久々の謁見と驚愕の展開と ~その爵位、空白につき〜
本日は第183話を投稿します!
マディ達をオールディス王国の王都ノルベールに呼び寄せたウィル! いよいよマディ達とエリンクス国王陛下との謁見が始まります!
-183-
「初めましてオールディス国王陛下、私が魚人族の女王を務めているマデレイネ・ジョゼ・ファンティーヌで御座います。お目にかかれて嬉しく思います」
「初めまして、国王陛下さん! 私は娘のマーユ・ジョゼ・ファンティーヌです! よろしくお願いしますっ!」
「は、初めましてオールディス国王陛下様! あた、わ、私はジータ・ルモワールと申しますですッ」
エリンクス国王陛下の前で綺麗なお辞儀を執るマデレイネ──マディとマーユの親子、そして緊張のあまり語尾がおかしくなりつつ頭を下げるジータ。
この3人が国王陛下に自らを紹介している。ジータは挨拶を噛まなかっただけでも大したものである。
因みに俺とオルガ、アン、エリナ、ルピィ、レオナ、ルアンジェ、スサナ、コーゼスト、そしてルストラ師匠の計10人もこの場に同席しているのは言うまでもない。
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ここは俺の住むオールディス王国の王都ノルベール、その中央に建つ王城ブリシト城の謁見の間である。上手奥の一段高い壇に置かれている玉座、そこには国王エリンクス・フォン・ローゼンフェルト陛下が腰掛けていた。
「これは丁寧な口上痛み入る。私がオールディス王国国王のエリンクス・フォン・ローゼンフェルトだ。そしてここに居るは私の妻のマティルダ王妃、そして此方が息子のジュリアスだ」
そう言いながら先ず自分の左側の玉座に座るマティルダ王妃に手を向け、続けて右側の豪奢な椅子に座るジュリアスに手を向けるエリンクス国王陛下。
「私は陛下の妻でマティルダ・フォン・ローゼンフェルトですわ。マデレイネ女王陛下、マーユ姫、ジータさん、良しなに」
「私は王太子を務めるジュリアス・フォン・ローゼンフェルトです。マデレイネ女王陛下、マーユ殿下、ジータ殿、どうか宜しく」
手を向けられたマティルダ王妃とジュリアスは壇の上から頭を軽く下げて挨拶をする。そしてエリンクス陛下の手はジュリアスの隣の椅子に座る女性へと向けられる。
「ハーヴィー卿らは初めてだったな。この子が私の娘のステラシェリー王女だ。以後宜しく頼むぞ」
手を向けられたアザレアの花の様な薄桃色のドレスに身を包んだ、何処かあどけなさが残る可憐な少女が、椅子から立ち上がるとドレスの端を摘んで軽くカーテシーを執る。
「皆様お初にお目に掛かりますっ! 私はステラシェリー・フォン・ローゼンフェルトと申します! ハーヴィー卿、お噂はいつもお父様やお兄様からお聞きしておりますわッ!」
そう言うと元気一杯に挨拶をして来るステラシェリー王女。エリンクス陛下やマティルダ王妃、そしてジュリアスと同じ見事な金髪の長い2つ括りに謁見の間の大燭台の灯りが煌びやかに反射していた。因みに只今14歳だそうな。
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とりあえずはお互いの対面もひと通り終えて、歓談する為に場所を大応接間に移すエリンクス陛下一家とマディ達と俺達。皆んなそれぞれに席に着くと話を再開する。先ずはエリンクス陛下から話が始まる。
「うむぅ……しかしウィルよ。私がライナ……セルギウス卿から話を聞かされた時は正直に言って驚いたぞ……」
そう顎髭を撫でながら呆れた様な物言いのエリンクス陛下。どうでも良いが陛下、今オルガの事を旧名で呼ぶ所だったな? だが更に続く陛下の言葉と言うかお小言。
「しかもセルギウス卿を娶るだけでは無く、メロウ族の女王陛下までも娶るとは……」
そこで大きく溜め息をつくと
「しかもだ! 元とは言え、海賊の頭領までも娶るとか……普通は有り得んだろうッ?!」
いきなりクワッと目を見開いて声を荒らげるエリンクス陛下。
「……何か色々と済みませんでした、陛下」
少し怒気をはらんだ声に素直に頭を下げる俺。ここはただ只管謝るしかない。
同じ当事者であるオルガとマディ、ジータも同様に頭を深く下げているし、陛下の剣幕にアン達も恐縮しているのは当然だが、師匠もコーゼストも何故か口を挟まないでいるのが不思議である。
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「ア・ナ・タ? 今ここには小さな女の子も居るのですから、その様に声を荒らげてはいけませんわ。ハーヴィー卿は飽くまでも純粋な好意から御三方を娶るのですからね? その純粋な好意を貴方はお認めにならないつもりなのですか?」
その時、満面の冷たい笑みを浮かべたマティルダ王妃から思わぬ援護が入り、思わず「ム、ムムムッ……」と声を詰まらせるエリンクス陛下。その様子に苦笑いを浮かべているジュリアス。
そんな中ステラシェリー王女は、マーユを応接卓の隅に連れて行き色々と話し込んでいる。どうやらマティルダ王妃がエリンクス陛下の話が始まると同時にステラシェリー王女に相手を頼んだみたいである。そらまあ、まだ6歳のマーユにはあまり聞かせたくない話だしな。
マティルダ王妃様、中々に良い仕事をする。恐らくは国王陛下一家の家庭内序列はマティルダ王妃が上らしい。思わず同情しそうになる。
『その辺はマスターウィルとエリンクス陛下は全く同じかと』
不意に頭の中にそんなコーゼストの声が響く。いつもの念話である。
『ほっとけッ!』
同じく念話でツッコミを入れる俺。今まで黙っていたのが話したかと思うとそんな話かい?!
コーゼストに抗議しながら、ふとマーユと楽しげに歓談するステラシェリー王女の髪型を良く見ると、髪の全てを纏めず、両側の少しの髪の量だけを耳の上部で纏め、残りの後ろ髪は全て垂らす髪型である。あとからアンに聞いたらこの髪型は兎結びと言うそうな。確かに兎の耳に見えなくも無いが。
まあこの際、そう言う事はどうでも宜しいな、うん!
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「まあまあ父上も母上も。父上もウィルの結婚には反対している訳では無いのでしょうし、その辺にして差し上げて下さい。父上も宜しいですね?」
そんなエリンクス陛下とマティルダ王妃のやり取りに割って入ったジュリアスは2人を執り成す。陛下と王妃はそれぞれに「そうだな(そうですわね)」と譲歩を見せたのを見て、俺はピンと来た。つまりこれはエリンクス国王陛下一家の中では日常茶飯事なのだと。つまりは安定のやり取りなのである。
「んんっ! と、兎に角だ! 私は卿の結婚には反対しては居ないので、その辺は誤解無きように! な!」
そう言ってズズイッ! と顔を近付けて同意を求めてくる陛下。割と必死な顔を見るに付けて、相当苦労しているんだろうなぁと思ったりする。完全に自分の事は棚に上げていたりするが。
「それでは皆さん、そろそろ話を進めて頂けませんか?」
そんな時にそんな事を平然と宣うのは、ご存知空気を読まないコーゼスト先生。だが言っている事は至極真っ当な意見である。
「うぉっほん。うむ、確かにコーゼスト卿の言う通りだな。では改めて……」
軽く咳払いをすると、改めて話の続きを話すエリンクス陛下。それによると── 。
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先ず俺がジータと結婚するだけなら特に問題無いのだが、これが侯爵であるオルガやメロウ族の女王であるマディと結婚するとなると、話が違って来るのだそうだ。主に対外的に。
オルガやマディと言うやんごとなき身分の女性を、伯爵位である俺が『娶る』となると上位貴族からの当たりが強くなる……らしい。全く、これだから貴族と言うのは面倒なんだ。
「それでな」
おっと、陛下の話はまだ終わっていなかった。改めて襟を正す俺。
「なんでしょうか、陛下?」
「うむ、この際なので卿の爵位を上げようかと思ってな。此度の東方大陸の遺跡『黄昏の城』での功績を加味すると、卿の活躍は陞爵しても余りあるものがあるからな、貴族らも文句は言えまい」
そう言ってまたもや顎髭を撫でる陛下。実際の話、謁見前に『黄昏の城』で回収した自動人形や魔法生命体の密閉容器2基とゴーレム2体を初めとする魔道具233品を、さっさとコーゼストの無限収納から王城の宝物庫に納めていたりする。エリンクス陛下は勿論の事、宝物庫担当の大臣と部下の貴族らが目をひん剥いていたのが印象的だったが。
でもまあ、実際そうなるかなぁ、と言う予感はあったにはあった。自分で言うのも何だが、ここまでの事をやらかしているんだからな。それ相応の何かはあるかなぁ、と。
俺は軽く息を吐くと覚悟を決めて陛下に尋ねた。
「それで……その、陞爵するとなるとどの様な爵位に?」
するとエリンクス陛下は、我が意を得たりとばかりに膝を打つと答えを提示する。
「うむッ! ウィルには辺境伯の爵位を与えようと思っているのだ!」
一瞬、俺は目の前が真っ暗になった気がした。
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オールディス王国では爵位は昇順に騎士爵・男爵・子爵・伯爵・侯爵・公爵となっている。それは他の国でも共通らしい。
今回エリンクス陛下が言う「辺境伯」とは伯爵と侯爵の間に位置する爵位だが、実質侯爵以上の強力な権限を有する地位になのだ。なんと陛下はその爵位を俺に与える気なのである。
「それってかなり異例……ですよね?」
「うむ、異例だな。過去に於いて辺境伯となると、私の即位以前にとある有力貴族が嘗て辺境伯の爵号を与えられていたが、約40年程前に爵位剥奪の上に取り潰されているな。以来40余年に渡り辺境伯の爵号は空白なのだ」
恐る恐る尋ねる俺に色々とぶちあける陛下。まあ秘密でも何でもない事なのだそうだが、以前オルガにルストラ師匠の雅名に付いている件に対して「今から約40年程前に取り潰された辺境伯の関係者じゃないか」との指摘を受けていた事が思い出される。今の陛下の話の内容とも一致するし、間違いなくそれってモーゼンハイム辺境伯の事だよな…… 。
そう思い、師匠に目を向けると、明らかに苦笑を顔に浮かべている師匠と目が合った。俺の視線に気付くと軽く頷く師匠。やはり師匠はモーゼンハイム辺境伯家と縁がある人らしい。これはこの後師匠を陛下や王妃らに紹介すると一悶着有りそうな気がしなくもないが、何方にしても避けて通る事は出来ないだろうし、なる様にしかならないだろう。
『遂に思考放棄しましたね、マスター? まあ戦略的な観点から見るとその判断は妥当かと』
その時コーゼスト先生が毎度の念話で話し掛けて来る。
『何をまた小難しい事を言ってやがる?! もう少しわかり易く言えってんだッ!』
コーゼスト先生の物言いがやたらと人を小馬鹿にした感じだったので断然抗議する俺。勿論念話で。するとコーゼストは少し考えると
『ふむ……ざっくり言うと「成り行き任せ」と言う事ですね』
非常にわかり易い物言いに変えて言い直して来た──って、おいおいッ?!
『いやっ?! ざっくりし過ぎだろ?!?』
物事には言い方ってのがあるんだよ、こんにゃろめ!
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「それでウィルよ、この話受けてはくれまいか?」
そう言って軽く頭を下げるエリンクス陛下。そこは陛下から下知されれば此方は嫌とは言えないのだが、わざわざこうして事前に話して確認してくるのは、陛下が人格者である事に他ならない。これを無下にするのは仁義に悖る事になる。
「……わかりました。慎んで拝命させて頂きます」
俺は座っていた椅子を立つと右膝を床に着き、右手を左の胸に当て、臣下の礼を執り了承の言葉を口にする。陛下と王妃とジュリアスはそんな俺の返事を聞いて、何度も頷いて大変満足気である。
再び席に座りながら皆んなの方に目をやると、オルガ、アン、エリナ、レオナ、マディ、ジータ、ルアンジェ、スサナは一様に嬉しそうな顔をしていて、師匠は師匠で陛下達と同様に満足気に頷いていた。どうやらここに居る皆んなも反対は無いようだ。
「お父様、お母様、お兄様、ハーヴィー卿とのお話は終わりましたの?」
「お父さん、お母さん達、お話は終わったの?」
ひと通り話が済むと、それ迄テーブルの隅で話していたステラシェリー王女とマーユが皆んなが居る方に戻って来た。
「おおステラか、うむ、粗方はな」
ステラシェリー王女の言葉に目尻を下げてそう答えるエリンクス陛下。相当な親馬鹿と見た。
「ステラシェリー王女様、マーユの事、有難うございました」
俺も椅子から立つとステラシェリー王女に頭を下げる。すると
「いいえ、とんでもございません。マーユちゃんがとっても可愛くて、私こそお話していて楽しかったですわ。まるで妹が出来たみたいですわ」
そう言って目を細めるステラシェリー王女。
うん、マーユの愛らしさに付いては流石に定評があるな!
ここに来て遂にウィルが辺境伯への陞爵となりました! そらまあメロウ族の女王陛下や侯爵閣下を娶るんですから、それに相応しい地位でないと! 婚約者達からもルストラ師匠からも反対の声もありませんし、これはコレで良いのかも知れません! そして次回は陞爵式とマディ・オルガさんとの婚約発表と相成りますのでお楽しみに!!
*ステラシェリー・フォン・ローゼンフェルト…………エリンクス国王陛下、マティルダ王妃2人の愛娘であり、ジュリアスの妹であるオールディス王国のお姫様。見事な金髪を兎結び(ツーサイドアップ)にしている。年齢14歳。身長156セルト。バストは82のB。
☆manakayuinoさんに描いていただいたメロウ族のマーユちゃんのイラストを第137部百二十九話に掲載しました! manakayuinoさん、素敵なイラストをありがとうございました!
いつもお読みいただきありがとうございます。




