○○はある朝突然に
初めて小説を書きました。なので誤字等見逃してください。基本ほのぼのですがダンジョン物でもあります。そしてまだプロローグなので生暖かい目で見てやってください!
*2020年12月7日改訂
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──
────
──────ある日のある朝、宿屋のベッドの上で目が覚めた。
うん、間違い無く朝だよな。陽の光が窓から差し込んでいるんだから確かなはずだ。
だけど、俺はいつ宿に帰って来たんだ??
えーっと、確か迷宮の第三階層の最後の部屋で……黒い魔犬と戦って……
……アレ? そう言えばあの時戦っていた魔犬はあの後どうしたんだ?
確か、確実に止めを刺した筈なんだが?その後の記憶が偉く曖昧だ……うーん。
その事が思い浮かんだ瞬間、後頭部がズキリと痛んだ──手で触るとコブがある──なんで?!
慌てる俺の耳に不意に誰かが話し掛けて来た。
『───報告します』
思わずベッドの上から首だけ回して辺りを見回すが当然誰も居る訳が無い。
『報告します。報告します。報告します。報告します。報告します。報告──』
「うおっ?!」
頭の中に響き渡るヒトじゃない無機質な声に一気にボヤけていた思考がクリアになる。同時にベットから転げ落ちそうになって慌てて上半身を起こす俺。
『──マスターの起床確認。待機モードから覚醒モードに移行』
「?!? 何で頭の中に声が聞こえて来るんだよ?!」
『──私はコーゼスト。現在マスターに同化作業中。現在侵食率42パーセント。マスターおはようございます』
俺の困惑した声を聞いたのか、頭の中で話していた奴が普通に声を発し、俺は思わず声が聞こえた自分の左腕に目をやる。
「──は? はあぁ……そっかぁー、コイツが俺に取り付いてたのをすっかり忘れてた……」
コイツとは俺の左腕に有る腕輪だ。名は「コーゼスト」。一応は有知性魔道具……らしい。本人? 曰く「共生なる腕輪」とか御大層な御名前をお持ちの『意思ある魔道具』様だ 。
俺からすると図々しさ天井知らずの糞アイテムなんだが…… 。
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『それでマスター、報告を宜しいでしょうか?』
俺の思いを知ってか知らずか、話を振ってくる魔道具──コーゼスト。
「はァ……それで? その報告とやらは何なんだよ?」
『昨夜ダンジョン内で共生化した個体名 : ヘルハウンドについてです。』
はて、そんなのに会ったかな……うーん…………ん?!
「あっ? あぁー!!」
思い出した思い出した! 迷宮の最後の部屋に居たあの黒い魔犬の事か! と言うかアレはヘルハウンドだったけな! しっかり忘れていたわ! しかし、共生化って? なんだよそりゃ?
『どうかしましたか? マスター』
「いや……その「共生化」がどうかしたって?」
『はい、共生化が完了致しましたので一言御報告を』
だから共生化って言うのが何なんだったか、こちとら思い出せなくて尋ねているんだが?
「それで? だからその──」
「共生化」が何かをコーゼストに重ねて問い掛けるのだが、ヒトの話など聞いちゃいないコーゼスト。
『共生化が完了しましたので、マスターには共生化個体に新たなる名称を付けていただきたく思います』
「……ハイ?」
此方の問い掛けに一切触れる事すらせず、いきなり一方的に話を振られた俺は物凄く間抜けな声を出してしまう──お前はまずヒトの話を聞けっての!
『──もしかしてマスターはお忘れなのですか?』
「だからさっきからそう言っているんだが?!」
漸くヒトの話を聞いて「共生化」について説明をするコーゼスト。心做しか声質が冷たい。
『私、コーゼストの固有能力「共生化」──あらゆる魔物との意思の疎通を図り、共生化を促した双方の能力の向上を行う機能だと最初に説明した筈ですが? まさかマスターはその重要なる説明を忘れたと?』
コイツは──自分の事になると途端に饒舌になりやがって! はァ…… 。
「あーっ、そういやそうだったなぁ……しかし今ひとつ良く解らないんだが──」
『何がです?』
「最初にも話したと思うんだけど、何で俺を選んだんだよ?」
俺の質問にそれまで饒舌だったコーゼストが不意に黙り込んだ。
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急に黙り込んだコーゼストに質問を重ねる俺。
「おい、俺の質問に答えろよ」
『──』
「……ヲイ」
『────』
ったく、自分の都合が悪くなると直ぐにダンマリかよ?! 全く本当に大した魔道具様だよ!
『──マスター、新たな名称をお願い致します』
?! 今度は無視しやがったな!
「……お前、覚えておけよ…………」
俺は左腕のコーゼストをジト目で睨み付けると気を取り直し、渋々だがコーゼストの言う通り名前を考える。しかしまさか魔物に名前を付ける羽目にとは……まるでペット感覚だよな……ウーン……ん? そういや………… 。
「──なぁ、コーゼスト」
俺はコーゼストに名付けに対して極めて重要な質問をした。
『何でしょうか?』
「そのヘルハウンドは男か?」
『そうですが?』
まぁ、あの強面がオンナだと違和感ありまくりだよなぁ。
「……よし」
『何か良い名称が?』
「おぅ、 思い浮かんだぞ」
『それは一体? お伺いしても宜しいでしょうか?』
「ファウスト」
『──は?』
「最初の共生化? とやらを記念して「ファウスト」──1番最初って意味だ」
『マスターにしては凄くまともな名称ですね』
「ほっとけ!!」
本当に一言余計だな!? それになんだ? その反応は! そう言う時だけ偉く人間臭い反応しやがって…… 。コーゼストにバレない様に心の中でブチブチと文句を垂れる俺。
だがコイツにはお見通しだろうな、全く秘密も何もあったもんじゃない…… 。
『では共生化個体名 : ファウストを記録──』
『続けて顕現化』
『──虚数変換、顕現化します』
「?! おい!ちょっと待っ──」
ベットに身体を起こした俺の下半身の上に、光が集まり何かの形を生み出していく──!そして─── !
ポンッ! と言う気が抜ける音と共に膝の上に真っ黒の塊が顕現化した。
目の前に現れたのは──どう見ても真っ黒な子犬が、尻尾がブンブン振り切れると思う程ぶん回して舌を出してる様子だった。
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何やら嬉しげに尻尾を振っている子犬を凝視する俺──うん、何処から見ても普通に子犬だな。
「コーゼスト」
『何でしょうか?』
俺はあまりの事に間の抜けた質問をしてしまう。だってあまりにも見た目が…… 。
「何コレ?」
『ファウストです』
いや、それはわかってますです。
「だから?」
『ですからこの顕現した個体はファウストですが?』
「…………」
『マスター?』
「……なぁ、これってアレだよな?」
『はい、ヘルハウンドですね』
コーゼストの言葉を耳にして、目に映る子犬に漸く頭の理解が追い付く俺。
「! イヤイヤ、 なんでこんな子犬なんだよ!?」
『はい?』
俺のツッコミにそれがどうしたと言わんばかりの声色で答えるコーゼスト。
「だからヘルハウンドって成獣で子牛ぐらいの大きさじゃなかったか!?」
『……マスター、幾ら私でも元々の質量で顕現する訳がありません──』
──すいません。お前ならすると思っていたんだが?!
『これは仮想体──アバターです』
「??あ、 あばたー?」
『仮初の肉体だと思ってくださって結構です』
「すると本物は……?」
『希望するなら顕現しますが?』
「……イエ、ケッコウデス」
『マスターの傍に居る時にはこの仮想体……アバターで存在し、マスターの召喚のコールに応じてアバターの存在する座標を基点に本体を顕現化しますので御安心ください』
──ちっとも1ミルトも安心出来ない情報ありがとう!
「すると何か、俺が望まなければこのままの大きさなんだな?」
『そうです』
それを聞いてやっと安堵の息を吐く俺。幾ら何でも街中を魔物が闊歩する事態だけは避けられたみたいである。全くやれやれである。
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「くぅーん」
そんな事を思っていたら子犬姿のファウストが寂しそうに鼻を鳴らす。すっかりファウストを仲間外れにしていた事に改めて気付く俺。
「わるいわるい」
そう言ってファウストの頭を撫でてやる。おぉー、モフモフフワフワの手触り……ルピィに見つかったら何時間でもモフられそうだな、うん。
「……えっと、 ファウスト?」
「オン!」
「わー! しーしーッ!」
俺は慌てて子犬──ファウストを黙らせる。そんなに慌てるのには当然訳がある。それはこの宿屋に泊まる時は1人だったのに一晩明けたら実は子犬付きだったなんて知られたら……追加料金が発生しかねないからである!
『随分セコい考え方ですね、我がマスターは』
「うるせぇ! ってか人の心を覗くな! 節操が無い魔道具野郎が!」
『私をそんじょそこらの魔道具と一緒にしないでください。 私は「知性ある魔道具」であり──』
俺の文句に待ってましたと言わんばかりに饒舌になるコーゼスト。まさに売り言葉に買い言葉!
「分かったわかった、《既知世界最高》の魔道具『共生之腕輪』なんだろ?」
『その通りです。 マスターとの同化が完了した暁にはこの深淵なる知識は全てマスターの物になるのです』
「いや、 盛り上がっている所悪いんだが──俺はお前を早く外したいんだが?」
『────』
本当にお前は都合が悪くなると黙るな。
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そんな事をしていたらファウストが潤んだ目でこちらを見ている──おっと! またファウストの事を忘れてた。
「あー、 ファウスト」
「くぅーん」
「お前、俺の言ってる事は解るのか?」
今度は鳴かずに尻尾だけをブンブン振り回すファウスト。
「お前、頭良いんだな……」
また頭を撫でてやる。うんやはりモフモフだな。
「これからは俺の言う事聞くんだぞ? 俺がちゃんとお前の面倒を───ぁ」
そこまで言って、はたと、撫でくる動作が止まる。俺はぎこちなく首を左腕に向けると
「えーっと、コーゼストさんや?」
『何でしょうか? マスター』
すっかり忘れていた肝心な事をひとつ確認するのだった。
「ファウストのエサは何を喰わせれば良いんでしょうか?」
『この仮想体だと普通の子犬の餌やりと変わりません』
「そうなのか?!?」
それなら昔、俺が飼っていたジョゼフィーヌみたいにすれば良いのかな?
「それなら──」
改めてファウストの頭を撫でくりながら
「宿屋の外に出たら何か買ってやるからなぁ。少し待っていろよ?」
俺の言葉に尻尾をぶん回すファウスト──尻尾ちぎれないか?
『マスター』
子犬のファウストを撫でくる俺にコーゼストが何やら言ってきた。
「ん? なんだ?」
『この件を冒険者ギルドに報告する事を進言します』
「あぁ………そうだよなぁ~」
俺はファウストを膝の上から降ろしてから、ベットの縁に改めて座り直した。
「……コレはなんて言えばいいんだか…………」
俺の横で尻尾を振っているファウストを見ながら、どうしたものかと頭を抱える。
『ありのままを話せば良いかと』
……だよなぁ……でもなぁ…… 。
「……ギルマス、ひっくり返らないか……これ?」
どちらにしても冒険者ギルドへ──いやギルドマスターへは報告せざるを得ないが……またギルマスの胃が痛むのが目に浮かぶ。
「仕方ないかぁ……」
そう言いながら俺はギルドへ行く為に準備をしようと立ち上がる、と─── 。
『マスター』
「……なんだよ?」
コーゼストの何気ない問い掛けに、つい不機嫌に答えてしまう俺。
『ファウストをどの様に部屋から連れ出すのですか?』
「……あ」
そうだった!どうやって部屋から出るか考えないと駄目だったんだ!
俺は一度立ち上がったベットに座り直した──色々と痛む頭を抱えながら── 。
「……ワンコ、黙って連れ込んだ事にしようかな……はァ」
結局主人公の名前がまだ出てません…