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それぞれの思いを胸に

ーーー

 ---

  ---


「華閻の立ち居振る舞いが家出を機に変わってしまったと朱雀から報告があったのね。私は本当の母として正しに行く義務があるのね。そして、捕らわれた最愛の神、式神を救いにいく。お前はどうするのね?もっとも今のお前じゃ私の足手まといなのね・・・。それにお前がいなくても向こうの連中はみな二日間、あの世で言う2年間の修行に耐え自分たちの取り返すべきものを取り返すべく戦うはずなのね。お前はここで炬燵にあたって丸くなってあくびでもしてればいいのね」


ナヨタケの言葉ににゃー子は首を横に振ると、起き上がる意思を示す。


ナヨタケはもう大丈夫とスサオノミコトとともににゃー子から離れる。にゃー子は起き上がった。


「ほう、ではどうするのね、ついてくるのか、ついてこないのか!!」


強い口調でナヨタケがにゃー子に問いただす。

「すべてを取り戻す、そして2年間その修行に耐えて見せる」


嗚咽を必死で止めながらにゃー子が叫ぶとナヨタケはにゃー子の手を取った。


にゃー子の姿がセーラー服の橘菜子の姿に戻る。


「わたしはサトリと違い一切甘やかさないのね、覚悟するのね。お前の仲間たちはすでに七福神に託してある。朱雀が事情を話して以来親交ができて今では厚い信頼で結ばれている今日この頃なのね。さあ、いくぞよ、月。魔界へと」


闇の渦の中へ二人は身を投じた。

一方、愛梨沙は、闇の渦から草の生えた道すがらに放り出された。体をさすりながら辺りを見まわす。夕方、灯りもない。古いつくりの民家がぽつんとあり、愛梨沙は急いで蛇に見つかる前にと駆けていく。


しかし、奇妙。見たことあるけど思い出せない。しかも。現代の家とは到底考えられない。愛梨沙が引き戸に手をかけたとき、中から声が聞こえた。


愛梨沙はそっと中を覗く。


「うっ」


愛梨沙は思わず叫びそうになるのを堪える。中には目の悪そうな粗末な身なりのおじいさんと尻尾の二股に分かれた大きな猫が喧嘩していたのである。


愛梨沙は会話の内容から整理してあることを思い出した。


ここはにゃー子が最初に飼われていたいた清兵衛さんの家だということに・・・。そして、清兵衛さんの前にいるのがにゃー子の仲間の長寿なる雄猫。


おそらく、清兵衛さんの命を取りに来たのだ。止めるべきか?


しかし、この時代のにゃー子とは面識もないし、猫又に挑んだところで生身の愛梨沙ではいただきますと食われてしまうのが落ちだろう。ここは一つ様子を見ることにした。


「・・・わしの命一つで済むならこの命捧げるというておる」


「早まるな、月も助けたいが恩人のお前も助けたいと思っている。だから、妙案をこうして膝を交えて毎晩考えておるのではないか」


「へ?」


鳩が豆鉄砲を食らった顔で愛梨沙はだいぶ話が違うぞと混乱する頭の中で思った。長寿という猫がにゃー子を助けるためにあっさり命を奪ったことになっているのにどういうことなのだ、愛梨沙は引き続きそば耳を立てる。

「ええい、くどい猫よ。このしわ首こうすれば済むまでのこと」


清兵衛は最後の力を振り絞り自ら首を鎌で斬りつける。


「なんと!!」


慌てた長寿は清兵衛の止血をしようと喉元に前足をあてがう。長寿の白い足先は見る間に赤く染まりゆく。


「こ、これでよいのだ。わしはもう長くない身。月のために死ねるならば本望じゃ」


「何と馬鹿なことをこんなことをして月が喜ぶとでも・・・」



「どうわああああっ!えらいこっちゃああ!!」


愛梨沙は右に左に暴れだす。どうしよう・・・。


そこに若い綺麗な女性が水の桶を持ち帰ってくる。月千代に違いない。愛梨沙はすべてを伝えようと意を決した。


ーーー瞬間、強い力に引かれ再び暗い闇の中へ。渦を巻きながらどこかへ消えてしまった。



次に気付いた時は赤い曇天の雷響く、荒くれの大地。目の前には心配そうに覗き込む白いひげの立派なおじいさんが一人。きらびやかな衣装で立っていた。


「お、お爺さん、誰?ここどこ?」


愛梨沙はむあっと立ち込める空気の中、いきなりおじいさんに質問をかました。


「ここか?魔界じゃ」


「そうなんだ、魔界…。魔界?ーーーってあの世ってこと?冗談じゃないわ、どうなってんのよ、私、死んじゃったってこと?にゃー子はどうしたの?おじいさんは誰?」


愛梨沙は怒濤のごとくおじいさんを責め立てた。

「いっぺんに言われても困るんじゃが・・・。まず、君のことだが死んではおらん。ただ、生死の狭間にある状態じゃ。その術師の札がなければ間違いなく死んでいたところじゃ。おそらく並々ならぬ神通力を注ぎ込んだに違いない。それから、なんとか子ちゃんのことじゃがその子は生きている。おそらくナヨタケとこちらに向かっているはずじゃ。ーーーで、わしのことじゃが・・・、七福神は水の神、恵比須じゃ」


「恵比寿様ー!!」


愛梨沙は恵比寿と名乗ったおじいさんをまじまじと眺めた。そういえば狩衣に釣竿や鯛を抱えている。


「仲間もそれぞれ、わしら七福神のもとで修行に励むことになっておる。それぞれの特性を生かせと言われておるんじゃが、お前さん・・・、どうも『ただの人』のようじゃが・・・」


恵比寿は首をひねりながら愛梨沙の顔を見て思案する。そうだ、愛梨沙は神通力が使えない、ごく普通の女子高生だ。


「う~ん、この子の取り柄・・・」


恵比寿は腕を組み更に首を傾け悩みだす。


「え、恵比須さん。な、なにかあるでしょ?私にも取り柄・・・。ほら、かわいいとか、綺麗とか、セクシーとか・・・」


愛梨沙は身体的特徴を取り柄とはき違えてアピールしだす。取り柄のない女性なんて、あまりにもショックすぎる。


「う~ん・・・」


恵比寿は倒れんばかりに傾いていく。


ーーーその時、小さなクジラのような生き物が愛梨沙の足元にすりすりすり寄る。


「恵比寿さん、この動物何?」


クジラが陸に?しかもひれではなく足が四本。背中に翼・・・。


「こやつは魔界獣と呼ばれる生き物でな。ものすごく大きくて強力な神通力を使う魔物になる。飼うものの心根次第で毒にも薬にも・・・」


そこまで言いかけて、恵比須は恵比須顔で手を叩く。


「その手があったわい。わしとしたことが」


「え、何?私の取り柄とこの魔物がどうしたの」


愛梨沙はまだわかっていないがどうやらこの魔物を飼育してペット化して戦うことを恵比寿は思いついたようだった。


「めでたいので、ひとまず踊るぞ。愛梨沙とやら、後に続けえー。それ、めでたい、めでたい、めでたいなー、あ、それ」


「え、な。なにがめでたいの・・・?え、何?」


愛梨沙は訳も分からず、恵比須の踊りのあとに続く。魔界獣も楽しそうに体を揺らし踊り始めた。




一方、彩萌は全く見たことのない、おとぎの国の姫様の部屋のような場所に来ていた。可愛らしい装飾とぬいぐるみの山。ピンクの壁紙、ふかふかのお姫様ベット。とてつもなく広い部屋。


彩萌は辺りを見まわした。その時、扉が開き何か大きな物体が部屋に飛び込んできた。彩萌はとっさに物陰に身を潜めた。


「う、あれは、銀狼さん!!」


大きな声に思わず彩萌は自らの口を押え、胸から下げた殺生石に手をやった。衝撃の弾みで飛び出したのかと思ったからだ。


しかし、その様子はない。彩萌は不思議に思い、銀狼の様子を陰から見張った。


何やら口にくわえていたものを銀狼は床に放り出す。


彩萌はその正体をすぐ認知した。傷だらけの猫又だ。にゃー子と華閻の言っていたにゃー子の仲間の雄猫に違いない。


とすれば、華閻の話によると、その雄の猫又はひどい尋問の上に嬲り殺したと言っていた。


僕は過去の世界に飛ばされたのか・・・。でも、どうする橘君の仲間がこれからやられるのを黙って見過ごしていいのか?


彩萌は物陰から歯痒はがゆそうに、事の成り行きを見ていた。


ーーーと、そこへ華閻が現れる。


「銀狼、帰っておったのか、どれエサの時間にでもする・・・。銀狼?ひどい怪我ではないか、どうした・・・ん?猫又ではないか、さては銀狼おのれ、下界で悪さをして参ったな、この馬鹿者が!!誰か、誰かおらぬか」


華閻の言葉に彩萌は出るタイミングを失い、再び様子見に転じた。


「お呼びですか?華閻様」


 ワインレッドのはかま姿の朱雀が華閻の前に現れた。


 「銀狼のやつが猫又を咥えてきた。傷の手当てをするのじゃ。そして、エサと水を与え、傷が癒えたのち放してやるがよい」


華閻は朱雀に申し付けた。朱雀が華閻に一礼して、引き下がると、猫又の元へ朱雀は歩み寄る。


猫又は威嚇するように背中の毛を総立て、爪を全開に唸り声を上げる。


朱雀は構うことなく猫又の額に右手の甲を押し当てた。猫又は借りてきた猫のようにおとなしくなり、朱雀の言うことを素直に聞き出した。


「本当に馬鹿狗め!!あれほどいっておったろうに。お前が遊び半分でじゃれたつもりでも神通力じんつうりきが強すぎるお前では皆を傷つけてしまうと…。以後しばらくは一匹での外出は禁止じゃ。わらわとのみ散歩は許す、わかったな」


華閻が銀狼の鼻先に人差し指をあてがいこんこんと説教している。


「どうなってんだ、一体!?」


彩萌は頭を抱えた。華閻は猫又をなぶり殺すどころか傷の手当てをして野に戻すと言っている。


夢か幻か…?


彩萌は狐につままれたように頬をつねった。


ーーーその瞬間、愛梨沙同様強い力で再び闇の中へ回りながら落ちていく。


こちらもまた、七福神の一神と出会い、愛梨沙と同じような事を言われ、修行の道へ…。




一方、マユは草むらの中へ放り出されていた。


敵襲に備え、槍をくるくると体の周りで回すも虚しい一人舞台。


手持ちぶさたに槍を肩にかけ、辺りを見回す。


ーーー倒れている大きな毛深い生物が三匹、マユの目に留まる。


「やや、あれは熊の死体…?いや、猫じゃ。体はでかいが紛れもなく猫…。いや、猫又。一体なぜかような道に三匹も…」


マユが近づこうとすると、内の一匹がよろめきながら立ち上がる。


マユは驚いて、木の陰に身を潜める。


そうこうしているうちに他の二匹も起き上がる。

体の傷が痛々しいが、命に別状はないらしい。


「しかし、月千代のやつ手加減しておればやってくれるわい 。にしても狐とはとんだ邪魔が入ったものだ」


ボスの風格漂う虎が首を振り振りぼやいた。


「まったく、これじゃ計画も台無しだねえ」


身だしなみを整えながら虎の妻、竹がため息をつく。


「うまくいけば月と長寿の仲も取り持てたというのにさ…。それにしても長寿のやつ狐に殺されていないか心配だよ」


霧舟と呼ばれた雌の猫又が空を見上げた。


虎が清兵衛の心臓を所望したのは長寿と月千代の仲を取り持つ芝居だったのだ。


虎たちが悪者になり、なにも知らない正義の味方、長寿が虎たちを成敗する。月千代は長寿を惚れ直し、めでたく結ばれる。


もちろん、長寿ごときに殺られる虎たちではない。やられたふりをして三匹で別の場所でノンビリ暮らすつもりでいたのだ。


なにも人を殺さないでも神通力さえあればエサには事欠かない。


それに人に濡れ衣を着せられ、追っかけ回されるのはもう疲れた。


三匹は人に化けて暮らす手筈を立てていたのだ。


マユは、豆鉄砲を食らった顔で三匹の話を聞いていた。


その顔のまま、闇の渦に再び呑まれていった。


一方、姫子は、いきなり天高くからまっ逆さま。

悲鳴と共に森の木々をなぎ倒し、何かの上に落ちた。


助かった。


木々のクッションに次ぐクッションの上、何か大きなものの上に落ち、怪我せずに地上に到達した。


白い影が姫子の前を横切り、藪の中へと消えていく。


何だろうと息吹かしがる姫子の下に倒れていた大きなものが動き出す。


姫子は転びそうになるのをこらえ、立ち上がった姫子の下敷きの正体を見上げた。


「おのれ、貴様何者だ。もう少しで猫又を生け捕りにできたというのに…」


「うわあ」


姫子は腰を抜かして、声の正体を見上げた。


麒麟だ。


聖獣と称されるその姿は神々しき金色の竜の姿。厳つき鱗より発する金色の神波は、近寄るだけで姫子の肌を切り裂きそうなほどの勢いだ。


「あ、あっちしは、スサオノミコトが妃、稲田姫。無礼はそちのほうでありんす!!」


姫子は眩しさと体に感じる刺す痛みに耐えながら、虚勢を張って答えた。


「稲田姫だと…?見たところ貴様幽体のようだし、格好も珍妙だ…。稲田様なら天界に今おられるはず…。かようなところにおられるはずがない。稲田姫の名を語る不届きもの!!私が成敗してくれるわ、覚悟せい」


麒麟の背中の鱗が刃物の音を響かせ、一斉にいきり立つ。


「ぬわー、殺されるー!!」

姫子は無駄と知りつつ、目を瞑り、両手を差しだし、身を縮めた。


ーーーそこに、強い力が姫子を引っ張り、再び闇の渦の中へと引きずり込む。


間一髪助かった姫子もやはり、魔界へ…。


姫子は勝手知ったる環境なので七福神の話も飲み込みが早かった。


ダーリンのスサオノとの連絡も取りつつ、修行の道へ。





一方、メイは気づくと固いアスファルトの上に寝ていた。


暗がりに灯り。メイは懐の術符に手をやる。


ボロボロに焼け落ち、身代わりになった事を確かめる。


戦いにウエイトを置いていれば、もう少し蛇たちに善戦出来たかもしれない。


しかし、結局はあの神通力と数の差。みな命を落としていたであろう。


神通力の大半をこの術符に費やしたことは決して間違いではなかった。


メイは立ち上がりながらそう思った。


ここでメイは自分がセーラー服であることに気づいた。


確か、私服だったはず…。


ここで、琴音たちと戦ったあと、薫子が行った行動や教室の様子を思い出した。


めちゃくちゃにされた教室が元通りになり、事件がなかったこととして、書き換えられていた事を…。


恐らく、今回もこれから起こりうる未来に向けて書き換えられたのだろう。


メイは辺りを見回した。

不意に明るい火の手が上がる。


男性の悲痛な叫びにメイは肩を押さえ、足を引きずりながらその場所へ向かう。


メイはここがどこで、何が起きたのか尋ねようとするが誰も答えてはくれない。


そればかりか、メイを無視して素通りだ。


メイが途方に暮れていると隣にはいつしか大きな白い獣が座っていた。


「そなた、幽体のようじゃな。人にはみえぬ」


メイはその声にハッとした。月千代だ。


メイはにゃー子の言葉を思い出した。高速道路の上、セーラー服の女子高生…。


と、すればこの騒ぎは橘菜子の事故現場。


メイは更に現場に近寄り、まだ息のある母、香織を残る神通力を振り絞り、治療する。


「ムダじゃ。助かっても三日持つか…。何ゆえに治療する?若き術師よ」


月千代は脱け殻のようにメイの様子を見つめる。何か厭世の末、全てを諦めたようにも見えた。


「なんと言われようと私はこの人を助けます!」


メイは月千代を睨んだ。しかし、月千代には光の加減でその様子は見えない。


「一人救ったとしてこの世に救われない命はごまんとある。救ったとして、いずれは尽きるもの…。なぜかようなまでに熱くなる?」


「救える命がここにあったからです…。たとえ、数十秒の未来でも魂が生きたいと叫べば私は力を貸すだけです!」


メイは拳を握りしめ、両足に力を入れて答えた。


「ふふふ」


「何がおかしいのですか?」


「ーーーお前にはわかるまいな。この国で起きた惨劇の数々を・・・。わずか、50年。この国は全てを忘れたように立ち上がった・・・。しかし、わらわはもう疲れた。多くの犠牲を目の前にして何もできず、ほとぼりが冷めたころに出てきて恋だ、愛だと・・・。わらわにはそのような資格はないのだと・・・。初めから無理だったのだ。6等星よりもはかなくかなうことのないわらわの運命など」


「だからあきらめるんですか?」


「何?」


「私は何も知りません。でも、誰だって忘れたわけじゃない・・・。その惨劇を、悲しみを、痛みを・・・。忘れないからこそ再び立ち上がってその分まで生きて、笑って、泣いて、憤るんじゃあないんですか?私はあなたを見損ないます。田助さんを・・・。田助さんとの愛を貫くために生きてきたんじゃあないんですか?あなたがそんなことでは華菜さんは本当に浮かばれません、月千代さん!!」


あらん限りのメイの声に呼応するように香織が息を吹き返す。現場から喜びの声が上がる。


「わらわの名前をなぜ・・・?そなたは一体?」


いいですか?あなたはこの橘菜子の人生を生きるんです!!そうすればきっとあなたの探す田助さんに巡り合えます!!」


メイは涙ながらに陽一の胸の中で眠るように動かない菜子を指差した。そして、猫じゃらしを月千代の手に押し込める。 


ーーーと同時に強い力がメイを闇に引きずり込む。


ま、待て、そなたは一体・・・?」


月千代の言葉がメイの耳に残る。そのままメイも魔界の地へと消えていった。




一方、かえでは何かの建物の廊下へ投げ出されていた。独特のにおい。看護師の姿。パジャマ姿の人。顔色の悪い人。医者・・・。


かえではここが病院であることに気が付いた。


うち、なんでこんなとこへ来たんやろう…?


通りすがりの人に声をかけるも完全に無視され、ここがどこの病院なのかさっぱりわからない。どうも、入院患者の病棟らしいのだが・・・。


途方に暮れたかえでは待合室の長椅子に腰掛け、頬杖をした。


ーーーと、眠そうな顔をして、点滴を引きながら少女がかえでの前を通過した。その際、じっとこちらを見ている。ふてぶてしい面構えに少しかえでもまごついたが物は試しと満面の笑みで手を振って見た。


少女は首を傾げ、小馬鹿にしたような態度でそのままあくびをして去って行った。


「なんや、あのガキ。めっちゃむかつくわ・・・」


しばらく、椅子に腰かけていたが何も手がかりが得られず、かえでは思い切ってさっきのの少女の病室を探してみた。消灯時間を迎えていた。


どうやら、一人部屋のようだ。かえではお邪魔しますと断って中に入ってみた。


「誰だ」


静かだが確実に届くはっきりした声。かえでは驚いて、肩を踊らせる。


「えっと、あの、ここはどこですか?」


驚いきついで。子供相手にかえでは直立不動のまま敬語を使ってしまう。


「ここか・・・?病院だがそれがなにか?」


当たり前だと言わんばかりに少女から返ってくる。


「そうですよね、はははは・・・」


かわいくないガキやな・・・。


かえでは愛想笑いするが、完全に腹が立っていた。


「そなた気は確かか?見たところもう高校生のようだが・・・」


穏やかだが、少女は歯に衣着せぬものいいである。


「それ、うちのことバカって言ってるの?」


「そこまでは、わらわは言ってはおらんが・・・。そなたバカなのか?」


真剣な顔で少女はかえでに質問する。かえではやぶへびと思ったが子供相手にここで引き下がるわけにはいかない。


「バカちゃいます。うちは・・・ええと、その。あの、・・・そうや、アホやねん」


「どう、ちがうのじゃ?」


更に真顔で少女は前のめりになる。


「え?ああ、それはあれや。バカは風邪ひくんやけどアホはひかないねん・・・」


かえではうまいこといったつもりでドヤ顔をする。


「くっくく…くふふ、愉快なおなごじゃ」


少女はよほどお気に召したらしく目を瞑って静かに笑う。この果てしない上から目線にかえでが完全に切れる。


「あのな、さっきから人のこと小ばかにして、うちの方があんたより年上やで。年上を敬うんが礼儀や、あんた年なんぼやねん?」


「ほう、わらわか。こう見えて、600は軽く超えておるが、そなたは一体いくつなのじゃ」


赤子をあやすように少女は目を細める。


「へ!?」


かえでは途端に目を丸くして、病室の入り口名貼ってある患者のプレートを確認しに行く。


「ひょっとして、橘菜子さんですか?」


かえでは病室に戻ると少女に敬語で話し始める。


「---と、呼ばれておるな・・・。そういう名なのであろう。この者を知っておるのか?先だって出会ったおなごも知っておったのだがどういうおなごなのじゃ、この橘菜子というおなごは・・・?」


「はあ・・・」


かえでは面食らって言葉が出ない。にゃー子のイメージ、面影が全くと言っていいほどない可愛げのなさだからだ。


「どうした?」


「いや、なんでもあら・・・。なんでもないです。いい?あなたはこれから望月愛梨沙という同い年の子のとこへ行きなさい。その人があなたの子孫で、田助さんを探す手がかり・・・。赤い糸が見える人です。そして、そのあとおこ・・・?うお?いやー!!」


そこまで言いかけたかえでは強い力に引かれて闇の渦へ消えていった。


後に残されたにゃー子は首を傾げ呆然とする。今のは果たしてなんだったのか?---にしても、田助の手掛かりは得られた。後は、式神に訊ねよう。そう決めて、にゃー子はその日眠りについた。


この日、かえでが苦し紛れにはなったバカとアホの違いはにゃー子のネタとなり事あるごとに披露されている。のちに琴音との決戦が終わったのち、彩萌に「バカ」と名指しされたときにもこの名言は飛び出すことになる。


次の日、待合室に一人テレビを見て座るにゃー子の元に一人の入院患者が近寄る。


「ねえ、君。昨日は誰と話してたの?」


貧弱そうな青年が不思議そうににゃー子に訊ねた。昨晩トイレに起きた青年が誰もいない部屋の入り口に向かって語りかけるにゃー子を見ていたのである。


オカルト大好き青年はトイレに行くことも忘れ・・・。いや、一人でトイレに行くことができなくなりずっと外で立ち聞きしていたのであった。


「ああ、幽霊とな少し会話を・・・。正確には幽体でまだ死人ではないのだが・・・」


にゃー子はすらすらと常人には理解不能なことをしゃべりたてる。普通の人ならにゃー子のすべてをを疑うところだが青年は信じる。


この子…、きっと神様だ!!


青年は身の上相談をにゃー子にし始めた。にゃー子は的確に相談に応じアドバイスをしていく。青年は涙しながらアドバイスに耳を傾け、頷く。


にゃー子の手にはいつしか教鞭のように振り回すあの猫じゃらしが・・・。


青年はそれを手に取り、眺めまわす。

「こ、これだ。ボクはまさにこれを求めていた・・・。よし、決めた!!僕はこれを作るぞ、いつかこれを作る会社を立ち上げるんだ!!菜子ちゃん、ありがとう、僕頑張るよ」


青年はつきものが落ちたように足どり軽く病室へ戻って行った。彼がのちの「わんにゃんファクトリー」の社長であるとはこの時のにゃー子には知る由もない話である。


それよりも、大事なことににゃー子は悩んでいた。

自分がどうふるまっていいのか全く分からないのである。


明治以降、人に成り代わってこなかった。まして、子供の立ち居振る舞いなぞ遠い大昔の出来事。気恥しさばかりが先に立つ。


一人浮いていることも承知の上。早くこの世界の子供になじまなければ・・・。


にゃー子はテレビをじっと見つめながら肘をつき考えていた。


「皆さん、ご一緒に・・・。私はあなたのきらめきアイドル。夢と希望の・・・」


「にゃんにゃんはりけーん!!」


テレビから聞こえるきれいにそろった掛け声。待合室の患者や見舞いの客たちも声には出さないものの無言でポーズを決めている。


にゃー子は驚きの表情と共にそれを見た。どうやらこれが今この国で流行っている魅力ある者たちらしい。しかもその魅力ある者たちはにゃー子と変わらない年の子から高校生まで幅広い層の子たちだ。


周りにいた子供たちもああなりたいと望んでいるし、大人たちも子供をああ育てたいと話している。


「あの『あいどる』というやつを真似すればいいのじゃな。・・・少し、気恥しいがやるしかあるまい」


自分に納得させながら、にゃー子は自分の橘菜子を作り上げていく日々を歩き始めた。


時に挫折しそうになりながら、時に陽一と香織の優しい愛情に触れながら・・・。ぶれることなくにゃー子へと成長していくのであった。


一方、薫子はすでに魔界の荒野を眺めていた。横にはひょうたんを抱えた千鳥足の老人・・・。七福神の一神、寿老人がいた。


薫子が見た過去。それは華閻が麒麟に操られ、その「質」のために言うなりになっている閻魔の姿であった。


そして、薫子の手に握られている魔界新聞には華閻と桜林ナオトの祝言の記事が一面を賑わしていた。時折新聞はぴかりと光を放っている。


この新聞面白いことに写真の中で会見の様子が映像のように動いているのだ。ある一定の様子を伝えるとまた最初の様子に戻り、何度もループして会見を伝えている。


しかし、薫子はそんなことは構っていない。仲間のため、自分自身のためもう一度己を奮い立たすために荒野を見つめ続ける。



仲間たちもこの広い荒野のどこかで皆その時を待ち、修行に身を投じている。



本当の戦いがいま幕を開ける・・・。


















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