オーリーフ到着、2人は王族?!
本日は第百三十六話を投稿します!
メロウ族の住むオーリーフ島に無事到着したウィル達に最大級のトラブル(?)が炸裂します。
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遂に『大海の剣』は魚人族が住まう島オーリーフに到着した。
船が速度を落とし、ゆっくりと島に近付いて行くと島側から2隻の大型船が──と言っても『大海の剣』よりは小さいが。兎に角その2隻の船は此方の進路を塞ぐ様に近付いて来る。どうやらメロウ族が使う戦闘船みたいであるがこちらに大砲を向けているのが見える──ちょっと不味くないか、これ?
すると『大海の剣』の船橋の窓に備え付けられている30セルト四方の箱の蓋が開き、メロウ族の船に向かって眩しい光が放たれた。それは特定の律動で放たれると、向こうの船のブリッジからも同じ様にチカチカと光が放たれて来るのが見えた──何だ?
「この光の信号は船の通信手段として使われているんだよ。明滅のパターンで短文ならやり取り出来るんだよ」
俺の疑問にそう教えてくれるグラマス殿。なるほど海の上での意思疎通にそうした方法が使われているのか。そうしている間にもメロウ族の船は左右それぞれに別れていき『大海の剣』の進路を開けてくれて、俺達は無事にオーリーフ島の港に入る事が出来たのである。
やれやれ、一時はどうなるかと思った…… 。
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オーリーフ島の港内は意外と広く、全長120メルトもある巨船も楽々とその身を入れる事が出来た。
埠頭が近付くと魔導推進機から側方推進機に切り替えゆっくりと接岸する『大海の剣』。
やがて岸壁に接岸すると同時にブリッジ内に小さな歓声が起こり、『大海の剣』は錨を下ろした。繋船柱にロープが架かると程なくして、接岸している左舷側が開き舷梯が降ろされる。
「さてと、皆んなご苦労! 20日ぶりの陸に上がろうじゃないか!」
『『『応!』』』
モデスト船長の台詞に今度は大きく歓声を上げる船員達。
「では僕達も上陸しようか。マデレイネさん、マーユちゃんと案内をお願いするよ」
「ええ、任せてください」
「うんっ!」
歓声に包まれるブリッジでマディ親子に案内を頼むグラマス。2人とも元気良く返事を返している。
「それじゃあ俺達も行こうか、アン、エリナ、レオナ、皆んな」
「はい、行きましょうか、ア・ナ・タ♡」
「ええ、行きましょうウィル♡」
「行こうか、ウィル♡」
「「「「はいっ!」」」」
俺もブリッジに集まったアン達に声を掛けるとそれぞれ思い思いの返事を返してくる──特にアン、何だ、そのアナタって?!
何となく変なテンションのアンに一抹の不安を覚えながら俺は皆んなを伴い、グラマスに続いてブリッジから出るのだった。因みにジータはヴィテックス号で待機して貰っている。
皆んなで談笑しながらタラップを降りると目の前に槍を携えたメロウ族の兵士がズラリと整列していた──何だなんだ?! その前に立つグラマスとマディ親子。グラマスの顔が引き攣っている。
すると列の奥から一際見栄えのする衣装を身に纏った初老の男性がマディ親子に駆け寄ると傅きながら
「お帰りなさいませ! マデレイネ陛下、マーユ殿下!」
と、この航海中最大級の衝撃発言をしたのだ!
「な、何だ、陛下って?!」
思わず声を上げる俺に傅いていた男性が
「如何にも、ここにおわすは我等メロウ族の頂点に立つマデレイネ・ジョゼ・ファンテーヌ陛下とその御息女マーユ殿下である!」
俺に向かい堂々たる物言いで宣う男性! 整列していた兵士達も一斉に傅く。
「出迎えご苦労様です、ヨエル」
「ただいまっ、ヨエル!」
一方のマディとマーユは近所から帰って来たみたいな気軽な物言いをしている。何なんだ、この温度差は? と言うかマディとマーユがまさか女王様とお姫様だとは夢にも思わなんだ。
「これは……何と言うか全くの予想外だね」
流石のグラマスも何時もの笑顔が強ばっている。アン達も同様だ。
かく言う俺も頭が真っ白になった。
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埠頭で話し込んでいるのもアレなので、そのまま俺達とグラマスとモデスト船長はマディ親子を迎えに来ていた輿車と言う、ひとことで言うと3人乗りの小型の馬車の客車を、馬の代わりに人が曳いて走る乗り物5台に分乗して宮殿へと連れて行かれた。
「はぁ……こう来たか」
オーリーフ島の中央に聳える山の麓にある荘厳な宮殿が俺達を出迎えた。その中庭を進んで行く輿車の列。やがて車列が宮殿の入口で停ると客車から降り、先に降りたマディ親子に宮殿の内部へと案内される俺達一行。
案内された先は高い天井と側壁の間に幾つもある明り採り窓から差し込む外光で明るく照らされた玉座の間だった。部屋の中央奥に置かれている豪奢な造りの玉座に歩み寄ると、然も当然の様に腰掛けるマディ。マーユはその玉座の横に置かれている小さくも豪奢な椅子にちょこんと座る。
「さて、改めてまして……私達メロウ族のオーリーフ島にようこそ。皆様を歓迎致します。そして私達親子を救っていただき感謝の言葉もございません。本当にありがとうございました」
「皆さん、ありがとうございましたっ!」
玉座に座るマディ──マデレイネ・ジョゼ・ファンテーヌ女王陛下とマーユ姫がきちんとした礼を執りながら頭を下げて来る。こうして見ると確かに女王と姫である。着ている服は俺が買ってあげた物だが。2人の傍らには先程のヨエルなる男性が控えている。
「先程は失礼した。摂政のヨエルと申します」
そう自身を紹介するヨエル摂政。だがまぁそうだよな、普通政のトップが女王もしくは女帝や幼かった場合、政務の補佐として摂政が付くのが普通だからな。
「ウィルフレド殿、そして御一行方、陛下と殿下を助けていただき感謝の念に耐えません。誠にありがとうございました」
俺がぼんやりとそんな事を考えていたら姿勢を正し深く腰を折るヨエル摂政──そんなに畏まらなくも良いから!
「いやいや、こんな事されなくても気持ちは有難く受け取るから!」
「しかし、陛下と殿下の恩人に対し例を失する訳にはいきません」
慌てて頭をあげてもらおうとする俺に対し、飽くまで己を貫こうとするヨエル摂政。
「ヨエル、そんなに畏まらなくも良いのですよ。ウィル殿にはもっと率直に接してあげないと。ほら、ウィル殿がお困りになられていますよ?」
「うんっ、ウィルお兄ちゃんを困らせたらダメよ!」
そこにマディとマーユの支援の手が差し伸べられる。するとヨエル摂政は
「うむむ、ウィルフレド殿がお困りなら改めてなくてはいけませんな。ウィルフレド殿、申し訳ございません」
そう言い直すが「ほら、まだダメ! まだヨエルかたいっ!」とマーユからまさかの駄目出しを食らっていた。どうやらこれが彼等の日常みたいである。
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「まさかマディとマーユが王族とはな……」
とりあえずの形式的な挨拶も終わり、俺は思わず思いを口にする。
「ごめんなさいウィル。島を出る時、自分達が王族である事は伏せて出てきたものだから……」
「お兄ちゃん、ごめんなさい……」
俺の台詞を聞いて再度頭を下げる下げるマディとマーユ。何でもメロウ族は代々女性が王位を引き継いできた女系王家なのだそうだ。その存在はメロウ族以外知る事は無く、また一般のメロウ族はマディとマーユの顔を良く知らないらしい。なので身分さえ偽れば今回みたいな遠出も簡単らしい。
「尤も今回の出来事は想定していませんでしたけどね」
そう沁沁言うマディ。聞けば俺達が居たレーヌには月に一度の定期便に乗り、何泊かするつもりで訪れたのだそうだ。
「しかし、何でまた女王陛下と姫様がそんな事をしたのですか?」
それに質問するのはグラマス。俺も当然にその疑問が頭に浮かんだ。だがそれに対するマディの答えは実に単純であった。
「それは──単なる息抜きです♡」
「えらく物騒な息抜きだな?!」
思わず突っ込んでしまった俺の気持ちを察して欲しい。下手すると国際問題になりかねんぞ?! マディの傍らではヨエル摂政が
「全く……玉座に『マーユとお出掛けしてきます』と書き置きを見つけた時には寿命が縮まりましたぞ」
深い溜め息と共にそう言葉を吐き出す。どうやら普段から苦労しているみたいである──主にマディ絡みで。
「そう言えば」
ここでアンが口を開く。と言うかテンションは下がったのか?
「マーユちゃ──姫が私達に初めて会う前に身分を明かさなかったのは何故かしら? やはり母上であるマデレイネ陛下に口止められていたから?」
成程、尤もらしい意見である。あの漁師の男に捕まった時に話していればあんな目にあわなかった筈だからな。
「そうだよアンお姉ちゃん! お母さんと約束したからだまっていたの!」
アンの質問にハキハキ答えるマーユ。そして改めて「ごめんなさい」と小さな頭をぺこりと下げる。
マーユの方がマディより大人に見えるのは何故か?!
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その後少し雑談をし、話は『大海の剣』への補給の話になった。それに関してはグラマスとヨエル摂政が打ち合わせ決める事になった──主に金銭面に関してである。
正式な補充としてちゃんと定められた料金を支払うと言うグラマスと、マディ親子を助けてくれた恩人に報いる為にも自分達が受け持つと言うヨエル摂政の間で活発な意見交換が成され、定額の7割をメロウ族側が持つ事で話が纏まった。
「本来ならば我々に全て任せて欲しいのですが」
とはヨエル摂政の弁である。何とも律儀な人物だ。またそれとは別に俺とアン達、グラマスとモデスト船長はこの宮殿の迎賓館に泊まる様にお願いされ、それに関しては特に反論する事も無かったので了承した。無論グラマスもである。それを聞いていたマーユがとても嬉しそうだったのが印象的である。
それともうひとつ──
「それとジータさん達に関してですが」
──マディが口を開きジータ達の処遇について話が持たれた。
「ウィルはジータを赦しましたが、それで彼女達の罪が消える事はありません。海賊は明らかな犯罪行為であり違法です」
先程までとは違う厳しい顔付きと文言で指摘するマディ。それはそうだ。彼等は自分達が犯した罪を償わくてはならないぐらいわかっている。だが俺が口を開こうとする前にマディが表情を緩め
「──だけどそれは飽くまで建前上であって私個人の思いはウィルと同じですよ? 罪は罪、だけど人は人です。今罪を認め無抵抗でいる者達を断罪する程、私は冷徹な暴君ではありません」
素の思いを口にするマディ。やはり短期間とは言えジータの為人を見てきたマディだからこそ言える言葉である。そんな風に感心していたらマディが俺の目をジッ……と見詰め
「でも私はウィルに是非これだけは聞きたい事があります」
あまりにも真剣な視線に俺も居住まいを正し、聞く姿勢を取る。
「何故貴方は彼女達を助けたのですか? ジータの話を聞いて同情したからですか?」
真剣な物言いで尋ねて来るマディ。アン達もグラマスも俺が何を言うのが黙って聞いている。俺は軽く咳払いをすると発言する。
「あーっとな、確かに同情もあるが勿論それが全てじゃない」
「それは一体?」
マディが先を促す。
「それは──助けられる命だっただからだ。敵対するなら俺も容赦する気は微塵も無いが、この手で助けられる命なら俺は救いたいんだ」
「随分と甘い考えだと思いませんか? 貴方は冒険者、戦って命を失うのは貴方自身なのかも知れないんですよ?」
俺の言葉に辛辣な意見を言い放つマディ。
「その時はその時さ。冒険者稼業が命のやり取りなのは俺も、そして──」
そこまで言うと後ろにいるアン達の顔を見て
「──ここに居るアン達も覚悟がある。だけどそれでも命を救いたい。人から見て例え無駄だとしても、この手で救えるのなら俺は躊躇無く救う。助けを求められたら手を差し伸べる。理屈とか聞かれてもわからないが──これが俺なんだ。だから変えようが無い」
俺はマディに、そして聞いている全ての人に自分の飾る事の無い思いを吐露するのだった。
真逆まさかのマディ親子=王族と言う展開に?! これには流石のウィルも開いた口が塞がりません!
それにしても随分フリーダムな女王陛下ですよね、マデレイネさんは!
*マデレイネ・ジョゼ・ファンテーヌ…………マデレイネの正体。海洋民族メロウ族の女王こそが本当の姿である。自由過ぎ。
*マーユ・ジョゼ・ファンテーヌ…………マーユの正体。メロウ族のお姫様。可愛い。
*ヨエル…………メロウ族王家に代々仕える摂政。50代後半のナイスミドルである。ただしかなりの苦労人。
いつもお読みいただきありがとうございます。




