けんかしました
「おっかしいわね、にゃー子出ないわ」
愛梨沙は、心配そうにリダイアルを繰り返す。
すでに料理は出来上がり、にゃー子の帰りを待つだけとなっていた。
「先に始めてようよ」
サンタ帽を被った彩萌が椅子で舟を漕ぎながら愛梨沙に話しかけた。
「うーん」
愛梨沙は、悩んでいた。にゃー子は今、神通力が使えない状態なのだ。もし、にゃー子の身に何かがあったら…。
「私が見てきましょうか?」
メイが立ち上がる。そこへ、元気のいいただいまがこだました。
「ごめん、ごめんナオトにスーパーで会っちゃって…」
にゃー子が嬉しそうに言いながら席についた。ケーキやらご馳走に目を輝かせる。
「ちょっと、待ちなさい。にゃー子、何時間待ったと思っているのよ」
時計を指差した愛梨沙の目は真剣だ。にゃー子が買い出しに行ってから軽く3時間経っていた。
「まあ、何事もなかったんだしいいじゃないか」
彩萌が間を取り持つと、姫子も愛梨沙の肩を揉んで座らせようとする。
「よくないわよ、みんなアンタを待ってたんだからね!!心配して…。それを何?桜林と会ってました!?信じられない、友達放っといて」
「あーりん」
メイとマユも愛梨沙に気持ちを抑えるように声をかけながら立ち上がる。
みなで座らせようとするものの愛梨沙は振り払い頑なに拒否する。
「みんな、あんたのこと心配して待ってたのよ」
「だから、謝ったじゃにゃいか」
「謝ればいいってもんじゃないでしょ!!」
険悪な雰囲気にほかの者たちがおろおろと始める。とてもクリスマスパーティーを執り行える雰囲気ではない。
「出てきなさいよ、あんたなんか人の気持ちぜんっぜんわかってない!!」
「あーりんのばかー」
にゃー子はじんわりとしたものを目に溜めたまま走り去ってしまった。姫子が慌てて後を追おうとする。マユとメイは顔を見合わせる。
「望月くん、少し言いすぎだよ・・・」
「いいのよ。すこしお灸すえてやんなきゃ。わたしがど~んだけ、心配してたかなんてわっかんないんだから」
愛梨沙は、四分の一ほどの大きさに切り分けたケーキをそのまま一口でがぶりとかみついた。鼻息が聞こえてきそうな豪快な一口であった。
彩萌もそれ以上に愛梨沙をせめることはしなかったし、ほかの者もそうだった。
愛梨沙が心からにゃー子を非難していないことを知っていたからだ。愛梨沙が何度外へ様子を見に行ったことか…。愛梨沙が何度電話をかけたことか。そのたびに何度にゃー子、にゃー子と叫んでいたことか。
さらに、マユ以外の者は、にゃー子が今神通力が使えないことを愛梨沙から聞かされていた。だから、愛梨沙の心配する気持ちが痛いほど理解できるのである。
「料理冷めちゃいましたね・・・」
メイが寂しそうにテーブルの上を眺めた。周りに野菜サラダを綺麗にトッピングし、ミニトマトを散らしたメインディッシュの丸焼きチキンが浮かばれずにど真ん中に居座っている。サイドのマリネもくたびれて、よれよれだ。フライドポテトも水分でべったりとしおれてしまっていた。
「もったいないし、温めなおして食べよ」
しおれたポテトを一つマユがつまむ。
「おなかが空けば、戻ってくるでありんすよ、きっと・・・」
姫子も自分に言い聞かせるように温めなおすため皿を持って立ち上がった。
愛梨沙もケーキの塊を豪快に頬張り飲み込むとシャンメリーを流し込みみんなの後に続いた。
楽しいはずの一時がただ時を刻むだけの食事会に変わる。
しばらく経って、メイが切り出した。
「そろそろ、にゃー子さん迎えに行って二次会始めましょ。ね、あーりん」
マユと彩萌が横目で愛梨沙を伺う。愛梨沙だって拳を振り上げた手前、自分からにゃー子の迎えに行くのは格好悪かった。
かといって、頭にきてにゃー子を怒鳴ったものの自分としても行き過ぎなのはわかっていた。
時計をソワソワ見ている愛梨沙の気持ちを推し量り、メイが口を開いたのだった。
「行こう。橘くんも反省しているよ、きっと」
「やっぱ、みんなで食べた方が美味しいし」
「さ、迎えにいくでありんす」
最後は、姫子が愛梨沙を立ち上がらせた。愛梨沙も黙って頷く。
立ち上がった愛梨沙は、誰よりも早く玄関に飛び出していた。
愛梨沙の隣の家。そこがにゃー子の家だ。正確には、海外出張しているにゃー子の親戚の家なのだが、にゃー子の進学やら父の陽一の単身赴任やらの関係で貸してもらっている家だ。
愛梨沙は、にゃー子の玄関のインターホンを鳴らした。
中から返事してでてきたのは、にゃー子の母親、香織であった。
いつもきちんとしている香織にしては珍しく、トレーナーというラフな格好であった。恐らく、にゃー子が友達を泊まりに連れてきたら、寝巻きというわけにもいかないからであろう。それでも、折り目正しく決まっている。
「こんばんはー、にゃー子居ますか?」
愛梨沙が恐る恐る訊ねた。
「あら、愛梨沙ちゃん達、一緒じゃなかったの?」
質問に質問が返ってきた。
「ちょっと、喧嘩しちゃって…。帰ったものだとばかり思っていたから…」
まずいことになった、愛梨沙は、言い出しにくいことをゆっくり搾り出しながら香織に説明した。
「僕達、探してくる。薫子にも連絡する」
彩萌たちは、走りだした。
そこへ、にゃー子の父親の陽一が帰ってきた。
「あぁ、愛梨沙ちゃん。こんばんは」
陽一は、まだ事の仔細を知らずのんびりした笑顔で愛梨沙に挨拶した。しかし、玄関先のただならぬ雰囲気に顔色を少し曇らせた。
「何かあったのか」
おじさん。にゃー子が…」
愛梨沙は、謝り謝り、泣きながら事情を陽一に説明した。
にゃー子の携帯にかけるが繋がらない状態が続く。




