名探偵コーゼスト 〜秘事と鍵と〜
明けましておめでとうございます! 本年もよろしくお願いします!
新年一発目の本編第百三話を投稿します!
急遽ラーナルー市に戻ったウィル一行。名探偵コーゼスト先生の推理が冴えます!
-103-
「来てくれたかウィル! いや、今はハーヴィー卿と呼ぶべきか?」
非常用転移陣でラーナルー市冒険者ギルドに到着するとギルマスが出迎えてくれた。
「今まで通りのウィルで構わないぜ。大体伯爵なんて柄じゃない」
「まぁ、そうだよな。俺もお前が伯爵なんて言われてもピンとこない」
そう言ってギルマスが笑う。それを見て何となくホッとする自分が居た。
「兎に角、こんな所で話してても何だから俺の執務室に行こう」
ギルマスが先頭に立ち転移陣のある部屋から出て、皆んながそれに続き執務室に向かう。
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「さて、話はグラマス殿から聞いているとは思うが……」
執務室に着いて何時もの定位置である執務机に腰掛けると口を開くギルマス。
『状況はグラマス殿から確認しました。ギルマス殿に改めて確認したいのは──現在未帰還の冒険者についてです』
俺が聞こうとするより先にコーゼストがギルマスに質問する。
「未帰還の冒険者?」
『そうです。より正確に言うと事故でも無いのに行方不明の冒険者ですね。水晶地図板追跡盤を使えば判るはずです』
コーゼストの回答を受けギルマスは思わず椅子から立ち上がる。
「まさかそいつらが──!?」
『犯人である可能性が極めて高いと思われます』
コーゼストの自信ありげな物言いを聞いて、その自信の所在を確認する俺。
「何で断言出来るんだ、コーゼスト?」
『理由は幾つかあります。まず『魔王の庭』に入って出るならば、少なくとも入宮する時は門扉に居る領兵と管理端末を通過せざるを得ない様になっていますから不審者はまず入れません。逆に出宮する時にはその全てを無視しても出る事が出来ます。それが入ったのに出た形跡が無い所在不明になっている冒険者と言う根拠です。それとこの『魔王の庭』はBクラスの冒険者でなければ入る事が出来ません。そうなると少なくとも犯人達はBクラス以上の冒険者と言う事になります。また一度でも入宮した冒険者なら自身の最終到達階層まで転移で一気に向かう事が出来、また第八階層で事を起こした後、時間を掛けずに出宮が可能です』
そう明確な理由を述べるコーゼストに納得する。確かに冒険者ならそう言う事も可能だと思う。ギルマスもすぐさま水晶地図板追跡盤を操作しているギルド職員に入宮と出宮の記録の照合を指示した。
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暫くして──
「コーゼスト殿が言う通りに入宮と出宮の記録を擦り合わせたら入ったのに出た記録が無く、尚且つ追跡盤に反応が無い所在不明の一団を見つけたよ」
職員からの報告書を示しながら結果を話すギルマス。どうやら色々得心が行ったみたいである。
「以前この『魔王の庭』に潜った事があって、何年か振りに外部から訪れた冒険者パーティーが姿を眩ませている。パーティー構成は3人、痕跡から推測される侵入者の数とも合うな。リーダーがジェイデン・ヘルナンデスと言うAクラス冒険者でパーティー名は天蠍と言う。管理端末の記録も併せて照合したが彼等は2ヶ月前に第七階層まで転移陣で潜った事になっていて、現在水晶地図板追跡盤で確認が取れないパーティーだ。むろん『魔王の庭』を出た記録は無い。恐らく始終点の手前辺りで転移陣を降りたのかも知れんな。何しろ第八階層の転移陣は独立していて確認に時間が掛かるし、始終点の管理端末まで来ないと記録に残らないからな」
そこまで言うと報告書を机の上に投げ出すギルマス。俺はふと感じた疑問をコーゼストにぶつける。
「そいつらが犯人だとして……どうやって門扉の領兵の目を盗んで外に出たんだ?」
『魔法と言う手段、若しくは魔道具を使用したのではないかと推測します。嘗て古代魔族ではそうした魔法が存在していましたし』
俺の疑問に推測を交えて答えるコーゼスト。すると今まで黙っていたエリナベルが徐ろに口を開き
「ちょっと良いかしら? その魔法ならうちのフェリピナが似た魔法を使えるんだけど……」
そんな有力な情報を教えてくれた。
「それはどんな魔法なんだ?」
俺の問い掛けにエリナが「フェリピナ」と自分のパーティーの魔法士のフェリピナに声を掛ける。
「は、はい! えっと、単純に姿を見えなくする魔法で、私は『迷彩』と呼んでいるんですけど……」
蜂蜜色のショートヘアを揺らし琥珀色の瞳をおどおどさせながら答えるフェリピナ。
「『迷彩』?」
「えっと、こう言う魔法なんですけど……『我が身を敵から隠せ──迷彩』」
そう唱えた途端フェリピナの姿がフッと掻き消える!
「おいおい……これは凄いな」
『本当に凄いですね』
俺とコーゼストが思わず感嘆の声を上げ、その声に呼応するみたいにフェリピナは姿を消したまま答える。
「この魔法はパーティー全体に掛ける事も可能ですけど欠点もあって、相手に触れられると魔法が解除されてしまう点ですね」
そんな事を話してくるフェリピナ。俺は声のする方に手を伸ばすと、何処かに触れたらしく姿を見せるフェリピナ。良く見ると顔を真っ赤にしているんだが?
「ウィルさん、エッチです……」
そう言いながら胸元を押さえるフェリピナ。いやいやいや、確かに柔らかい部位には触れたと感じたが真逆の胸だったのかよ!?
右往左往する俺に対するアンとエリナの視線が凄まじく冷たいんだが?!
『マスター、ラッキースケベにも程がありますよ?』
コーゼストが呆れた口調で言葉を洩らす。何だよラッキースケベって?!
「あ〜! 御主人様、そんなに胸を触りたいなら私のがあるのに〜♡」
ヤトが誇らしげに胸を前に突き出して強調してくる。頼むから話をややこしくしないでくれ!!
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「と、兎に角だ。こんな魔法があるとは思わなかったよ」
アンとエリナのジト目を受けながら、何とか話を切り替える俺。正直言ってやりにくい…… 。
『エリナ。フェリピナの使う『迷彩』は貴女達にとっては秘匿情報だったのではありませんか?』
そんな中、コーゼストが絶妙なタイミングでエリナに質問を投げ掛ける──ナイスだ!
「確かに『迷彩』は今まで秘密にしてきたわ。だけど今はそんな事言っている場合じゃないでしょ? 情報は少しでも必要だろうし」
エリナがジト目を俺に向けたままコーゼストの質問に答える。
「そりゃまぁ、馬鹿正直に自分やパーティーの能力を教えてる奴はいないわな。下手するといざと言う時に自分やパーティーが不利になりかねない。と言う事でだ、今の話はここに居る者だけの秘密にする。口外は厳禁だ、わかったな?」
黙って事の成り行きを見ていたギルマスがそう言ってこの場を纏める。何と言うか、ギルマスがちゃんと仕事をしている…… 。
「そう言う事なら了解した。皆んなも良いな?」
俺はアンやルアンジェやヤトに念押しすると皆んな頷いてくれた。
「わかっているわ」
「ん、わかった」
「任せて! 私は口が固いんだから!」
アンとルアンジェは兎も角、ヤトの発言には全く安心出来ないのは何故か?!
『兎にも角にもこれで魔法と言う手段で犯行が行われたのは間違い無いかと思われます。あとは現場を実際に検証しなくてはいけませんが』
「だな」
コーゼストのもっともな台詞に同意する俺。どちらにしても一度生産設備を確認しないとな。
「兎に角俺達は生産設備に向かう事にする。もしかしたら何か手掛かりが有るかもしれないしな」
俺がそう言うとギルマスは机の引き出しから皮紙を取り出すと何やら認める。
「ならこれを持っていけ。閉鎖された第八階層へ入る許可証だ。こいつを始終点の管理端末の所にいる職員に見せれば通してくれる」
そう言って書いたばかりの許可証を手渡してくるギルマス。
「わかった」
俺が受け取るとギルマスは椅子の背もたれに背中を預けながら
「そういや……今更だが、お前達と『白の一角獣』が何で一緒に居るんだ?」
さも不思議そうに尋ねて来る。本当に今更だな!?
兎にも角にも聞かれた事もあり、改めてアンとエリナと婚約した事をギルマスに報告した。本当ならグラマス殿は最初に報告しようと思っていたのだが、まぁ遅いか早いかの差だけだと割り切った。
報告を聞いたギルマスは「おめでとう」と祝福の言葉を贈ってくれたが同時に、「ルピィがショックを受けて伏せそうだな……」ともしみじみ言っていた……何となくその光景が目に浮かぶ。
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ギルドを出て早速『魔王の庭』に向かう。今回はエリナ達が一緒なのでヤトは一旦送還しておいた。監視に付いていたギルド職員にギルマスから渡された許可証を見せ、管理端末を起動させて、一気に第八階層の生産設備に転移する。
「ここが生産設備……」
初めて目の当たりにする古代魔族の施設を興味深そうに見るエリナと『白の一角獣』のメンバー達。説明は追々するとして、俺はヤトを顕現させると肩の上のコーゼストと打ち合わせる。
「さてと……先ずはどうするんだ、コーゼスト先生?」
『まずは生産設備の内部を隈無く調査しましょう。ここはギルマスが現場保全していたとの事ですし、これだけ人数がいるので文字通り人海戦術で。私はここの管理機構をチェックします。恐らく何があったか記録が残っていると思います』
コーゼストの指示に皆一様に頷くと生産設備のあちこちに散っていった。
「私はお肉取って来ようっと♡」
ヤトよ、ちゃんと調べてからにしてくれよな…… 。
『ではマスター、管理機構の接続水晶に触れてください』
「おう」
コーゼストに請われ、前と同じ様に水晶表示板の脇の水晶に左手を触れると、すぐさまコーゼストが目を閉じ接続を開始する。
『──*──**────接続完了。生産設備の管理記録を呼出──────**──2日前の管理記録に接続────*──*────異常信号を検出。調整漕は外部からの不正な接続で開けられたみたいです』
コーゼストの報告に壁沿いに並んでいる調整漕の列に目をやる。そのうちの1つが開けられているのが見えた。どうやらアレが盗まれた『暴喰者』と言う魔物が入っていた調整漕らしい。
管理機構から離れ、開いている調整漕に近付く。
「なぁ、コーゼスト。何でも喰っちまうスライムをどうやって保存していたんだろうな?」
『恐らくは私も使う『物理結界』を使用していたのでは? アレは魔力で生み出した結界であらゆる物理現象を遮断しますから』
そんな事を言い合いながら暴喰者が入っていた調整漕の周辺を調べる俺とコーゼスト。
「それにしても……他の調整漕は手付かずかよ。これじゃあまるで──」
『犯人達は最初から暴喰者がどの調整漕に入っているかを知っていたみたいだ──と仰りたいのですね、マスター』
調査の手を休める事無く、コーゼストと推論を言い合う。その中で俺は1つの可能性に気付いた。
「もしかしてギルドの中に──」
『その可能性は極めて高いと思われます。そうでなくては迷い無く暴喰者のみを狙った説明がつきません。恐らくは暴喰者の能力や性質も把握しているはずかと』
これはかなり大事になりそうだな、と思い始めた俺の所にエリナが近付いて来た。
「ねえウィル、これって何なのかしら?」
エリナの手には3セルト四方の金の枠が嵌め込まれた正六面体の魔水晶。如何にも怪しさ全開である。
「コーゼスト?」
俺は既に分析しているだろうコーゼストに問い質す。
『──***────わかりました。これは万能鍵と言うべき魔道具です。これを使って調整漕を開けたのですね。魔水晶内の魔力が空になっていますから投棄していったんでしょう』
「これでか?!」
俺は驚いてエリナの手にある魔道具を見詰める。
鈍色の魔水晶が魔導照明の明かりの中で怪しく輝くのだった。
途中ラッキースケベもありましたが、コーゼストの推理に基ずき犯行現場での現場検証を行うウィル達であります。
エリナベルが見つけたアイテムとは一体何なのか?! 次回、事態が動きます!
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☆「魔法と銃との異界譚 〜Tales of magic and guns〜」をなろうとノベプラにて連載中!
近未来の地球の民間軍事会社の傭兵クリスと異界から来た大魔導師のルーツィアの2人が主人公の冒険活劇です!
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