魔王の庭(☆イラスト有り)
第二話、投稿します。引き続き誤字等見逃してください。そしていきなりのダンジョンの話に飛びます!そして説明回でもあります!生暖かい目で見てやってくださいませ(平伏)
*2020年12月7日改訂
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「さて、と……ギルドに行くかなぁ」
俺はそう呟くと安宿の立ち並ぶ南通りからギルドが有る西区に向かって歩き出した。そう言えば宿屋を出る時、女将さんに「丸一日寝てたけど何処か悪いのか」と心配されてしまった。
俺の居るこの街は、オールディス王国の北方のラーナルー市だ。ここには王国唯一、大陸でも有名なS級ダンジョン「魔王の庭」がある。
──いや、正確にはダンジョンの入り口の周りに街がおっ立ったと言えばわかりやすいか?
なんせ「魔王の庭」のオールディス王国にもたらす利益は年間予算の半分を占めているらしい。それに──
「ワンワン☆」
「ん?どうした? 腹が減ったか、ファウスト?」
折角説明してたらファウストから腹が減ったと抗議が来た…… 。
ファウストの件だが……結果から言うと宿屋から出る時には揉る事はなかった。何故ならファウストの顕現を解除したからである。考えれば至極簡単な事だったのだが、寝起きの騒動で混乱してて思い付かなかったのが真相である。
……だが、考えたらちっこいながらも強力な魔物が街中を歩いている訳で…… 。
でもまぁ素のままの大きいのを召喚しなけりゃ大丈夫だろ、うん!──いや、そんな事は絶対にしないからな?!
『全く、 我がマスターは──』
『うるせえ! そもそもお前のせいだろが!』
──そうなのである。そもそもコイツ──コーゼストのなりふり構わずの姿勢が招いたトラブルなのは明白! それを棚に上げて最早言いたい放題である──全く…… 。
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因みに今は外でしかも他人の目もあるのでコーゼストとの会話は頭の中でしている。何でも念話とか言うらしいが……まぁ傍から見ても一人なのに、腕輪なんかと喋っていたら領兵に通報されるのがオチだからなぁ……はァ。
「くぅーん……」
おっと!? またもやファウストからの抗議である。
「……あーっと、 肉で良いか? ファウスト」
「オン!」
うわっ、そんなに振ったら尻尾ちぎれるぞ?!
俺は通りに並んでる屋台で自分とファウストの分の肉串を買って、屋台の脇に腰掛けて肉串を咥えながらファウストは与える。ファウストは一心不乱に肉に齧り付く。
そんなに腹が減っていたのかよ、ファウスト……その姿が思わず不憫に思えてしまう俺。
『マスター、私も──』
『? お前、肉が喰えるのか?』
『いえ、私はマスターから魔力を供給されていますので平気ですが』
『んじゃ、何で喰いたいなんて言ったんだよ?!』
『何となく言ってみただけです』
コ、コイツわァァァーーーッ! (怒)
そもそもコイツ──コーゼストとの出会い? 自体が最悪だっただけに何故か無性にムカつく!!
俺はあの時の自分を思わず殴りたくなった。あの時コイツさえ見つけてなけりゃ………… 。
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「──ふぅ、この位なら問題無いよなぁ。やっぱり」
襲ってきた3体のホブゴブリンを切り伏せて俺は一人呟いた。ここはダンジョン「魔王の庭」の第一階層、その全行程の3分の1ほどである。
この「魔王の庭」は、聞いた話だと最上部の第一階層から最深部まで全十八階層の迷宮だそうだ。元々は500年程前に世界を掌握しようとした魔王の居城が建っていた地で、この迷宮は魔王城の地下に拡がっていた──何でも魔王達魔族の〈実験場〉の跡である──らしい。
まぁ500年も前の伝説じみた話ではあるが、魔王が討伐されこの地が解放されてもこの場所は暫く放置されたらしい。その結果、〈実験場〉跡地には魔物が住み着き元々の構造からそのままデカい迷宮──ダンジョンになったと言う話だ。
元が魔王城跡地なんて誰も手を付けたく無かったんだろうが……その名残りで「魔王の庭」とか、そのまんまだよなぁ……何の捻りも無い。
このダンジョン「魔王の庭」、ひとつの階層がやたらだだっ広い!大体一階層辺りで全踏破が最短でも2ヶ月、長いと3ヶ月はざらに掛かるのを目安にした方が良い──と事前にギルドで注意を受けた。
そしてここに棲む魔物の強さも数も他のダンジョンと比べても2倍から下手すると数倍ある場合もあるらしい。
だから「魔王の庭」にはBクラスの冒険者でないと入場許可が降りないのだ。俺はつい3ヶ月前にBクラスに昇格したばかりで、この難関ダンジョンに挑む権利を得たので絶賛挑戦中と言う訳である。
まぁ、きちんと実力付けて来たし、ここで更なる昇格を狙うのも──って!
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歩みを進めながらつい思考が余計な方向に逸れている自分に気付き、慌てて我に返って気を引き締める俺。
いかんいかん! ここはダンジョン内だぞ! 集中集中── 。
すると次の通路の角を曲がるとほぼ同時に、奥からけたたましい蹄の音が近付いて来た!
「!? おっ、リッパーバイソンか?!」
体高2メルト(2m)は在ろうかと言うリッパーバイソンが勢いを付けて突っ込んできた!
だがまだ距離がある──大体70メルトか?
俺は呼吸を落ち着けて、リッパーバイソンの挙動を見定める。
コイツらは直線上を突っ込んで来るか、その場で長剣ほども有る角を振り回して暴れるかのどちらかである。鋭く研がれた角は厄介だが対処さえ間違え無ければあまり問題ではない。
ここはギリギリ引き付けてから、躱して奥の壁で止まった所を横合いから首筋を切り裂くか──── 。
通路の角に立ちリッパーバイソンを待ち構える! チラッと自分の右手に目をやり退路を確認した。さぁ、やって来い!
リッパーバイソンはけたたましい蹄の音を立てると、どんどん加速しながら突っ込んで来る! ちょっ、コイツ、止まる気無いだろ!?
リッパーバイソンが目の前3メルトまで来た瞬間に右手の通路に身を躱す俺!
そのままヤツは減速せず突っ込んで来て──物凄い音と共に壁に激突しやがった──おいおいっ! コイツ、頭に血が昇り過ぎて壁が見えて無かったな?! 口から泡を吹き通路に横倒しになったリッパーバイソンを見て、そんな風に思ってしまう俺。幾ら何でも愚直過ぎる!
相手は魔物だが一瞬憐れに感じたが、俺は気を取り直して腰から剣を引き抜き、グリップを両手でしっかり保持して首筋を一閃! 鮮血と共に、ゴロリとリッパーバイソンの頭と身体が永遠にお別れした瞬間である。
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「ふぃ~」
俺は深く息を吐き出しながら血に濡れた剣を一振りし鞘に収めた。
目の前では頭と身体がお別れしているリッパーバイソンが光の粒子になって消えていくところだった。
このダンジョンに限らず、どのダンジョンでも倒した魔物はこの様に消えるのだ。何故なのかは学者や魔法士ギルド、果ては神官まで独自の説を唱えているが誰も説明出来ずにいる。
まぁそんな事はどうでも良い。だって外と違って自分の手で解体する手間が省けるからである。だから俺達冒険者は「これは便利な事」として認識している。
小難しい事は良いんだよ──そんな感じである。
何はともあれ、光が消えた後には魔物のみから採取される魔核が残る。この魔核、魔道具や魔法薬に使うので低級なのでも引く手数多なのである。
俺はリッパーバイソンの残したコアを拾い上げながら激突した壁に目をやった。
そこにはヒトがひとりぐらいなら通れる程の大穴が開いてた。
「うぇ、 どんだけ勢い付けて突っ込んできたんだか……」
通常ダンジョン内部は頑丈に出来ている。それこそ熟練者が槍で穿っても少し削れるぐらいの強度がある。
そこに開いた大穴──これはもしかして!
俺は期待を込めて穴の中を覗き込む。全く灯りは無く向こう側は見えない。───これはやはり隠し部屋、か? もしそうならかなり、いや飛んでもなく幸運である。
基本ダンジョン内で回収した魔物のコアや甲殻等のドロップ品は、冒険者ギルドに全て引き渡す事になっていて、その後自身のクラスに応じて金が支給される。但し極稀に見つかるこうした隠し部屋や宝箱の中のあらゆるアイテムは全て発見者の物になるのだ!
俺は穴の外側に背中のザックから出した黄色く染められたロープを張っていく。このロープはれっきとした魔道具で、隠し部屋や大きなアイテムの所有権を示す為に使うモノなのだ。一度使用すると使用者のみにしか解除出来ない隠蔽の魔法が掛かって使用者にしか判らなくなる。
「さて、 中を見てみるか~♪」
俺は同じくザックから出した魔導提灯を灯して、リッパーバイソンが開けた穴の中を照らすのだった。
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ソーサリランタンで照らした穴の中は間違い無く隠し部屋だった。中身は──半分当たりで半分ハズレだったが── 。
先ず当たりだったのはかなりの業物の武具が見つかった事である。剣だけでも歩兵剣から両手剣までひと揃え、防具も軽鎧から重甲冑までひと揃え、まさに選び放題である。まぁ俺はフルプレートは使う事は無いので、迷わず売却になるが。
それとは別に、そこそこのコアも見つかった事も当たりと言える。特に両手程も有るコアには驚かされたが…… 。
ハズレだったのは、所狭しと作りかけ若しくは壊れた魔道具が散乱していた事である。
──もしかしてこの部屋は昔の「魔族」の工房だったのか?
良く見ると作りかけの魔道具や武具も見受けられる事からの俺の推察でしかないが── 。
そんなこんなで部屋の奥まで探索しながら進むと、1つの飾り気の無い扉を見つけた。
良く聞く話だが──こうした所に限ってレアなアイテムが眠っていたりするのだ、とは先輩冒険者から聞いた事がある。もしかするとここにもそうした類いのがあるのかも── !
扉には何故か鍵や罠か仕掛けられておらず、俺は期待半分で扉を開けて中を覗き込む。内部は更に屑の山──いやその奥に小さな宝箱が──あった!
俺は屑の山を掻き分け、急いで宝箱の近くまで進んだ。辺りの屑にあって、この宝箱は何か異質な感じがしたが──とりあえずトラップが無いか確認する。そうでないとオチオチ安心して開けられない。
トラップの類は見つからず、ホッとしながら開けようと宝箱に左手を掛けると────
──
────
──ドク……
────ドクン……
──────ドクン。
────────ドクン!
?! なんだこりゃ?
急に聞こえてきた自分以外の鼓動に驚き、手を離そうとして──
『──外部からの魔力波検知。 生体反応確認。登録魔力波との整合率85パーセント。「アイテム個体名:共生なる腕輪」Cancellation of seal』
「───は?」
これが俺の左腕に居座るコイツ──「共生なる腕輪」コーゼストとの出会いであった。
*リッパーバイソン:体高2~2,5メルト、体長3メルトの牛の姿をした魔物。前に向かって捻くれながら伸びたロングソードの様な角で相手を切り裂く。ダンジョン外だと肉が美味(笑)
*1メルト=1m
*Cancellation of seal=封印解除
また主人公の名前が出ませんでした…… 。
☆manakayuinoさんに描いていただいた主人公イラストを掲載しました! manakayuinoさん、素敵なイラストをありがとうございました!
宜しければ評価をお願い致します