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スタン バイ

空から黒い雨が滝のように降り注ぐ。


倒されても倒されても、カラスたちは何度も起き上がる。


死に物狂いでにゃー子たちをくちばしや爪で襲い掛かる。


上からの攻撃がダメとなると横から下からと変化をつけ、にゃー子たちを翻弄しはじめた。


防戦一辺倒になった、にゃー子たちに焦りと疲労がみえはじめた。



「神宮寺…」


愛梨沙とともに、メイの作り出した結界にいる姫子がメイの袖を引っ張る。


「あっちしも戦う、だから頼む。この手を3分だけでいいから何とかして欲しいのでありんす。」


「でも、腕が元に戻らなくなっちゃうかも知れませんよ、酒が届くまでは…」

「この状況でそんな悠長いってられますのん?腕さえ何とかなれば、1回だけまさかの時の神通力(ちから)がだせるでありんす。そうすれば、必ず勝機があるでありんす」


「わかりました」


姫子の真剣さに押されたメイが術による治療を施した。


「もって3分ですからね」


「わかってる」


メイの念押しに姫子が覚悟の頷きをする。


「もう、限界だよ、橘くん」


彩萌が防ぎきれず、カラスの攻撃を数発浴びてしまった。


その被弾を皮切りに雪崩の如くカラスの攻撃は、彩萌の身体中に降り注ぐ。


「彩萌!」


にゃー子が、羽団扇でカラスを蹴散らしながら彩萌の元へ向かおうとするがおもうように歩が進まない。


「いい様じゃ、お前らみんな、カラスのエサになってしまえ」


空高く舞い上がった和馬の姿はいつしか天狗そのものになっていた。


大きな赤い鼻を空に向けて高らかに笑う。再び広がる異空間。


とその時だった。


「ごるらあ、天狗!!」


山中の鳥や小動物があまりのでかい声に慌てふためく。


和馬が声の主を探して訝しげに下を見つめた。


声の主は、姫子だった。


姫子は、片膝立ちで右手の拳を握りしめ、地面に突き立てていた。


そして、和馬の方を睨みつけ、タイミングと距離を図るかのようにゆっくり拳を地面につけたり離したりした。


「にゃー子、彩萌、神宮寺チャンスは5秒。あいつら寝かすから後は頼んだでありんす」


「あほか、何のつもりか知らんが、地面叩いてどないすんねん、ま、ええわ。飛んで火にいる夏の虫言うんはお前のこと言うんじゃ、カラスども、あいつもたたんじゃれ」

羽音と唸り声を響かせ、黒い塊が、姫子のすぐそばまで迫る。


「ー神通力、スタン…」


姫子が黒に呑まれたと誰もが思った瞬間、光のドームが姫子の体を包んだ。


カラスたちは、電気を浴びたかのように直立になり泡を吹いて白目をむきその場に倒れていった。

「神通力、スタン…倍!!」


姫子は、和馬に左手の平をかざすと、すかさず、右手の拳を足元の地面に叩きこんだ。


ドーンという地響きの後で地面から氷が割れるような高い音がピシッピシッと聞こえた。


次いで、姫子が拳を打ち込んだ場所から空にいる和馬のところまで一直線に亀裂のような衝撃が走った。


和馬は、足下をすくわれ、派手に転ぶとそのまままっ逆さまに地上へ落下した。


「捕まえます。逃がしません」


メイが土に術を纏わせると、地面が海面のように波打ち、土くれの手が無数に現れた。


カラスたちは、それにより全て身動き取れない状態となった。


和馬は、すんでのところで、意識を取り戻すと土くれの手から脱け出し、再び空高く舞いあがった。


姫子は、カラスが残らず捕まったのを確認するとほっとため息をついて地面にうつ伏せに突っ伏してしまった。


気を失ってしまったのだ。


「天狗の神通力(ちから)は、何もカラス使うだけとちゃうぞ」


和馬は、両手を広げるとソフトボール大の石が1つ地面から浮き上がり、にゃー子目掛けて飛んでいった。


石は、にゃー子の左頬をかすめ、一本の木の幹を貫いた。


5メートルある大木は、メキメキと音を立てて、側の木をなぎ倒しながら倒れていった。



「今のは、手加減や。石の勢いを殺さんかったら奧の木までいっぺんになぎ倒せるさかい。それに…」

和馬は、そこで言葉を切ると目一杯横に広げた両手に力を込めると空で踏ん張るような姿勢をとった。


和馬の周りからは、薄紅色の妖気が立ち込める。

髪は、静電気を帯びたかのように逆立つ。


と同時に地面に転がる大小様々な石が和馬の足元近くまで舞い上がり、主の命令を待つようにピタリと止まった。



メイは、一瞬の隙を見て、彩萌と姫子を回収し、結界の中に避難させた。

結界を崩さぬようメイが集中する。


一瞬でも気を抜けば、飛来する石つぶての餌食となる。


彩萌も傷つく体に鞭を打って、方膝立ちでメイの援護を買ってでる。


「まずは、猫。お前からじゃ」


石つぶてがにゃー子に一斉に降り注ぐ。


にゃー子が弾き飛ばした流れ弾が結界付近に被弾する。


そのたびに怯えて頭を抱え、低い姿勢をとっている愛梨沙の腹の底にズシッと重い衝撃が響き渡った。


にゃー子、頑張って。


愛梨沙は、目を瞑ったまま祈るように心の中で叫んだ。

いよいよ、にゃー子も息が上がり耐えきれなくなってきた。


ひとつ、ふたつ(かす)るようになると、ふらついた足元に木の根が引っ掛かり、転倒してしまった。


それを皮切りに、一撃また一撃と石がにゃー子の体を確実にとらえる。


やがて、一気に四方八方から石がにゃー子目掛けて流れ込むようにドッと押し寄せた。


砂ほこりとも土煙ともつかないものに辺りの景色が霞む。


「にゃー子さん!!」 「橘くん!!」


メイと彩萌のただならぬ声に愛梨沙も顔を上げた。


「うそ…」


にゃー子の姿がない。


代わりにあるのは、石つぶての山。


まるでにゃー子の墓標のように不気味にそびえている。


愛梨沙は、信じられずにゃー子の名を叫んだ。


大粒の涙が愛梨沙の視界をじんわりとにじませた。


「ようやっと片付いた。あとはお前らや」


和馬は、得意気に地面に降り立ち、落ちていたカラスの羽をひとつまみ持ち上げ、空に投げると息を吹き掛けた。


すると、カラスの羽は、黒光りする和馬の背丈ほどの刀に身を代えた。



くるくると回りながら落ちてくる刀を左手て受け止めると、一度試すかのように近くの木を切りつけた。


低く鈍い風切りの音がしたあと、大木は、音もなく倒れていっ


た。


斜めの切り口は、切れ味の鋭さを物語るほどキレイな斜面を左上から右下に描いていた。



「この刀は、結界をきれるんや、逃げ隠れできへんからな、覚悟せい」


和馬は刀を振り上げて愛梨沙たちの元へ走りだそうとした。






カラスたちは和馬のかけ声で姫子に一斉に襲い掛かる。

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