傑物執事と傲慢侯爵と
本日は第193話を投稿します!
色々とあった翌朝、フォックス子爵からの使者の訪問を受けるウィル達から話が始まります。
-193-
思わぬ形で愛娘マーユの持つ『魔眼』と言う能力が判明した翌朝、宿屋『香油亭』で朝食を終えた俺達はブライアン・フォックス子爵の使者の訪問を受けていた。アン達は使者に猜疑心を持っているらしく警戒している。
「辺境伯閣下並びに侯爵閣下に置かれましては御機嫌麗く。フォックス様の屋敷にて執事を務めておりますニコラス・キャンベルと申します」
俺に対して深々と頭を下げて挨拶をして来るのはフォックス子爵執事のニコラス。そして続けて
「先日は我が主人が大変な御無礼を致しましてお詫びの言葉もございません。主人に成り代わり深く謝罪申し上げます」
そう謝罪の言葉を口にすると再び深々と頭を下げるニコラス執事。どうやら彼は話が通じそうである。俺はオルガに視線を向け、次にマーユに視線を向ける。俺と目が合うと小さく頷く2人。
特にマーユにはこっそりと訪問者の発する色を見てもらっていたのだ。彼女が頷いたと言う事は俺に対する悪感情は持ち合わせていないと言う事になる。
「其方の謝罪、確かに受け取った。セルギウス侯爵閣下共々、今回の件は不問に付そうと思う。オルガもそれで良いな?」
「ウィルがそう言うなら私に否やは無いよ」
ニコラス執事の謝罪の言葉にそう答え、オルガも同意を示してくれた。俺とオルガの台詞を聞いて明らかにホッとした様なニコラス執事。アン達の纏う雰囲気も柔らかなものへと変化する。
「両閣下の温情に感謝致します」
そして三度、頭を深々と下げて感謝を示す。
主人とは違って彼は実直な性格なのだろう。
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「それでは改めてまして──本日は午下5時から皆様方の歓迎を兼ねた晩餐会を催しますので、是非ともお出でくださいますように御願い致します」
そう言うと左腕を腹に当て軽く腰を折るニコラス執事。謝罪から始まった挨拶はいよいよ本題へと入っていく。
「それはうちの従魔達も頭数に入っていると思っても良いのか?」
「それは勿論で御座います。閣下の従魔なら閣下の家族も同然、無碍には出来ませぬ」
俺の問いに即座にそう答えを返すニコラス執事。その答えを聞いてヤトとセレネは嬉しそうであるし、何より俺がホッとしたのは間違い無い。
「心遣い痛み入る。それでは改めて其方を尋ねる事にしよう」
出来る限りの笑みを浮かべてそう答えを返す俺。ニコラス執事も笑みを浮かべて「有難うございます」と頭を下げると、一転真顔となり
「実は今ひとつ、辺境伯閣下と侯爵閣下に折り入って御相談したい事が御座います」
そう俺とオルガに向かって四度深々と頭を下げるのだった。
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相談したい事がある──そうニコラス執事から言われ襟を正す俺とオルガ。どうやらこれが本当の本題らしい。
「人払いをした方が良いか?」
俺が気を利かせてそう尋ねると、首をゆっくり左右に振って
「いえ、この話は是非皆様方にも聞いていただきたく……」
人払いは不要と言うニコラス執事。まあそう言う事なら構わないが…… 。ニコラス執事の言葉に聞く姿勢を取るアン達。
「身内の恥を晒す様で心苦しいのですが……」
そう一言言うと訥々と話し始めるニコラス執事。
それによると──フォックス子爵と言う貴族は、エーフネ市の市政に置いては可もなく不可もなくと言う、凡俗を絵に描いた様な極々普通の貴族なのだそうだ。そんな彼が昨日みたいな不敬な態度をしていた理由はただひとつ、このエーフネ市に寄親であり伯父でもあるジェイムズ・フォン・アトキン侯爵本人が来ている事に他ならない。フォックス子爵は自分を子爵に推挙してくれたアトキン侯爵への恩義で、すっかり傀儡となっており、俺に対する不敬な態度も、そうする様にアトキン侯爵から指示を受けていたからだと言うのだ。
そして肝心のアトキン侯爵は冒険者上がりで伯爵から辺境伯にまでなった俺の事が気に入らないのだ、と本人が幾度となく言っていたのをニコラス執事は聞いていたとの事だった。
そもそもアトキン侯爵は王城ブリシト城内では「選民思想」派の急先鋒の一角らしいとは昨日オルガから聞いているし、そうした思想の持ち主だからこそ余計に腹立たしいんだろうが……やっている事があまりにも稚拙過ぎて「アンタは子供かッ?!」とツッコミたくなるのは俺だけだろうか?
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「……この様な事を両閣下に御願い出来る義理では御座いませんが、このままではフォックス家の存続にも関わりかねません。何卒お力添えを御願いしたく……」
本題を語り終えたニコラス執事はそう言うと深く腰を折り、俺とオルガに頭を下げて来る。
「それってつまりアトキン侯爵を何とかして欲しいって事だよな?」
「はい」
俺の確認の質問に迷わず答えるニコラス執事。しかし何とかして欲しいって言われてもなぁ…… 。
「オルガ、俺とお前の2人で何とか出来ると思うか?」
俺は腕組みをしてオルガに尋ねる。オルガも
「うーん、難しいだろうねぇ。そもそもアトキン侯爵が私達2人の意見を素直に聞き入れるとも思えないし……」
そう言って難色を示す。そらまあそうだよなぁ、そもそもそんなヒトの言う事を素直に聞く様な奴ならこんな揉めるも無いんだからな。
俺とオルガが2人で頭を捻っていると
「それでしたら私に妙案があります」
それまで黙って事の成り行きを見聞きしていたコーゼストが、そう提案して来たのである。
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「──では時間までに屋敷にお出でくださいますように」
そう言うと深々と礼をするニコラス執事。
「わかった。其方もそれまでに色々と準備をしておく」
それに短く答える俺。彼は俺の答えに会釈すると自らがここまで乗ってきた馬車に乗って帰って行った。本当に実直な性格だよな。
「さて……此方も早速動くとしようか。コーゼスト、頼むぞ。皆んなもな」
ニコラス執事の馬車を見送ってからコーゼストにそう話し掛ける俺。
「お任せ下さい」
「そうね、皆んなで侯爵の鼻を明かしてやりましょう」
「ええ、そうよ! だから任せてッ!」
「大丈夫よ! 辺境伯第五夫人として立派に務めあげるからッ!」
「へへっ、侯爵に吠え面かかせてやるぜッ!」
「「「「「「「はいっ、お任せ下さいッ!」」」」」」」
「ん、絶対大丈夫。上手く行くわ」
「そうよッ! 絶対とっちめてやるんだからッ!」
「そうですわね。御主人様を蔑ろにした罪は償わせなくては行けませんわ」
コーゼストのみならず、アン以下の婚約者達もベルタ達もルアンジェ、果てはヤトやセレネまでもが、気合い十分に返事を返して来る。そんな皆んなに思わず苦笑してしまう俺とオルガ。
そして、俺達は早速行動を開始したのである。
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やがて陽が西に傾き、約束の午下5時前──フォックス子爵の屋敷の厩舎には俺達の竜車が置かれていた。
「辺境伯閣下、侯爵閣下、そしてお連れの方々もようこそお出でくださいました」
屋敷の玄関で出迎えるのはニコラス執事と使用人達。本来ならフォックス子爵自らが、上位貴族である俺やオルガが屋敷に足を踏み入れた段階で出迎えなくてはならないのだが、やはりと言うか何と言うか、どうやら俺を自分より格下と見なしているんだろう。それもまたアトキン侯爵の仕業なのだろうが、フォックス子爵には自主性と言うのが無いのか?
何となくフォックス子爵家の今後に一抹の不安を感じながら、ニコラス執事に屋敷内を案内されてフォックス子爵の待つ大広間へと向かう俺達。
因みに屋敷に入ったのは全員では無く、俺、オルガ、アン、エリナ、ルピィ、レオナ、ルアンジェ、コーゼスト、そして従魔からはヤトとセレネの計10人であり、残りのメンバーはマーユを含めドラゴンキャリーの中で待機して貰っている。特にマーユにはこうした貴族の泥沼な世界は刺激が強過ぎるから、出来れば見せたくないのが本音である。
「ようこそセルギウス侯爵閣下、そしてお連れの方々」
ホールではフォックス子爵がそう言って出迎える。今回俺の立場はアン達と十把一絡げらしい。
「やあフォックス子爵、今日も君の目には辺境伯閣下の姿が映っていないみたいだね」
そんな子爵に棘のある言葉を返すオルガ。どうやら既にキレているみたいである。そんな彼女の肩に手を掛けながら
「ところでフォックス子爵。アトキン侯爵閣下は何処にいらっしゃるんだい?」
ズバリ尋ねる俺。そこには貴族としての駆け引きも何もあったものでは無いが、こっちは元伯爵家生まれだが本職は冒険者なんだ、そんな間怠っこい真似なんかする気も無いからな。
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俺からそう聞かれた子爵は驚いた顔をすると、次に執事のニコラスを睨みつける。だがニコラス執事はどこ吹く風、左腕を腹部に水平に当て軽くお辞儀をしたまま微動だにしない。こうして見るとニコラス執事はかなりの傑物なのかもしれん。
「もう一度聞く。侯爵閣下は何処に居るんだ?」
俺は再び子爵に尋ねる──今度は射る様なきつい視線と共に。するとそれまで俺に向けていた睨みつける様な視線をあからさまに逸らす子爵。やはりこの屋敷にアトキン侯爵は居るのは間違い無いみたいである。
「……これが最後だ。アトキン侯爵は何処に居るんだ?」
射る様な視線はそのままに子爵に対して最後通告を突き付ける俺。フォックス子爵は俺から視線を逸らしたまま暫く黙っていたが、力無く肩を落とし「……此方の方におります」と、先に立って俺達を案内してくれるみたいである。
これであとは侯爵と単なるお話だけで済めば良いんだがな…… 。
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フォックス子爵に案内されてアトキン侯爵の居る部屋に向かう。そしてホールから2部屋離れた主客房に連れて来られた。
「……ここにアトキン侯爵閣下が逗留されています」
そう言うと主客房の扉をノックするフォックス子爵。
「閣下、ブライアンです」
『おおブライアン卿か?! 入りたまえ』
中からやや歳を取ったかの様な男の声が入室を促し、子爵はドアの取っ手に手を掛けるとそのまま中へと開く。
ドアが開くのと同時に先ずはアン達が先頭に立って、中へと傾れ込む俺達。部屋の中には大きなベッドと調度品が置かれ、採光の為の窓の傍に置かれた卓と椅子、その椅子のひとつに中年から老年に差し掛かろかと言う年齢の恰幅の良い男が腰掛けていた。
テーブルの上には幾つかの料理と共に何本もの葡萄酒や蒸留酒の空き瓶が。どうやら陽がまだ高いうちから飲んだくれていたみたいである。
「な、何だお前達はッ?! 私をジェイムズ・フォン・アトキン侯爵と知っての狼藉かッ!?」
いきなり室内に入ってきたアン達を見て声を荒らげるアトキン侯爵。だがその後ろからオルガとヤトとセレネを伴って俺が姿を見せると
「ッ?! セ、セルギウス卿と魔物を連れた男、だと?! ま、まさかッ?!」
荒らげた声から一転、焦りを滲ませた声を発する侯爵。
「お初にお目に掛かる、のかな? この度陞爵し辺境伯となったウィルフレド・フォン・ハーヴィーだ。以後宜しく頼む」
片や鷹揚に声を掛ける俺。実質侯爵以上の強力な権限を有する地位なんだから、立場は同等かそれ以上なので問題ないだろう──多分!
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しかしそんな俺の思惑と違い、不意に顔を真っ赤にして怒り出すアトキン侯爵。
「何を言うかッ! この無礼者の新参者がッ! 私は王国成立当初から在る由緒正しき家系、ジェイムズ家に連なる者であるぞ! 冒険者から成り上がりの貴様などより私の方が、家柄も血筋も格上なのだ! 私が王に直言すれば貴様など即座に褫爵させられるのだぞッ!」
矢継ぎ早に言葉を口にし、最後には何が可笑しいのか愉悦に満ちた表情を浮かべるアトキン侯爵。そのうち「自分は神に選ばれし者」とまで言い始めるかもしれん。
何だか激昂して顔が赤いのか、ただ単に酒に酔って赤ら顔なのか、最初は判断に迷っていたがコイツは明らかに酔っ払っているな。酒は勿論の事、自分自身にも。
はァ、仕方がない、目を覚まさせてやるか…… 。
俺は溜め息と共に後ろを振り向くと
「……だそうですよ、お聞きになっていましたよね」
誰も立っていない自分の背後に向かって声を掛ける。すると誰も居ない筈の後ろから
「うむ、確と余の耳で聞かせて貰ったぞ、ウィル、アトキン卿」
不意に声が聞こえ、それと同時に姿を現したのは──ここに居る筈の無い人物、エリンクス・フォン・ローゼンフェルト国王陛下、そのヒトであった。
遂に黒幕(?)であるアトキン侯爵との直接対決となりました! そんな中ラストに姿を現したのは真逆の国王陛下?! その辺のトリックは次回に説明しますのでお楽しみに!
褫爵…………爵位を剥奪する事。
☆manakayuinoさんに描いていただいたサブヒロインの1人、自動人形のルアンジェのイラストを第47部四十四話に掲載しました! manakayuinoさん、素敵なイラストをありがとうございました!
いつもお読みいただきありがとうございます。




