英雄の証 〜厄介事が増えました〜
本日は第204話を投稿します!
誰かが何かをしている所から話が始まります!
-204-
「うん、これで良し……と」
目の前に置かれた焼付け台から手を離して満足気に言葉を漏らすオルガ。そこには神鉄で出来た真新しい認識札が。それは冒険者ギルドとして俺を『英雄』と認めると言う認識札である。
ここは王都ノルベールにある冒険者ギルド本部。俺とオルガ、そしてアン達はシグヌム市の二国間冒険者ギルドにある非常用転移陣を利用して王都ギルド本部へと来ていたのである。
そもそもはいきなりオルガが「今後の事を考えると早くウィルを『英雄』に認定した方が何かと都合が良い」と言った事に端を発するのだが、果たして俺がそんな御大層な称号を貰って良いのか? いまいち良くわからないのだがオルガ曰く
「前にも言ったけどSランクのラミアを打倒し従わせただけでなく、同じSランクのモスクイーンも打ち倒しそれさえも従わせたと言う純然たる事実があるんだよ? それだけじゃなく『黄昏の城』での一件もあるんだ。それ等は他の最高位冒険者でもそうそう出来る事じゃないんだから、ウィルはもっと自分に自信を持った方が良いよ」
との事だった。そう言うもんなのかね? 良くわからんが。
「はい、これが我が冒険者ギルドが君を『英雄』と認めた証さッ!」
俺がそんな事を考えているのも知らず、満面の笑みで俺の手に出来たてホヤホヤの神鉄の認識札を手渡すオルガ。
「「「「おめでとうウィルッ!」」」」
「「「「「「「ウィルさん、おめでとうございますッ!」」」」」」」
それを目の前で見ていたアンを始めとする婚約者達とベルタ達氏族のメンバー達が御祝いの言葉を口々にして皆んな祝福してくれる。
「あ、ああ、有難う皆んな」
ちょっと照れ臭くなり、短い返事を素っ気なく返してしまう俺。
「感謝の割には随分素っ気ない返事ですね?」
そこを透かさずコーゼストがツッコミを入れて来る。コイツはわかっていてワザとツッコんで来たな?!
「だってこう言う風に誰かに祝って貰うのって、かなり小っ恥ずかしいんだぞ?!」
思わず口をついて出た反論に周りの皆んなが、ドッと笑いに包まれるのだった。
キミタチも意外と容赦無いなッ?!
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そんなこんなでタグを新調した俺。具体的にはS級冒険者の証である星銀のタグが『英雄』の神鉄のタグに変わった訳で、氏族の証である剛鉄のタグはそのままである。
因みにオリハルコンのタグには職業とクラスと共に、俺が『辺境伯』の爵位持ちである事が刻まれていたりする。その辺は冒険者ならではであり、普通の上位貴族の場合だと国王陛下から賜る任命状の皮紙だけである。
「はぁ……どんどん話が大事になって行くなぁ……」
思わずそんな台詞が口をついて出る俺。すると
「でも今の内にちゃんとしておかないと、この先も前回みたいに侮られる事が多くなると思うよ? なのでちゃんと「ハーヴィー卿は『英雄』のジョブ持ちの辺境伯である」と周知させておかないとね」
笑顔でそう宣うオルガ。そう言えば俺のジョブも変更されているんだっけ。具体的には第一職業が『英雄』、第二職業が『魔法騎士』、第三職業が『魔物調教師』、だったか。今まであった斥候は無くなり、戦士が魔法騎士に変更された、って所か。
しかし『英雄』か……これはコレで後で色々面倒くさくなる気がしなくもないんだが…… 。
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とりあえず王都ギルドでする事も終えて非常用ポータルでシグヌム市ギルドへと帰って来た俺達。実はあの後更にネヴァヤさんの屋敷に2泊していたりする。兎に角皆んなで帰還を報告しようと彼女が居る執務室の扉を開けると、そこには
「ウィルさん、お帰りなさい」
そう言って出迎えてくれるネヴァヤさんと
「ウィルさん! お久しぶりですッ!」
「「「お久しぶりですッ! ウィルさん!」」」
「「は、初めましてッ!」」
そこにはアシュレイを始めとする『紅霞』のメンバーが?! 驚いてネヴァヤさんの方を見るとこくりと小さく頷く姿があった。どうやらネヴァヤさんが気を利かせて彼女達を呼び寄せたみたいである。見慣れない2人のメンバーのうち、何方か片方がサーヴァ・グーコフ会頭の娘か?
懐かしさにそのまま声を掛けようとすると、いきなり全員で右膝を床に着き、右手を左の胸に当てて臣下の礼を執るアシュレイ達。オイオイ?! だから知り合いからそんな事をされると尻がむず痒くてたまらないんだが?!
「あーっと、皆んな顔を上げてくれ」
いたたまれなくなってアシュレイ達にそう声を掛ける俺。彼女達が顔を上げるのを見て
「辺境伯なんて御大層な爵位持ちになったけど、俺自身は前と何ら変わらないんだ。だから今まで通りに接してくれないか?」
アシュレイ達に割と切実に懇願する。アシュレイ達は一瞬キョトンとした顔をしたが、直ぐに笑顔を見せて
「うふふっ、本当に偉ぶらないんですねウィルさんは。姉さんから聞いた通りで安心しました」
「本当だよ。他の冒険者なんか皆んな偉ぶるのにさッ!」
「ほんとほんと! ウィルさんは変わらないよねぇ」
「私はウィルさんが人格者だと最初からわかってましたから」
アシュレイ、バネッサ、フィリス、ジェマの順に銘々にそんな台詞を口にしながら、彼女達は笑って礼を解いてくれた。金髪の長い髪の女性もである。
「いやまぁ、偉ぶるのはどうにも性にあわなくてなぁ」
「マスターはただ単に敬語が苦手なだけなのでは?」
「ゔッ!」
ボヤく様に俺が素直な気持ちを口にするとコーゼストがズバリ核心をついた発言をし、思わず二の句が告げない俺。それを見ていた周りはまたもやドッと笑いに包まれる。
悪かったな! 言い慣れないから噛みそうになるんだよ!
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そんな和やかな雰囲気の中、俺はスサナを手招きして呼び寄せる。少し緊張した面持ちのスサナは俺の傍に来ると
「えっとアシュレイさん、バネッサさん、フィリスさん、ジェマさん、イルダさん、お久しぶりですぅ」
アシュレイ達にペコリと頭を下げて再会の挨拶を口にする。見慣れない2人のうちブロンドの髪の女性はイルダと言うらしいが、どうやらスサナはアシュレイ達に罪悪感を持っているみたいである。
そんなスサナに口々に「久しぶり!」だの「元気だった?」と彼女の事を気遣うかの様に優しい言葉を掛けて来る『紅霞』の面々。
スサナも「本当にお久しぶりですぅ」とか「はいっ、元気で頑張っていますよォ」と言葉を返して徐々に笑顔になって行く。そして自然とアシュレイ達の話の輪の中へと入って行き、キャイキャイと色んな話を話し合う様になって行った。
その頃になるといつもの通りのスサナがそこにはいたのである。やれやれ。
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だがそんな中1人だけ最後まで顔を上げない女性が?
「ハーヴィー辺境伯閣下には色々とお骨折りいただき有難うございましたッ! サーヴァ・グーコフの娘のルフィネです!」
そう深く頭を下げたまま言葉を発するサーヴァ会頭の娘ルフィネ。褐色の髪は父親譲りみたいである。
「ウィルさん、ルフィネは──」
慌てて何か言おうとしたアシュレイを手で制し
「ルフィネ、顔を上げてくれ」
俺はなるべく優しく彼女に声を掛ける。
「は、はいッ!」
「もしかして親父さんと話したのか?」
そうでないと俺がサーヴァ会頭の悪行を戒めた事を彼女が知るはずも無いからな。すると
「は、はい、ネヴァヤ様から教えて頂いたのでその日のうちに話して来ました」
と言う返事が返ってきた。続けて
「父を諌めていただき、本当に有難うございました。今回の事は父には良い薬になったみたいで、近々行われる商店主の集まりで今までの非を詫びてから、商会を自分の弟、つまり私の叔父に引き継がせて商会からは身を引いて、また行商人からやり直すそうです」
あの後のサーヴァ会頭がどうしたかを事細かに教えてくれたのである。それ等を随分嬉しそうに話すので気になった俺が、その点を尋ねてみると
「それは勿論嬉しいです。私だけじゃなく母も今回父が商会から身を引いて行商人からやり直す事をことのほか喜んでいます」
そう笑みを浮かべて答えるルフィネ。聞くと彼女の母親もサーヴァ会頭が悪どい商売をしているのは知っていたのだが、止められず思い悩んでいたとの事だった。なので今回の事は願ったり叶ったりだったらしい。
更にルフィネに冒険者の道を勧めたのも母親だったそうな。
そりゃあ、確かに願ったり叶ったりだわなぁ。
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「それは一先ずさておき」
俺とルフィネとの会話が終えたのを見計らってそう声を上げるネヴァヤさん。因みにルフィネにも「閣下」では無く「ウィルさん」と呼んでもらう様にしたのは言うまでもない。
「無事にタグの変更は出来たんですか、ウィルさん?」
「ああ、お陰様で──ほらッ、これだよ」
ネヴァヤさんに言われて掛けていたタグを首から外して執務机の上に置いて見せる俺。そこにはアダマンタイトの黒いタグと共に金色に輝く『英雄』のタグが。
「はぁ……これが『英雄』の証、ですか……」
溜め息混じりにタグを手に取るネヴァヤさん。
「「「「「「おおっ!」」」」」」
そして横でそれを見ていたアシュレイ達『紅霞』のメンバーも何故か盛り上がっている。
「まぁ前にも話したと思うけど、『魔王』が討伐されてから現在に至る歴史の中で『英雄』と呼ばれた人物は4人しか確認されていないしね。更に言うと冒険者ギルドが『英雄』を公認したのは今回が初めての事なんだ。ネヴァヤさんや他の皆んなが興奮するのも無理はないさ」
そう満面のドヤ顔で宣うオルガ──何故にキミがドヤ顔をする?
「そうですよ! 私もいつかこの手で『英雄』や『勇者』のタグの焼付けを行うのが統括責任者としての夢なんです!」
オルガの台詞を聞いて珍しく頬を紅潮させて力説するネヴァヤさん。その気持ちはわからなくも無い──が、実際の所専用の焼付け台は一点物であり、事実上オルガの手元にある物だけなのだ。
話によっては一時的に王都ギルドから貸し出す事もできるだろうが、世の中そんなにホイホイと『英雄』や『勇者』の資質を持つ者が居る訳も無い。そう言っている本人も自分にその資質があるとは到底思えないんだが?
『マスターはもう少し自己評価を高くすべきかと』
そんな事を思っていたらコーゼストから真逆の突っ込みである。
良いんだよ! 俺は常に自己否定するタイプなの!
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「ウィルさん、ひとつお願いがあります」
ネヴァヤさんからタグを回収し、再び首に掛けていたらアシュレイから真顔でそう声を掛けられた俺。
「うん? 何だ、お願いって?」
「はいっ、是非私と手合わせをお願いします! 私は自分の力が何処まで英雄のウィルさんに通じるか試したいんです!」
気軽に聞き返したら真逆の手合わせを所望された…… 。そう言うなり俺に向かって頭を下げて来るアシュレイ。
「あーっ! リーダー狡い! ウィルさん! あたしとも是非手合わせをして下さいッ!」
俺とアシュレイの会話に割って入ってきたのは戦士のバネッサ、彼女もアシュレイと同様に俺に向かって頭を下げて懇願して来る。ちょ、ちょっと待てって!
俺は困ってしまいネヴァヤさんに視線を向けると
「私からもお願いします。この子達の願いを叶えてやって下さい。それがこの子達の為になる筈ですし」
助けを求めたのに逆に頼み込まれてしまった──やれやれ。
「はぁ、わかったわかった。手合わせしようじゃないか。その代わり一切手は抜かないからな」
「「あ、有難うございます!」」
アシュレイとバネッサ2人の熱意に根負けした俺は手合わせを了承する旨を口にし、2人は喜びに満ちた声で礼を言ってくる。
「わ、私は遠慮しておきます」
「わ、私も」
ルフィネとイルダの2人は不参加を口にし
「あたしは手合わせしたい、かな? こんな好機は二度とないだろうし」
「私もフィリスと同じですね。出来れば手合わせをお願いしたいです」
フィリスとジェマは参加したいと希望を口にする。だがなぁ、流石に俺1人で4人の相手をするのは厳しいものがあるんだが?
「それでは私がウィルの支援に回るわ」
俺が返答に窮していると、それまで事の成り行きを静観していたアンさんが徐ろにそう言葉を発すると俺の傍に並び立つ。
それならやれない事も無いが……どうしてこうなった?
遂に『英雄』のジョブ持ちとなったウィル! これで更に面倒事に拍車がかかる事に……と言っているそばから早速面倒事が向こうからやって来ました(笑)
それにしても『紅霞』の面々も本当に久しぶりです! まぁ彼女達が面倒事の張本人なんですが(笑)
☆manakayuinoさんに描いていただいたウィルの自称ライバルで親友のオルティース・トリスタンのイラストを第56部五十二話に掲載しました! manakayuinoさん、素敵なイラストをありがとうございました!
いつもお読みいただきありがとうございます!




