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 第四章 蛇編  春が来た!! 全員集合

暗く、赤々と燃える空に暗雲が漂う。切り立つ岩山は剥き出しの荒々しさで鋭い刃物の様だ。時折、熱風が吹き荒れ、雷鳴がこだまする。


点在する街の遥か外れにその山々に匹敵する和風な外観の城がそびえ立つ。


ーーー城の一室。畳こそ敷かれていたが円卓や椅子は、現代の物を彷彿とさせる作りで、西洋風であった。


奇妙なものもいくつかその部屋にはある。


窓らしきもの。不思議だ。中から外を確認することは可能だが、外からは壁そのもので中を確認することはできない。


円卓の中央に浮かぶ水の塊。何かを映し出している。


突如、その中に手を突っ込むものがいた。


野獣のような甲冑姿の大男は、全身同様、白黒の毛に覆われたその手に魚を一匹捕らえていた。


濡れていない。魚のみ活きがよくバタバタとその手の中で暴れている。


大男は、一飲みした。


「白虎殿!会議中ですぞ。法規並びに規律は遵守して頂かないと困りますな」

大きな黒縁眼鏡に前髪をちょろりと垂らした黒い学ランの小男が、静かに一喝する。


手にした茶表紙の分厚い本をバタンと嫌味のように閉じる。この小男もまた、普通の人間ではないようだ。尻尾がある。それも意思をもつ蛇の尻尾だ。


「玄武。まあ、そうかっかしなさんな。おまいさんの言いたいことも分かるが…」


何も答えない白虎に代わってワインレッドのシャツにカジュアルスーツのスマートな男が割ってはいる。


「朱雀殿…。そういえば先日の式神の件。どうなっているのですかな?一切沙汰がないのですが…。まさか、監督責任者のあなたがうやむやにするつもりじゃないでしょうな、朱雀殿」


玄武と呼ばれた小男が今度は朱雀に噛みついた。


「あらら、俺にとばっちりかい。あいつの処分はいま審議中だ。そんなに早まるなよ」


「まがいなりにも禁制品の持ち出しは、閻魔法第56871条4553項違反。厳しく追及されて然るべき…。それに式神には前科があります」


「弁財天の湯あみのことか…。まあ、男ならそういうこともあるだろう?それに謹慎処分が下され、もう済んだこと、いちいち蒸し返さんでもいいじゃない」


「なりません!男である前に『神』はあくまで神。あなたがそういう態度であらせられるから式神もそうなのです」


玄武は、眼鏡の縁に手をやると下に少しずれた眼鏡の位置を戻した。


「お、やれやれ。俺は止めねーぞ。そんな頭でっかち野郎、昔から鼻持ちならねえからよ」


横から白虎がちゃちを入れ、煽りたてた。手には、二人の口論中につまみ食いした二匹目のさかなが尾を左右に振りながらもがいていた。


「白虎殿!会議中だとあれほど、私めが申しあげているのに…。しかも、頭でっかちは聞き捨てなりませんなあ…」


「だったら、どうしやがる頭でっかち野郎」


白虎は、持っていた魚をかじると玄武と向き合った。白い妖気と黒い妖気が入り交じり、互いを威嚇しあう。


「やめとけ、おまいさんたちがここでやりあったら魔界だっていくつあっても足りゃあしねえ。それに…」


朱雀が円卓を人差し指で軽く二度叩く。


「ーーー下に響いて、下界に何かあったら…。洒落にならねえ。世界を護る四使徒自らが世界を壊したとなっちゃあ、閻魔様も黙っちゃいないぜ」


朱雀の言葉に二人の妖気は鎮まった。


「ふふふ。確かに…。私としたことが白虎ごときに取り乱すとは。しかし、最近の閻魔様には目を見張る。法の大切さを(ようや)く、ご理解頂けたようで何より…」


「けっ」


白虎は、唾を吐くように顔を背けるとその場から立ち去った。


「待ちなさい、白虎殿!」

「…」


立ち去る白虎の跡を追う玄武を尻目に朱雀は、呆れたように頭をかいた。

朱雀には納得のいかないことがある。最近の閻魔の様子だ。目を見張る頑張りというよりは、目に余る行為に朱雀には映ったからだ。


大罪人、大悪党の類いならまだしも、ちょっとしたことで魔界に人々の御霊を送ってしまう。


天界に昇った綺麗な御霊まで魔界に引きずりおとし、無理矢理処罰を始めたからだ。


天界の神々も困っていた。送られてきた90%以上の御霊が魔界送りになってしまったからだ。


おかげで天界は閑散。魔界は罪人ですし詰め。各々が適当な罪名のもと適当な地獄送りになっていた。


「逃げ足の速い虎だ。そういえば、青龍殿も来ていない…。全く嘆かわしい。これでよく四使徒が勤まるものだ。朱雀殿、今日はこれにて…」


戻ってきた玄武が溜め息をつきながら、自分の言いたいことだけ告げると(きびす)を返した。そして、一人ブツブツと不平を漏らしながら分厚い書物を小脇に抱え、足早に部屋を後にした。


「お互い苦労が絶えないね」


朱雀の後ろから声がした。朱雀がふりかえると、会議用の椅子が綺麗に横一列に並んでいた。


「何だよ、いたのかい。青さん」


ぼんやりと椅子の上に腕枕なぞして、体を横たえる青いシャツの男が浮かび上がる。


「早く着いたはいいけどやることなくてさ…。一杯先にやってたら眠くなっちゃって…。」


欠伸をしながら、上体を起こした青さんと呼ばれた男が両手を伸ばして伸びをする。四使徒の一人、青龍だった。


ーーー四使徒。東の青龍、南の朱雀、西の白虎、北の玄武。国を護る守護神で一人でも欠けると国に災いが及ぶと言われている。


朱雀と青龍は、仲が良い。考え方も似ている。白虎のように力でねじ伏せるわけでもなく、玄武のように理論でねちねち責めてくるわけでもない。

「すーさんよ、最近の閻魔様。あれどう思うよ?」


青龍がもう一つ欠伸をしながら朱雀に訊ねる。


どうやら朱雀と同じことを青龍も気に留めていたらしい。


「俺もちょっと、気になってたんだ…。せーさんは何か考えがあるんかい」


「ああ、下界に(いぬ)神を遣わしてみようと思う」


「下界に?」


「華閻様も下界でおかしくなっていた。蛇のやつがどうもまた動き出してやがる。その後ろには、閻魔様のところに頻繁に出入りするようになった…」


「麒麟か…」


青龍が言い終わらぬうちに、朱雀が答えた。


外の雷鳴が部屋に鳴り響く。



ところかわって、都内近郊、三毛根高校。三学期は、あっという間に過ぎた。


学校が落ち着かなかったせいもある。爆弾立てこもりでかえでの勇姿が全国に中継されたのがきっかけで、三毛根高校の名は一気に全国区へ。


しかも、かえで目当てに倍率はうなぎ登り。急遽増刷した願書にかえでの写真を使うという姑息な手まで使う念の入れようだった。



入試の準備に在校生まで手伝わされるという前代未聞の事態になったのである。



そして、気づけば、春の足音。校庭には桜の便りが届き、新学期。


三年B組となった愛梨沙とにゃー子は、新学期特有の新鮮な雰囲気が漂う中、教室のドアを開けた。


マユとメイの姿があった。二人は、愛梨沙たちの姿を見つけると両手を胸のあたりで小さく振りながら髪を揺らし、二人の元へ飛んできた。


「また、同じクラスですね、嬉しいですぅ」


メイが軽く跳ね上がって、喜ぶ。


「よろしくねー」


愛梨沙たちは、にこやかにあいさつした。


ーーーと、にゃー子が何かに気付いた。


「にゃんだ、彩萌も一緒かー」


愛梨沙たちが振り向くと、教室の一番後ろの席に緑川彩萌の姿があった。


相変わらず、ショートカットの頭にはサングラスを乗っけて、校則違反の緩めのネクタイに腕まくりのスタイルは崩さない。腰かけた椅子は後ろの二本脚で絶妙なバランスを保ち文庫本なぞを読んでいた。


「やあ、奇遇だねよろしく」


椅子を勢いよく戻したあと、立ち上がった彩萌はみんなに挨拶をした。


「あら、あんたも一緒?偶然にしては出来過ぎね。みんなと一緒がよくて、神通力ちから使ったんじゃないでしょうね」


愛梨沙が疑いのまなざしで小声で、彩萌に詰め寄る。ちなみに彩萌は、狐の妖怪である。以前は、にゃー子たちと敵であったが今は、蛇を倒すため、仲間として行動している。以前、学園祭のくじ引きで、アタリを引き当てたので、今回も神通力でクラス替えに細工したのではないかと愛梨沙は勘ぐったのだ。


「とんでもない。いくら僕でもしないよ、そんなこと。どんだけ、ボクを寂しんぼキャラにしたいんだい、望月くん」


彩萌は、やれやれといったように大きく両手を広げて見せた。


長身のほんわかした黒髪の少女、メイが何かに気づいた。彩萌の隣に座る眼鏡のショートカットにピンクのリボンを左右につけた少女だ。メイは、眼鏡女子に指を指す。


「姫子み~っけ、ですぅ」


「ばれたでありんす」


姫子と呼ばれた眼鏡の少女は、ぺろりと舌を出した。稲田姫子。スサノオノミコトの妻。オロチによって旦那が人形に変えられてしまい、女子高生に身を変え、にゃー子たちと行動を共にしている。


その原因を作って姫子に恨まれ、追っかけ回された挙げ句、決闘したのが、何を隠そう姫子をいま発見したメイこと、神宮寺メイである。


メイは、神社の宮司の娘。陰陽師を束ねる術師の家系の出。誕生日に術師として覚醒したメイは、にゃー子を敵と見なし、神社で大バトルを始めてしまったのだ。


ほんわかなメイが殺気だった姿を愛梨沙は、未だに忘れられない。


と、そこへ…。


「何だよ?お前たち、一緒か?」


長身のイケメンといけてはいないけど、爽やかなスポーツマンらしい男子生徒がにゃー子たちに話しかけてきた。


「ナオト…、それにリュート」


イケメンが桜林ナオト。にゃー子意中の人。この人の中に田助さんの御霊が宿る。無事オロチの呪いを解けば、二人は、ラブラブになる予定…。


スポーツマンが宇都宮リュート。愛梨沙の意中の人。相思相愛だが、全く前に進まないもどかしい二人。


と、更にそこへ…。


「にゃー子はん」


クラスの扉が開かれ、廊下から響く声。ポニーテールを揺らす長身の女子生徒に一同視線を向ける。


「お、にゃんか用か、かえで」


にゃー子たちの仲間で年下キャラの蔵前かえで。本当の姿は、にゃー子が助けた天狗から産まれた娘。


「茶道部の入部届欲しい思ってきたんやけど…。担任おらんの?」


かえでが中を覗き込む。

「担任?このクラスの担任誰にゃ?」


にゃー子が周りを見渡すも誰も首をひねるばかりで、答えない。


それもそのはず、これから発表される予定だからだ。


「何や、みんな知ってはるんやと思ってたわ、聞いてへんのか」


かえでの一言で嫌な予感が皆に走る。同時に背筋を冷たいものが通り過ぎた。


「おー、お前らー。いい春休みだったかー?また、私のかわいい教え子になりたいなんて…。どんだけ私のこと好きなんだ」


にこやかに爽やかな春のスーツに身を包んだ黛薫子が登場した。


愛梨沙たちは、思った。にゃー子と一緒であるときから、ある程度予測しておくべきだったと。

あまりに、出来すぎた話しだったと。


かえでは、さっさと自分の用を済ませると小走りに自分の教室へもどっていった。


後に残されたものは、にゃー子を恨めしげに見た。


「ちょ、ちょっと、待つにゃ。にゃんでにゃー子をそんな目で見る?」


おかしいだろとにゃー子が両手で否定しながら抗議する。


「ごめんなー、早くお前らの喜ぶ顔が見たくて…。私ってば隠しておけない、イ・ケ・ナ・イ・オンナ。じゃあな、始業式でまた会おう、諸君」


元気に手を振り、職員室へ戻る薫子。何を隠そう彼女が田助とにゃー子の赤い糸を結んだ張本人。読心術をもつ妖怪サトリである。






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