ブラコンと修羅場と告白と
本日は第九十五話を投稿します! そしてトータル第100部でもあります!
アドルフィーネが巻き起こした嵐が、思わぬ余波を巻き起こします!
-95-
「──んで、これで俺にどうしろと言うんだ?」
俺はジト目でコーゼストに詰め寄ると、諸悪の根源のコーゼストはしれっとしながら
『いえ、こうすれば場が盛り上がるかと』
とのほほんと答え、俺は頭を抱えてしまった──コイツは絶対楽しんでいるだろ!?
俺の前にはエリナに鋭い視線を向けているアドルと、その視線を受けすっかり萎縮しているエリナと、瞳を閉じ香茶に静かに口をつけているアンと、顕現してきて早々にイグリットにステーキを注文するヤトが居た。因みにルアンジェは何故かこの場では部外者とされ、俺の横の椅子に座り薄荷水を飲んでいた。なんと言うか空気が重い…… 。
『ここは私も元の仮想体になった方が宜しいのでしょうか?』
「お前……ちょっと黙っていような」
これ以上、事態をややこしくしないでくれ!!!!!
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そんな中、先ず口を開いたのはアドルだった。
「──成程、アンさんは兎も角としても兄様には悪い虫が集まって来ている御様子。しかし! この私の瞳が黒いうちは誰一人近付けさせませんわ!!」
そう言って椅子から立ち上がり息巻く妹。アドルよ、エリナを悪い虫呼ばわりするな…… 。それとお前の瞳は紅いんだが?
『マスター、自己逃避しないでくださいね』
今度はコーゼストがジト目を向けて意見を言ってくる。そんな事言ったって現実逃避したくもなる!
そんな息巻くアドルの台詞に対し、流石にカチンと来たみたいなエリナが食いつく。
「ちょ、ちょっとそんな風に言われるのは心外だわ! それは確かに私はウィルの事が気になっていたわよ?──だってウィルは他の冒険者の男達より気が利くし、優しいし、親切だし、何よりやらしい目で見ないし、それに女だからと馬鹿にしないし、もう少し親しくなりたいなぁと思っていたけど……って、私は何を言っているの!? 確かに気にはなっていたけど、そ、その、す、好きとか……じゃ無くて、その、一緒に居ると落ち着くと言うか……」
そこまで言って顔から湯気が立つみたいに真っ赤になってワタワタするエリナ。そのエリナの台詞にアドルは兎も角、何故かアンも鋭い視線をエリナに投げ掛ける。
一方でそう言われた俺は頭の中が真っ白になっていた──つまりエリナは俺に好意を持っていたと言う事を言っている訳で──でもそんなにエリナが言っていたみたいな事を自分がしていたのか全然意識して無いし……もう頭の中がグルグルするわ!
俺が頭を抱えて1人で悶々としているとアドルが悶絶しているエリナに言い放つ。
「確かにエリナさんの仰る事は一々尤もですわ。兄様の素晴らしさに気付かれたエリナさんもまた素晴らしいと思います。で・す・が! その好意と言う感情こそが兄様の御心を掻き乱していると言う事は間違え様の無い事実! それは唾棄される事と知りなさい!」
そう言って迫るアドルに「そんなの関係ないわ!」と噛み付く勢いのエリナ。これはいつ取っ組み合いの喧嘩になるやも知れん!
その緊張感の漂う空気の中、ルアンジェがアドルに素朴な疑問をぶつける。
「だけどアドル様はアンには何も言わなかった。何故?」
それに対しアドルはルアンジェの方を向くと
「アンさんは宜しいのですわ。理由は森精霊の方は総じて長い時を生きる長寿の種族であり、その身に子を宿すのは同じ森精霊同士であっても数百年に一度と聞き及んでいるからなのですわ! それに私達ヒトとは異なる種族でもありますし、アンさんが兄様の御子をその身に宿す確率は極めて低いと言う安心感からですわね。勿論、兄様の御子を一番最初に身篭るのは私ですが♡」
と盛大にぶっちゃけたのだった! それを聞いたアンは飲んでいた香茶を吹き出し、エリナは「あ、あ、赤ちゃん?!」と真っ赤になり、ルアンジェは「?」とした顔をしている。一方、現状では除け者扱いされているヤトは2皿目のステーキを注文している。
「ちょっと待て、アドル……そんな話を誰から聞いたんだ?! それに何でお前が俺の子を身篭る話が決定している?!」
俺は痛む頭を押さえながらアドルに詰問すると
「我が家の侍女長からですわ。何でも昔から森精霊を娶った貴族の間では有名なお話なのだそうですわよ。それと愛する兄様との愛の結晶をこの身に宿すのは私以外居りません♡」
そう自慢げに答えるアドルの台詞に更に頭痛が激しくなる俺。そんな唯の与太話を真面に信じているとは! そもそもその言い方はアンに対して失礼だし、何でアドルが身篭る事が決定なんだ!?!本当に我が妹は優秀なのだろうか?!?
激痛に見舞われた頭を押さえつつ反論しようとして
『──待って、ウィル』
アンに念話で止められた。
『しかしアン、こんな事実無根な事を放っておく訳にも……』
『いいのよ。そう誤解されているなら逆に都合がいいから』
『? 何だ、都合って?』
『────』
そこまで言うとアンは黙り込んでしまった。何なんだ、一体…… 。
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「ねぇ、さっきから皆んなで何の話をしているの?」
2皿目のステーキを食べながらヤトが聞いて来た。お前は本当にマイペースだな…… 。
「「「負けられない女の戦いです(わ)!」」」
三人三様でヤトに答えるとヤトは「ふーん」とまた食事に戻っていった──何をしたかったんだ、一体?
「まぁ私と致しましては、兄様には1日も早く伯爵家に戻って復権していただき、新しい当主として立っていただきたいと思っていますの。それに際しては私が全面的に兄様を支援させていただきますし、私と兄様が伴侶になればこの様な話も不毛となるでしょう♡」
不意に突然にそんな事を公言するアドル。ちょっと待て! 何でそこで俺とアドルが結婚する事になっている?! アドルの放った一言で更に混乱状態に陥る俺とアンとエリナ。その混乱に更に拍車をかける様な台詞を宣うアドル。
「兄様、伯爵家にはもう以前の様な輩は居りません。あの2人に与した者達は尽く排除致しました。兄様が戻られる事に際して何ら懸念される事などございませんわ。私が伯爵家の全てを兄様に成り代わり今後も取り仕切っても構いません、どうか今一度私を兄様のお傍に居させてくださいませ。そして私と結婚を……キャッ♡」
そう言って身悶えすると直ぐに居住まいを正し、深く頭を垂れるアドル。アンとエリナが半ば呆れ、半ば不安の色を顔に浮かべている。
「……俺はあの伯爵家に戻る気は無い。たとえそれがお前の願いでもだ……あそこには良い思い出が無いからな。それに今の生活は俺に合っているし、何より今の俺には仲間達が居る。コイツらは今の俺にとって掛け替えのないモノなんだ──これを手放すつもりは無い。そ・れ・に・だ! 何でお前と俺が結婚せにゃならんのだ!? それこそおかしいだろうが!?!」
頭を垂れるアドルにはっきりと自分の意志を伝える──特に結婚に関しては断固拒否する! それを聞いたアン達の顔に安堵の表情が浮かぶ。
一方のアドルは俯いたまま「はァ〜」と大きな溜め息をつくと頭を上げ
「……やはり駄目でしたか。まぁ兄様なら必ずそう仰るとわかっていましたが…………仕方ありません、今日の所は退かせていただきますわ。んもぅ本当に兄様は照れ屋なんですから♡」
と如何にも残念そうな表情で言葉を紡ぎ次の瞬間、片目を瞑りおどけた顔をこちらに向けてくる。
アドルよ、その「今日の所は」ってどう言う意味だ?! それに誰も照れとらんぞ?! と言うか、こいつはまだ諦めていないのか?!?
アドルの言葉に俺が戦慄を覚えているとは気付く由もなく、アドルはアンとエリナに言い切る。
「兎に角! 私はエリナさんと兄様のお付き合いは認めるつもりはありません! エリナさんにはそれを踏まえて節度ある行動を求めますわ! まぁどうしてもと言うのであれば妾の地位を用意しておきますが? アンさんは今まで通りで構いません、これからも兄様の良き冒険者仲間としての行動を御願い致しますわ……って、キャン!?」
これ以上ないドヤ顔を決めたあとにほくそ笑むアドルの頭に、再び手刀を打ち込む俺。流石に今の言葉は看過出来ないぞ!
「アドル、いい加減にしろ!何なんだ、その言い草は?! 2人に謝れ!!」
本気で怒る俺に「申し訳ございません……」と涙声で答えるアドル。そしてアン達2人に
「確かにお2人には少し言い過ぎましたわ……それでも! 私は兄様を譲るつもりはありませんわよ! それだけは覚えておいでくださいまし!!」
と言うと、キッ! と涙目で2人を睨む。何と言うか……ここまでアドルが拗らせているとは思わなかった。はっきり言って昔より激しくなっている……!
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そんなこんなをしている内に滞在時間が過ぎ、アドルは伯爵家に帰って行った。「兄様、また近いうちにお会い致しましょう♡」と言う台詞と共に…… 。
全く、場を散々かき回すだけ掻き回して帰るとは……結局『銀の林檎亭』の食堂には俺とアンとエリナが変に微妙な空気のまま取り残された結果になった。ルアンジェは無言で薄荷水を飲んでいるし、ヤトに至ってはいつの間にか4皿目のステーキを食べていた。それにしても空気が重い…… 。
「あの……ウィル?」
重苦しい空気の中、アンが口を開く。
「さっきの話なんだけど、私……貴方が好きよ」
アンさんが超爆裂魔法を俺に仕掛けた! 突然の告白に固まってしまった俺にアンは、頬を赤らめながら言葉を重ねる。
「初めてパーティーを組んだ時から……ううん、あの日『魔王の庭』で助けられた時から私は貴方に恋をしてしまったの。そしてその想いは何時も一緒に居て、日々強くなって来ているわ」
「…………」
俺は余りの衝撃に言葉を失い、何も話せずにいると
「ちょ、ちょっと待って!」
アンの突然の告白に唖然としていたエリナが再起動すると大きな声を発する。
「わ、わ、私もウィルの事が……そ、その…………」
大声から一転、急にモジモジしたかと思うと意を決したみたいに思いを言葉にする。
「わ、私もウィルの事! す、好き……よ♡」
こちらも超爆裂魔法を俺に仕掛けて来た!! いきなり2人から告白とか、一体何が起きているんだ?!? 一方、告白した2人は2人で頬に手を当て「キャッ♡」などと悶絶している。
いや、俺の方が余りの衝撃で気を失いそうなんだが!?! 頭が真っ白どころでは無く魂が昇華しそうな感覚に囚われる最中、コーゼストの言葉が響き渡る。
『マスターにも、いよいよモテ期到来ですね』
──いやいや、そんな時期とか来られても不慣れ過ぎて対応出来ないんだが?!?
アドルの偏愛に焚き付けられたのか……アンさんとエリナさんの2人からまさかの告白?!
ヘタレなウィルにもいよいよモテ期到来?! 次回からはイチャラブ要素が増しますのでご注意ください(笑)
☆「魔法と銃との異界譚 〜Tales of magic and guns〜」もよろしくお願いします!
地球の民間軍事会社の傭兵クリスと異界から来た大魔導師のルーツィアの2人が主人公の物語です!
隔週木曜日15時更新!
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