メイ&かえでVSカマイタチ
一方、同じ頃、メイとかえでは、異空間の広がりに警戒しつつ、にゃー子たちと去年寝泊まりした社に到達した。
「かえでさん」
「はいっ」
何かの気配を社の屋根辺りに感じたメイが術符を構え、かえでがそれに従う。
ーーー突如、大気を切り裂く鎌風が斬撃となってメイたちに降り注ぐ。
メイは、咄嗟に術を唱え、結界を張ると鎌風を防ぎ、術を解く。
結界を張ったまま攻撃はできないからだ。ただし、次の敵襲に備えいつでも結界を張れるようにしている。
「ひゅらららら。やるじゃねえか、俺様の攻撃を一つ残らず弾くとは」
鎌風の轟音にのり、誰かの声が聴こえる。
「誰ですか?」
メイが屋根にいる二本足で腕組みする奇妙な狐のような獣を見上げる。
「よくぞ訊いた。俺様の名前は鎌鼬。鎌風の斬撃を操る妖怪だ」
両脇に腕をあてがい、上を向き、誇らしげに鎌鼬は、自分を誇示する。
「オカマのイタチやろ」
かえでが真顔で指差す。
「違うわ、ぼけっ!今時誰もそんなこてこてのギャグ言わんわ!!」
剥きになって鎌鼬が言い返す。
「知っとるわ、からかったんじゃ、ぼけ!」
かえでは鎌鼬にあかんべして応戦する。
「お前からたたんでやる、喰らえ!」
鎌鼬が両手をボールを投げるように降り下ろすと鎌風が呼び起こされ、かえでのもとへ飛んでいく。
かえでは、黒光りする天狗の妖刀でそれを弾き返す。
鎌鼬の呼び起こす鎌風の量が次第に激しさを増す。徐々に受けきれず、かえでの腕や頬をかすり、じりじりと後退する。
「これで、しまいだ!!」
両手を振りかぶり、鎌鼬が特大の鎌風の斬撃をかえでに見舞う。
「あぁっ」
視界に飛び込む斬撃の大きさ。かえでがあまりの大きさに目を見張る。間に合わない。かえでの足が止まる。
ーーーと、斬撃は、かえでの目の前で大きく弾かれ空高くへ消えていく。代わってかえでの前にそびえるは、土くれの壁。メイの術だった。
「かえでさん、防御は私に任せて!攻撃に専念してください!!」
「わかった、ほないくで」
かえでは、ポニーテールを揺らし、妖刀を両手で握りなおす。
「こしゃくな」
屋根の上から飛び降りた鎌鼬は鞠のように跳ねながら、鎌風を右から左から上からとかえでに浴びせかける。
そのすべてをメイの防御壁が弾いていく。
全てが、優勢と思われたが、攻撃がうまくいかない。
素早い鎌鼬の後追い。下手なモグラたたきのように一向に追いつけないかえで。
しかも、メイの防御壁があだとなり、妖刀を出すことができない。
おまけに人のいいかえでは、メイのことを気遣い防御壁の出し入れのタイミングを計ろうとして失敗するありさま。
メイが術を発動しているときに刀をだし、発動していない時に刀を引っ込める。
鎌鼬に殴られ放題。鎌風を受け放題。
メイのイライラは募っていく。
「かえでさん!!」
「あかん。うち、ダメな子や・・・」
かえでは、すっかりしょげかえり、戦闘の途中だというのに膝を抱え、いじけてうずくまる。
そこへ、にやりと笑う鎌鼬の大きな斬撃が轟音と共に飛んでいく。
「危ないかえでさん!!」
メイが、術を唱え、回避させようとするもあまりの威力に土くれの壁ごとかえでが吹き飛ぶ。
地面に投げ出されたかえでがうつ伏せに倒れこむ。
立ち上がろうと、前をかえでが見る。
ーーーと、今度は余所見しているメイに斬撃が襲いかかる。
メイは、斬撃をまともに喰らい、かえでのもとまで吹き飛んだ。
切り傷が痛々しいメイは、鎌鼬を睨みながら方膝たちで構え直す。無言だ。
「手間が省けたぜ、お前ら二人とも仲良くあの世へ送ってやる、くたばれ!」
鎌鼬が渾身の超特大鎌風をメイたちに投げつける。
鋭い鎌風の先端。触れれば真っ二つ。助からない。
かえでが、メイの名を叫ぶ。メイは立ち上がり、両手両足を踏ん張り仁王立ちでそれを迎え撃つ。
「調子に乗ってんじゃねーぞ!このイタ公」
メイが術を纏わせた右足で斬撃の軌道を空の彼方へ修正した。
「斬撃を蹴り返しやがったー!?んなバカな…。触れれば斬れる斬撃を生身の足で…。何かの間違いだ。今度こそ、息の根止めてやる」
再び、先程クラスの斬撃をメイに鎌鼬が投げつけた。
「ムダだって言ってんだろうが!うぜえんだよ!!」
両手で受けたメイは、相手の鎌鼬に丁重にお返しする。
斬撃は、鎌鼬を掠める。
唖然と動けぬ鎌鼬は、次の瞬間、自らの斬撃に体を斬られ、膝をつく。
「かえで!!」
がらっぱちな声にかえでがたじろぐ。それもそのはず。かえでは、メイがキレると気性の荒い先祖が顔を覗かせることを知らない。
突然、あのにこやかほんわかのメイの激変ぶりについていけないでいる。
「メイは…ん?」
「いいか、かえで。お前の両目に溜めた熱いもの…。絶対溢すなよ!一滴でも溢したら、俺がお前をぶっ飛ばすからな!母親に誓ったこと、死んでも忘れんな!ーーーお前はアイツを倒すことだけ考えろ、俺が絶対お前を護る!」
「わかったわ」
かえでは、迷いを消す。妖刀を両手で握り直すと立ち上がり再び襲いかかってくる鎌鼬を迎え撃つ。
激しく火花が飛び散る刃先は、重く甲高い金属音を響かせ、せめぎあいをつづける。
「絶対負けへん!!」
かえでとメイの呼吸が合う。絶妙のタイミングでかえでが撃ち、絶妙のタイミングでメイが防御する。
「おのれ…」
鎌鼬のイライラが募る。
「あ、あれなんだ?」
鎌鼬のカマかけ。
「え、どれ?」
かえでは、まんまと引っ掛かる。鎌鼬の鋭い爪がかえでの肩を貫き、かえでが妖刀を離してしまう。
防御を見越した鎌鼬は、斬撃の雨あられを上空から浴びせかける。
「どうだ、避けきれまい。ま、避けたとしても徹底的にお前を倒すまで追撃していくからな」
「結界!!」
メイが素早く術を唱えてかえでの周りに結界を張る。
斬撃の甲高い金属音がかえでを避けるように火花を散らしながら地面に落ちていく。
かえではその間、頭を低く下げて、身を護る。
結界により、斬撃が当たらないといっても衝撃は凄まじい。
地面に斬撃があたるたびに地雷が爆破したような衝撃と土埃をかえでは全身に浴びていく。
「こっちだ、バカイタチ!!」
自らの結界を解いたメイが鎌鼬を挑発するように手招きした。
「望みとあらば、まず貴様から消えるがいい」
鎌鼬の斬撃。避けるメイを追撃してくる。
「ムダだ!お前を捉えるまでその斬撃は、休むことなくお前を追い続ける…」
鎌鼬がニヤリと笑う。
ーーー鎌鼬の視界からメイが消えた。
焦る鎌鼬は、必死でメイの姿を探す。
「テメエで喰らえ!」
鎌鼬の目の前に現れたメイが斬撃をギリギリまで引き付けると、体を沈ませ、自らに結界を張った。
斬撃は、鎌鼬を捉え、切り刻む。
「いまだ、かえで!!」
メイの言葉に合図にかえでが妖刀を拾い上げ、一刀両断に鎌鼬を斬って捨てた。
「メイはん、コイツは一体!?」
「おそらく、にゃー子の月の欠片と涙を狙ってきた蛇の回しもんだろう、急ぐぞ、かえで!」
かえでが急ぐといっても…と思った矢先、メイの目の前に白い異空間のトンネルがあり、別の異空間が見えた。
どうやら、他のみんなもそれぞれ別の異空間にいるらしい。
かえでは、先にトンネルに乗り込んだメイの後に続いた。




