結婚の受容と決意、そして従魔(☆イラスト有り)
本日は第163話を投稿します!
今回は前回からの続き、つまりウィルとオルガさんのキスシーンから始まります!
☆manakayuinoさんに描いていただいた成長したオルガさんのイラストを掲載しました! manakayuinoさん、素敵なイラストをありがとうございました!
-163-
アン達にオルガ女史と婚約すると明言したら、その当人から絶賛接吻と言う名の激しい攻撃を受けている俺──何なんだ、一体!?
「ん……ちゅう……はァ♡」
ヒトの唇を散々好きな様にしてから徐ろに顔を離すオルガ女史。どうでも良いがその艶っぽい声は何とかならないのか?
されるがまま状態でいた俺が心の中でそうツッコミを入れていたら、オルガ女史の足元に魔法陣が突如として現れ、輝きを放つ! するとその魔法陣の輝きに包まれたオルガ女史の姿が、徐々に大きくなって行く!
やがて輝きが収まるとひと回り成長した姿を見せるオルガ女史! 今まで14、5歳ぐらいだったのが20代前半ぐらいまで一気に成長したのだ──何だなんだ?!
「今のは──成長阻害の解呪の術式でした。もしかしてグラマス殿は呪術を掛けられていたのですか?」
横に立つコーゼストが真っ先に先程の魔法陣を解析して、その意味するモノに気付いた。何だ、呪いって?!
「うーん、呪いとはちょっと違うかな。僕の場合は冷凍睡眠に入る前にわざと身体的年齢を固定させる為に使ったんだ。何しろ初めての実験だし、冷凍睡眠中に身体だけが成長する可能性も否定出来ない。もしそんな事になったら被験者の精神年齢と肉体年齢にズレが起きて、それはそれでトラブルになってしまう可能性もある。だから当時としてはこれが最良の選択だったのさ」
コーゼストの指摘にわざと噛み砕いた言い方で答えるオルガ女史。しかも「解呪方法は異性との口付けにしてあったんだよ」と笑顔で言われてもこちらも反応に困る。
だがお陰で言いたい事はわかった。そら爆睡して次の朝目覚めたら何歳も歳をとっていたら誰でも混乱するからな。
「にしても……」
そう言いつつ改めてオルガ女史を見やる俺。身長は160セルトぐらいだったのが大体170セルトぐらいにまでなり、銀髪の髪も肩ぐらいだったのが一気に足首まで伸びた。体格も少し大きくなった気がするな。
そんな事を思いつつ下げていた視線をゆっくり上げて行くと──先ず目に飛び込んできたのはゆとりを無くしはちきれんばかりの下袴! 特にお尻の所が今にもはち切れそうになっている!
そのまま更に視線を上げて行くと、こちらも今にも釦が弾けそうになっている服の胸元が目に飛び込んで来る──うん! すっかり大人だな!
「何ですか、そのグラマス殿に対する良からぬ感想は?」
コーゼストが俺の思考を読んだらしくジト目を向けて来る。
仕方ないだろ、語彙力が足りないんだよ!
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俺の不躾な視線に気付いたオルガ女史が胸を押さえながら頬を赤らめ、俺はアンさん達女性陣から絶賛冷たい視線を向けられた。
言っておくが俺は断じて漁色家ではありません! 単に女王蛾亜人の匂いに当てられているだけです!
俺が心の中でそう言い訳しているうちに、アン達がコーゼストの無限収納からエリナの替えの服を出して、オルガ女史を着替えさせていた。勿論俺は部屋の角の隅を向かされていたりする。
「ウィル、こっちを向いても良いわよ」
アンの声に部屋の隅の観察を終えて振り返る俺。そこには──紛うことなき1人の女性が少し恥ずかしげに佇んでいた。
「えっと、へ、変じゃないかい、ウィル君?」
いつの間にか長い銀髪が綺麗に梳かれ、総髪に纏められているオルガ女史。そういやアンさん達女性陣は腰袋に髪梳や護謨や飾紐を入れているんだっけな。
「うん、中々に似合っているよ──えっと、グラマス?」
褒め言葉の後に何と呼べば良いのか躊躇する俺。仮にも(失礼)相手は侯爵様だしな。
「むう、僕の事は実名で呼んでくれないのかい?」
だが俺の物言いが気に入らないオルガ女史は不機嫌そうな声色でそう宣って来る。元々美男子っぽかったのが一気に成長してかなりの美女に仕上がっている分、頬を膨らませる仕草がなかなか絵になる──じゃなくて!
俺はひとつ咳払いをすると彼女が望む呼び方を口にする。
「あーっと、それじゃあ……オルガさん?」
「まだ固いけど、まあ良いかな? 本当は呼び捨てでも構わないんだけど……でもまあ、良いか! うん! 改めてよろしくね、ウィル君♡」
俺の言葉に笑みを浮かべるオルガ女史──オルガさん。と言うか呼び捨て出来る訳が無いが?!
オルガさんの台詞に思わず顔を引き攣らせ、ぎこち無く笑うしかない俺だった。
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「えへん、もうお話は済んだのかしら?」
わざとらしい咳払いをしつつ声を掛けてくるアンさん。先程は「私達は貴方がウィルを愛する同志となるのを歓迎します」と宣っていたが、やはり多少なりとも嫉妬はするみたいである。
「あ、ああ、済まなかったなアン」
ちょっと不機嫌気味なアンに答えてから、続けて
「それで……アン、エリナ、レオナ、そしてオルガさん。改めて4人に俺から話したい事があるんだが……」
俺はグラマスもといオルガさんとの婚約を考えた時に同時に考えていた事を口にする。俺の言葉に何かを感じたらしくアン達とオルガさんが居住まいを正す。俺はアン、エリナ、レオナ、オルガさんの目を見ながら
「えっとな、突然だが、この旅から帰ったら俺は……その、婚約した皆んなと結婚したいと思っているんだが。オルガさんとの婚約を決めた時に考えたんだ。決断するには良い機会かなと、な」
と何偽る事無く話す。ところが何故か4人からの反応が無い──俺、何か間違えたか?!
「ほ、本当に……?」
俺が不安に感じているとアンが目を瞬かせながら尋ねて来る。それに大きく頷く俺。残りの3人も俺の頷きを見て再起動し、口々に「本当に?」とアンと同じ事を何度も聞いて来る。
だが俺が返す答えは是と決まっている。まさかそんなに突っ込まれて聞かれるとは思いもしなかったので思わず苦笑する。
その時、不意にアンの翠玉の瞳からポロリと涙が零れ落ちた。
「お、おいアン?」
「本当なのねウィル! だから好きよッ!」
慌てて声を掛ける俺に喜びを爆発させて抱き着いて来るアン。俺の首に自分の両腕を回し「大好きッ」と何度も繰り返し呟きながら鼻をスンスン鳴らしている。
そしてアンの行動が切っ掛けになって、エリナ、レオナ、オルガさんが口々に「嬉しいっ!」と叫びながら一斉に抱き着いて来る。フェリピナやマルヴィナやスサナは完全に放置状態であるのだが。
「ん、おめでとう皆んな! だけど次は私が結婚する番よ!」
ルアンジェが何やら漲っているが、その気は無いぞ?
「あーっ、良いなぁ! 御主人様ッ、やっぱり私と番になってぇ〜♡」
そしてヤトさんも参戦して来る。いや、そもそもお前とは結婚せんぞ?!
4人に揉みくちゃにされながら思わず心でツッコミを入れる俺だった。
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「はァ……皆んな落ち着いたか?」
「「「「あっ、はいっ♡」」」」
抱き着いていたアンさん達4人が漸く離れてくれて、やっと真面に話せる様になった俺。と言うかこの台詞は何度目だ?!
因みにアン以下の婚約者達はやたら瞳がキラキラ輝いていて眩しいくらいである。
「皆さん、其方の話は終わりましたか?」
俺の横ではコーゼストがしれっとした顔で聞いてくるが──お前、さっきは随分楽しそうに眺めていたよな?! 俺が思わずジト目を向けるとニッコリ笑顔を返してくるコーゼスト。本当にコイツはずいぶん小聡明くなったな?!
「はァ……まあその何だ。その事はこの迷宮を出てからゆっくり話そうか? 今は仕事を済ませないと行けないしな。そうだろ、グラマス?」
俺は小さく溜め息を吐くとこの話を無理矢理切り上げる。そうでもしないとアン達やオルガさんがこのまま結婚話で盛り上がりそうだったからだ。俺の言葉に「そ、そうですね、早く終わらせないと」と皆んな納得してくれる。
正直、何で俺がここまで気を使わにゃならんのだ?!
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「ところでマスター、前回の戦闘で従魔にした女王蛾亜人の調整が漸く終了しました。何時でも顕現出来ますが──どうします?」
そしてこの時機でサラッと飛んでもない事を宣うコーゼストさん──本当にお前は空気を読まないな?! エリナとレオナ、オルガさんは何事かと興味津々だし、アンに至っては苦笑いを浮かべている。
「はァ……それで俺に名前を付けろ、って言うんだろ?」
「理解が早くて助かります」
思わず愚痴っぽく言ってみたがコーゼストは何処吹く風、全く動じていない。細やかな意趣返しに失敗した俺はひとつ大きく溜め息を吐くと、女王蛾亜人を目の前に顕現させる──つまり開き直ったとも言う。
目の前の床に光が生まれ、みるみるヒトの姿を形取る。そして──
「ふぁぁぁ……んーっ、良く寝たわぁ」
姿を現した女王蛾亜人が大きく伸びをする。そして俺と目が合うとパァッと嬉しそうな表情をし
「きゃあァ! 御主人様ッ! 会いたかったぁ〜ッ!」
そう叫びながら青白い翅を羽ばたかせ、文字通り一目散に飛んで来る女王蛾亜人! そしてそのまま、ふわふわの体毛に覆われた豊満な双丘に俺を掻き抱く!
ちょっと待て、何だそのダーリンってのは?!
「んーっ、ダーリンの感触、最高っ♡」
そのまま身体を左右に振り、俺の頬に双丘をぺちぺち当てて来る──ちょっ、おまっ?!
「「「「「「「「ああっ?!」」」」」」」」
その様子を見ていたアン達とオルガさん女性陣から、えも知れぬ悲鳴が上がる。だが全く意に介さぬ女王蛾亜人。その身体にヤトの蛇身が絡み付くと一気に女王蛾亜人を俺から引き剥がす!
「ちょっと新入り! ナニ御主人様を独占してるのよ! 御主人様は皆んなのモノなのよ?! 私にも抱き着かせなさいよ!? うらやましいわね!」
女王蛾亜人の身体を拘束したまま、凄まじい勢いで食ってかかるヤト。俺やアン達の代わりに文句を言ってくれるのは有難いが、最後の台詞で全て台無しである。
何なんだよ、うらやましいって?!
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「そんで──落ち着いたか、女王?」
「ええ、つい昂っちゃって、ごめんなさい」
ひと騒動終えて、俺の目の前に絶賛土下座中の女王蛾亜人。大きな翅も畳んで済まなそうに座っている──と言うか相手は魔物なんだが?! そのあまりにもヒトっぽい仕草につい忘れがちになる。それはアン達も同じらしく困惑気味である。
「あーっと、まあこれから気を付けてくれれば良いが──」
「うん、気を付けるわ──それでダーリン、頼みたい事があるんだけど……良いかしら?」
そう言いながら黒一色の眼を向けて小首を傾げる女王蛾亜人。仕草だけなら殆どヒトである。
「頼みってアレだろ? 名前を付けろって言う?」
俺が先に答えると嬉しそうに櫛歯の様な触角を震わせて
「ええ、そうなの! 是非素敵な名前を付けてくださいな」
ニッコリ笑顔を見せる女王蛾亜人。そんなに期待されても……なぁ。
俺は顎に手を当て黙考する────やはり一番最初の印象から付けるか? だとすると、やはり──『月』か──だが月だとルアンジェと被るからなぁ、うーん。
一生懸命に考えを巡らす俺。ふと目を開けると女王蛾亜人のみならずアンさん達やオルガさん、果てはヤトまで何やら期待に満ちた目で俺を見ていた。俺は態とらしい咳払いをすると、再び考えに没頭する。
ルアンジェの名前は森精霊の言葉で『月』の意味の言葉を使ったから──大陸語? いや、それじゃあ在り来りだしな…… 。
そういやヤトは東方大陸の蛇の神『ヤトガミ』から付けたんだっけな──すると月の神、女神か。ドゥンダウ大陸のは良く分からないから、西方大陸の伝説から── 。
「──うん」
「お決まりになりましか?」
考えが纏まり顔を上げる俺に尋ねて来るコーゼスト。俺はひとつ頷くと皆んなの方に顔を向けて話し出す。女王蛾亜人は期待に満ちた目で俺を見ている──瞳が無くてわからんが。
「あーっと、お前の名前なんだが──『セレネ』って言うのはどうだ? 俺達ヒト族の言い伝えにある月の女神の名前だ。お前を最初に見た時、その白い体毛と青白い翅が空に浮かぶ月の様に見えたんだ」
俺は思い付いた名を女王蛾亜人に告げるのだった。
オルガさんやアン達からの積極的なアプローチにウィルもタジタジ! この男、こうした色恋沙汰に今まで耐性が無かったはずなのですが、無事に恋愛経験もレベルアップを果たしたみたいです!(笑)
そして女王蛾亜人の名前も決まりましたね! その名はセレネ! そのうちイラストを描いてもらわないとですね!
それにしても益々女子の密度が増しました!
☆第13部本編十三話に掲載のアンのイラストがmanakayuinoさんのイラストに差し替えられました!そちらも是非!
いつもお読みいただきありがとうございます。




