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次はないぞ

「あーりん、術符使えるの?」


にゃー子は、目を丸くして愛梨沙の元へ寄ってきた。


「あ、いあ、その、私じゃなくてサトリさんのこえがきこえて・・・」


慌てて、愛梨沙は、両手を振って否定した。この先、メイがあんなになった時、代わりに紙飛行機じゃあるまいし、術符を飛ばしてくれなんて言われたらたまったもんではないからだ。


サトリという言葉を聞いた、にゃー子は、明らかに一歩分ずいと後ろに下がり嫌な顔をした。


やはり、にゃー子は何かサトリのことで嘘をついていると愛梨沙は、思った。


問い詰めてやろうとした時、マユが割って入ってきた。


「あーりん、大変だったねー」


愛梨沙は、マユに抱きつかれた。


「うん、でも置いてけぼり食わしてごめんね、急に追っかけられちゃったから」


愛梨沙は、マユにハグし返してすまなそうにつぶやいた。


「え?何のこと?やだな、あーりん、私たちずっと一緒だったじゃん」


「?」


「忘れちゃった?恋占いの石とか。銀閣でアイス食べたでしょ?哲学の道駆け抜けたり、竜安寺の石庭?ジャンプして見せてくれたり・・・ほら」


ほかの記憶はともかく、竜安寺の石庭をジャンプで見せるにゃー子は人間じゃないって言ってるようなもんだろ、気付くだろうという突っ込みも忘れて、愛梨沙は、マユの手に握られて、こちらに見せられた携帯の画面を見てしまった。


そこには、愛梨沙たちと仲良く写るピースサインで、笑顔満天のマユの姿があった。


いつの間にか、メイも覗き込んでいる。


「やるーにゃー子!!」


「それで、私たち抱えて走ったんですね」


愛梨沙とメイは、にゃー子を見た。


にゃー子は得意げにダブルピースを出した。


盛り上がる三人の少し後ろに琴音を抱えて、ひざまついている彩萌がいた。


にゃー子は、ゆっくりと三人の横を通り、彩萌の元へ近づくと立ったまま上から彩萌に声をかけた。


「悪ふざけにしてはかなり度を越しておるな、狐と思しき妖怪どもよ。人とは愛らしいものよ。人生とは、はかなき花火のようじゃ。その中で、青春と呼ばれる期間は短い。一瞬で咲いて、一瞬で散ってしまう。線香花火じゃ。その一瞬の喜びを心にやきつけるため、誰も一生懸命にいきている。・・・。次はないと思え!!」


彩萌は、今日二度目の寒気を感じた。


それは、琴音に感じた寒気とは明らかに異なっていた。琴音のそれが、強大で、得体の知れない不気味さからくるものであったのに対し、橘菜子のそれは、全く別物。


からだ全体から発せられた橘菜子の気は、今まで彩萌が想像していた倍以上であった。


恐らく、この半分も出せば、一瞬であの程度の刺客はカタがついたであろう。


しかし、それほどの神通力を使えば、周囲にも危険が及ぶのは必至だ。


人通りも多かった。


彩萌は、ある結論に達した。


橘菜子は、知っていたのだ。知っていて、わざと走って逃げたのだ。それも、笑顔で観光しながら。愛梨沙のため。メイのため。マユのため。


彩萌は、三度目の寒気を感じた。


そんな、彩萌をよそに、にゃー子は再び、みんなの元へ帰っていった。


小走りするにゃー子の顔にはまんまるの笑顔が貼り付いていた。


「桜林怒ってるかな」


にゃー子は参ったなという顔をした。


「大丈夫。マユと私で連絡しといたから…、」


愛梨沙はそう言うと、マユと顔を見回してニッと口元をユーの字してにゃー子をじっとりみた。


「大変だったな、怪我しなくて良かったよ。気にすんな、今度みんなでどっか行こう…だってさー、きゃー」


メイまで加わって、にゃー子をツツイテからかいだした。


にゃー子は、顔を赤らめながらつつかれるがままになっていた。


お月さん・・・、やるー」


遠くから見ていた薫子がニヤリと笑いながらぼそっと言った。




街路樹の枝の上に腰掛けたワインレッドのシャツの男、朱雀がその様子を黙って見ていた。





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