陞爵式、そして暴発する愚妹
本日は第184話を投稿します!
遂にウィルは──この後は是非皆さんで本編を読んでご確認ください!
-184-
「──とのこれ等全てが、ハーヴィー卿の成し遂げた功績となります」
大広間に響き渡る文官の声。ここには伯爵位以上の云わば王侯貴族達が一堂に会している。無論オルガも。因みにこの場には俺達氏族『神聖な黒騎士団』のメンバー全員は勿論の事、ルピィとルストラ師匠も参列している。マーユは悪いが別室でステラシェリー王女に面倒を見て貰っている。
更に因みに列をなしている貴族達の最前列には我が愚妹アドルフィーネの姿もしっかり居たりする。そして丁度今、文官が俺が伯爵になってからの功績を説明し終えたところだったりする。
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その功績とはズバリ! 東方大陸の『黄昏の城』への探検行の事である。
まあ出港前から海蠍を討伐したり、出港した早々にクラーケンとやり合ったり──具体的にはクラーケンは魔導船『大海の剣』が倒したんだが──その後、ジータと彼女の元海賊団と戦闘して、オーリーフ島に到着してから島ひとつの開拓に参加して、ジータの妹分を自称するザイラと彼女のやはり元海賊団と戦闘して、ドゥンダウに着いてからは『黄昏の城』に向かう道中、鎧水牛ら魔獣を狩ったり、何度か魔物と遭遇しては討伐して、漸く目的地の『黄昏の城』に着いたら着いたで、その最深部に潜るまで邪木精や闇大蜘蛛や甲虫類人や武将蟻や暴君百足等の数々の強力な魔物や、果ては蛾亜人やセレネ──順位Sの女王蛾亜人とまで激戦を繰り広げて、帰路には「災禍」と評されているランクS+の鯨亀と遭遇したりと、正に大盤振る舞いな旅だったのは間違いない。
んっ? コレってもしかしなくても、結構困難な旅だったんじゃね?
『本当に今更ですね。マスターのその無自覚ぶりは最早才能かと』
『酷い言われようだなッ、おいっ?!』
そこに念話で話し掛けて来るのが、今絶賛一緒にホールの赤い絨毯の上に傅いているコーゼスト。それにやはり念話でツッコミを入れる俺。勿論コーゼストの連絡網に繋がっているうちのメンバーにも俺とコーゼストの念話のやり取りは聞こえていて、何人か微かに肩を震わせていたりする。
最早こちらも安定のやり取りである。
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俺とコーゼストがそんな掛け合いをしているとは露とも知らないエリンクス国王陛下が、ホールの上座の一段高い壇に置かれている豪奢な玉座から立ち上がると
「以下の事を鑑み、余はウィルフレド・ハーヴィー伯を辺境伯へと陞爵する物とする。尚、この決定に不服がある者は今この場にて余に直接申せ!」
右掌を列を成す貴族達に向けて、そう声高らかに宣言する。
俄にざわめき立つ貴族達。あちこちから「この様な冒険者上がりに……」等と不満の声が小さく聞こえて来る。だが別に俺が欲しがった訳じゃないんだから、文句は今聞いた通り陛下に言って欲しい、これだから王侯貴族って奴は──等々、僅かに顔を上げて周りの貴族達の様子を見て、密かに心の中で悪態をつく俺。
一方我が愚妹は誰憚る事無く、極上の笑みを浮かべて両拳を握り締めたりしている。ヴィルジール伯爵としてそれは良いのか、少し心配ではあるが。
結局ざわめきはしたが、誰も陛下に諌言する事は無く、そのまま陞爵式へと移って行くのであった。
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「ウィルフレド・ハーヴィー伯爵、前へ」
エリンクス陛下の傍に控えるマウリシオ宰相の声が響き、俺は立ち上がると陛下の立っている壇の手前まで進み出ると、そこで再び傅く。この辺は以前伯爵位を叙爵した時とは少し違い、陞爵に関しては陛下自らの手で任命状の皮紙を相手に手渡すのだそうだ。
「──エリンクス・フォン・ローゼンフェルトの名に於いて、ここにウィルフレド・ハーヴィー卿を辺境伯に陞叙するもの成り。また今後は雅名を名乗る事を許すものとするなり」
文官から渡された皮紙を読み上げると、皮紙を丸め此方に向けて差し出す陛下。
「謹んで拝命致します」
その皮紙を恭しく頭を下げたまま受け取る俺。実はこの辺のやり取りに関してはオルガから色々と聞かされていたりする。彼女だって伊達に長年侯爵の地位に居た訳では無いのだ。宮中行事に疎い俺には間違いなく最良の教師である。
任命状を受け取って元の位置に俺が下がると、陛下は満足気に頷いてから
「今後のウィルフレド・フォン・ハーヴィー辺境伯の活躍に期待する」
そう一言言ってから玉座へと戻った──但し誰にもわからない様に、俺に片目を瞑って目配せしながらであるが。
陛下、お茶目過ぎである。
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「──尚、ハーヴィー辺境伯の領地は本拠であるラーナルー市以北のリータグ市、以南のエーフネ市、以西のシグヌム市迄の物とする」
エリンクス陛下が玉座に戻られると再び文官が壇上に立ち、俺が下賜される領地について声高らかに宣言する。ラーナルー市から北のリータグ市と南のエーフネ市はそれぞれ馬車で1週間程の距離にある街で、それ等の街から西にある国境の街シグヌム市までが俺の領地と言う事になる。因みにラーナルー市からシグヌム市まで馬車で約20日掛かる距離である。
そう思うと改めて結構広大な領地になるんだな、と思う。この後直ぐにギルマスやネヴァヤ女史は勿論の事、リータグやエーフネの領主にも王城から通達が行くとは思うが、ラーナルーに戻ったら一度ちゃんと顔を出して挨拶に行かないとな。
そしてこの後、玉座に座する陛下の口から、俺が侯爵であるオルガや魚人族の女王であるマディと婚約した旨が伝えられると、集まった貴族達がまたもやざわめき立つ。
そんな中でもアドルフィーネに至っては先程までの極上の笑みを浮かべた顔から一転、魂が抜けたみたいに呆然として今にも塵になって崩れそうである。アイツは本当に大丈夫なのか?
そう言えば陛下やマティルデ王妃、ジュリアスやステラシェリー王女には、前回の懇談の終わりに当たって、ルストラ師匠の事をきちんと紹介したのは言うまでもない。
陛下と王妃様は師匠の名を聞いて何やら悟ったみたいな、そして少しバツの悪そうな顔をし、ジュリアスは半ば伝説と伝えられている師匠に会えた事に、ステラシェリー王女はただ純粋に出会えた事に喜びを表していたのが印象的であった。
まあ陛下も王妃様も、師匠が昔取り潰しの憂き目にあったモーゼンハイム辺境伯家と縁がある人物と知ってバツの悪い顔をしたのだろうが、師匠本人にはそれに思う所も無さそうだし、あまり気にする必要も無いとは思うんだが。
何にせよ、こうして陞爵式も恙無く終えて、俺は晴れて辺境伯になったのであった。
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「全く……ヴィルジール卿。卿のあの百面相には笑いを堪えるのに一苦労したぞ」
陞爵式を終えてから俺達は、また大応接間に呼ばれていた。エリンクス陛下からまだ陞爵に関して何かしらの話があるとの事だったのだが、陛下が開口一番にアドルフィーネのあの醜態振りを口にしたので、師匠とコーゼストを除く全員で応接卓に絶賛突っ伏している所である。
「申し訳も御座いませんですわ……陛下」
そんな中、俺の隣の席でただ1人項垂れるのは、話題の中心人物であるアドルフィーネ──アドル本人。と言うかアドルよ、何でお前はしれっと俺の隣に座っているんだ?!
「これで晴れて兄様と結婚出来ると思ったのですが……まさか私を差し置いてセルギウス閣下とだなんて……しかもメロウ族の女王陛下とまでだなんて……悪夢ですわ」
しかも心の声が駄々漏れである。「差し置いて」と言われたオルガはアドルの隣で苦笑いしている。
「はァ……だから、何をどうすればお前と俺が結婚する事になるんだよッ?!」
「無論! それが天命だからですわッ!」
大きな溜め息と共に素でツッコミを入れる俺に、堂々と言い切る愚妹アドル。ここまで来ると、いっそ清々しいが俺にとっては迷惑千万極まりない!
憤る俺と妄想を全開で垂れ流して絶好調のアドルとの対比を見て、エリンクス陛下やマティルデ王妃様だけでは無くジュリアスやマウリシオ宰相までもが呆れ果てている──呆れ果てていると言うより、むしろドン引きと言っても過言では無い。
「うむむむ、以前ウィルからヴィルジール卿との事は聞かされていたが、これ程までとはな……」
ドン引きしている者代表でそう口を開く陛下。王妃様やジュリアスらも一様に頷いている。
「すみません陛下、王妃様、ジュリアス。これがアドル本来の素なんだ……嫌でも馴れてくれ」
俺がそう言うと引き攣った笑みを浮かべる陛下達。俺の後半の台詞が友達口調なのは勘弁して欲しい。
アドル、仕事は出来るが私生活が残念な子扱いである。まあ自業自得であるが!
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そんな微妙な空気の大応接間の扉がノックされる。
「陛下、ステラシェリー王女様とマーユ姫殿下が見えられました」
ドアの向こうにいる侍従官がそう告げるとドアが開けられ、ステラシェリー王女とマーユが2人仲良く室内に入って来た。
「お父様方、遅くなりました」
「皆さん、失礼します」
部屋に入るなりドレスの裾を摘んで、綺麗なお辞儀を執るステラシェリー王女とマーユ。王女は兎も角としてマーユのカーテシーもなかなか様になっているな…… 。等とつらつらと考えていると
「ウィルお父さぁーーんッ!」
いつの間にか小走りで近付いて来たマーユが俺の名を呼びながら抱き着いて来た。その辺はやはり年相応の子供である。
「──ッ?! お、お、お父……さん、ですって?」
マーユの呼ぶ声に反応したのは隣の席に座るアドル。そういやアドルにはマディに子供が居る事言って無かったなぁ──等々と俺が思っていると、首をグリンっ! と音がするかと思うほど振り切って、俺に抱き着いているマーユに顔を向けるアドル。その表情は鬼族が戦意喪失して逃げ出すほどである──そして一言。
「兄様ッ! 私と言う者が有りながら、言うに事欠いて隠し子ですのッ?!」
その場に居た全員がリビングテーブルに綺麗に突っ伏した。
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「皆様、本当に申し訳も御座いませんですわ……」
大応接間のリビングテーブルの下座から俺達に向かい、深々と頭を下げて謝罪をするアドル。
そらまあ彼女の一言で俺やアン達以外に、陛下やジュリアス、果ては王妃様やステラシェリー王女までもがリビングテーブルに突っ伏したのだ。幾ら内輪の話とは言え、これは流石に不敬に当たる。これは幾ら仕事が出来るアドルと言えど流石に不味いだろう。
「陛下さん達にお父さん達、アドルお姉ちゃんを怒らないであげて? ねっ?」
だがそんな不穏な空気を破るかの様に声を上げたのはマーユ。実はついさっきアドルの誤解を解きつつ、マーユとアドルそれぞれに双方を紹介したのだ。すると
「アドルお姉ちゃん、よろしくお願いしますッ!」
満面の笑みでアドルに可愛く挨拶をするマーユを見て
「ッッ!?! か、可愛いですわぁ〜♡」
マーユの愛らしさにアドル呆気なく陥落。それでもって今の台詞に繋がる。
「い、いやいや大丈夫だよ、マーユ姫。我々は何も怒っている訳では無いのだからね? なぁ、マティルデよ?」
「え、ええ、そうよマーユちゃん。少し驚いただけなの。だから心配しないで良いのよ」
マーユの無垢なる訴えに逆にしどろもどろになって答えている陛下と王妃様。完全に骨抜きである。
まあそれもわからなくもないが。
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「そうなんだ? 良かったぁーっ!」
陛下と王妃様の台詞を聞いて不安な表情から一転、花が綻ぶ様な笑みを浮かべて喜ぶマーユ。
『『『『『『『『可愛いィーーッ』』』』』』』』
その様子にアン以下のメンバー達に師匠やオルガ、果ては王妃様や王女の声が見事に重奏を奏でる。君達、本当に仲が良いな?!
そんな女性陣の反応の中、リビングテーブルの下座に居るアドルの所まで行くと
「大丈夫だよアドルお姉ちゃん! 皆んな怒っていないって!」
これまた花が咲く様な笑顔を見せてアドルに抱き着くマーユ。
「ッ!? 何て良い子ッ!!」
自分に笑顔を見せるマーユを、そう言いながら抱き締めるアドル。本日2度目の陥落である。
この日、マーユの底抜けの愛らしさは重度の兄恋慕にすら打ち克つのを、俺達はこの目でしっかり目撃したのだった──じゃなくて!
何でそもそもこんな話になったんだよッ?! 俺の陞爵に関係する話は何処に行ったんだ?!
俺は割と本気で叫びたくなった──ちくしょうめ!
遂に辺境伯に陞爵したウィル! 辺境伯ウィルフレド・フォン・ハーヴィーのこれからの活躍(笑)に期待して下さい!
そして相変わらず妄想を垂れ流す愚妹アドルフィーネですが、マーユの愛らしさに呆気なく陥落していました! これでブラコンが少しは緩和されると良いんですけどね! まあ多分無理だとは思いますが!(笑)
☆manakayuinoさんに描いていただいたメロウ族のマーユちゃんのイラストを第137部百二十九話に掲載しました! manakayuinoさん、素敵なイラストをありがとうございました!
いつもお読みいただきありがとうございます。




