ふざけないで!!
にゃー子と華閻の壮絶な殴り合い。
メイと彩萌の攻防。
あまりに戦いのケタが凄すぎる。
愛梨沙は、何も出来ない自分を恨めしく思った。
人は何も出来なくても応援したり、励ましたり、時には黙って傍にいてあげることだって役にたつことがある。
しかし、今日に限って言えば、それらは何も意味を持たない。
カナシイ ハガユイ ウラメシイ…
いてもたってもいられない。
愛梨沙は、手にしたモップでやたらめったら、それこそ壁に至るまで自分の近場を磨きはじめた。
そんなことが何の足しにもならないことぐらい愛梨沙にもわかっている。
要するになにかしていないと落ち着かないのだ。
「あーりん、出ちゃダメって言ったはずです!!おとなしく結界に戻って!!」
メイの声で、愛梨沙は、我に返り、結界に慌てて戻り、正座した。
メイにできた一瞬の隙。彩萌は、土くれの手から逃れた。
メイは、再び彩萌を捕らえようと神通力で土くれの手を操るが、うまく捕らえることが出来ない。
彩萌は、メイとの間合いを詰めていく。
メイが彩萌の姿を一瞬見失う。
メイが彩萌の姿を捉えた。
危ないと思った、メイはとっさに頭を両手でガードした。
彩萌の蹴りが入り、メイは愛梨沙の足元に飛ばされた。
そして、それに気をとられたにゃー子もまた、愛梨沙の元に華閻の正拳突きにより飛ばされた。
片膝立ちで構え直す、にゃー子とメイ。
10メートルほど向こう側でフェンスを背に対峙する華閻と彩萌。
どうしよう、私…。
愛梨沙は、正座したまま頭を抱えた。
(あいつら、戦いかた、まるで、わかってない!!)
「?!」
愛梨沙は、誰かの声で、頭をあげた。
(サトリよ。望月、しっかりしな。あんた私の正体気付いてるね。あんたがこの戦いのイニシアチブを握っている。いい、一言一句漏らさずあいつらに伝えるんだ。あきらめるな、あんたに死相は出てない!!必ず助かる。)
愛梨沙は、半泣きした。
(いい、まず目の前の二人、彩萌たちを橘と神宮寺が倒しなさい。そして最後にあんたのうしろの狐を殺生石で望月、あんたが仕留めろ、いいな?)
愛梨沙は、小さくわかりましたと答えた。
が、ここでふと疑問が生じた。
私…の…うしろの狐…?
愛梨沙は、正座したまま、首だけうしろに向けた。
赤い目をした、人の背丈の倍もある大きな狐が伏せの姿勢でいまかいまかと構えていた。
主人の命令さえあれば、いまにもダッシュしてきそうな勢いで腰が少し浮いている。
これが、九尾の狐。
あまりに静かで気配すら愛梨沙は気付かなかった。
銀狼ーその名の通り、全身一点の曇りもなく、美しい銀色の光沢の毛をまとっている。
もはや、愛梨沙は、声すらあげることが出来ない。
愛梨沙は、ゾッとした。
背中の下から上にかけて、言い知れぬ恐怖がかけ上っていった。
知らないとは、恐ろしい。
こんな化け物が後ろにいままで、隠れていた。
まして、愛梨沙は、自ら結界の外にまでメイの忠告も聞かずに出てしまったのである。
愛梨沙は、へなへなと足に力が抜け、正座から尻を地面にぺたんとついてしまった。
(望月!しっかりしろ!!もう、戦いは始まっている、私の声をアイツらに伝えるんだ)
そうだ、へたり込んでる場合ではない。
愛梨沙は、自分の顔を震える手で何度も叩いた。
声がうわずってうまくだせない。
メイが彩萌の攻撃を食らい、屋上のフェンスに派手にぶつかり転がった。
そこに、にゃー子も華閻の攻撃を食らい飛んで行った。
「もう少し、こやつらを痛めつけたら、あのおなごともども銀狼のえさにしてくれよう、あやつも腹をすかしておる。そして、この体も用済みじゃ。人間でいることにも飽きた。よくぞ、こんな退屈な日々を毎日過ごせるものじゃ、呆れる」
華閻は、鼻で大きく息を吐いた。
「ちょ、ちょっと、こ、こ、こ・・琴音をど、っどう、する気?」
愛梨沙の震える声は、3度目でやっと声らしく華閻の耳に届いた。「案ずるな、お前らと同じく・・・」
「ふざけないで!!」
愛梨沙は、華閻の声をさえぎって立ち上がった。
「あんたにとっては、つまらないことかもしれない。人間なんてどうでもいいかもしれない。こんなこと言うのが人間のエゴだってわかってる。でもね、でも・・・。琴音はね、この高校に入るため頑張ってきたの。自分を変えたいって、高校デビューをきっかけに生まれ変わりたいって頑張ってきたの。
あんたに何の権利があるっていうの?琴音の人生2年も奪って。あんたのせいで一番輝きたいと願った二度と戻らない貴重な2年を奪って!!私からいらないうらみまで買って・・・。琴音・・・ごめんね。つらかったよね、くるしかったよね、そんな奴に人生踏みにじられて・・・。おもちゃにされて…。
暗い中で、ひとりぼっちで…。
返してよ。ねえ返しなさいよ、琴音を。そして謝んなさいよ。
私、あんたなんか許さない!!絶対許さない!!」
愛梨沙は、唇を強く強くかみしめた。涙が止まらない。でも、負けたくない。
「面白い、お前に何ができるというのじゃ」
華閻と彩萌がにやりと笑う。
銀狼が前足を二三度いならすが、もう愛梨沙は、動じない。




