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デートorデッド 夏祭りの攻防

五月、六月と月日はあっという間に流れた。梅雨が過ぎ去り、カーンと照りつける太陽が新緑を一層色濃くする季節が到来した。


にゃー子たちも試験が終わり、無事に夏休みを向かえることとなった。


月の涙と欠片はそれぞれにゃー子と薫子が持つことになった。別々に持っているほうが襲われたとしても一緒に失うことがないので安全だろうと考えたからである。


桜林に早く使ってしまえば、そんな心配をしなくてもいいのだが…。一筋縄にはいかないようだ。

満月の夜に愛の告白と共に月の涙と欠片をサトリの神通力で溶かし、運命の赤い糸にかけねばならないからだ。


「健全」な高校生であるにゃー子が夜に男子高校生に会いに行くのは問題があるので今日まで封印していた。


しかし、計画は練られている。夏祭りだ。メイの神社はこの辺りでとりおこなう祭りでもかなり大きな祭りの部類に入る。 


ここに桜林ナオトを(おび)き出す…、じゃなく、誘うのだ。もちろん、愛梨沙たちも来るし、リュートやワタルも呼び出す。二人っきりのデートではないから堅苦しさはないはずだ。 


にゃー子とナオトが解決すれば後はヤマタノオロチを倒すのみ。


にゃー子は、三百年の時を思い、深い感慨に浸っていた。


話しはとんとん拍子に進んで、夏祭り当日。


にゃー子たちは待ち合わせた駅前で落ち合うと電車に乗り、目的地であるメイの神社を目指した。

男は、ナオトを筆頭にTシャツにジーンズ、手に団扇とラフな格好。


女子は、浴衣姿でバッチリ決めてきた。


にゃー子は、金魚をあしらった薄い水色。愛梨沙は、ハートをあしらった柄の赤い色。彩萌は、菖蒲をあしらった紫色。姫子は、あしらいなしのピンク色。かえでは、紅葉をあしらった茶色。マユは、朝顔をあしらった淡い黄色。



メイは、現地集合だが浴衣姿でいくことは告げてあるので統一してくるはずである。


ただ、各々、オロチとのバトルを想定してか下にはTシャツと動きやすい短パンを仕込み、靴も用意していた。


駅であった男子諸君の反応も上々だった。


「きゃわゆーい」とワタルは目を輝かせておどっていた。


「あーりん、良すぎていい」リュートは相変わらず何を言っているかわからない。


ナオトは、時々、にゃー子を見ては顔を赤くして言葉少なであった。


一行は、楽しいおしゃべりに花を咲かせ、祭りの会場に到着した。


「みなさん、こっこでーす」


神社の鳥居のそばから、にゃー子たちを呼ぶ声がした。


人だかりが凄い。前にも後ろにも人の山。こことメイに言われてもところてんのように前へ前へ押されて進むことしかできない。


大きな鳥居の横にある事務局のテントにいるメイの姿が後ろへ後ろへ流れていってしまう。仕方なくここでの合流をにゃー子たちは諦める。


「中に入れば、バラけるから…」


愛梨沙が、いないメイになりかわって説明する。


それにつけても、密集した人の群れは暑い。蒸しっとした空気にびっしりと汗が滲む。


「いいにおいだな…」


急に彩萌が鼻を突きだし、目を瞑る。かえでとマユが続く。


鉄板と食材のじゃれ合う音に一同、たまらず喉がなる。心なしか煙りも運ばれてくる。


設営のライトに照らされ、屋体が石畳の両脇に颯爽と並ぶ。視界がひらけると、提灯が鈴なりに軒をなす。

果たして、その光景がにゃー子たちの前に広がると同時に人がバラけて身軽になる。


何かに解放されたように皆で大きな伸びをする。

「どこからまわる?」


愛梨沙が皆の顔を見た。


「金魚すくい」「わたあめ」「やきそば」「射的」「りんごあめ」「ヨーヨー」


もうそれぞれの思いが吐き出されるままになり、端から順番と相成った。


まず、焼きそばで腹こしらえ。愛梨沙は、携帯でメイと連絡を取り、居場所を告げた。メイの分も注文しておき、待っていると、そこへメイが現れた。


「お待たせしました」


メイの声に振り向くにゃー子たちは思わず声を上げた。食欲旺盛なリュートとワタルの箸さえも思わず止まる。


メイにしては珍しく長い髪をアップにまとめ、ボリュームある仕上がりにしていた。ちょっと、大人びた雰囲気に言葉が出ない。驚きはそこに留まらない。長身、スレンダーを生かした着物もまたにゃー子たちの目を釘付けにする。紺地にうす紫の芍薬を斜めにあしらった品のいい紫の帯がさらに大人っぽくメイを際立たせる。そこへかわいらしさを一点。レースつきのふわふわ兵児帯へこおびを風になびかしている。


「天使みたい」


女子一同、目を輝かせて、兵児帯に夢中になる。彩萌は、特に熱心だ。リュートとワタルのテンションが上がっていく。


「なんで、あんたまでテンション上がんのよ、承知しないわよ」


愛梨沙が気付いて、リュートに釘をさすと、プイっとそっぽを向いてしまった。


「ええ?何で俺怒られんの、ねえ、ちょっとあーりん、あーりんてば・・・」


相変わらず、鈍感なリュートである。


こうして、女子は青海苔を気にしつつ、芳醇な香りいっぱいのソース焼きそばを堪能しつつ、次々と露店をめぐって行った。


金魚すくいの下手なにゃー子をナオトが優しくサポートしたり、射的で熱くなる男子に声援したり、ヨーヨー釣りの対決で盛り上がったり、童心に帰り無邪気に遊んだ。


そろそろ、宴もたけなわ。にゃー子とナオトを二人っきりにすべくみんながそろりそろりと動きだす。ある者は、トイレへ。ある者は、友を連れだって。あ…愛梨沙は、当然リュートとそれぞれ、そろりそろりと席を外す。


にゃー子の告白を待って、どこかに潜む薫子に呪いを解かせるのみ。


ーーーが、肝心の薫子がつかまらない。電話にでないのだ。


メイとかえで組、マユと姫子組、彩萌とワタル組で手分けして探すことにした。


程なく屋体を隈無く探していたマユと姫子が何かに気づく。


「あれ、田渕何やってんだろ?」


マユが指差す先に巨体を木陰に隠しているつもりで丸見えの田渕が何かをじっと見据えている。


気づかれないようにマユと姫子は、素早く田渕の後ろへ回り込み、その視線の先を伺った。


「ありゃま」


「しっ!」


姫子がすっとんきょな声をあげるのをマユが制する。田渕の視線の先には、いい感じに木陰のベンチに寄りそう薫子と上杉の姿が…。

「何やってんのよ、薫子」

マユが木陰から薫子にアイコンタクトを試みる。


しかし、薫子は、サトリの能力で気づいていながら見てみないフリをする。


「こうなったら…」


「どうするでありんす?」


マユが立ち上がり、走り出す。


「腐っても田渕って言うでしょ?」


「は?」


マユは、とぼとぼと祭りの中を肩を落とすヒグマのような不釣り合いな格好の背広の背中を叩く。

「田渕せんせ」


淀んだ顔で血走った眼に一瞬、マユと姫子はたじろぐが、そこは百戦錬磨。


マユが何事か言付けると鼻息荒く、巨体を揺らし、薫子のもとへ…。


「いけー田渕!」


マユが煽ると、一層暑苦しい顔を赤く火照らせ、滝のような汗を弾き飛ばしながら薫子のいるベンチに到着した。


上杉がたじろぎ、立ち上がると薫子を挟んで何やらひと悶着。


その隙に、マユは、薫子の袖を引っ張り、意地でにゃー子のもとへ連れだそうとした。


ーーー照明が落ちる。


三人は、立ち止まる。人が全くいない。屋台や社、建物だけが不気味に佇み、薄暗い。



「異空間」


ぶうたれていた薫子が凛と背筋を張る。


マユは、懐から棒を取り出すと何事か叫び、やがて棒は長い黒槍に姿をかえた。


姫子も低い姿勢で構える。




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