デューク ~新しい仲間と供物~
本日第十八話投稿します!
暫くダンジョンには潜りません。基本ゆるゆると話が進んで行きます! 相変わらずのドタバタをお楽しみください(笑)
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「魔王の庭」第五階層の守護者である蒼玉ゴーレムとの激戦の後、第六階層まで一旦降りてから直ぐ転移陣で地上に帰って来た俺達は、常宿である『蒼眼の新月』のベッドに潜り込んだ。
思えば久々の柔らかい寝床である。そして翌朝を迎え─── 。
『──マスターの起床確認。待機モードから覚醒モードに移行──おはようございます、マスター』
「……ふあぁぁっ……おぅ、お前は何時も変わらないなぁ……」
目覚めてみると窓から入る日差しが割と高いのに気付く。コーゼストが気を使ってくれたみたいである。どうやらアンも未だ寝てるみたい──
『ウィル、起きてますか?』
……訂正、先に目覚めてたみたいである。ベッドから起きようとして膝の上に黒い塊が乗っているのに気付いた。ファウスト……今回はお前にもアンにも助けられたなぁ── 。
そんな事思いながら退かそうとして、もうひとつ塊が有るのに気付いた。日差しを受けてキラキラ輝くずんぐりした塊──何だコレ?
大体40セルトぐらいか? 良く見ると──まさか蒼玉なのか?! 更に観察しているとファウストが目覚めてじゃれて来た。そんなこんなしていると蒼玉の塊が、もそもそ動き出した──! 目を凝らすと丸っこい手と足が有る?!
「ッ?! な、なんじゃこりゃぁ?!?」
思わず叫んだ俺の声にそのサファイアの塊が丸っこい顔を上げた───── 。
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「……つまりアレか? これがあのサファイアゴーレムなんだな?」
俺の叫び声に驚き「大丈夫ですか?!」と扉の向こうで大騒ぎになる手前のアンを、急いで部屋に招き入れ再び扉を閉めた。
俺のベッドの上には子犬のファウストと体高50セルト程のサファイアゴーレムの小人(?)がちょこんと乗っかっている。俺はコーゼストに質問をぶつけていた。
『はい、最適化が完了しましたので顕現した次第です』
コーゼストは平然と答える。いや、お前が騒ぎの元凶だってわかっているのか?!
「そもそも何で俺が喚んでいないのに顕現させた?!?」
『そこは──マスターを驚かそうと』
腕輪に絶対顔が付いてれば、したり顔をコーゼストがしているのが目に浮かぶ様である。
「それにしても……これがあのゴーレムなんですよね? 随分可愛らしくなりましたねぇ~♡」
アンさん、そう言いながらチビゴーレムの手足を掴んでカクカク動かすのは止めていただけないでしょうか? それにチビゴーレム! 頭を傾げてないでお前も少しは抵抗しろよ?!
何か折角ぐっすり寝て、良く疲れを取った筈なのにどっと疲れた………最近コーゼストのやる事に諦めの境地に達する速度が加速しているみたいである。
「はァ……それでコイツの名前を付けろって言うんだろ?」
『察しが良くて助かります、マスター』
全く……コレが有るのをすっかり忘れていたぜ。すると俺とコーゼストの話を聞いていたアンが、瞳を爛々と輝かせながら食い付いて来た。
「!? 名前?! 付けてあげるんですか?!」
「いや……まぁ、そうだけど?──!?」
アンさん! 顔が近過ぎます! そんなに興奮しないでいただけますか? そんな俺の心の声が聞こえたみたいに視線が合った瞬間、急に顔を赤らめモジモジし始めるアン──キミより俺の方が気恥しいんだが?
「あの! もし良ければ、私に付けさせて貰えません……か?」
意を決して声を上げるアン。まるでペットに名前を付ける感覚であるが、まぁ気持ちはわからなくは無い………… 。
『別段問題ありません。私の記憶領域には至上の主人がマスター・ウィルであり、アンは次席主人であると登録していますので』
「………だそうだ。それじゃゴーレムにはアンが名前を付けてくれ」
正直すっかり忘れていたので俺としては都合が良いのは秘密である。
「ッ! あ、ありがとうございます!! それではですねぇ……んんと……」
唇に指を当てて考え込むアン──美人のそうした仕草は見ているとドキッとするな、本当に!
「ん、それなら『デューク』はどうでしょうか?」
アンが思い付いたらしく1つの名前を口にする。
「デューク……それは何か意味とか有るのか?」
「はい、エルフの言葉で2を意味するんです。2体目の魔物なのでそれを記念してなんですが……駄目ですか?」
上目遣いでじっと見つめてくるアンに、何となくドキドキしながらも成る可く平静を保ちながら「いいんじゃないかな?」と答えるとアンは顔に喜色を溢れさせた。何で俺はこんなにアンにドキドキしているんだ?
『──ではこのサファイアゴーレムの個体名はデュークとして登録しておきますが宜しいですか?』
「あ、ああ。それでよろしく頼む」
『わかりました。共生化個体名 : デュークを登録します』
「──よし、それじゃあメシでも食べに行くとするかぁ?」
俺は何となく照れ臭いのを誤魔化す様にアン声を掛ける。
「はい! そうですね! そうしましょう♡」
「ワンワン!」
ファウストも腹が減ったみたいで尻尾を千切れんばかりに振って答える。新人のデュークはアンがしっかり胸に抱え込んだ。んじゃ、出掛けるとするか………… 。
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結局遅くまで寝させて貰っていたので、朝食と昼食を兼ねた食事になってしまったが行きつけの大衆食堂『黄金の夢』で全員満足するまで食べれたので良かった。
ここの店主は元Aクラス冒険者のイヴァンの親父さんがやっていて色々融通を効かせてくれるので重宝しているのである。
とりあえず食事も終わり、今後の事をアンと打ち合わせる。この所ずっと迷宮探索が続いていたので半月ほど休まないか、と。実際今までもひと月ダンジョンの探索をして10日程の休息を取っていたのだ。
この提案にはアンも賛成してくれた。それとコーゼストからデュークの件をギルマスに報告する様に進言された。本当は面倒なのだが後で揉める訳にもいかないので、このままギルドに向かって報告する事にした。またギルマスに文句言われそうだな………何かコーゼストには策があるらしいが、あまり当てには出来ないし…………はァ。
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ルピィを通してギルマスに面会を頼むと直ぐに通された。そして今ギルマスは案の定、頭を抱えて悶絶していた──何かすんません。
「〜ッ! 全くお前達は何でそんなに余計なトラブルの種を増やすんだ!?!」
「えーっと、すいません?」
「お前わ絶対反省してないだろが~!!!!」
「そんな事言われても……仲間にするかしないかはコーゼストの判断なんだが…………」
事実である。俺はファウストもデュークも仲間にしようとは一言も言ってない。全てコーゼストの独断である。
『でも、ギルマスさんの気持ちもわかります……』
アンさん、念話で同情しないでくださいね? そんな中、コーゼストが徐ろにギルマスに話し掛けた。
『ギルマス。以前約定を交わした件を今回履行したいと思うのですが宜しいでしょうか?』
「この前の?……あぁ、アレか。何を提供してくれるってんだ……?」
──あの時の話か? 新たに使役した魔物の数に応じて魔道具を提供するって話だったな────
『まずは──ウィル、お願いします』
俺はコーゼストに請われコーゼストの無限収納から魔道具を引っ張り出す。出て来たのは水晶で出来た横60セルト縦40セルトの卓だった。何だか水晶地図板の親玉みたいに見えるのは俺の気の所為か?
「コーゼスト殿、何だそれは?」
実物を見ても何だかさっぱりわからんギルマスが、真っ先にコーゼストに質問を投げ掛ける。勿論俺だってわからん。
『説明致します。これは水晶地図板追跡盤と呼称される魔道具です。これには個別の水晶地図板の位置が逐一表示される様になっております。これをギルドに設置すれば迷宮を探索する冒険者の位置を瞬時に特定出来て、いざと言う時の救援救助に貢献するかと』
コーゼストの説明を聞き終えたギルマスは、口をあんぐり開けたまま完全に固まった。顎外れてるんじゃね?
それにしてもまた偉く便利な魔道具だな! あの時入れられるだけ突っ込んだ魔道具にこんなのがあったんだなぁ……
「……た、確かにコレを使えば今まで困難だった救援救助が捗るな…………」
ギルマスは自分で何とか再起動して水晶地図板追跡盤に机から立ち上がり近付いて来た。そして恐る恐る触れながらコーゼストに尋ねる。
「本当にこれを提供してくれるのか? コーゼスト殿?!」
『私は役立つ魔道具を提供すると約束しました。その約定を違えるつもりは毛頭ございません』
ギルマスは興奮した面持ちが何度も頷く。正に最高の供物だな!! いずれにしても文句を言われずに済んだのには感謝しておくとしよう。
すると、徐ろにギルマスから言葉は発せられた。
「そうだ。お前達に話があったんだ」
その言葉には何か猛烈に厄介事の予感がするんだが─────?!
二匹目の魔物仲間・デュークの登場です。その秘められた能力はいずれ……(笑)
そして相変わらずコーゼストは人騒がせであります!
*水晶地図板追跡盤……水晶地図板の位置を示す魔道具。何故、古代魔族がこれを制作したのかは不明(笑)