戦乙女、そして女神を冠するモノ
本日は第百十一話を投稿します! クラン「神聖な黒騎士団」の本格的な活動はまだですが、ウィル達は「魔王の庭」に潜っています! そして見慣れない重騎士が…… ?
▽今日はもう一話、第百十二話も投稿しています△
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巨猪人の攻撃がベルタとユーニスに襲い掛かる! だが2人を狙った戦斧は、その間に割って入った長身の重甲冑の騎士の盾に止められた!
「!? スクルド、ありがとう!!」
目前の騎士にベルタはそう声を掛けると同時に灰金髪の髪が靡き、襲って来たオークの胴を横薙ぎに切り裂く! いつの間にかオークの懐に飛び込んだユーニスの攻撃である。
「ぐるぉぉぉぉ!?」
断末魔の咆哮を上げるオークに暗金髪の髪を揺らして止めを刺したのはベルタだった。首筋を切り裂かれ光の粒子となって消えていくオーク!
その前方では先程の重甲冑の騎士が3体ものオークを押し留め、その後方ではフェリピナが支援強化魔法を唱え終え直ぐに攻撃魔法を準備し、マルヴィナは槌矛を目の前に掲げ聖魔法『光の神壁』を唱え、ベルタとユーニスを護っていて絶妙なコンビネーションが垣間見えた。
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『なかなか連係が取れていますね』
ベルタ達の様子を見てコーゼストもそんな事を宣う。ここは「魔王の庭」第六階層、俺はアンとエリナとルアンジェ、そしてベルタ達元『白の一角獣』のメンバーを引き連れて潜っていた。
今回は彼女達の戦闘能力と新規メンバーとの連係具合の2つを確認するのが目的である。
「まぁそうでなくては困るんだけどな」
そう呟く俺の傍には、エリナがベルタ達の一挙手一投足に目を光らせている。反対側にはアンが魔導小火砲『リュシフェル』を構え、不測の事態に備えており、ルアンジェはアンの傍に待機している
因みに『リュシフェル』と言う名前はアンが俺との婚約記念に考え付いた名前で、古いエルフ語で『明けの明星』と言う意味らしい。アンに「これもまた記念です♡」と満面の笑みで言われ頷く事しか出来ずにいたのだが。どうかそんな小っ恥ずかしい事を言わないで欲しいものである。
「それにしても──「スクルド」は大したものね」
片やベルタ達の様子の見ていたエリナが頻りに感心している。
『それは当然、特製の魔核ですからね。しかも術式を組んだのは私ですし』
「それはわかっているから、そのドヤ顔はやめれ」
エリナの台詞に、俺の肩の上で特上のドヤ顔を決めるコーゼストに冷静に突っ込む俺。今ベルタ達と共に戦っている重甲冑の騎士は実はデュークに産み出してもらった配下ゴーレムの1体なのだ。
元々デュークが生み出す配下ゴーレムはデュークが操作しているので、その身体の中に魔核は存在していないのだが、以前「魔王の庭」の例の隠し部屋で見つけ、そのまま無限収納に仕舞いっ放しだった大振りの魔核を再利用してコーゼストが新しい魔核を作製し、それを配下ゴーレムの体内に取り付け、新たな従魔を作り上げたのである。
その身体はデュークが産み出せる最高位である蒼玉でベルタ達の「盾」としては申し分無い。ただ体つきはゴーレムと言うより人のソレに近く、パッと見大柄な女性に見えるのだが。それもこれもデュークが俺やベルタ達の要望を反映してくれたからである。
それにしても何故にそんな事をしているのかと言うと、今回拓いた氏族では行動するにしても人数が多いので、2つの分隊に分ける事にしたのだ。具体的には俺とアンとエリナと、ルアンジェと従魔達で1チーム、ベルタ達元『白の一角獣』のメンバーで1チームと言う具合である。
それでチーム分けするに当たって問題だったのは「盾役」が1人(1体)しか居ない事だった。そこで元々盾役で尚且つ、配下ゴーレムを召喚出来るデュークに盾役としてもう1体、盾役専任に配下ゴーレムを用意してもらったのだ。それで折角ならベルタ達専任にした方が良いと、うちのコーゼスト先生が宣った結果である。
まぁ飽くまでもベルタ達の専任ゴーレムであるが、至上の主人は俺なのである。どちらにしてもこれ以上人数が増えるのは確定なのだから、少しでも管理し易くしたかったのだ。
『それにしても、なかなか良い名前を付けますね』
そうなのだ。今回ベルタ達のチームには新たに『戦乙女』と言う名前が付けられたのだ。ルピィ曰く、他の氏族や大人数のパーティーではこうしたチーム分けは普通に行われている事で、それぞれのチームに氏族名やパーティー名とは別にチーム名を付けるのは問題無いのだそうだ。
そしてゴーレムに付けられた「スクルド」と言う名前は、西の大陸に伝わる伝説の三柱の女神の1人であり『戦乙女』の1人でもあるのだそうだ。勿論『戦乙女』と言う名前も西の大陸の伝説に出てくる半神の女性の事なのだそうだ。因みにチームの名前はユーニスが、ゴーレムの名前はマルヴィナが出した意見が採用されていた。氏族名の事と言い、この2人は命名感覚が良いみたいである。因みにスクルドは俺の従魔として登録済である。
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「ウィルさん、魔核の回収終わりました!」
今までの経緯を思い出していたらベルタから声を掛けられた。当然の事ながら『戦乙女』のチームリーダーは今まで副リーダーだったベルタが務めている。
「ご苦労さん。段々と調和が取れて来ているみたいだな」
「はい! 「スクルド」は戦闘を重ねる毎に対応力が上がって来ていますから、こちらとしてはやり易くなって来ていますね!」
頬を少し紅潮させながら俺の問い掛けに答えるベルタ。かなり張り切っているみたいである。
「よし、それじゃあベルタは皆んなを引き連れてこのまま進んでくれ。警戒は怠るなよ?」
「はいっ!」
何やら嬉しそうに元気良く返事を返すベルタ。頬の赤みが更に増した気がするんだが?
『頼られる事が余程嬉しいみたいですね』
ベルタの様子を見てコーゼストが肩の上でそんな事を呟く。
「まぁいざ人に頼られると、つい気合いが入るのは俺でもわかるけどな」
『マスターの場合は喜んでいるのか怒っているのか、良く観察しないとわかり兼ねますが』
「ほっとけ!!」
俺とコーゼストの毎度の掛け合いに生暖かい視線を向けてくるアンとエリナ。そんな残念な子を見る様な視線は止めてください。
「と、兎に角だ! 先に進むぞ!」
2人の視線から逃れるみたいにベルタ達の後を追って歩き始める俺。アンとエリナも慌てて付いて来る。
『何とか上手く誤魔化せましたね』
くすり、と笑ってそんな事を口走るコーゼスト。
お前は少し黙っていような!
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その後、数度の戦闘を経て帰還用の転移陣から地上に戻る事になった。流石に本格的な探索とは違い2週間程の準備しかしていなかったからだ。それに王都ギルドにあちこち張り出してもらった氏族メンバー募集も少し気になった事もある。
「お帰りなさいませ旦那様、アン様、エリナ様、皆様方」
2週間ぶりの屋敷では家令のシモン・ユーグが出迎えてくれた。
「ただいまシモン」
「ただいま」
「ただいま、シモン!」
「「「「ただいま戻りました!」」」」
俺達は口々にシモンに声を掛ける。
「留守にしている間に何か変わった事は無かったか?」
「はい。セルギウス様から御連絡があり、旦那様がお戻りになられたら王都ギルドに皆様で来て欲しいとの話を言付かりました」
「グラマスから?」
どうやら俺達に用事らしい。つまり個人的な話では無いと言う事で、恐らく募集の件かも知れない。
「とりあえず今日は帰って来たばかりだし、明日行くとするか……」
「わかりました。では早速冒険者ギルドに人を遣わし、セルギウス様に明日お伺いする旨を連絡しておきましょう。旦那様と皆様はゆっくりお休み下さい。直ぐに入浴の準備を整えさせますので」
「あ、ああ、よろしく頼む」
俺が一言呟くと即座に手を打つシモン。流石はパーフェクト家令である。このあとシモンは侍女のラナを遣いにやり、ラーナルー市の冒険者ギルドからグラマスに連絡を入れて、俺達は2週間ぶりに暖かい食事とベッドでゆっくりと体を休める事が出来たのである。
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「待っていたよ」
爽やかな笑顔で出迎えるグラマス殿。この人はいつ会っても笑顔を崩さないな。
「昨日の午下には地上に戻って来たんだが無理言って休ませてもらった。済まなかったな、グラマス」
先に謝罪の言葉を口にする俺。するとグラマスはその顔から笑みを絶やさずに
「それは構わないさ。冒険者は体が資本だからね」
と理解を示してくれた。
「それで早速本題に入るけど──ウィル君達が出した募集にかなりの人数が集まってね。それ等をどうしようかと言う話なんだよ」
そして話は案の定募集者の話であった。そんなに集まっているのか?
「かなりって……何人ぐらいなんだ?」
「ええと、確か……何人だったかな?」
「この大陸にある冒険者ギルドのみ限定で募集しました所、全部で96人募集が集まりました」
俺の質問にグラマスが答えに窮すると、グラマスの執事ファルトマンが代わりに答えた。と言うか結構な人数である。
「偉い人数だな」
「うん。そこで相談と言うか確認なんだけど、先ずギルドとして面接を行い何人かに絞ろうと思うんだ。その方が君達の負担が減るだろ? 最終的には10人以内に絞りたいんだ。まぁその事で相談と言うか確認になるんだけどね」
有り難い話である。少なくとも事前にギルドで篩に掛けておいてもらえれば、こちらの手間は少なくて済むし、何よりギルドが認めた人材なら優秀な人材を得られそうであるからだ。
「それで構わない。宜しく頼む」
俺はひと言グラマスに感謝の言葉を告げながら頭を下げた。アンやエリナ達も俺に併せて頭を下げる。それを受け、珍しいものを見たと言わんばかりの顔をするグラマス。
「どうしたんだ?」
「いや、ウィル君はそんなに頭を下げた事が無かったから、つい珍しくてね……」
何となく酷い言われようである。
「そんなに珍しいか?」
『マスターは一度御自身を省みると宜しいかと』
むぐっと言葉に詰まる俺。あまりにも思い当たる節が多過ぎる!
「まぁそれとは別に、君達には相談したい事があってね」
グラマスが話を切り替える。正直助かった…… 。とにかく居住まいを正し聞く姿勢を取る。
「あらたまっての相談って?」
「うん。まぁ今回の募集にも関係するんだけど、1人だけ特別枠で君達の氏族に入れて欲しいんだ。職種は斥候なんだけどね」
「特別枠……ねぇ」
「何か特殊な事情があるのかしら?」
グラマスの要請に訝しむ俺と、その理由を問うアン。そりゃ俺としてはグラマスの頼みだから無下にする訳にもいかないが、そもそも出し抜けに言われても返答に窮する。
「うーん、正直に言うと少し厄介事絡みなんだよね。それで僕としては君達に頼んで良いものなのか、考えあぐねてね……わざわざそんなトラブルを引き受けてくれるとも思えないし」
『グラマス殿。我がマスターはそうしたトラブルには慣れっこなので何ら問題ありません』
「よしコーゼスト、あとでその事についてじっくり話し合いな」
申し訳無さそうなグラマスの言葉を受け、コーゼストがサラッと黒い事を言ったので透かさず突っ込む俺。俺が好き好んでトラブルを呼び込んでいるみたいな物言いはやめれ! 向こうからやって来るんだよ!
「んんっ! そ、それでその人は誰なんだ?」
自分で言い訳にならない言い訳で墓穴を掘りそうになって、慌てて咳払いをしてグラマスに尋ねる俺。
「そうだね。実際に会ってもらった方が早いかな? エリナ君達にも少なからず関わりがある人物だしね」
「え? 私達とですか?」
更なるグラマスの台詞に思わず声を上げるエリナ。そんなエリナに構わずグラマスが隣りの部屋に向かい「入って来ていいよ」と声を掛ける。やがて隣りの部屋に続くドアがゆっくり開けられると──
「えっとぅ……失礼しますぅ」
1人の小柄な人物が執務室に入って来る。蒼灰色のショートヘアにちょこんと乗った猫耳、クリクリした琥珀色の大きな瞳、この娘は──!?
「す、スサナ!?」
「「「「「「「え?!」」」」」」」
そう、目の前に現れたのは嘗て迷宮『混沌の庭園』で知り合った冒険者パーティー『紅霞』のメンバーである半獣人スサナ、その人であった!
「なんでスサナがここに居るんだ?!」
俺は思わず叫ばずにはいられなかった。
これはかなりのトラブルの予感しかしない!
重騎士の正体はデュークが新たに生み出した女性形のゴーレムでした! さり気なく従魔が増えていますね…… 。今後の活躍にご期待下さい! それにしても結構な人数が新メンバーとして募集してきましたねぇ…… 。まあふるい分けはグラマスに丸投げですが(笑)そしてウィル達の前に現れたスサナ、一体どういう事でしょうか?
△今日はもう一話、百十二話も投稿しています。そちらもお読み下さい▽
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近未来の地球の民間軍事会社の傭兵クリスと異界から来た大魔導師のルーツィアの2人が主人公の冒険活劇です!
なろう→http://ncode.syosetu.com/n0259fr/
ノベルアッププラス→http://novelup.plus/story/529278724
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