黒扇丸(こくせんまる)暴れる!!
どてっ!!
和馬は、刀を振り上げたままの形で地面に倒れ込んだ。
愛梨沙たちも当の和馬も訳がわからない。
和馬の足元には、にょっきと何かが生えている。
手だ。
人間の手。
それががっしり和馬の両足を掴まえていた。
「にゃー子!!」
愛梨沙は、希望と期待を込め手に向かって叫んだ。
にゃー子がこれぐらいでやられるわけがない。
300年の恋を紡ぐため今まで戦ってきたのだから、
ただそれだけの理由で・・・。
愛梨沙は、手に向かって叫び続けた。
がばっと土が盛り上がりにゃー子がプールから上がったかのように土や木の葉を払うように身を振るわせて登場した。
和馬は、起き上がると再び石つぶてににゃー子を襲うように指示した。
積み上がった石つぶては空へ舞いあがりにゃー子へ飛んでいく。
石つぶてがにゃー子に迫った時、羽団扇が巨人の手のように広がりすべての石を受け止め握りつぶした。
完全に立ち上がったにゃー子の姿はいつしか耳がピンとたち、幾又にもわかれた尻尾が揺れ、白く気高い猫又の姿に変わっていた。
「黒扇丸、特別じゃ、存分に暴れてよいぞ」
羽団扇はその一言をにゃー子から聞くと握りしめた拳のような形のままひくひく
と何度か体を震わせた後、目一杯じゃんけんのパーのように羽を全開にした。
「く、く、くっくろうー」
高らかに鶏の出来損ないのような鳴き声を響かせ和馬の元へびゅんと飛んでいく。
何が起こったのか、愛梨沙たちもわからない。
「は、羽団扇がしゃべった」
和馬も驚いて、腰を抜かす。
黒扇丸は、主が散々な目にあったのがよほどお気に召さないのか、驚く和馬の目の前にズンと存在感を示すように立ちはだかった。
黒い羽でできたつややかなボディーは手のひらのようにも見える。
その人差し指と薬指にあたる部分を手に見立てた黒扇丸は、和馬にファイティングポーズで威嚇する。
和馬に構える暇を与えない。黒扇丸は、右に左に軽快なフットワークとともに和馬の顔面に絶え間なくパンチ?を浴びせていく。
右、右、左、左、ストレート、アッパ、ボディ・・・。
巧みなコンビネーションでつけ入るすきを与えない。
和馬の目の焦点が合わなくなって星がちらちら舞い始めたころ、にゃー子は和馬の後ろからそっと近づき、和馬の耳元でささやいた。
「男たるもの自分の行動には責任を取ってもらわねばな、和馬とやら」
「?」
和馬は朦朧とする意識の中でにゃー子が何を言わんとしているのか理解できずにいた。
「そうか・・・。わからぬか。わからぬなら仕方ない。ここは、お前が作り出した異空間。身をもって思い知るがいい。黒扇丸!!遊びはおしまいじゃ、こやつをあれへ」
にゃー子が指差した先にはさっき和馬が黒扇丸に命令して作り出した雷つきの大きな竜巻の渦が・・・。
「こっく・・・ろーーー」
グロッキーの和馬は、黒扇丸の掛け声とともに竜巻の渦に放り込まれた。
あーれーという悲鳴の後、和馬はぐるぐるとまわりながら竜巻の渦のヘリを下から上に転がるように昇って行く。
昇る途中で、和馬の体は、雷のしびれる激励に適度に歓迎された。
竜巻のてっぺんから吐き出された和馬は、黒こげになりながらまっさかさまに落ちてきた。
「天狗で命拾いしたな。その程度のけがで済んで。常人なら死んでおったわ。まだ、わらわとやるか?」
「参り・・・ました。二度と皆さんには手出ししません。けほっ」
天狗の和馬が借りてきた猫のようにおとなしく顎を突き出して、背中を丸めてへたり込んだ。
完全に降参した和馬の頭上を鷹のように旋回する黒扇丸。
そうかと思えば、地上に降り立ち、犬のようににゃー子の周りを吠えながら走り回る。
愛梨沙たちはその様子をポカーンと口を開け見ているしかなかった。
初めてみる得体の知れないモノ…。
果たしてこれは生物なのか、神通力の成せる技なのか、愛梨沙たちは、黒扇丸の動きをじっと観察した。
ー羽団扇ー
天狗の羽で編まれた団扇は、表面がびっしり黒い鳥の羽毛のようなもので覆われていた。
その形態は、人間の手のひらを細長くしたような形にも見える。
中指にあたる突き出た部分は、頭のような役割を果たしている。
人指し指と薬指にあたる部分は、手、駆け回る時の前足。並びに飛ぶときの翼らしい。
人指し指と薬指にあたる部分は、手、駆け回る時の前足。並びに飛ぶときの翼らしい。
小指と親指の部分は、足、駆け回る時の後ろ足。飛ぶときはやはり翼になるようだ。
柄の部分は、木のような材質でできたものに漆が塗られているのだが、尻尾のように黒扇丸は、扱っている。
口もないのに生意気にガウだのくっくろーだの鳴いたり、わめいたりするかとおもえば、ぷるぷる体を震わせたり、のびのびしたり、毛繕いなぞしたりしている。
黒扇丸は、にゃー子の言葉が理解できるのか、頷いたり、首を横に振ったりしている。
愛梨沙たちは、黒扇丸を観察すればするほどあっけにとられ、ただ驚いて口をあけるしかなかった。
「にゃー子、これ…動物なの?それともモノなの?」
愛梨沙は、にゃー子に訊ねた。
「羽団扇。だからモノといえばモノだにゃ」
「じゃ、なんで動くの?神通力?」
「わからない。ただ、大事にして話しかけていたらある日突然…。にゃー子だってはじめは、ビックリしたにゃ」
黒扇丸は、相変わらず、ドタバタとはしゃぎ回っていた。




