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NYAONへようこそ

にゃー子たちの爆走をよそに京都市内は騒然としていた。パトカーのサイレンが鳴り響き、異様な集団の目撃情報をもとに大勢の警官たちが、京都市内を縦横無尽に駆けずり回っていた。


にゃー子たちが向かう先、NYAONの付近でも、サイレンの音や、警官のあわただしい動きが確認された。


「やけに・・・騒々しいわね、なんかあったのかしら?」


NYAONの付近には薫子がいた。修学旅行まで来て、わざわざ用はないのだが、最近の高校生はやたら、東京でもありきたりなこういった施設に立ち寄る癖がある。そのため、薫子らは、手分けして時々、周辺を見回りに来ていたのである。



ふいに、薫子の後ろに長身の男が立った。というより、むしろいきなりあらわれたといった方が正確かもしれない。


「あら、久しぶりね。あんたがこんなとこでてきちゃっていいわけ」


薫子は、そっぽを向いたまま男に語りかけた。


男は、サングラスを外すと、ワインレッドのシャツの胸ポケットにそれを挟み、たばこを一つくゆらせた。細マッチョの体系で、カジュアルスーツをおしゃれに着こなす男は、やはり、薫子と同じようにそっぽを向いたまま話し始めた。


「ボスからのミッションでな。探し物を頼まれて・・・。今この辺でそんな気配を感じたからでてきたのよ。そしたら、おまいさんがいるじゃないの」


「探し物?」


「あらら、聞いてないのか…。アイツには言っといたんだが、口が軽い割には肝心なことはしゃべらないやつだな」


いかにも困った顔で、頭をかき始めた。


「ま、探し物は、おれの勘違いだったみたいだな、これに詳細が書いてある。なんかあったら、連絡くれ。それと・・・」


男は、帰ろうとした足をいったん止めて、もう一度頭をかいたあと、躊躇する姿勢を見せた。


「おまいさんとこの、子猫ちゃん…、派手にやらかしちゃってるな、もうじきここにくるみたいだったが・・・いいたいことはそれだけだ。じゃ」


男はサングラスをかけるとそのまま音もなく消えていってしまった。


薫子は、ショッピングモール入り口の駐車場に移動した。そこには、しゃがみ込む琴音と心配そうにその背中を優しくなでる彩萌の姿があった。


「あんたたちも?せっかく京都に来たんだからお寺とか神社とか見てきなさい」


咎める風でもなく、優しい口調で琴音たちに薫子は声をかけた。


「途中で、藤崎さんがめまいがするって…」


「あら、ほんと。顔色悪いわね・・・。ホテル戻る?」


琴音の青ざめて、息の上がった顔に薫子は心配して声をかけた。


「大丈夫です。こうしてれば、すぐ・・・よくなりますから・・・」


琴音にとって予想外だったのは、にゃー子のスタミナが半端なかったことである。並みの猫又の数十倍以上、いやそれ以上に感じた。しかも、人間の体に宿ったまま神通力ちからを使い続けるには限界もある。


もう一つ、琴音を躊躇させ、体力を消耗させる原因があった。それは、ここが京都であるという事実である。ここで、神通力ちからを全開にするわけにはいかない理由があったのである。


「朱雀にきづかれたか・・・」


「え?琴音?何か言ったかい」


小さい声で琴音が言ったので、彩萌は聞きそびれてしまった。


「いや、なんでもない。それより、猫がここに来る。最後のチャンスだ」


琴音は息を大きくついた。


「ぼくが手伝おうか?琴音・・・」


彩萌の言葉に荒い呼吸を整えながら、首を振った。


琴音の遥か前方には、新たにNYAONにきた男子生徒一行と小言を言うため立ち去った薫子の姿が小さく映っていた。


薫子が軽く説教しているところへ、女子生徒が走りこんできた。


ものすごいスピード。と言っても、にゃー子の比ではない。


ごく普通の女子高生が出せる、ごく普通のスピードである。マユだった。


「先生!!大変です。望月さんたちが・・・」


そこまで、マユはいうと、ゼーとハーをしきりに繰り返した。マユの右手には印籠のごとく携帯が握られていた。そして、それを薫子の方へ差し出した。



「変な侍に追っかけられて、斬られたらしい・・・」


「なんですって!?」


薫子は、周りの物々しい雰囲気を改めて見直してマユをゆすぶった。


「どこで?」


「それが・・・」


マユは、走りどおしで息は苦しいは、詳しいことはわからないは、自分だけ取り残されるは、にゃー子たちや薫子に連絡してもつながらないはで頭の中がハチャメチャになっていて、言葉がうまく繋げなかった。


「しっかり、落ち着きなさい!!」


薫子に責められれば責められるほど、マユは混乱した。




「ああ、とうとう殺しちゃった。伝言ゲームって怖いよね、琴音。琴音?」


「今は、わらわに話しかけるな!!狐の分際で、ひかえよ。この体でなければ、あんな猫など、造作もないものを・・・」


琴音の剣幕に彩萌は、驚いて、黙ってしまった。今の今まで、彩萌は琴音を九尾の狐の長、銀狼であると思っていたからである。また、琴音はそのように振る舞い、自分にも接していた。彩萌は得体のしれない銀狼をも凌ぐであろう琴音に背筋の寒くなるものを感じた。


「今、朱雀の気配がしたにゃ、気のせいか・・・」


一方にゃー子もNYAON近くに近づいていた。ビルの合間をくねくねしながら追ってくる敵を巻くかのように少しずつ、目的地へと駒を進めた。


「にゃー子、朱雀って?」


「東の青龍、南の朱雀、西の白虎、北の玄武と言われるなかのあの朱雀ですか?」


にゃー子は、コクンと頷いた。


朱雀は、四使徒の一人と数えられ、いわば国を護る守護神である。一人でも欠けると国に災難が降りかかるといわれている。


「朱雀には、一度魂を助けてもらっているにゃ、明治時代だったにゃ。」


「魂?」


愛梨沙は、首をかしげた。


「うん。前からブッスリ刺されて…火を…サトリも式神もいなかったから、田助の転生を見逃して…」


「誰に?」


愛梨沙は驚いて、眉をひそめた。尋常じゃない、刃傷沙汰だ。それをあっさりした口調でにゃー子がさらりと言ったからだ。


「義理の妹…」


「なんか、異常に私、興味そそられちゃったんですけど、にゃー子さん」


メイが詳しく聞きたいとオットセイのように上体を反らしてせがんだ。


「それ、長くなるでしょ」


愛梨沙は、興味あるものの、にゃー子の長話に二度付き合っていたので、もう懲り懲りという牽制球を投げた。


「うん。また、今度」


にゃー子は、意外にもあっさり引っ込めた。


メイだけは、大袈裟にガッカリして上体をガクンと下に沈ませてしまった。


「よく、田助さんとわかったわね、サトリさんとは、ずっと前に別れたっていってたけど、トオルさん、式神さんはなにしてたの?」


「朱雀が最後に田助だと教えてくれたんだけど。式神は、不祥事を起こして、しばらく神様の職務を停止させられ、自宅謹慎にしてた、」


「何したの?」


「弁財天のゆあ…ったぁぁあ~」


「え、何?にゃー子。最後よく聞こえなか…きゃー」

 

二人は、前方に待ち構える一つの影に驚いた。にゃー子たちは、話しに夢中になっていて、刺客の男に先回りされていたことに気づかなかったのだ。


にゃー子はブレーキをかけたが、止まらない。


敵の前へと靴底から、煙をあげて、気持ちいいように滑っていく。


刺客は腰の物に手をかけ右足を前に踏み出し、構えた。


「もうだめー」


愛梨沙は声をあげ、目を瞑った。


「ピンチからのー」


「きええぇぇー!!」


にゃー子と刺客が同時に声をあげた。


「いなばうあー」


にゃー子の反らされた上体。その僅か数センチ上を刺客の刃が平行に通りすぎた。


そして、そのままにゃー子たちは、NYAONへようこそと書かれたゲートをくぐり、薫子とマユのいる前に到着して止まった。


「助かったー」


にゃー子は、目が飛び出さんばかりの顔つきで野太い声で小さく叫んだ。


追ってくる刺客は、駐車場入口に待機していた警官に六人がかりで地面に押さえ込まれた。


にゃー子たちは、互いの無事をマユと共に喜びあった。薫子も心配して声をかけてきた。





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