閑談 〜直臣の事、騎士団の事、そして〜
本日は第191話を投稿します!
色々とありましたがいよいよシュシェシ村を発つ時が!
-191-
巡行先であるシュシェシ村に迫る驚異、狗人と子鬼族の群れを討伐した俺達。俺が辺境伯になった事を領地となった各市町村に知らせる為だけの旅だったはずなのだが……まあ結局は何時も通りである。
「まあマスターの行く先々での厄介事は日常茶判事ですからね」
「酷い言い掛かりだなッ?!」
シュシェシ村のエリック男爵の屋敷で一仕事を終えて寛いでいると、さも当然の事の様にそんな事を宣うコーゼストとその台詞に思わず反論する俺。俺だって別に好き好んで厄介事に首を突っ込んでいる訳じゃないんだが?!
俺が1人憤慨していると
「でも今までの事を考えると……コーゼストが言っている事にも一理あるわよね……」
アンさんが真顔でそんな事を宣ったりする。その横ではエリナやレオナもウンウンと頷いている。チョットマテ。
「でも困っている人を放っておけないのがお父さんなんだよね! 私はそう言うお父さんが大好きッ!」
そんな中、ただ1人そう言って俺に抱き着いて来るのは愛娘(仮)のマーユ。
本当に良い娘だよなぁ、我が娘は! お父さんは泣けてくるよ…… 。
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緊急の案件をとりあえず真っ先に処理した俺達はもう1泊、エリックの屋敷に逗留し、明けて翌日──
「ウィルフレド閣下、セルギウス閣下、そして皆さん、今回は誠に有難うございましたッ!」
屋敷の玄関先に三度立ち、深々と臣下の礼を執るエリック。シンシア夫人はお辞儀を、侍女のアリアは深々と頭を下げていたりする。
「本当に、辺境伯様方と侯爵閣下には感謝してもし尽くせません。本当に有難うございました」
シンシア夫人もカーテシーをしながらそんな台詞を口にする。それはソレで尻がむず痒いので止めて欲しいんだがッ?!
「しかも過分な物まで頂いてしまい御礼の言葉も御座いませんッ!」
頭を下げたままそう言うエリック。彼が言う「過分な物」とはズバリ! 『聖晶貨』の事である。咲夜ささやかながら開かれた俺達の祝勝会を兼ねた歓迎会の席で、エリックに1枚、誂えた木箱に入れたのを手渡したのである。その価値を聞いて絶句したエリックとシンシア夫人が印象的だった。
たった1枚で5000万フルもの価値があると聞いたらそう言う反応になるのが普通……なのか? 良くわからんが。
「頂いた『聖晶貨』は家宝にさせていただきますッ!」
漸く顔を上げたかと思うと、物凄い真顔でそんな事を宣うエリック。その様子からも彼の生真面目さが伺える。
「いやいや、そんな後生大事にしなくても良いから。アレは君に贈ったモノだから、出来れば君と奥さんの為に使って欲しい。恐らくはそれが一番正しい使い方だと思うからな。あとあの件もあまり堅苦しく考えないでいてくれ」
「ははっ!」
エリックにそう声を掛けると彼は深く臣下の礼を執る。
聞けばエリックは自身が治めるシュシェシ村の公共事業の為に、自身でラーナルー市のとある商会に借金をしているとの事。それならば是非とも今回贈った『聖晶貨』を現金化して借金をいち早く返済し、自らの将来への蓄えとして使ってもらいたいと思う。口には出さないが特に将来の跡取りと言う点に於いて。そんな事を口にしたら俺が後でアン達から色々と迫らせるからな、それこそ色んな意味で。
それにこのシュシェシ村も俺の領地となるのだから、これからは俺が公共事業なんかにも金を出すので、どうかエリックには代官としてその手腕を十二分に発揮して貰いたいものである。
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予定より2日ほど時間は取られたが、無事にトラブルを解決し、シュシェシ村を後に南に向かって街道を進む竜車。村を発つ際には村人総出で村の門で俺達を見送ってくれたのが印象的だった。
どうやらエリックは今回のコボルトとゴブリンの討伐の事を村人達にキチンと話していたらしい。なので見送りに来た村人達は「助かりました」とか「ありがとうございました」と感謝の言葉を口々に並べていたので、少しこそばゆい感じがした。
確かに俺は辺境伯なんて言う御大層な爵位を賜っているが、冒険者の方が本職なのである。冒険者とは「未知」なる物事や迷宮を文字通り「冒険」し、その「未知」を解明し「富」や「名声」を手にする為だけじゃなく、草原や森林あるいは迷宮に跋扈する魔物と言う「驚異」から力無き人達を守る為に存在しているのだ。
『冒険者とは力無き人々、弱き人々を守る為に存在するのだ』
これは俺が冒険者に成り立ての頃に、指導してくれたギルドの教官から聞かされた訓戒である。
『貴方がこれから手に持つ剣と言う「力」は真に守るべき人達の為にあるの。先ずはその覚悟をしっかりしなさい』
そしてもうひとつ、これは俺が幼い頃ルストラ師匠から武術の鍛練をつけて貰う際に言って聞かされた言葉である。
俺が今こうして居られるのはこの2つの「訓戒」を守ってきたからに他ならない──と今でも思っている。
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「それにしても──中々に傑物だったね、ローズ卿と言う人は」
ドラゴンキャリーの客車の中、後ろの席に座るオルガが笑顔でそう俺に声を掛けて来る。因みに今はエリナが地竜の手綱を引いていて、アンがキャリッジ内に居たりする。
「そうだな。そんな彼を直臣に出来たのは一番の収穫だよ」
オルガの話にひとつ頷くとそう言葉を返す俺。
実はコボルト討伐後に俺が直接エリックを勧誘したのである。先程去り際にエリックに掛けたあの件と言う台詞はその事である。
正直言って成り立てホヤホヤの新米辺境伯なので、身内以外で優秀な人材は喉から手が出るほど欲しいのが本音なのだ。とても短い時間ではあるがコボルト討伐を共に成し遂げた彼なら信頼に足ると思えたのが理由である。
彼も最初は驚いていたが、俺の熱意に負け「私で宜しければ」と了承してくれた。無論これは『聖晶貨』を渡す前の話であり、彼に『聖晶貨』を渡したのは「直臣になってくれるなら」とかそんな陳腐な理由では断じて無い事は強調させてもらう。
「何ならこの先々でも有能な人材を確保するのも良いかもねっ?」
後ろの席でそんな事を何やら楽しげに宣うオルガ。彼女の話だと、その辺も俺の裁量に任せられているらしい。つまりは端的に言うと「自分の家臣は自分で探せ」と言う事に他ならない。ぶち上げると詰まるところ丸投げである。
本当にそれで良いのか、オールディス王国?!
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「まあ後は、そうだねぇ──アンやエリナやレオナは結婚相手だから良いとして、ルアンジェとコーゼスト殿を含めたメンバーをウィルの従士に取り立てる、とかも良いかもしれないね」
そんな中、オルガからの助言である。この場合の従士と言うのは信頼のおける者との間に結ばれる主従関係である。主人と従士は相互に誓約を交わし主従関係を結ぶが、これにより主人の側は従士を保護する義務、従士の側は主人を援助する義務を負う。従士は主人の屋敷で起居をともにし、主人に日常生活の上で奉仕するほか、特に戦争等に主人と共に従軍し、生命を賭して主人を守るのが栄誉とされているのが一般的である。
まあそう言う事なら今の氏族のメンバーを従士に任命するのもアリなんだろうな。それにベルタやユーニスやフェリピナやマルヴィナは領地を持たないが子爵であるし、ルアンジェやコーゼストも男爵位をエリンクス国王陛下から賜っている身であるが、ルネリートとアリストフはまだ無爵だ。ならば今から俺の従士としておけば、追々2人の為にもなる筈だろうし。
そう思いつつ後ろの席に座るベルタ達の方を振り向くと、「是非ともお願いします」と言う無言の圧を視線に感じて思わず苦笑いをせざるを得ない俺。
まあ特に反対は無さそうだし、この巡行が終わったら本当に従士に取り立てる事にしよう。
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次の目的地であるエーフネ市に向けて南進するドラゴンキャリー。途中に幾つか点在する小村は今回は通過して来たのは言うまでもない。
「主要都市は勿論の事、そうした村々にも王都から全て伝令が出ているからね。本当に用事がある所だけで良いんだよ。逆にウィルが全ての市や町や村々を隈無く回ったりしたらそれこそキリが無いよ?」
貴族の大先輩であるオルガが笑ってそう教えてくれたのも大きい。そらまあそんな細々とした所まで回っていたら何ヶ月も掛かってしまうからな、割愛出来る部分は割愛した方が効率的であるのは間違いない。
そうだ、次いでに聞いておくか…… 。
俺はそう思い立ち、後ろの席に首を巡らせると頭に浮かんだ疑問をオルガに尋ねてみる。
「そういや陛下が仰っていた俺が持つ「騎士団」って、うちの『神聖な黒騎士団』以外のメンバーの選定も俺の裁量に任せられているって思って良いのか?」
「うん? ああ、アレかい? そうだねぇ、陛下は『神聖な黒騎士団』を中心にと仰っていたから、ウィルのクランメンバーが中心に据えられていれば構わない筈だよ。もし陛下が誰かを推挙されるつもりなら最初にお話があるだろうしね。まあ極端な話、ウィルの御眼鏡に適う人材なら文句は言われないさ」
そう言うと片目を瞑って目配せするオルガ。
凄く小聡明く見えるが──可愛いから許すッ!
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それから野営をする事2回、シュシェシ村を発ってから翌々日の朝、この巡行の最初の目的地エーフネ市に俺達を乗せたドラゴンキャリーは到着したのである。
周囲にはラーナルー市ほどでは無いがそれなりに立派な城壁が築かれており、城壁北にある正面門には徒歩で来た人や馬車が少し列を作っていた。外から見る限りそれなりに発展はしている感じがする。
俺達のドラゴンキャリーはそんな列を脇から追い越して、正面門に併設された貴族専用の門へと向かう。当然の事ながら列に並んでいた人々からドラゴンキャリーは驚嘆の眼差しで注目されたが、ここに来るまでに数え切れない人々から幾度と無く向けられた眼差しなので、華麗に無視する。そんなのに一々構っていられないからな。
やがてドラゴンキャリーは2人の門番の手前まで進むと、エリナがグランドドラゴンの手綱を締めてキャリッジがゆっくりと停車する。
「し、失礼。こ、これ、これは何でしょうか?」
自分の目前に現れた明らかに異質な存在であるグランドドラゴンに怖々と近付きつつ、御者を務めるエリナに尋ねる門番の若者の1人。そらまあ亜竜とは言え目の前にドラゴンが現れたら吃驚するのは普通だよなぁ、等々キャリッジの窓から見て思う俺。
「はい、これは地竜と言う亜竜で、後ろの客車を含めてウィルフレド・フォン・ハーヴィー辺境伯閣下所有の竜車と言う車両です。キャリッジには辺境伯閣下とオルガ・ロラ・セルギウス侯爵閣下がお乗りになられています」
尋ねられたエリナは丁寧に門番に説明をしているのが聞こえる。何かエリナから「閣下」とか言われると尻がムズムズしてしょうが無いんだが?! ふと後ろを見るとオルガも何とも言えない顔をしていた──キミもかい?!
俺とオルガがそんな微妙な顔をしていると、外では門番の若者が背筋を伸ばし
「へ、辺境伯閣下と侯爵閣下ですか?! た、大変失礼しましたっ! お通り下さって結構です!」
と凄まじく畏まっているのが窓から見える。もう1人は大慌てで門の中に引っ込んだ。恐らくここの領主に連絡をする為だろう。
まあ地方都市の門番にとっては侯爵はおろか辺境伯と会う事なんざ、一生のうちに何度もある事じゃないからなぁ。それは緊張もするだろう──尤も俺がそうさせている原因なんだけどな!
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冒頭にちょっとしたトラブル(?)はあったものの、無事にエーフネ市内に入る事が出来た俺達。
正面門から真っ直ぐと伸びる大通りを道なりに行くと、現領主であるブライアン・フォックス子爵の屋敷に辿り着けるとは応対してくれた門番の若者の話である。フォックス子爵の屋敷には早馬で連絡が行っているらしい。
大通りはそこそこの人出であり、ドラゴンキャリーはゆっくりと大通りを進んで行く。道すがら出会う人々は誰もが尽く俺達のドラゴンキャリーを驚いた顔で二度見しているが、まあ流石にこの見られる感覚にも少し慣れてきた。
「さて……と、子爵が歓迎してくれると良いんだけどな……」
キャリッジの窓の外を流れる街の景色を見ながら、そうボソリと呟く俺。
一抹の不安と期待を乗せて、エリナが御するドラゴンキャリーはフォックス子爵の屋敷へと大通りを進んで行くのだった。
すったもんだの末、エリックを直臣に迎える事が出来たウィル。オルガさんの言う通り、これから行く先々で勧誘活動をする事に! 少し話に出ましたが、ウィルが創設する騎士団は何やら大変なモノになる予感が(笑)
そしてドラゴンキャリーは無事にエーフネ市に到着しました! 次回はこのエーフネ市が舞台の話です!
☆manakayuinoさんに描いていただいたサブヒロインの1人、自動人形のルアンジェのイラストを第47部四十四話に掲載しました! manakayuinoさん、素敵なイラストをありがとうございました!
いつもお読みいただきありがとうございます。




