閑話 ーギルマスの独白ー
本日は閑話を投稿させていただきます。
基本、ギルマスのディオへネス・ヒギンズの視点での話です。
閑話〈1〉
俺はディオへネス・ヒギンズ。ラーナルー市冒険者ギルド統括──ギルドマスターを務めている。皆はギルマスと呼んでくれるが………正直冒険者をしていた時の方が遥かに楽だった気がする。
元々俺は王都ギルド所属のSクラス冒険者として日々冒険に明け暮れていた。だが6年前に冒険者としては致命的な病気に罹り全盛期で引退に追い込まれた……… 。
最高峰のクラスであるSクラス冒険者になったと同時に見初めていた大店の商会の次女と結婚し、子供も生まれて人並みの幸せを噛みしめていたのに一気に深い谷底に落とされた気持ちであったが──王都ギルド統括部から「ラーナルー市の冒険者ギルドでSクラスとしての経験を生かしてみないか?」と声が掛かり、一も二もなく承諾書にサインをしたのを今でも鮮明に思い出す。
ちょうど前任者が不祥事を起こしてゴタゴタしていたのだが、真逆その後始末までさせられるとは思ってもみなかったのが偽らざる気持ちだったが、それでも家族の為を想い歯を食いしばって頑張った。
前任者の奴が黒い噂が絶えない商会から多額の賄賂を受け取り私腹を肥やしていて、ギルド運営を疎かにしていたツケを俺が払わされる事になろうとは…………結局今まで居た職員達全員の関与を監察部を使って調べ上げ、関係した者は尽くクビにした。賠償金を請求しなかっただけでも有難く思って欲しい。
結果、八割方の職員を新しく入れ替えてから教育し、残った者にも再教育を施し立て直す迄2年を費やした………その間当然ギルドでの収益は落ち込み苦労はしたが3年目に初めて前年の収益を上回った時は全員で悦びに打ち震えたものだ。
そんな苦労を分かち合ったからこそ、このギルドに愛着が生まれ皆が努力したからこそ、去年は過去を顧みても最大の収益を弾き出した事に皆で喜びを感じていたのだが──── 。
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「ヒギンズさ……ギルマス、冒険者のウィルさんが面会を求めていますけど……宜しいでしょうか?」
ギルド職員のルピタ・リットンが執務室の扉を開けて伝えて来た。このルピタ・リットン──ルピィはまだ若いが既に勤務3年目の中堅職員だ。たまに変わった趣好が見え隠れするが、俺の秘書係をやらせている。
「……またウィルフレドか…………」
目下、俺は頭を抱えてしまう問題に直面していた。事の起こりは4ヶ月前に遡る──王都ギルドからこのラーナルー市のダンジョン「魔王の庭」にやって来たBクラス冒険者のウィルフレド・ハーヴィーが不慮の事故で知性ある魔道具をその身に宿してしまったのだ。何でも偶然見つけた隠し部屋で見つけたのだがいきなり取り憑いたと言うのだ!
そんな伝説みたいな出来事に間抜けに巻き込まれやがって…… 。まぁこればかりはあまりヒトの事は言えないんだがな………… 。
その腕輪の姿をした魔道具は自らをコーゼストと名乗り色々な話を語ってくれた。何とコーゼストは400年程前に古代魔族の手で創り出されたと言うのだ! 400年前と言えば勇者に魔王が倒される直前ぐらいなのか? ウィルは直ぐにでも外したがっていたのだが、急遽駆け付けた魔法士ギルドの魔法士による分析では解除も分離も今の所不可能と出た。
とりあえずギルド統括として魔法士ギルドの協力も仰いでコーゼスト殿の件は何とかしようとはしていたのだが……こいつ等が何かとトラブルを持ち込むのだ! 一番最初のは仕方ないかも知れんが、次に俺の所に来た時にはよりにもよって迷宮第三階層の守護者を使役したと連れて来やがった!!
子犬の姿のヘルハウンドを見た時の俺の心境がわかるか?! 全く……お陰様で最近胃薬を飲む回数が増えて来た。その内、掛かった薬代を請求してやるか!?
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………話が逸れてしまったが、俺とウィル、そしてコーゼスト殿で話し合った結果──今後使役する魔物は間違い無く増えるので新しく増えた魔物に応じてウィルが隠し部屋で見つけたギルドの役に成る魔道具を無償で提供する事をコーゼスト殿が約束してきた──この後も魔物が増えるのか──胃痛だけじゃ無く血圧まで上がってきた…………… 。
正直飄々とした態度のウィルにはあまり良い感情を持てなかったのだが、次にトラブルを持ち込んだ時にこの男の本質が垣間見れた。トラブル元はウィルとは全く関係ない別のパーティーだったのだが、コーゼスト殿の忠告により犯罪行為が行われている事を知ったウィルは犯人のパーティーリーダーを捕縛、被害者のダークエルフを助けたのだ。
何だ、この男にも熱い血が滾っていたのか──── 。
この時のパーティー輝光は犯罪行為を阻止する事が出来なかった事により解散、リーダーであり犯人のセオドア・レイランドは王都ギルド本部に護送され王国奴隷法違反と脅迫罪で重犯罪奴隷に落ち、副リーダーのクライド・ファーカーは解散した輝光を再興すべく元のメンバーのアリエルとルシンダと共に、別の迷宮に潜り失った信頼と階位を取り戻すべく頑張っているらしい。
あと、助けられたダークエルフのアンヘリカ・アルヴォデュモンド──アンがウィルとパーティーを組みたいと言ってきた時には思わずほくそ笑んだものだった。冒険者ギルドではパーティーメンバー・ギルド職員問わず恋愛自由にしている。勿論ギルド職員の不正は見逃せないが男女の恋仲まで口を出す野暮な事はしたくないからな。
だがこれでずっと単独だったウィルにも縁が巡ってきたかも知れないと──尤もウィル当人はアンの想いに気付いている素振りすら無いが── 。
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それにしても、今後もウィルとコーゼスト殿は間違い無くトラブルを引き込む予感がしてならない。またいずれ使役する魔物も増えるだろうし、そうなればまた厄介事が増え、その分俺の胃薬の使用量が増え髪がまた薄くなり………これは悪循環なんじゃね?
まぁここでボヤいてみても如何ともし難いがな。ただ出来ればトラブルの数は少ない方が良いのに決まっているのだ──最近、妻と10歳になる娘から「お父さん、頭が薄くなって来たね」と言われショックを受けたのだ! 俺、まだ50歳なんだがこのまま禿げるのは勘弁して欲しい──!! 全く、何か頭髪に良い効果が有る魔法薬か魔道具が欲しい気分だ………… 。
そう言えばウィル達は未だ昇級試験を受けていなかったな……個人の能力としてもパーティーの能力としても既にAクラスには届いているみたいだし、ここら辺で受けさせるとするか。実際にメンバーとしてはダークエルフは居るし、ヘルハウンドを使役、戦力としては充分だろう。
もし、このまま冒険者を続けられれば何れ俺の様にSクラスに成りうるかも知れん──と最近思える様になってきた。そうなれば俺がこのラーナルー市のギルドに就任して初のSクラスであり喜ばしい事だろう。
あいつには更なる高みを目指して欲しいものだが──酒の呑み方には注意させねばなるまい! 俺の様な痛風に罹らない様に!!
ギルマスの独白と言う形での閑話でしたが、殆どギルマスの愚痴でしたね……(汗)
次回から本編に戻りますのでお楽しみに!
*ディオへネス・ヒギンズ……ラーナルー市冒険者ギルド統括。男性、身長190セルト、年齢50歳。
銅色の短髪にマッチョな肉体を誇る元Sクラス冒険者で既婚者。奥さんとは恋愛結婚し現在子供は10歳の娘が一人。妻にも娘にも頭が上がらない模様(笑)。最近の悩みは薄くなってきた髪と胃痛(笑)。引退理由は酒の飲み過ぎによる痛風である(爆笑)
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