騎士と魔王は復活する
とりあえず一話目だけ作ってみました。どうやら最近のはやりのようなので、乗っかってみようかと…
「まもなくですな、我が王よ」
感慨深く、普段は名前で呼ぶ親友ダムスを、らしくもなく王などと呼んでしまった。だがそれも仕方ないことだろう。こいつは、もう間もなく真なる意味で世界を統べる王になるのだ。そして、考えていたことはダムスも同じらしい。顎鬚を軽く摩り、同じように感慨深げに答える。
「そうだな、我が騎士よ。……長かった」
20年前、北の大地から発生した魔族による大侵略が起こった。大陸の中央部に拠点を築く人間族は、魔族の大侵略によって一時は王都を攻め滅ぼされかけるまで追い込まれたが、俺とダムスが中心になって立ち上がった義勇軍を中心に魔族軍を巻き返した。その時敵対関係だった西のエルフ族、東の獣人族、南のドワーフ族とも協力をして、何とか魔族を北の大地へ追い返した。
それで終わればよかったが、魔族は攻勢を崩さなかったため徹底的に殲滅するまで攻め続けるしか手はなかった。交渉の糸口すらなかった。
そうしているうち、ダムスは王として祭り上げられ、俺は『無敗将軍』などという大それた肩書までつけられてしまった。
「だが、これも今日までだ」
「そうだな、ここで魔族を滅ぼし……平和を」
今、眼前には禍々しい城砦がある。『魔王城』と名付けられたその城を、10万を超える軍勢が隙間なく取り囲んでいる。陥落も間近であろう。
「もう俺もお前も、四十近い。随分と老けたものだ」
「そうだな。……お前にはまだ王として堪えてもらわねば困るが、老兵の俺はこの戦いで潔く去ろうか」
「ほう、無敗のまま勝ち逃げか。最強の将軍というのも、最期は随分とせこいことをするものだ」
「抜かせ。お前が贅肉を拵えないよう、いくらでも稽古をつけてやるさ。……それに」
俺は一度言葉を切る。
「――――若い連中は十分に育っている。最早俺が剣を振う必要などあるまい」
「――――そうだな、その通りだ。うむ、もう勝ちも揺らぐまい。どうだ、祝杯でも挙げんか」
「む、お前の悪い癖だぞダムス。そう決めつけている時に限って……」
そうダムスを窘めているところで、凶報が届く。
「で、伝令ッ!!魔王城最奥から、正体不明の敵戦力がッ!突入部隊壊滅の危機、至急指示を!」
二人は揃って大きく息を吐く。
「……うまいこといかないものだな」
「戦場とはそういうものだ。……俺が出よう。やはり最後の始末は着けなければならんらしい」
「そうか。……よし、アヴァン。魔王城内に突入し、魔族の最後っ屁を摘み取ってこいッ!」
「承知ッ!!」
俺は、これまでの戦で俺の代名詞となった猩猩緋の外套を身に着け、黒に鈍く光る大剣を肩に戦場へ向かった。
―――――それが、俺がダムスをみた最後となった。
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「……ここは、どこだ」
ピトン、ピトン、という水滴の落ちる音で目が覚めた。暗い。ほんのりと光を放っているのは魔水晶だろうか、僅かに紫がかった光で照らされ、そこが洞窟の中であることが分かった。
だが、なぜこんなところにいるのか、靄がかかったように思い出せない。思い出そうとしても、頭に鈍い痛みが走るだけだ。
……ならば仕方あるまい。当面記憶は諦め、まずは外に出るか、そう思い姿を起こす。どれだけこの蹲った姿勢でいたのか、体中の間接という間接が悲鳴を上げた。体の回復を示すような、なんとも心地よい悲鳴だ。
魔水晶以外に光がないので、どうやら洞窟の深い位置にいるか、入り口が塞がれているかのいずれかであろう。後者であると塞がれた箇所を見つけなければならない分だけ面倒だが……。
そう考えていると、その思考に割り込むように声が聞こえた。
「ぅん……」
呻き声。気づかなかったが、どうやらすぐ隣に同じ境遇の者がいたらしい。それはむくりと起き上がり周囲を睥睨した。そして俺と同じように、何かを思い出すように難しい顔をする。
「ここは……我は確か……む?」
「女、お前にはここが何処か分かるか」
「……ここが何処かは分からん。だが貴様が誰かは思い出したぞ、アヴァン=キリシア!!」
「如何にも俺はアヴァンだが、俺にはお前が分からん。名乗れ」
何も思い出せない以上、まずは今後の協力者となりうるこの女と情報を交換するべきだ。そう判断しての言葉だったが……随分と唖然としてるように見えるな?
「……20年以上戦い続け、10日以上も切り結んだ相手を前によくそんな事が言えたものだな貴様は。……いや、そうか、貴様は戦うことしか頭にない戦闘狂だった。本当に当時の記憶がないのかもしれんな……」
「怒鳴ったり驚いたり呆れたり、賑やかな女だな。今はとにかく情報を得ねばならん。知っていることがあるなら話せ」
俺の言葉に女はため息交じりで応える。
「……はぁ、分かった。我は魔族を統べる女王、イリア=ヘルアーク。魔族の討伐だと息巻いて我が居城に土足で踏み込んできた貴様と10日以上も剣を交わし、遂には城ごと沈められた我こそが魔族の王イリアだ。思い出したか鳥頭」
「む?いや待て――――そうか、思い出したぞイリア。確かに俺はお前との死闘の間に魔王城の崩落に巻き込まれて……なぜ生きている?」
「我こそそれを問いたい……!確かに我は最後の手段として城に時間固定魔術を施しておいたし、それが城の崩壊を合図に発動したと考えてもよい。だが何故貴様までその対象になっている!?なんで我は生き返ってまでこの鳥頭と顔を合わせねばならんのだ!!」
「そうか、よく分からんがお前の仕業か。それは助かったと言わざるを得んな!よく分からんが!」
「不慮の事故だッ!!」
何故か怒り狂っているイリアは右手に炎玉を作り出した。それを見て俺は咄嗟に右側に跳ぶと、元々俺がいた位置には青白い炎が燃え盛っていた。火種がなくとも燃え続ける、地獄の炎だ。
「どれだけ時間が過ぎたかは知らんが、やはり貴様とは決着をつけねばならんか…!」
「まぁ待て。なんでも力で解決するような短慮を起こしてはならん。まずはこの洞窟を脱するため力を合わせねば。そうだろう?」
「……部外者ながら、貴様のもとにいた何万という部下共を哀れに思うぞ」
「む?まぁ戦う気が削がれたというのであればそれは僥倖。まずは出口を探すとしよう」
俺は自分の足元に落ちていた愛剣を拾い上げる。やはりこれがあると何とも落ち着くな。
「……出口ならすぐそこだ。ついてくるがいい」
「む?だがこの近くに外からの光などないが……」
「この洞窟は我が城に設計した魔術によって生成されたものだ。陥落の危機には形状を変えて迷宮を作るようにな。……ここはもう迷宮の出口に近い。魔術的な細工で隠蔽してあるから見ただけでは分からんがな」
「ふむ……この洞窟はお前の仕業ということか。なら話は早いな、案内しろ」
「だからついて来いと言っているだろう!」
イリアとともに歩くこと数分、イリアが魔術錠を解き洞窟が不自然に開いていく。そこから差し込む強い日光に、俺とイリアは二人とも目を細める。果たして、この洞窟の外には何が待ち受けているのか。俺の知っている風景なのか。不安はあるが、そんなものはこれまでこの大剣で切り裂いてきた。どんな時でもこの猩々緋の外套に勇気づけられてきた。それは、これからも同じである。
「さぁ!どんな魔族でも天災でも来るがいい!俺は何にも負けぬ!!」
意気揚々と外套をはためかせた俺の眼前に待ち受けていたのは――――。
棒でつつきあって遊ぶ子供たち。御者のいない鉄の馬車が行き交う街道。摩天楼のごとくそびえる鈍色の建築物。
「…………なんだこれは」
呆然とする俺の傍ら、イリアは太陽に魔術を当て、現在の時代を調べる。
「……神聖暦1462年、我らが生きた時代の千年後か」
ぽつりと、そうつぶやいたのである。
反響があれば、続くかも