恋は思索の外
本日は第九十六話を投稿します!
アンとエリナの2人からまさかの告白を受けたウィル。さて、どちらを選ぶのか……と言うか選べるのか?!
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暴風の様なアドルフィーネの出現とアンとエリナベルの2人からの衝撃的告白から一晩明け、俺は『銀の林檎亭』の大部屋のベッドに寝転がり1人悶々としていた。
「はぁ〜〜〜〜〜」
『何ですか、その景気の悪い溜め息は』
枕元に佇んでいるコーゼストから苦情が来るが、この溜め息の原因の何パーセントかはコーゼストの所為なので無視する。
あの後アンとエリナには返事を保留させてもらった。今一度自分の気持ちを整理する為であるが、記憶を辿るとアンからは今まで幾度と無く俺に対する合図が出ていた事に改めて気付き、自分の鈍感さ加減に思わず呆れてしまった。俺は今まで何を見てきたのかと…… 。
『本当に今更ですね。そもそもアンがマスターに好意を寄せている事に気付いていなかったのはマスターぐらいなものです』
コーゼストの呆れ気味の台詞にムグッと言葉が詰まる俺。だが事実なだけに全然全く言い返せない!
『しかし……あの妹君ではマスターに同情を禁じ得ません。あれでは殆どの男性は女性恐怖症になってしまいます。マスターが女性の恋心の機微に疎いのは仕方ないと思います』
一応の激励をコーゼストはしてくれるが……何となく古傷に塩を擦り込まれている気がするんだが?
兎に角、気を取り直して想いを巡らす。
アンとの出会いから今日まで、俺はどうだったか──?
初めて会った時の涙顔のアン、俺と初めてパーティーとなり喜んでいたアン、コーゼストの非常識ぶりに驚いた顔のアン、俺と何時も一緒に居て楽しげな表情のアン────アンと駆け抜けた日々を振り返った時、傍には微笑みを浮かべたアンが居た。
勿論ルアンジェも、そしてファウストやデュークやヤトと言った魔物の仲間達も何時も傍に居てくれたが、心の中にはアンの微笑みが鮮明に浮かんでくる。そして何よりも最初の時に感じていた心の高鳴りも── 。
ああ──そうか。俺は自分でも気付かない内に──いや、出会った最初からアンの事を好きになっていたんだ。
そう思った瞬間、自分の心の中に何かがカチリ……と嵌まる感覚があり、今まで心に架かっていた靄が晴れ視界が鮮明になった気がした。
『──気持ちがお決まりになったみたいですが、エリナさんの事は忘れてませんよね?』
ベッドの上に上半身を起こした俺にコーゼストが宙を漂いながら確認してくる。
「それは勿論忘れていないが──」
俺が自分自身の気持ちを確かめた今、それを2人に伝えなければいけないが──それは間違い無くエリナを傷付ける事になる。その事実は再び俺の心を重くする。
『マスター』
再び増した心の重さに気付いたみたいにコーゼストが俺の左肩にスト……っと舞い降りると
『エリナさんのそれは間違い無く初恋だと思います。ならば断って傷付けるにしても傷が小さい今ならまだ良いかと。『初恋は実らない場合が多い』とも言われてますし──それにこうした事ははっきり答えないと却って相手に失礼です』
ひと言ささくれ立ちそうになる心を鎮めてくれた。
だがコーゼスト、俺もこれが初恋なんだが?!
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部屋を出るとアン達が腰を落ち着けている食堂に降りる。そこにはアンとルアンジェとヤト、そして何故かエリナがアンと同じテーブルに着いて何やら話し込んでいたのだ。
その光景を見て一瞬躊躇したが、どうせエリナにも話さなくてはいけないのだし手間が省けると割り切る事にした。
「「あ、ウィル」」
アンとエリナが気付いたらしく会話を止め、2人で声を掛けて来た。見事な重奏であるが、いつの間にそんなに仲良くなったんだ? 俺は心の中で首を傾げながら2人の前に立った。
「アン、エリナ、話がある」
まぁ、何の話かは判っているとは思いますが! 2人は頷き、居住まいを正す。それを見ていたら急に緊張して来た! 俺は咳払いをすると
「待ってもらっていた答えなんだが……纏まったので答えさせてもらう。俺は………………アンの事が好きだ。だが決してエリナの事を嫌いな訳じゃない。そんなに付き合った訳じゃないがエリナもいい子だと思う。元気だし気さくだし仲間想いだし、何より、その、可愛いと思うし。だけど今、俺の心の中を占めているのはアンの存在なんだ。その事には嘘は付けない。だからエリナにはとても悪いとはわかっているが、俺は自分の心に従いアンの気持ちを受けたい」
一気に言い切る。それを聞いたアンは顔に喜色を浮かべ、エリナは……何故か「やっぱり……」と言葉を漏らす。アンは兎も角、エリナの反応は何なんだ? 罵詈雑言を浴びせられると覚悟をしていた俺は首を傾げる。
そんな俺の様子を見てアンとエリナが顔を見合わせると頷き合い
「──ありがとう、ウィル。私を選んでくれて。本当に嬉しいわ♡」
まずアンが頬を紅潮させて喜びを全身で表す。正直俺も嬉しいんだが……エリナの手前、素直に喜べない。
「それで──」
そんな事を考えていたらアンが言葉を続ける。
「実はあれからエリナとも良く話したの。お互いどれだけウィルの事が好きなのかって♡」
俺の知らない所でそんな恥ずい話はしないでいただきたい! そして何でそんな話をする?!
「それでエリナと私のお互いの気持ちを確認し合って、話し合って、決めました!」
いやいや、俺の知らない話を勝手に決められても困るんだが?!?
「……えっと、何を?」
俺が恐る恐る確認するとアンがにっこり笑いながら
「ウィルには私とエリナを恋人にしてもらいます♡♡」
頭上から超々爆裂魔法をお見舞いして来た!!!!
「だって聞けばエリナはウィルに一目惚れだって言うじゃない? しかもこれが初恋だって! 私もウィルに一目惚れしてしかも初恋だし、話していたらあまりにも共通点が多くて、何か自分自身を見ている気になっちゃって……だったらいっその事、ウィルに私とエリナを2人とも恋人にして貰えば良いかな、って……駄目かしら?」
そこまで言って上目遣いに見詰めて来るアンと、恥ずかしげにモジモジしているエリナ。
いやいやいやいやいやいや!? 何で2人で結託している!? と言うかこれは既に決定事項なのか?! 確かに貴族以外でも2人以上と付き合ったり果ては結婚している庶民もいるには居るし、法でも一夫多妻は認められているし、あれ? するとこれは問題無い、のか?
いやいや、それには当事者全員の総意が無ければ駄目な訳で! アンは俺が自分の意志で選んだのだから良いとして、エリナは? 確かにエリナは良い娘だと思う──さっきも言ったけど性格にも素行にも問題は見当たらないし、何より美人だし──って、あれ? 反対出来る要素が無い!? これって了としか言えない状況じゃないか?!?
そこまで考えて何処にも逃げられない事に気付き途端に頭が真っ白になる俺。
「ほら、エリナ」
そんな俺を置き去りにしてアンがエリナを促す。
「あの、その、えっと……わ、私じゃ駄目……かしら?」
頬を真っ赤に紅潮させて消え入る様な声で尋ねてくるエリナに、ただ呆けたまま「あ、ああ……」としか返事が出来ない俺。それを聞き「きゃー!」と嬉声を上げて喜ぶエリナと、「良かったわね!」とエリナの手を取るアン。
『何とも……女性達の方が数段上手でしたね、マスター……』
流石のコーゼストも想像を絶する結果に半ば唖然としているみたいであった。
そこにはただひとり、真っ白く燃え尽きた俺が灰になろうとしていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「話しは終わった?」
ルアンジェが事の成り行きを見定めたみたいに、灰になった俺と艶々のアン達に話し掛けてきた。
「私もウィルとその恋人? とか言うのになりたい」
真顔でそう宣うルアンジェ。君にさえそんな事を言われたら、俺は灰すら残らないんだが?
消え入りそうな俺の傍にヤトがやって来て背中から抱き着くと
「私はずっと御主人様の一の僕だから、これからもずっと一緒に居られるのよ! ねぇ御主人様♡」
ある意味安定感抜群のヤトの言葉にちょっとホッとする。こいつは本当に何時もブレないな…… 。
それを聞いたエリナは「私もウィルのパーティーに入るべきなのかしら?!」と真剣な顔で呟く。エリナ……キミには『白の一角獣』と言う立派なパーティーが有るだろが!?!
『これは、私も参戦すべきでしょうか?』
コーゼストが俺の肩の上でクスッと笑いながら話し掛けて来る。
何で皆んな俺の恋人なんかになりたがりやがる!?!
俺は本気で腹の底から叫びたくなった────はァ。
更にまさかの急展開、アンを選んだのにいつの間にかエリナとも付き合う事になってしまったウィル!
なんと言うか……いつの世も男性より女性の方が強かであります。
読まれている方々の意見は色々あると思いますが、今回はこの様な形になりました。ただしこれからも恋人(予定)が増える公算が極めて高いのでご注意ください。
☆「魔法と銃との異界譚 〜Tales of magic and guns〜」も連載中! 地球の民間軍事会社の傭兵クリスと異界から来た大魔導師のルーツィアの2人が主人公の物語です!
隔週木曜日15時更新!
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