回想 月千代 終
逃げる月千代。
そこへ、竹が姿を現し、月千代の行く手を阻んだ。振り返った月千代の前に霧舟。遅れて虎丸が現れた。
打って出る月千代。竹と霧舟に返り討ちに会う。所詮、なり立ての猫又。他の四匹の猫又とは、格が違いすぎる。
地面に落下していく月千代。とどめを刺しにくる、頭の虎丸。もはやこれまでと観念する月千代。
何者かが、虎丸に一太刀浴びせる。
長寿だった。
長寿は死んではいなかった。村人の注意が月千代にいった隙に、清兵衛の家から逃げ出していたのだ。
長寿は、月千代に逃げるように言った。そして、竹と霧舟の攻撃を凌いだ。
月千代には、もはや何が何だか分らなかった。すべてを整理する時間もなかった。逃げたくもあり、この場の成り行きも知りたくもあった。それは、決して興味本位ではない。
今自分の置かれている立場、そしてこれから月千代が何をすべきかを知るためであった。
虎丸が目覚め、長寿の首筋にかみついた。二匹がかさなるように落ちてきた。
すでに、竹は虫の息、霧舟も横たわったまま動かない、長寿と虎丸もひどい傷を負っていた。
二匹が雌雄を決すると月千代が思った瞬間、思わぬ邪魔はいった。
狐である。銀色の光り輝く毛並みに月千代は息をのんだ。
---と、同時にその狐が何者であるかを認知した。
尻尾が九つある。九尾の狐だった。猫又のかなう相手ではない。神通力の強さは、首の数か尻尾の数で決まる。自分よりも強い神通力を持つ妖怪を倒したのでなければ、神通力の差は、その数のまま決まる。
皆殺し
月千代の頭の中にその言葉がよぎった。月千代の足が恐怖で完全に止まった。
逃げろ、長寿のよく通る声が響き渡った。
我に返った、月千代は振り返らず反対の方へ、飛んだ。虎丸の惨劇のしぶきを浴びた。次いで、長寿の悲しい雄たけびを聞いた。
浴びた血しぶきに仲間のわずかに残る匂い。
月千代は何のために生きるか、何のために走るかわからないまま、ただ、前へ向かって振り返ることなく走り続けた。
独りぼっち。無我夢中で逃げた月千代がそれに気づいたのは半日も後のことだった。