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月を見ちゃった!!

あの騒動から半月後。


無事終了式を向かえ、にゃー子たちは、クリスマスの準備に追われていた。


かえでだけは、一旦島根に戻り、父や蔵の事務の引き継ぎやらを行い、大阪の実家で支度を調えなければならず帰郷してしまった。


久しく、普通の高校生らしい生活とかけ離れていたのでここらで一息というのが本音かも知れない。


半年の間、いろんなことがありすぎた。愛梨沙もくたびれてしまっていた。


何せこうも周りに妖怪がうようよいようとは…。

猫に狐の同級生。おまけに担任までサトリとは。世間がいかに広いようで狭いか高校生ながらに実感していた。


愛梨沙は、自分の部屋でにゃー子と二人、明日の飾りつけや段取りの打ち合わせをしていた。


今年のクリスマスは、愛梨沙の家でやる。


寝床の確保は、隣の家ににゃー子もいるので心配ない。


「ふふ」


「にゃ?」


突然、作業の手を休め愛梨沙が含みに近い笑いをしたので、にゃー子は、意図が判らず戸惑った。


「半年の間ににゃー子と出会ってから色々あったなって…」


「あぁ、そういう事か…。にゃー子も驚いている。オロチだけとバトる予定だったから、あーりん結構巻き込んじゃったにゃ」


にゃー子は、済まなそうに頭を下げる。


「そんな事ないよ。にゃー子がいつも守ってくれたじゃない。ありがとう」


「そんにゃこと」


にゃー子は、顔を赤らめて下を向いた。


「オロチぶっ飛ばしてナオトとラブラブになっても私たちの友情も変わらないよね、約束だよ」


愛梨沙は、たちあがって窓の外を見つめた。


「うん、約束する」


にゃー子もつられて、立ち上がる。


「じゃ、にゃー子。あのお星さまに誓って指切りげんまん」


愛梨沙は、にゃー子に小指を差し出すとロマンチックな瞳の輝きを放ちながら窓の外を見上げた。


にゃー子もそれに習い、窓の外を見上げた。




と、大きな黒くつややかなにゃー子の二つの(まなこ)は、光り輝く大きなお星さまに焦点があってしまった。


にゃー子にとってその星の引力は、絶大すぎた。恐いものを見ると、動けずその対象を見いってしまう、その感覚に似ていた。


「にゃあああああああああああああ!」


まるで、愛梨沙がゴキブリに遭遇したかのような奇声に近い絶叫がこだまする。


愛梨沙の方がビックリして腰を抜かしてしまった。

間髪入れず、下から愛梨沙の母親と父親がとんできた。


愛梨沙は、二人の顔を見て、ドキドキする胸がそのまま、顔になったような表情で首を横に小さく振った。


愛梨沙とにゃー子の無事を確認すると、少し小言を言い、下へ下っていった。


「あー、驚いた。にゃー子、ビックリさせないでよ。心臓止まるかと思ったじゃない。どうしたの」


愛梨沙が、まだ、ドキドキする胸を押さえながらにゃー子に訊ねた。


「つ…き…。お月さま、見ちゃった…」


にゃー子があわてふためく。こんな姿のにゃー子も珍しい。


「月?月が何よ?」


愛梨沙は、不思議そうに取り乱すにゃー子をなだめる。


「今日は、満月じゃにゃいかー!!」


「えー!?」


愛梨沙は、忘れていた。にゃー子が満月の呪いをかけられていたことを。そして、満月が仲秋の名月以外にも毎月あるという事実を。


事あるごとに、にゃー子に注意事項として言われていた。うっかりしていた。


満月の呪い。にゃー子が、昔メイの先祖である術師に追われた時にかけられた呪いのことである。

満月になるとしばらくにゃー子は、神通力が使えなくなるのだ。


にゃー子は、アレルギーの克服の如く長い年月をかけてゆっくりと呪いの効力を薄めてきた。


その甲斐あって、満月を直接見なければ、神通力を失わず、また、仮に見てしまった場合でも24時間経てば神通力が使えるまでになっていた。


かける言葉もないほどしょげかえるにゃー子。


「な、何落ち込んでんのよ。神通力がないくらいで。一日我慢すればいいだけじゃない。私なんか生まれてこのかた神通力なくって17年も生きてきたんだからね」


明るく、にゃー子の肩を叩いて励ます愛梨沙。


他人事だと思って、という強い意思を含んだにゃー子の恨めしげな視線に針のむしろに座らされた罪人のような気持ちで愛梨沙は、乾いた笑いで取り繕うのであった。


次の日。クリスマスイブ。朝から愛梨沙の家に集まった面々は、料理やら飾りつけやらに大忙しだった。


途中、調味料の買い忘れに気づいてにゃー子がその大役を仰せ使った。


近くのスーパーに立ち寄ると、桜林ナオトに偶然会った。


ナオトは、手に持ったチラシを見て、真剣な表情で特売の豚こま肉を探していた。


ナオトは、父が単身赴任。母親を亡くしていて、おじいさんの留吉と二人で暮らしている。


高校生ながら家事、炊事をこなしているのだ。


にゃー子は、ほくそ笑みながらナオトの後ろにそっと近づいた。


「わ」


「わあ、おどかすなよ、って橘か…」


ナオトは、むっとした表情を慌てて笑顔に張り替えた。まさか、こんなところでにゃー子に声をかけられるとは思わなかったからだ。


うれしいことは、うれしいが買いもの姿を見られるのは思春期真っ盛りの男子としては決まり悪い。


まして、チラシ片手となると何となくセコい男に見られそうだし、何より、気になる女の子の前だとなると尚更だ。


「買いもの?」


ナオトは、気を反らすかのように話しかけ、ポケットにチラシをしまった。


「うん。ナオトも」


「あ、あぁ。夕飯のな」


鼻の頭をかきながら落ち着かない様子でナオトが返事をする。


「手伝う」


にゃー子がナオトの手からカゴを奪い取った。


「え、いいよ」


チラシの特売品漁ってましたのカゴをナオトは、必死に取り返しにかかる。


にゃー子は、気づかないふりをしてメモの品を探していく。決まり悪そうにナオトが後に続く。


最後の精肉コーナーに差し掛かると、にゃー子はあっさり特売品の肉を探しだした。


「覚えておくといいよ。ここのスーパー、安くていいんだけど特売品のコーナーは日替りで場所が変わるから…。時には端の上の棚にあることもあるから」


にゃー子はにこやかにカゴをナオトに返した。


「おかしいだろ、特売品漁っているみたいで。俺格好悪いよな」


しおらしく、ナオトが先に切り出した。にゃー子が気づかないふりをしてくれたことに自分の気持ちがいたたまれなくなったのだ。



別に悪いことはしていない。ただ、好きな女性の前で格好悪い。そんな気がしただけだ。おしまいかも知れないナオトの頭にそんな予感がよぎった。

「何で?生活していくんだから普通じゃにゃいか。一生懸命やりくりしている姿が格好悪いことなんて絶体ない」


意外にあっさり好感触な反応にナオトは、口元が緩んでしまった。


楽しい時に時間がたつのも忘れてしまったにゃー子。携帯の呼び出しはマナーモード。振動音に気づかない。




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