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回想 ナヨタケ

ーーー

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まだ日本が平安時代の頃、ナヨタケは月の王宮にいた。


まだ幼いナヨタケ。イタズラ好きの元気な女の子であった。


月から眺める綺麗な星、地球を見ていつも想いに耽るのが日課であった。

いつか地球に行きたい。

その思いは日増しに強くなっていく。


しかし、父と母にとってナヨタケは大事な一人娘。出来れば、自分たちの目の届くところで幸せになってもらいたい。


年頃になると月の神々の中から選ばれた皇子と無理矢理婚約させられてしまう。


親への反発。


ナヨタケは地球行きの牛車に密かに乗り込み、王宮を逃げ出した。


家出。

意地を張った。心細さより好奇心が勝る。


やがて、空より陸地に近づくと月から眺めているよりもはるかに瑞々しい大地の緑と水の青さにナヨタケの心は躍る。


はやる気持ちを抑えきれないナヨタケは牛車の外に身を乗り出して外の様子を見入っていた。そこで、ナヨタケはふと轟音に空を見上げる。


赤子ほどの大きさの焼けた石が牛車めがけて降り注いでくる。隕石だ。


ナヨタケは牛車から飛び出すと、隕石を破壊すべく渾身の神通力で立ち向かう。


果たして、隕石は木端微塵。しかし、その風圧でナヨタケはあわれ、天空より地面にまっさかさま。


気付いた時は傷だらけで竹藪の中に倒れていた。


神通力をほとんど使い果たしたナヨタケは竹の中に身をかくし、力が戻るまでと深い眠りに入る・・・。


どれほど、眠っていたであろうか・・・。目を覚ました時にはナヨタケは見慣れぬ家の中で見知らぬおじいとおばあにやさしく見守られていた。  


神通力を取り戻すにつれ、見るまに成長していくナヨタケ。


一途に愛情をかけてくれたおじいとおばあを無下にも出来ず、また、親の愛情を身に染みて感じたナヨタケ。


しかし、今更月に帰るわけにもいかない。妙案を考えていた頃、式神にナヨタケは出会った。


鬼のような形相でありながら親身に相談に乗る式神にいつしかナヨタケも心ひかれるようになる。

しかし、ナヨタケの美貌を時の権力者たちが放っておく訳がない。


ナヨタケはこの地球でも望んでいない縁談を勧められることになる。


ナヨタケは無理難題を申し付け、断り、式神の元へ向かった。


二人はそれから暫く、仲睦まじく暮らしていた。


ところがある日。ナヨタケの居場所を突き止めた月の使者たちがやって来る。


ナヨタケは追手だと早合点し、式神に伴われて逃げ出してしまった。


月の使者はナヨタケを連れ戻しにきたのは確かであったが事情が少々違っていたのでたいそう、あわてふためいた。


何としても連れ帰らねばならない。月の使者たちは閻魔に頼んで、ナヨタケを探してもらうことにした。


月の王と王女はナヨタケのわがままのために権力をなくし、反乱の憂き目にあっていた。そんな中、王は心労から病の淵へ。先が長くはないと診察されたのだ。


この事実を知らせるため月の使者たちは閻魔に頼み、探し出す約束を取り付ける。


ーーー条件。閻魔は絶世と言われたナヨタケを妻にすること。そのため月を救う援軍を派遣することを決めた。


そうとは知らない、ナヨタケは閻魔の使いの心使いと父の病気を知らせてくれた閻魔に礼を言う。自分もその閻魔軍の遠征について月に帰りたいと願い出た。


しかし、許されない。地球に留まり、しかるべくに送り届けると返事されたのである。しかも危ないので閻魔のそばに居を構えるように通達が来る。


おかしい。


ナヨタケは思った。父が危篤なのだ。いざこざはあったにせよこうして遠路使者を使わす親心。そして、その親心を知るようになった自分。どうしても一目逢いたいと思うは自然の情。


なのにそれが許されぬは何故か。ナヨタケは式神に調べてもらい、真実を知る。月の使者たちを責めたてた。


式神も閻魔の命令には逆らえぬ。二人は苦渋する。


なんとか月へ・・・。


月へ行く手段を何とか考えていた。


その時、式神が妙案を思いつく。天女の羽衣の存在だった。

天女の羽衣は神通力の強さでどこまでも跳び上がることが可能になる。ナヨたけほどの神通力の持ち主なら月まで行くことは可能であろう。


式神とナヨタケは弁財天のもとへ天女の羽衣を借りに向かった。


二人は必死に頼み込んだ。しかし、弁財天は首を縦には振らない。それもそのはず、天女の羽衣は弁財天の神通力の拠り所。しかも一張羅。気の毒だが別の方法を探してほしいと断った。


事情が事情だけに本当は心苦しい弁財天。ここで、彼女の湯あみの時間となり、二人は仕方なく帰り支度を始めた。


諦めきれない。


ナヨタケは式神に先に戻るように言うと再び弁財天の屋敷の中へ・・・。


ナヨタケはこっそり、湯あみ中の弁財天に木陰から忍び寄る。岩より湧き出る温泉の中、気持ちよさそうな鼻歌が聞こえてくる。木の枝に干された天女の羽衣。


ふわりふわりと風もないのに薄紅の生地が綿雲のように揺れている。


ナヨタケが手を伸ばす。


気付いた式神が止めようと走りこむと、踏んだ木の枝の音に驚き、鳥が一斉に羽ばたいた。驚き、振り返る弁財天。護衛の白峰が式神を見つけ取り押さえる。


ナヨタケは天女の羽衣にあと一歩というところで断念。見つかる前に姿を隠した。


憐れ、式神はまさに濡れ衣で弁財天の湯あみを覗いた愚劣な犯罪者に仕立て上げられる。本当のことなど言えるはずもなく裁判で有罪。無期の謹慎の身となった。 


死罪は免れたとはいえ、無実の罪で捕らわれた式神。


自分を責め続けたナヨタケは自ら閻魔の元へ犯人として名乗り出る。


閻魔は自分の妃になることを条件に式神の釈放に応じる旨をナヨタケに指し示す。


ナヨタケは式神を助けるためその条件を呑んだ。

ーーーその直後、ナヨタケの体に異変が…。つわり。ナヨタケは子を身籠っていたのである。


式神の子がいるナヨタケを妃にしては閻魔の名折れ。かといって事情を解した今、無実の式神をそのままにしておくわけにもいかない。


まして、弱味につけこみ妃の条件をつきつけ、ナヨタケをものにしようとしたなど世間にバレたらもとも子もない。


閻魔はここで妙案をおもいつく。閻魔の第1妃、三途の河原の脱衣婆との間に子供がない。


閻魔はナヨタケの子を養子にもらい受けることとし、式神の上司である朱雀を呼びつけた。

朱雀には一切の事情を話し、式神を救うための嘆願書を制作させた。


いきなり罪を減じたとなれば怪しまれるのは必定。閻魔たるもの誤った裁定を下していたとなればこれまた自分の沽券に関わる。


そこで、朱雀の頼みにより功績ある式神を許したとなれば自分の面子も保てる。ナヨタケの子を養子とする人質をとれば迂闊にナヨタケも他言しまい。


こうして三者の密約は結ばれたのであった。


反乱は、閻魔の援軍により鎮静化したものの父の容態は改善せず、亡くなった。ナヨタケは死に目に逢うことも叶わなかったのである。



ナヨタケの子は娘で、華閻(かえん)と名付けられた。


スクスクと育ち行く様にさすがの閻魔もデレデレになる。


他人の子とはわかっていても散切り頭を揺らしながら、父上とすりよられればやはり情が移ると言うもの…。


見目壮麗で賢く、優しい姫を溺愛し、甘やかすだけ甘やかした。


朱雀より時々、華閻の様子を聞いたナヨタケは胸を撫で下ろしていた。


ひどい仕打ちを受けていないか気が気ではなかったからだ。


自分の名付けた不死の山(富士山)が気に入り、その麓に居を構えたのもこの頃であった。


程なく、罪を許された式神。ナヨタケは父母を裏切った報いとそれきり彼に会わずに今に至ったのである。







 

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