魔水晶と輝刃
本日第二十一話投稿します!
自分に素直過ぎるラファエルと毒舌メイドノーリーンの掛け合いも絶好調!(笑)
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「──条件?」
ラファエルの口から出た言葉の真意を計り兼ね俺は少し身構えた。するとそれに気付いたラファエルはニヤッと笑い
「そんなに難しい話では無い。条件と言ったが……寧ろ願いだな」
「??……願いねぇ……」
「何、簡単な話だ。地上に居る間、コーゼスト殿や魔物達の研究をさせて貰おうかと、な」
「旦那様、その様な高圧的な態度で人様に願いを乞うのはお門違いなのではありませんか?」
「うぐっ………」
後ろに控えていたノーリーンから指摘されて言葉を詰まらせるラファエル。どうやらこの屋敷の主導権はノーリーンが握っているらしい。
まァ、そうした話ならこちらにしても役に立ちそうではあるが──
「う、うむ。言葉が足りない様であったな。ウィル、頼まれてはくれまいか────!? いや、ウィル殿! 何卒宜しく御願いする!」
言葉を変えて頼もうとするラファエルは自身の後ろからの無言の圧力を受けて慌ててテーブルに手を付き頭を下げる。何だこの構図は?
「まぁ、それ自体は構わないが──具体的にどうするんだ?」
「うむ、コーゼスト殿の構造や機能を備に解析させて貰いたい。それと連れている魔物を詳しく観察したい」
『失礼ながら私を解析する、と仰いましたが──私としては弄り回されるのは些か心外ではあります』
コーゼストが抗議の声を挙げるが然もありなん。
「言っておくがコーゼストの分解とかファウスト達の解剖ならお断りだぞ?」
そうラファエルに言っておきながら、俺は自分の口を衝いて出た自身の台詞に吃驚した。ファウスト達は兎に角、何で俺はコーゼストを護ろうとしているんだ?
──俺の心の動揺に気付く事無くラファエルは
「勿論、その様な非道な行為を行う気持ちなど万に一つもない──と言うかウィルフレドは私をどの様な人間だと思っているのだ?」
「それは──とことん自分の探究心に忠実な奴かと」
「若しくは欲望に忠実とも言いますね」
俺の台詞にノーリーンが言葉を被せる。それは言い過ぎじゃないか?
「と、兎に角その様な狼藉を働く気など毛頭無い!! 私の願いを聞き届けられねば魔水晶は売れない! それにノーリーン! 何でそこまで私を揶揄するのだ?!」
おっと、ラファエルが逆切れし始めた。
「まァ待て、誰もコーゼストを解析させないとかファウスト達を観察させないとは言っていない。少しからかっただけだ」
俺はラファエルに謝罪の言葉を告げながら頭を下げる。こんな事でへそを曲げられても後が色々困るからな。
「こんな瑣末な事でキレるとは……旦那様は狭量過ぎます」
うん、ノーリーンはブレないな!
「………本当であるか?」
「本当だとも。頼りにしているからこそ、こうして訪ねて来ているんだ」
『マスターは間違い無く心から謝罪しています。マスターの考えは私にはお見通しなので。それに分解等の手段を用いない解析なら私も構いません』
コーゼストからも擁護だか貶しているのか判らない援護を受ける──何か酷く無いか?
「旦那様もオトコなら何時までもグジグジしないでくださいませ」
ノーリーンも後押しするみたいに話し掛ける──が、殆どキミが追い討ちをかけていたよね?
「………まぁ、そこまで言うのならば貴様の言葉を信用しようではないか」
どうやら機嫌を持ち直したみたいである。やれやれ………やたら静かだな~とアンを見るとデュークを抱きながら呆気に取られた顔でこちらを見ていた。
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「では、先にそちらの頼み事を叶えるとしようか」
ラファエルはソファから立ち上がり俺の後ろの扉から奥に引っ込み直ぐに戻って来た。その手には大人の拳程の大きさの魔水晶が握られていた。
「これが私の所有するのでも最高品質の魔水晶だ。時価は──ふむ、凡そ時価で金貨20枚であるな」
「うっ?! ……ツケは効くのか」
そんなに高いのは流石に即決は無理だな!
「まぁ、聴きたまえ。今後私の願いを叶えてくれる毎に金貨1枚払わせて貰う。それを魔水晶の代金として払って貰えれば貴様はこちらに出向く手間のみで、この魔水晶を手にする事が出来、私はその分コーゼスト殿やファウスト始めの魔物達を調べる事が出来る。最良の方法だとは思わないかね?」
ラファエルが鼻高々に自らの案を提示する。何かムカッとするが双方理に適っているのは確かではある。
『私も無制限に解析させろ等と言われるより合理的だと思います』
『……私も賛成です』
念話でコーゼストもアンも賛成の意を示した──なら良いか。
「……そちらに問題無ければ俺達の方は構わないが…………」
「ならば取引成立であるな。きちんと書面に認めるので待ちたまえ──ノーリーン、皮紙とペンを」
「畏まりました」
ノーリーンが手早く皮紙と羽根ペンを別の部屋から持ってきてテーブルに並べ、ラファエルが約定書として2通書き認めた。
俺はそれを確認して其々の書面に署名しラファエルが封蝋を施し指輪印章で封をする。
「うむ、これでこの魔水晶は貴様の物であるな」
そう言いながら俺に魔水晶を手渡すラファエルは満足そうであった。まァこれで──あれ? そう言えばコーゼストから請われるまま魔水晶を入手したが何に使うのか聞いていなかった──!!
「……これで何をするつもりなんだ? コーゼスト先生?」
『──この魔水晶の大きさなら暫く事足りますね。これでアンの属性装備が創れます』
「属性装備だと?! なんだねそれは!!」
ラファエルが物凄い勢いで食いつく。俺だって興味があるので是非とも教えて欲しいものだ。
「端的に言いますと──装備した人が苦手な属性魔法を使える様にする魔道具です。かなり強引ではありますが──また得意な属性魔法をより強化する事も出来ます」
「へぇ、そいつは凄いじゃないか! と言うか、お前は魔道具も作れるんだな」
俺は素直に賞賛の言葉を口にした。アンも驚いた表情でコーゼストを見やる。
『より正確に言うなら私の記憶領域に保存してある魔法術式を使い任意の魔道具を作成したり作り替える事が出来ます』
「?!? こ、コーゼスト殿の中にはそれ程もの魔法術式が記憶されているのか?!」
『既存の術式なら600種類、組合せなら数万種類は』
しれっと宣うコーゼストだがラファエルの興奮は更に高まったみたいである。
「───! す、数万種類だと──?! 我々が扱う魔法術式でさえ高々百種類だと言うのに……コーゼスト殿! 是非とも私にも教えて欲しい!!」
『──とりあえず先ずはこちらの用事を済まさせていただきたいのですが……』
おぉー、流石のコーゼストも若干引き気味だな!
「旦那様……だから欲望に忠実だと言われるのがおわかりになりませんか…………?」
ノーリーンから再び闘気が揺らめく──とラファエルは慌てて「も、も、勿論であるな! うん!」と引き下がった。何となくだがノーリーンの躾方を垣間見た気がする。
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『兎に角作業を開始します。作業を観察して貰っても構いませんが邪魔はされない様御願い致します』
コーゼストはラファエルに、きちんと釘を刺す事を覚えたみたいである。
「それじゃあコーゼスト、何から始めるんだ?」
『先ず魔水晶を切り分ける工程からですが──マスター、無限収納ザックから出して貰いたい物があります』
俺はコーゼストに請われるままザックに手を突っ込んで魔道具を取り出した。それは刃渡り20セルト身幅5セルトで厚手の刃の片側が鉤みたいになった、大きな鍔と護拳が付いている短剣だった。
これだとソードブレイカーに近いのか? こんなので魔水晶が切り分けられるのか?
『その短剣に魔力を流して見てください──と言ってもマスターは魔法を使えないので私が魔力操作させて貰います』
コーゼストの短い説明の後、身体から少し力が抜ける感覚が有り同時に短剣が赤白い輝きと共にキーンと唸り出した! これは?!
『これは超振動短剣と言う相手の剣や鎧を破壊する為に創り出された魔道具です。これなら魔水晶も軽く切り分ける事が出来ます』
コーゼストに促され赤白く発光した短剣の刃を魔水晶の端に軽く当てる────
と、牛酪に当てた熱したナイフみたいに魔水晶に見る間に刃が沈み───キン、と音を立てて切れたのだ。
ラファエルは本当に自分の欲望に忠実に生きています。そしてその手綱を取るノーリーン……充分尻に敷いていると思います(笑)
コーゼストは本来の性能をほぼほぼ発揮し始めています! 相変わらず唯我独尊ではありますけどね!(爆笑)
*超振動短剣……魔力で刃を超高速振動させて触れた物体を切断する魔道具。所謂プログナイフである。
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