献上と蛇の御者と予定外と
本日は第196話を投稿します!
国王陛下に献上する魔道具作りもいよいよ佳境! そして、コーゼストがやらかします(笑)
-196-
エーフネ市から北西に街道を走るのは、大きな客車を曳くこれまた大きな地竜──ご存知俺達が乗る竜車だ。ツェツィーリア共和国との国境の町シグヌム市に向けて現在移動の真っ最中である。
そんなキャリッジの中ではコーゼストがエリンクス国王陛下とその家族に献上する魔道具作りをしていたのである。その魔道具とは絶対防御障壁の『エイジス』と、状態異常回復魔法『異常回復』、そして『転移魔導機』の3つの機能を併せ持つ複合型の魔道具となったのだが、こうなったのはコーゼストが一切自重をしなかった所為である。
重ねて言うが俺が指示した訳ではありません!
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そんな俺の葛藤などお構い無しに、続けてコーゼストが自身の無限収納から出したのは金色に輝く金属──神鉄製の壊れた魔道具類である。
「? オリハルコンなんか出して、今度は何をやるつもりなんだコーゼスト?」
「はい、オリハルコンは魔法との親和性が非常に優れているので、これ等を使い腕輪と垂飾先とその鎖を作ろうかと」
俺の素朴な疑問にこれまた簡単に答えるコーゼスト。ちょ、ちょっと待て!
「お前、オリハルコンの加工も出来るのかよ?!」
そらまあこの間、マーユとの約束を果たす為に『転移魔導機』を作製する時に星銀の筐体は作っていたけど! するとコーゼストは
「そこは以前にも言いましたがラファエル殿から色々と薫陶を受けましたし、ミスリルも緋緋色金もオリハルコンも対して違わないかと」
しれっと偉そうにそんな事を宣ったりする。
まさにこの瞬間、魔道具製作者としてのラファエルは、コーゼストから要らない子宣言されたのである。と言うかミスリルもヒヒイロカネもオリハルコンも滅多にお目に掛かれない事で有名な金属なんだが……コーゼストの認識では十把一絡げみたいである。
そういやラファエルもだがガドフリー武具店のドゥイリオにも連絡しておかないとなぁ。オリハルコンや俺が辺境伯になった事もだが、特にドゥイリオには刀の事を教えないとドヤされる未来しか思いつかない!
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「うーん、流石はコーゼスト殿」
俺とやり取りしつつも手を止める事無く、あっという間にブレスレット2つとペンダントトップ2つ、それにチェーンを2本作製するコーゼストを見て、そう一言唸るオルガ。
一方のコーゼストは「有難うございます」と言いながらも手を止めずに、先に魔道具の核として作製しておいた大小合わせて12個の魔水晶をそれぞれに嵌め込んで行く。そのどれもが大きなクリスタル1つと小さなクリスタル2つと言う組み合わせである。
ブレスレットには嵌め込むと言うよりは半ば埋め込まれた形となっている。なので石座も爪も無い。
一方のペンダントトップは普通にマウントもプロングもある形状をしており、中央に大きなクリスタルが1つ、その両脇に小さなクリスタルが2つ、とその構造は極めて単純だが、ペンダントトップ自体に豪奢な彫刻が施されており、美しい造形美を醸し出している。
それはブレスレットも同じで、やはりエングレービングが施されていて如何にも王族が持つに相応しい代物に仕上がっていたのである。
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「これはっ!……もう「国宝」にされても良いくらいだね……」
完成したブレスレットとペンダントを見たオルガの第一声がコレである。
「それは、まあ当然の結果かと」
そしてオルガに褒められたコーゼストの返しがコレである。だからそのドヤ顔はヤメレ。他の皆んなも口々に「これは凄い」と褒め称えるし
「コーゼストお姉ちゃんってすごーく器用なんだねッ! このペンダントとかブレスレット、とぉってもキレイ♡」
我が愛娘マーユはマーユでとても素直な感想を口にするので、コーゼストのドヤ顔が止まらない。
でもまあ自慢したくなるのも無理はないか、な? 本当にそれだけ出来が良いのは確かなのだ。それに対するコーゼストのやたらヒトらしい反応に
(コイツも随分ヒトっぽくなってきたな)
と改めて微笑ましく思えたりもする。流石「《既知世界最高》の魔道具『共生之腕輪』」だけの事はある──本人の自己申告ではあるが。
兎にも角にもこうして国王陛下とその御家族に献上する魔道具『エイジス』(コーゼストが勝手に命名)は完成を見たのであった。
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こうして無事(?)に完成を見た魔道具『エイジス』は、その日のうちに国王陛下とその御家族に手渡された──と言うか、まあ俺がコーゼストと共に『転移魔導機』で王城まで転移してサッサと陛下らに手渡して来たのである。無論事前に遠方対話機で陛下に都合を聞いてからであるが。
陛下からは「もう出来たのかッ?!」と言う驚きの声が聞こえたのだが、アナタが「一日も早く」なんて言った結果なんだが驚かないで欲しい。
兎に角ブレスレット型の『エイジス』、ペンダント型の『エイジス』共に、これまた豪奢な箱に収められ、俺の手からそれぞれ陛下、マティルダ王妃様、ジュリアス、ステラシェリー殿下へと献上したのである。因みにこの豪奢な箱もコーゼストが無限収納に持っていたモノで、随分用意周到だなとコーゼストに訊ねると「備えあれば憂いなし、ですからね」とまたもやドヤ顔をされた。何となく殴りたくなったのは俺だけだろうか?
あとコーゼストが陛下らに『エイジス』について使い方を含めた蘊蓄を傾けていた時の陛下達の顔が、何とも言えない顔だった事を一言付け加えておく。
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そんな事をしつつもドラゴンキャリーはシグヌム市に向けて街道を駆けて行った。既にベルタを始め元『白の一角獣』のメンバーは、アンやエリナからグランドドラゴンや大型キャリッジの扱いを一通り教え込まれて、今では交代交代でドラゴンキャリーの御者台に座っていた。それはまあ良いのだが──
「ねぇ御主人様ァ、私にもいい加減グウェルの手綱を取らせてよォーッ!」
──現在絶賛で背後からヤトの強襲を受けている俺。この前も言ってた「自分にもグランドドラゴンの御者をさせろ」と言う話を蒸し返していたりする。と言うか、その話はダメ出しした筈なんだが?!
「だーかーらッ、そもそもお前のその蛇の身体がコーチマンシートにゃ入らんだろが!?」
「だーかーらーッ、この蛇の身体は柔らかいから大丈夫だって言ったじゃないッ! ねぇー、お願ーい御主人様ァ。一度で良いからやらせてよォーッ!」
俺の反対も何のその、頑として自身の意見を曲げないヤトさん。
「お父さん、私からもお願いッ! ヤトお姉ちゃんにやらせてあげてッ!」
そしてここで真逆のマーユが参戦し、2人で声を揃えて「(マスター)(お父さん)お願ァい!」と掛け声を上げて来るヤトとマーユ──うむむむむ。
「これは、ちょっと断り切れないわね。ねぇ、ウィル?」
そんな状況を見て、苦笑いを浮かべながらそう声を掛けて来るアンさん。
これはやはり断り切れない、のかぁーーッ?!
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ヤトとマーユの2人に結局根負けした俺。マルヴィナが走らせていたドラゴンキャリーを一旦停めて、御者をヤトに代わって貰った。
「やらせるとは言ったが……本当にコーチマンシートに収まるんだな、その蛇身……」
「でしょーッ! だから任せなさいってのッ!」
コーチマンシートに器用に折り畳まれてすっぽりと収まる蛇身を見て、思わず声を漏らす俺と、どーよッ!と言わんばかりのドヤ顔をするヤト。しかもヤトの左隣にはヒト1人が座れるだけの空間もあるのだ。
「これは本当に凄いわね……」
そして今回のヤトの指導にはアンさんが手を挙げてくれた。コーチマンシートに器用に腰掛けるヤトの隣のスペースに腰を下ろすアン。
「それじゃあアン、済まないが頼む。ヤト、ちゃんとアンの言う事を聞けよ?」
俺はちゃんとヤトにアンの言う事を聞く様に連絡窓越しに声を掛ける。
「ええ、任せてウィル。それじゃあヤト、手綱をこの様に手に取って。早速出発させるわよ」
俺の台詞にひとつ頷くと、ヤトに手綱を持つ仕草を見せて真似をさせるアン。
「ええ、わかったわアン! こうよねッ?!」
アンの指示に素直に手綱を握るヤト。そして一言「それっ! 行こうグウェル!」と声を掛けながらグランドドラゴンのグウェルに合図を出す。一声「グゥルルルル」と鳴くと、そろそろとした動きで動き出すグランドドラゴン。それに曳かれて動き出すキャリッジ。
こうして見ると今の所はヤトの手綱捌きに不安要素は無い様に見えるんだけどなぁ……うーん。
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結局その日は街道沿いで野営するまで、ずっとヤトがドラゴンキャリーの手綱を取っていた。最初は大丈夫かとハラハラしていたりもしたが、思った以上にヤトの操車は安定しており、今日の終わり頃には安心して任せる事が出来た。ヤトさん、思わぬ所で才能発揮である。
「うーん、これは思った以上だな。これなら偶には任せても良いかな?」
「ホントっ?! やったぁーッ!」
俺の素直な感想を聞いて本当に飛び上がるのかと思うほど喜びを身体で表すヤト。その身体で本当に飛び跳ねられたら、此方がたまったもんではないので飛び跳ねさせないが。
だがまあ滅多にお目に掛からない盗賊対策としても、ヤトに御者をやらせるのもアリなのかもしれん。ただでさえ近寄りがたい雰囲気が有るドラゴンキャリーの御者が、Sランクの強力な魔物である半人半蛇だとわかると更に近寄りがたいだろうしな。
尤もその為には、道行く人全てから二度見、三度見されるのを覚悟しなくてはならないが。現に今日だって街道ですれ違う馬車や徒歩の旅人達から、散々奇異の目を向けられていたりする。
まあ肝心のヤトはそう言う視線を全く気にしてなかったが。
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そんな事があってから2日後、北西に向かって街道を走ってきたドラゴンキャリーはひとつの分かれ道に差し掛かろうとしていた。
「さてと、向こうに行ってみる……かな」
走るキャリッジの中、脚の上に広げた地図を見て思わず声を漏らす俺。
「どうしたんだいウィル?」
俺の声に反応したのは後ろに座るオルガ。それまで銘々に談笑していたアン達も、何事かと俺に視線を向けて来る。
「いやな、予定とは違う方に少し寄りたいな、と思って、な」
そう言うと脚の上の地図を手に取り皆んなに見える様に上に翳す俺。
「この先の分かれ道、左と右に分かれているんだが、左に道なりに行くと当初の目的地のシグヌム市に、右に行くとワクト市へ行く事になる。予定には入ってないが俺としてはワクト市に寄りたいと思っているんだ」
俺の言葉に皆んな、特に元『白の一角獣』のメンバー達が色めき立つ。
「ウィル! それってつまり……」
隣の席に座るエリナがおずおずと尋ねて来る。俺はひとつ大きく頷くと
「ああ、エリナの御両親に会いがてら、ワクト市を治めている貴族に会いに行こうと思うんだ」
そうはっきりと自分の考えを口にするのだった。
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「ウィルッ!」
そう考えを口にした次の瞬間、隣の座席から文字通り飛び付いてくるエリナ。そして
「もうっ! そこは普通、市を治めている貴族に会いに行く序に私の両親に会うんじゃないの?」
と軽く抗議の声を上げる、が、その顔は台詞に反し喜びに満ち溢れていた。
「いや、まあ、そうなんだが……近くまで来たのに会わないと言う選択肢は無いし、何より俺にとっては貴族に会うよりも、エリナの御両親にちゃんと挨拶する方が重要だしな」
俺が何の気負いも無くそう言うと、胸に顔を埋めて「嬉しい♡」と小声で呟くエリナ。ふと気が付くと周りからは生暖かい視線が?!
「はぁ……もう、今回はエリナを立てるけど、落ち着いたら私達の両親や関係者にもキチンと挨拶してもらいますからねッ!?」
婚約者を代表してアンさんがそう厳命される俺。ルピィやレオナ、オルガもうんうん頷いている。
「それは勿論、約束するよ」
そんな婚約者達の様子に苦笑してしまう俺。でもそこはちゃんとするつもりではいるからな。
俺はキャリッジの連絡窓から御者をしているユーニスに、この先の分かれ道を右に向かうように指示を与える。
こうして俺達は急遽予定を変えてシグヌム市の手前にあるワクト市に向かう事となったのであった。
結局魔道具『エイジス』を国王陛下の家族の分もまとめて作製したコーゼスト。本当にこうした魔道具作りでは自重を忘れるコーゼストです!
それと真逆のヤトのドラゴンキャリーの御者へのジョブチェンジ?! これからもちょくちょくヤトに操車させますのでお楽しみに!
そして急遽シグヌム市からワクト市へと進路を変えたウィル! 何やら波乱の展開の予感が(笑)
☆manakayuinoさんに描いていただいた登場人物の1人、ウィルの腐れ縁ラファエル・アディソンのイラストを第21部二十話に掲載しました! manakayuinoさん、素敵なイラストをありがとうございました!
いつもお読みいただきありがとうございます。




