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あーりんのおぜん立て

「いてて」


にゃー子は、メイに傷の手当てをしてもらった。まだ昼休みの最中である。生徒の大勢いるなかでは、メイも表だって、神通力を使った手当はできない。応急処置程度のもので、にゃー子には我慢してもらった。


その間に、琴音のこと、彩萌のことについて二人に話した。


「じゃ、琴音さんが、狐なのですか?」


メイがにゃー子の肘に絆創膏を貼りながら、尋ねてきた。


「うん、顔は見なかったけど、あの恰好といい、おそらくにゃ。それと、緑川彩萌の奴、あれも何かの妖怪の類にゃ。後、人前ではおそらく仕掛けてこないはず・・・。ただ、こないだみたいに、周りが急に暗くなったら気を付けてにゃ」


「異空間ですね」


にゃー子はこくりとうなづいた。


「異空間?」


愛梨沙は、耳慣れない単語に思わず、聞き返した。


「同じ場所なんですけど、全く違う異質の空間があるんです。そこは、部外者が立ち入れないようになってるんですぅ。神通力を使える者同士が戦うリングのようなものなんですぅ」


「そこで起こったことは、現実世界では何の影響を及ぼさないんだにゃ、戦っている者同士のダメージは残るけど。これで、妖怪も思いっきり暴れられるし、証拠も残らない。さらし者になることもないからにゃ」


「ふーん」


愛梨沙は、わかったような、わからないような気がした。


「おまたせー」


そこへ、じゃんけんで負けてジュース買出し係になったマユが戻ってきた。


三人は、マユに悟られないように話題を変えて、日常を取り繕った。この間のメイの一件をはじめ、マユにはまだ内緒にしていたからである。


たとえ、話したとしても信じてはもらえないだろうという気持ちも三人にはあるのだが。


数日が過ぎた。このところ、朝晩が涼しい。


すっかり、秋めいてきた9月の半ば過ぎ、にゃー子の頭は、魚一色になっていた。


旨い魚のシーズン到来。


さんま。サンマ。秋刀魚。鮭。サンマ。


もはや、にゃー子の脳の五分の四はサンマがしめていた。


イカン!!


にゃー子は、鮭とサバ、タラでもう一度脳を埋め直した。


危ない、危ない。


すでに、溢れる思いの丈は口一杯で、端から一筋流れ落ちそうになっていた。


「にゃー子」


マユがにゃー子の不気味なふにゃふにゃ顔の前で手を振った。


にゃー子は不意にはっと我に返った。


「男のことでも考えてた?誰よ?言っちゃいなさいよ」


マユは、まだ、桜林が好きだと知らないので、にゃー子を指先でつつき回しながら取り調べを始めた。


「今のは、食べ物のことよ、顔でわかるわ」


最近では、愛梨沙もにゃー子の顔でおおよそ、考えていることが予想できるようになっていた。


「違います、にゃー子、桜林のこと考えていたんですよーだ」


にゃー子は、完全に愛梨沙に見透かされていたので悔し紛れに嘘をついた。


「え?何、にゃー子の好きな人ってA組の桜林なの」


マユが驚きと興味ありありの声をあげた。


「男のこと考えて、ヨダレ垂らしちゃうなんて、どんだけ肉食系よ」


愛梨沙が、にゃー子に口元を指で指しながら言った。


「肉じゃない!!さかにゃ…」


にゃー子が口を押さえた。


「ほら、見なさい。食べ物のこと考えてたんじゃない」


してやったりの顔で愛梨沙は、にゃー子にティッシュを差し出した。


「恥ずかしいにゃ」


にゃー子は顔を赤らめながら、ティッシュをくわえた。


「桜林君ですぅ」


「メイまでからかわにゃいでほしいにゃ」


苦笑いしたままにゃー子がメイの方へ顔を傾けると桜林ナオトと宇都宮リュートが立っていた。


「…!」


にゃー子の顔が下の方から上の方へとだんだん赤くなっていった。


にゃー子は、食わえたティッシュをそっと取り外して、髪をさっと手くしで直して背筋を伸ばした。


「どうしたの?」


にゃー子に代わって愛梨沙が、ナオトに聞いた。

「じいちゃんが、足のお礼にって、これ」


ナオトがにゃー子に差し出したのは、招き猫の携帯ストラップだった。


「かわいい」


見ていた愛梨沙たちも思わず声をあげた。


猫は、小さいながら、愛らしい仕草で、両手を挙げて招いている。


「にゃん。大事にする」


にゃー子は、猫と同じポーズをとっておどけながら喜んだ。


「じゃ、確かに渡したから」


ナオトは、ぶっきらぼうながら、下を向いてそう言うと、くるりと背を向けた。


愛梨沙は、少しナオトの頬が赤いのを確認した。


「ねえ、桜林。」


「ん?」


愛梨沙の問いかけにナオトの足が止まった。


「アンタさ、修学旅行の自由行動予定入ってんの?無いなら私たちに二日間付き合いなさいよ」


一瞬、ナオトは、上をチラッと見た。


「二日目は、先客がいるんだけど、三日目は大丈夫。それでもいいか」


「よう、ござんす。では、また」


愛梨沙は満足げにナオトたちを追いたてた。


「桜林君たちと修学旅行一緒に回れるなんて夢のようですぅ」


メイは興奮ぎみにはしゃいだ。


「あり得ない。言ってみるもんだね。でも、いいの?あーりん、絶交してたのに」


「いいの、誤解が解けたから…あの二人に関しては。許せないのは、琴音だけ。それに、ほら…」


愛梨沙の指さした方向には、有頂天のにゃー子が踊っていた。





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