領地巡行 〜まずは出出し、そして地雷料理〜
本日は第186話を投稿します!
国王陛下との懇談を終えて、いよいよ始動するウィルの辺境伯としての仕事! 先ずは足元から固めに掛かります!
そして今回の話で閑話も含めると遂にトータル200話です! いつも読んでくださる読者様に感謝致します!
-186-
ちょっとしたゴタゴタはあったが、何とかエリンクス国王陛下と王妃ら陛下一家、そして俺の従魔の半人半蛇のヤトと女王蛾亜人のセレネをも交えた話も漸く終わり、この懇談も解散となった。
若干1名、我が愚妹アドルフィーネが真っ白に燃え尽きていたが、まあそれはこの際どうでも宜しい。
「ウィル様、是非またお出で下さいませ! その時また冒険譚をお聞かせ下さいねッ!」
別れの間際、ステラシェリー王女からそんな言葉を掛けられた。まだ顔を合わせて2回目なのだが、すっかりうちのメンバー達とも打ち解けていて、俺の呼び方も最初の頃は「ハーヴィー卿」だったのだが今では「ウィル様」とこれまた友好的な物になっていた。
聞けばステラシェリー王女もまた俺みたいな冒険者から冒険譚を聞くのが好きなのだそうだ。これは間違いなくエリンクス陛下の血だな。まあ彼女の場合、ジュリアスみたいに身分を偽ってまで冒険に出る事は無い……と思う……無いよな?
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「あと、それと!」
おっと? ステラシェリー王女はまだ何か言いたげである。何なんだ?
「今度お見えになる時も、是非マーユちゃんを連れて来て下さいましね! 私、すっかりマーユちゃんと仲良くなりましたの! また今度一緒に遊びましょうと約束しましたのよ♡」
「そうですわハーヴィー卿。ステラが言う通り、今度も是非にマーユ姫をお連れ下さいな。私もステラ共々すっかりマーユ姫のファンになりましたの♡」
ステラシェリー王女の台詞に続いてマティルダ王妃までもが、異口同音に次回もマーユを連れて来てくれと宣う。どうやら2人ともマーユの可愛さの虜になったみたいである。
そんな王妃と王女の横ではエリンクス陛下とジュリアスが苦笑いを浮かべながら頷いていたりする。
「はいッ! また今度お父さんに連れて来てもらいますね王妃様ッ! ステラお姉ちゃんッ!」
一方のマーユも元気良く王妃様らの言葉に答えている。その様子を目を細めて見ているアン達とルストラ師匠。マーユは本当に良い子だよなぁ。
「ええ、マーユ共々また必ず来させて貰います」
俺は精一杯の笑顔で返事を返すと、メンバー達と共に王城を辞するのだった。
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「さてと……この次、はと」
王城を辞した後、一旦オルガの屋敷に立ち寄って大広間で休憩を入れる俺達。因みに今の台詞はこの後の予定の自己確認だったりする。
「うん、次は準備を整えてからウィル自身で領地内に在る地方都市への巡行をする様だね。君が辺境伯に任じられた事はすぐさま各都市を治める貴族へと連絡されるだろうけど、今後の事も考えると一度キチンと自身の目で確認した方が良いよ。まあその方があとから無用な軋轢を生んだりしないしね」
俺の独り言みたいな呟きに律儀に答えてくれるのは王侯貴族の先輩であるオルガ。その辺は本当に頼りになる。
「準備って、巡行の旅の……って訳だけじゃないよな?」
オルガの台詞に引っ掛かるものを感じてそう尋ねる俺。するとオルガは
「流石はウィル。私が惚れ込んだ男性だけの事はあるね。その通り、巡行先に居る貴族へ手渡すお土産の事さ。まあ辺境領になる地域の管理はそこに前から居る貴族達を代官として配置しておけば管理もし易いだろうし、何より無駄な軋轢を生まない。それに此方から土産持参で行けば、嫌な顔をする貴族はまず居ないだろうさ」
そう答えを口にする。しかし土産、かぁ…… 。
俺はオルガの話に出た「土産」について思いを巡らせる。やっぱりそれ相応に価値がある物の方が良いよな…… 。
「それでしたら、マスターがオルガさんから追加報酬で頂いた『黄昏の城』の品物の中に丁度いいのがありますよ」
すると自信ありげにそう宣うコーゼスト先生。
それじゃあその辺はコーゼスト先生に丸投げするとしよう、うんッ!
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そうしてオルガの屋敷で休憩をした後、コーゼストの転移魔導機を使い、全員でラーナルー市にある俺の屋敷に戻って来た。
「ふぅ……やれやれだぜ」
屋敷の玄関ホールに転移で戻ってきた俺から、ついそんな台詞が口を突いて出てしまう。
「あはははっ、ウィル、本当にお疲れ様。まあこれからがまた大変なんだけどね」
俺の台詞に苦笑いを浮かべつつ答えるのはオルガ。まぁ、そらそうなんだが…… 。
「それにしてもウィルもいよいよ辺境伯ね…… 一番最初に会った時から見ると本当に夢みたいに思えるわ」
俺がオルガの言葉に顔を引き攣らせていると、アンがそんな事を宣ったりする。まあ今居るメンバーの中でも一番最初にパーティーを組んだのはアンだからな、その辺は感慨深いものがあるんだろう。
「あぁッ?! それを言うなら一番最初にウィルと知り合ったのは私なんですよォーーッ?! 私は最初っからウィルは出世頭だと思ってましたから!!」
アンの台詞に反応したのはルピィ。まあ確かにそうなんだが、何だそのルピィの根拠の無い自信はッ?! と言うかそんな事で張り合うなってぇの!
ルピィの台詞に皆んながドッと笑いに包まれる。
やはり妄想力だけならルピィはアドルフィーネを凌駕するかも知れん。
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「よしっ! それじゃあ今夜は私とっておきの手料理を振る舞う事にしましょうッ! ウィルの陞爵祝いも兼ねて、ねッ?」
皆んなが一頻り笑い終えると、手をパンっと叩いてそう声にする師匠。
「そういや師匠の手料理も久しぶりだな……」
師匠の言葉に懐かしげにそう言葉を返す俺。だが何か心の奥底で引っ掛かるモノが──なんだ? だがそれに訝しむ俺とは対照的に盛り上がる他のメンバー達。師匠を中心にキャイキャイとなかなか姦しい
「どうしたんですかマスター? 折角ルストラ師匠さんが手料理を振る舞うと仰られているのに浮かない顔をして?」
そんな中ただ1人、コーゼストだけは俺の様子が変な事に気が付いた。そらまあコイツの本体は俺の左腕の腕輪だからな、肉体的には勿論の事、精神的にも繋がっているから判るんだろうが。
「いや……何か引っ掛かるんだよ、「師匠の手料理」って言う言葉がな……何だったけなぁ……」
「ふむ……もしかすると師匠さんの料理は凄く味に不評があるモノとか?」
「いや? 師匠の料理の腕前は大したもんだぞ? 昔何度か食べさせてもらったが、それこそその辺の料理店の料理長が裸足で逃げ出す程だったな。ただなぁ、キ………………」
コーゼストとそこまで話していると不意に引っ掛かっていたモノに思い至った! 師匠は料理の腕は玄人裸足だが、食用の茸と毒茸をたまに取り違えるんだった!
魔法士の魔法に『地雷』と言う、敵の足を止めたり罠としたりする設置型の爆裂系魔法があるんだが、まさに師匠のキノコ料理はその『地雷』その物である事を!!
俺は応接卓から勢い良く立ち上がると、大声で師匠に懇願する!
「師匠! 頼むからキノコ料理以外でッ!」
俺は昔、師匠の茸料理を食べて死にかけた記憶を今鮮明に思い出したのである。
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結局良く考えたら、うちの屋敷にはジアンナと言う料理のプロが居る訳で、当然ながら毒茸など置いてある筈も無く、その日の師匠の料理は運良く『地雷』とならなかったのは言うまでもない──やれやれ。
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そんなこんなから約2週間後、文字通り色々と準備を整えて俺は氏族『神聖な黒騎士団』の全員と、オルガとルピィとマーユと言ったメンバーと共に国王陛下から与えられた辺境領の巡行に出る事になった。
今回の巡行にはルストラ師匠は同行しない。師匠曰く「久しぶりに西方に戻って来たのだからのんびり過ごしたい」のだそうだ。
そして移動だが、これから今回みたいな大人数での移動が多くなる事が容易に想像が付いたので、思い切って東方大陸から竜車を購入した。勿論客車を曳く地竜込みで。価格は専用のキャリッジとグランドドラゴン込みで白金貨8枚、通貨単位で言うと8000万フル──普通の2頭立の箱型馬車が馬込みで白金貨3枚、3000万フルから見るとかなり高いが、箱型馬車は定員が6人、今回の巡行だと少なくとも馬車3台と馬6頭は必要になり、ドラゴンキャリーを買うのと大して変わらないのだ。
それに飼葉や飲み水などの維持費を考えると、初期費用は掛かるが長い目で見るとドラゴンキャリーの方が断然安くなるのだ。何よりグランドドラゴンは馬よりもスタミナがあるし、見た目と違い草食で、しかもその巨体の割には飼葉の量は馬1頭分程度で事足りるしな。
因みに購入に際しては当然の事ながら、コーゼストの転移魔導機で東方大陸に渡って、向こうの冒険者ギルド最高統括責任者のトゥ・シンイェン女史にドラゴンキャリーを取り扱っている馬車屋を紹介して貰い、当然の事ながら即金で購入して来た。
そして当然の事ながら向こうの関係者各位は、転移魔導機でいきなり転移して来たり、果ては巨大なドラゴンキャリーをグランドドラゴンごと転移でルォシーに持ち帰った事に驚いていた、らしい。
まあ別に迷惑を掛けた訳でも無いのだから、特に問題無いだろう──多分。
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それとは別にグランドドラゴンの世話は当面の間は俺達クランのメンバー全員で交代交代で行う事にした。
ちゃんとした世話係は後日改めてギルドで募集する、と言う事となり、とりあえず先ずはここラーナルー市を治める貴族達と先に会おうと言う事になった。それで此方から使いを出してご近所さんの貴族達に俺の屋敷に集まってもらったのだ。その中には当然の事ながらラーナルー市冒険者ギルドのギルマスで子爵でもある、ヒギンズのおっさんも頭数に入っている。
このラーナルー市と周辺の土地は、5人の子爵が共同で統治しているのだ。因みにヒギンズのおっさんは当然の事ながら迷宮「魔王の庭」の管理と運営を担当していたりする。
使いを出してから程なくして──屋敷の大広間に5人の子爵が集まって来た。ご存知ギルマスことディオへネス・ヒギンズ子爵とうちの屋敷の又隣に居を構えるエヴァン・フォン・マイヤーズ子爵は何度も顔を合わせて話しており顔馴染みだが、残り3人の子爵とはあまり話した事が無い。
とりあえずうちの屋敷の両隣に居を構えるクレイアス子爵とアーロイド子爵、更にアーロイド子爵の隣に住むフェビアン子爵、の3人である。前に開催した晩餐会には来てくれたが、挨拶された記憶がそもそも無い──まあ別に構わないが。
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「皆んな、御足労を掛けた」
ホールに集まった面々を前にそう声を掛ける俺。因みに俺と一緒にこの場に居るのはオルガの他にアン、エリナ、ルピィ、レオナ、コーゼストである。
「「「「「ははぁーーッ」」」」」
声を掛けた俺に対し、右手を左胸に当て、右膝を床に着き頭を深々と垂れ、所謂臣下の礼を執る5人。
どうやらちゃんと王城から連絡が行っていたみたいである。その様子にオルガは満足気に頷いているが、こんな事をされ慣れていない俺は尻がむず痒くてたまらない。
「あーっと、と、とりあえず皆んな、顔を上げてくれ」
俺の声に顔を上げる5人。ヒギンズのおっさんもマイヤーズ子爵──エヴァンも何時に無く神妙な面持ちである。居心地が悪いがとりあえず話を進めないとな。
「皆んなも聞いているとは思うが──」
そう話を切り出す俺。先ず今まで彼等が各自で治めていた領地だが、これは一度俺が国王陛下から下賜されたのを、再度その地を統治していた貴族に貸し与える形を取る事になった。この辺はオルガと話し合った通りで、実質彼等をそのまま代官とする訳だ。此方としてはその方が領地の管理と経営がし易いからな。
それと俺の領地であるうちは数年は税が免除される事、それと税が適用された際、俺に納める税率を利益の3割とする事も併せて伝えた。この辺もオルガと話して決めた事で、そのうちの1割に当たる分は俺の収入となり、残りの2割分を王国へ税として納めるのである。
「「「「「ははぁーーッ」」」」」
俺の話を聞いて再び平伏する5人──それ、やられる度に背筋に悪寒が走るんだが?!
「えへん、と、兎に角だ! そう言う事なので宜しく頼むッ!」
態とらしく咳払いをして、そう言うと俺はコーゼストの無限収納から、とある物が入った小箱を取り出した。
「それでこれは俺からの贈り物だ。遠慮せず受け取って貰いたい」
そう言って小箱を開ける俺。中に入っていた物が窓から差し込む光にキラリと輝くのだった。
辺境伯となった早々に思わぬ危機(?)に見舞われそうになったウィル! 師匠の地雷料理のトラウマは深そうです(笑)
兎にも角にも辺境伯として本格的に動き出したウィルの最初の仕事は地方巡行! その為にドラゴンキャリーを買ったりとなかなか太っ腹です! そして先ずはホームであるラーナルー市を治める5人の子爵と会う事に! ウィルが彼等に手渡したのは……?! 詳しくは次回までお楽しみに!
☆manakayuinoさんに描いていただいた主人公ウィルフレド・ハーヴィーのイラストを第2部二話に掲載しました! manakayuinoさん、素敵なイラストをありがとうございました!
いつもお読みいただきありがとうございます。
 




