罪の清算と悔恨 ~何故かエルフに懐かれました~
本日第十話投稿します。今回も主人公=ウィルはシリアスなのですが……長続きしません(笑)
コーゼストとファウストは空気です(汗)
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「…………ウィル……お前またトラブル持ち込みやがって………………」
「魔王の庭」第四階層から転移陣で地上に戻って来た俺達と輝光のメンバーは、その足で冒険者ギルドに直行した。しかし真夜中だったのでギルマスは不在──仕方なくギルド職員に頼んでセオドアをギルドの懲罰牢に入れた後、全員で仮眠室で一休みさせてもらった。
そして翌朝、連絡を受けて朝イチで出勤してきたギルマスに第一声こう言われてしまったのだが、別に俺だって好き好んでトラブルを持ち込んでいる訳じゃないのに………理不尽だ。
「……しかしなぁ~。輝光のセオドア・レイランドがか…………」
ギルマスは悩みの種の頭髪を撫でながらボヤく。
「確かリーダーのセオドアはAクラスになろうかと言う手前まで来ていたんだが、最近黒い噂があってな。ギルドでも極秘に監察を出そうかと言う話にはなっていたんだが……まさか違法な魔道具での犯罪を起こすとはな………」
「そんなに疑わしいなら、何でサッサと査察しなかったんだ?」
ギルマスのボヤきに俺は真っ当な疑問をぶつけた。
「結局ギルドも組織だ。何かをする為には調整ってヤツが必要なんだよ……」
そう言って深く溜め息を付きながら机の引き出しから薬の小瓶を出してグイッと煽るギルマス。胃薬の在庫は大丈夫なのか?
『マスターはギルマスに良く絡みますね』
コーゼストが念話でそう宣う。
『いや……何というか、おちょくりやすいからなぁ………』
俺とコーゼストの間でそんな会話がされてる事にも気付かず、引き出しを戻してこちらに向き直るギルマス。何か色々とすまん。
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「あの……」
ここで今まで黙っていたクライドがおずおずと手を挙げた。
「何だ?」
「その……リーダーのセオドアと我々の処分はどうなるのでしょうか?」
「セオドアは他にやらかしてないか王都の冒険者ギルド本部でキッチリ調べた上、 罪状を決定する事になる。お前達は──本来なら自分達のリーダーが犯罪を行っているのを止める立場なのに、止めなかったから厳罰にすべきなんだろうが──」
クライドが唇を噛み締める。アリエルとルシンダも顔を伏せて身体を震わせている。
「──奴が実家の権利を笠に着て横暴を働いていたのは明白だ。拠ってパーティーメンバーのお前達から聴取をしたのち輝光は事実上解散、クライド・アリエル・ルシンダはそれぞれ現クラスから1ランクの降格と全員で罰金金貨4枚、って所だな。この場合の罰金はギルドに収める分だ。被害を受けたアンヘリカへの賠償は追って伝える」
「えっ……?」
クライドがびっくりした顔でギルマスを見る。
「何だ? 俺の決定に不満なのか?」
「い、いえ……」
「なら、お前達はこれで帰って良いぞ。あぁ、下の賞罰受付でちゃんと手続きして行けよ?」
ギルマスは手のひらをヒラヒラさせて退出を促した。クライド達は深く頭を垂れて執務室が出て行く。その後ろ姿は何だか疲れ果てたみたいに見えた。
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クライド達が執務室を出るのを見届け、ギルマスは扉の外に居た職員に別室のアンヘリカを連れて来る様に指示する。やがてアンヘリカがルピィに付き添われて姿を表した。
どうでも良いがルピィよ、こんな状況でファウストを狙うなよ?
「………失礼します」
結局彼女はギルドに来る道すがら、ずっと泣きじゃくっていた。何でも奴隷化されていた時も自分が何をしていたのかの記憶は有るのだそうだ。今は落ち着いているみたいに見える。ただ眼は泣き腫らしているが………… 。
俺の横に並び立つと深々とギルマスに頭を下げるアンヘリカ。
「……この度は私の件で、本当に色々とお騒がせ致しました……一族の名を穢す様な事をしてしまいお詫びの言葉も御座いません。そして──ウィルフレド・ハーヴィー殿にも感謝を……」
そう言うと俺の方に向き直り、アンヘリカがこちらにも頭を下げる。
「アンヘリカ・アルヴォデュモンド──だったな、今回は災難だったな。まぁ俺はエルフ族じゃないから、そこまで一族に拘らなくて良いし緊張しなくてもいい。第一お前は被害者なんだ、楽にしてくれ」
そう言えば森精霊は一族と言う括りを大事にするんだっけな…… 。
「とりあえず実行犯のセオドアは牢に入れてある。今回はそこのウィルフレド・ハーヴィーが告発者と言う形で事は露見し、パーティーのメンバーからも証言を得ている。今の段階でも冒険者資格の永久剥奪は確定だが、あとは王都冒険者ギルド本部の判断になる筈だ。少なくとも今回の件だと労働奴隷になるだろうが──当然ギルドからもお前さんに対して補償が払われる」
「…………」
「勿論これで決着じゃないがな。だが今回の件は我々ギルドにも責任がある。ただ金を払って終わりじゃない──この俺が頭を下げる、これで気を鎮めてくれまいか?」
そう言ってギルマスは机に額を擦り付ける様に頭を下げた。それを見て慌てて一緒になって頭を下げるルピィ。
その様子を目の当たりにしたアンヘリカは一瞬呆けたあと慌てて手を振る。
「頭をお上げくださいギルマス! ルピィさん! 私は貴方達にそこまでしていただく必要は──」
「下げさせてやれよ」
「えっ?」
「コレがこのラーナルー市冒険者ギルドの全権を預かるギルマスの責任の取り方なんだと思うぜ。アンタが一族の名を口にするみたいにな」
「………………」
「……勿論ウィル、これはお前にも向けた謝罪でもある」
ギルマスは頭を上げながらハッキリとした声で告げる。俺は肩を竦めながらそれを受け取る事にする。アンヘリカも慌てて「私もあなた方の謝罪をお受け致します!」と言葉にした。
それを見て明らかにホッとした様子のギルマスは再び顔を引き締めてアンヘリカに問い掛ける。
「それで……お前さんはこれからどうする気だ?」
「えっ……」
「冒険者を続けるも良し、辞めるのも良し、もし続けるなら今回の事もあるから、ある程度の事なら融通を聞かせる事も出来るがな」
「……………」
「まぁ、直ぐにとは言わないがな。ゆっくり考えて貰って構わないぞ」
「……………はい」
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2人の話にひと区切り着いたみたいなので、俺からギルマスに声を掛ける。
「ギルマス、こんな時だがひとつ頼みがある」
「……本当にお前は急だよな…………それで、頼みってのは何だ?」
俺は背中から降ろしたザックから大振りの魔核を取り出し執務机の上に置いた。アンヘリカ達を助けた時のオークジェネラルのコアだ。
「これは俺が救援に入った時に倒したオークジェネラルのコアなんだが──クライド達の罰金に当ててくれるか?」
「?!! 何だって?」
ギルマスが落ち着いていた雰囲気から一転、目をひん剥く。アンヘリカも隣で唖然としていた。
「元々あのオークジェネラルはクライド達の獲物だったからな。コイツに対する権利は有るだろう?」
「だがそんな事したらお前が損するだろうが!? アイツらはお前に譲ったんだろ?!」
「……俺はアイツらから預かってただけだ。もしアイツらが譲ると言ったなら、罰金分差っ引いた残りを俺に渡してくれればいい。それに回復薬分はオーク4体のコアで足りるしな」
ギルマスは頭の短髪をガシガシ掻き毟る──そんな事していると何本か抜けるよ?そして諦めた様に椅子に深く沈み込んだ。
「全くッ──お前はそれで良いンだな?」
「ああ」
「ふん。アイツらに聞かれたらどう言っとくんだ?」
「貸しにしておくと言っときゃいいよ。それにギルマス、あんたもだろ?」
俺は気付いていた──ギルマスがクライド達に課した罰はかなりの温情が含まれてる事には。するとギルマスは俺の言葉を受け、ニヤリと口を歪めながら──
「わかった──ルピィ!」
ギルマスが横で呆けてたルピィに声を掛ける。
「はっ? はいっ!!」
「この魔核を買取受付で至急換金してきてくれ。この馬鹿の気が変わらない内に、サッサとギルドの金庫に罰金を納めるぞ! あとクライド達にも伝えろ! お前達の罰金はこの馬鹿が立て替えるから心配するな、とな!!」
「わ、わ、わかりました~~!!」
ルピィは慌てふためきながらコアを持って階下に向かって駆けて行った。ギルマスは俺に父親みたいな視線を向けると「本当にお前は損な性格だよな……」と苦笑いする──だがそんなのお互い様である。
それにそうでもしないと俺が落ち着かないんだよ!
その間アンヘリカは俺の顔を見つめていた。翠玉の瞳がじっと見据える………… 。
あまり見ないでくれないか? 凄く気恥しいから!
俺の心の声が聞こえたかのように、何かを決意したアンヘリカが徐ろに口を開いた。
「あの、ギルマス」
「ん? 何だ、アンヘリカ?」
「先程、私の今後について色々と融通をしてくれると仰いましたが──」
「ああ、言ったぞ。ん? もしかして何か考えが纏まったのか?」
「はい、纏まりました」
「ほぅ、それで? 何か融通して欲しい事でもあったのか?」
「はい──私はこれからも冒険者を続けたいと思います。それで私に新たにパーティーに組ませていただきたいのですが」
「まぁ……それぐらいなら俺の権限で何とかしてやるがな……それで何処のパーティーなんだ?」
「はい──では」
アンヘリカが俺の左腕に自分の右腕を絡める
──えっ? 何コレ?
「私を、このウィルフレド・ハーヴィー殿と組ませてください」
「「………はい~?!」」
アンヘリカは満面の笑みでそう告げた。
ウィルにアンヘリカは吊り橋効果で一目惚れです。だけどウィルはこうした経験が皆無なのでヘタレ感があります(笑)
実は前々回にフラグを踏み抜いていたウィルさんです!
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