗賊達を運んでくれないか?」
俺はフェリピナにドラゴンキャリーを一旦停めさせるとデュークにそう指示を出すのだった。
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それから2日後、俺達は無事サンドノ村の手前まで到達した。5人の盗賊はデュークが生み出した身長2メルトの配下ゴーレム3体に運んでもらったのでほぼほぼ予定通りである。
因みにどう運んだかと言うと、ゴーレム1体が盗賊2人をひょいと小脇に抱えて、である。何か荷物扱いにも見えなくもないが、盗賊相手に情けは無用である。まぁ尤もうちのメンバー達やケヴィン達にはやたらウケていたが。
兎に角このままゴーレムに運ばせて行くと騒ぎになりそうなので、村の街並みが確認出来る距離まで来てからデュークにゴーレムを送還してもらい、盗賊達のロープは改めてドラゴンキャリーに繋いで村に入る事にした。何か凄く盗賊達の顔色が悪いのだが、ゴーレムに運ばれて酔ったのか?
「と、止まれーーッ!」
そんな事を考えているとサンドノ村の正門を守る門番2人に止められた。その声にゆっくりと停車するドラゴンキャリーとホルスト氏の荷馬車。
「そ、それは一体なんだ?! それに後ろの者達は?!」
恐る恐るビクビクしながら御者台で手綱を握るアリストフに尋ねて来る門番の1人。実に職務に忠実である。
「はい、これはドラゴンキャリーと言う乗り物でして、中にはウィルフレド・フォン・ハーヴィー辺境伯閣下とオルガ・ロラ・セルギウス侯爵閣下がお乗りになられています。後ろに繋がれているのは途中で遭遇した盗賊です」
聞かれたアリストフもこれまた職務に忠実に門番に丁寧に返事を返す。すると
「は? へ、辺境伯閣下と、こ、侯爵閣下ッ?! そ、それに盗賊までも?! そ、それは大変失礼致しましたッ!」
いきなり畏まる門番さん。そして「どうぞお通り下さい!」と門の横で直立不動の姿勢をとる。もう1人の門番は慌てて村の中を駆けて行くのが見える。
何か物凄くいたたまれない気になるのは俺だけだろうか?
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最初にちょっとだけ揉めたりしたが、割とすんなりサンドノ村に入る事が出来た俺達。さすが辺境伯と侯爵と言う知名度は伊達では無い。あとは盗賊達を冒険者ギルド支所に連れて行けば完了となるが、場所に関してはアリストフが門番さんから聞いてくれたので任せる事にしよう。
「そういやこのサンドノ村を治めているのって誰なんだ?」
ドラゴンキャリーに揺られながらオルガにそう質問をする俺。
「うん? ああ、ええっと、確かエトムント・ツァーベル男爵……だったかな? 以前登城した時に一度会った事があったねぇ」
俺の突然の質問にもちゃんと答えるオルガ。やはりその辺は流石である。
「多分今日はここに1泊する事になるだろうから、やはり挨拶をしておくべきかな?」
「そうだねぇ。通過するなら兎に角、短い時間とは言え逗留するんだから、顔は出しておくべきだろうね。そうでないと他の貴族にハーヴィー辺境伯は「狭量な人物」と言う印象を与えてしまう事になりかねないからね」
やっぱりそうだよな、ここまで来て顔も出さないと言う選択肢は無いかぁ。また言っていると思われたくないが……本当に貴族と言うのは面倒臭いな。
だけど自分もその枠組みの中の1人になったのだから、今更放り出す様な真似はしないが。
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とりあえずサンドノ村にある冒険者ギルド支所で5人の盗賊を引き渡した。そこでは無論オルガのグラマスとしての知名度が役に立ったのは言うまでもない。あと何割かは俺の『英雄』としての知名度も効いていたみたいだが、まぁそれはそれとして。
兎にも角にもあとはこの村を治めていると言うツァーベル男爵に会うだけなのだが…… 。
「ウィルさん、そう言う事でしたら私がツァーベル男爵の屋敷まで御案内致しますよ」
ホルスト氏から真逆の申し出である。何でもホルスト氏はツァーベル男爵に懇意にさせてもらっているらしく、今回も男爵の屋敷に寄る事になっていたらしい。
「うーん、そう言う事ならお願いしようかな」
まぁ構わんだろう、どうせ向かう先は同じ所なんだからな。他のメンバーからも異議は無いのでホルスト氏の荷馬車に先導してもらう事にする。
村の大通りを荷馬車に続いてゆっくり進むドラゴンキャリー。村人から俺達に向けられる奇異の視線にもいつもの事である。
「はははははっ、流石はハーヴィー閣下のドラゴンキャリー。誰からも注目の的ですなぁ」
前を行くホルスト氏はこの状況を何だか楽しんでいるみたいである。まぁ商売は目立たなくては意味が無いからな。彼にとっては良い宣伝になるのだろう。
そんなこんなしながらも俺達はホルスト氏に、大通りの奥にある屋敷へと連れて来られたのである。
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「ハーヴィー辺境伯閣下! セルギウス侯爵閣下! お連れの方々も! ようこそサンドノ村にお越し下さりました! ホルストも閣下方の案内ご苦労!」
屋敷の門前では門番から連絡を受けたツァーベル男爵と家人全員が俺達を出迎えた。
「私がこのサンドノ村を治めておりますエトムント・ツァーベル男爵です! 以後お見知り置きを!」
「りょ、両閣下に於かれましては御機嫌麗しく。エトムントが妻ゼルマと申します」
褐色の肩までの髪を後ろで1つに纏め、如何にも貴族然とした服装のツァーベル男爵と、同じくブルネットの髪を編んでアップにし、割と上品なドレスを身に纏ったゼルマ夫人が、深々と臣下の礼とお辞儀を執って俺達を出迎えてくれる。他の家人達は一様に深々と頭を下げている。
「ツァーベル男爵、ゼルマ夫人、わざわざの出迎えご苦労」
とりあえず鷹揚に受け答えをする俺。流石にこうした出迎えにも慣れた。
こうして俺達はこのサンドノ村を治めるツァーベル男爵夫妻と初顔合わせを果たしたのであった。
そういやホルスト氏の荷馬車に乗っていたケヴィン達は完全に降りる機会を逸したな! まぁ何事も経験だ、うん!
無事に商人のホルスト氏やケヴィン達『灰狼』の面々をサンドノ村まで連れて行く事が出来ました! それにしてもウィルのオリハルコンのタグを見て、ケヴィン達は大興奮でしたね!
さて、通過する予定のサンドノ村に一泊する事になり、サンドノ村を治めるツァーベル男爵と対面を果たすウィル達。次回はこのツァーベル男爵邸からの話になります! お楽しみに!
☆manakayuinoさんに描いていただいたウィルの自称ライバルで親友のオルティース・トリスタンのイラストを第56部五十二話に掲載しました! manakayuinoさん、素敵なイラストをありがとうございました!
いつもお読みいただきありがとうございます!




