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式神のトオル登場

学校が始まると愛梨沙は、にゃーこによそよそしくあたった。


にゃー子が一緒に登校しようと朝誘うと、決まって何か都合をつけてにゃー子を先に行かせた。


愛梨沙の母も心配げにその様子を見守っていた。




「最近あーりんがおかしいにゃ…」


にゃー子は朝、学校に到着するなり、教室でメイとマユに相談してみた。


緑の色濃い木々の葉にまだまだといわんばかりの太陽が照りつけ反射する。


今まで、クーラーのあった部屋で朝寝坊して、ゆるんだ生活に慣れた体にはかなり堪える。


「変わったとこはないですねぇ」


メイが首をかしげる。


「たしかに、にゃー子を避けてるような気がするけど、何かした?」


マユが下敷きをあおりながらにゃー子に聞いた。

「いや、特には…」


「気づかないものよ、友達のことを思ってしたことが勘違いさせて相手を傷つけたり…心当たりない、橘」


「そう言われてもにゃ」


にゃー子は首をひねった。


「例えば望月の意中の相手に根掘り葉掘り聞いてたとこを見られてたとか」


「あー」


にゃー子は夏休みの一件を思い出した。



「にゃー子さん、心当たりありですか」

メイが言った。


「あり得るね。あーりん、早とちりだから…」


続いてマユが言った。


「でも、勘違いするかにゃー、ただ話してただけ…っておかしいな」


にゃー子はここで異変にようやく気付いた。


明らかに会話の人数がおかしい。


愛梨沙は、確実にいない。


しかし、参加者は四人いる。


にゃー子は、周りの者を見回した。


一様に、下を向いて含み笑いをしている。


にゃー子たちは恐る恐る振り返った。


「もう、とっくにホームルーム始まってるんですけどー秘密会議の方はようございますかーお嬢様がた」


にやけた顔で、頬杖して愛梨沙の席に座っている薫子がいた。


クラスがどっと笑いに包まれた。


「今日、望月は風邪で休むって。じゃ、出欠とります」


薫子は、立ち上がるとそう言って教壇の方へ歩いていった。


校庭の空は、澄みきっていて青く、雲一つ見当たらない。


しかし、裏腹に、にゃー子の心は、霧がかってしまっていた。


にゃー子は、何がいけなかったのか、一日悶々と考えながら過ごした。


愛梨沙の方もベットの中で釈然としない自分の気持ちについて考えていた。


一人になる時間がほしくて、今日は仮病を使った。


ここのところの異変を母親にも気づかれ、苦言を呈されていることも愛梨沙はわかっているのだ。


自分は少しヒートアップ気味。


その思いで、一日クールダウンしたかったのだ。


最近、にゃー子と会うと心かきむしられるようになる。


異常なほどの感情の高ぶりが愛梨沙を襲う。


宇都宮とにゃー子のことを考えると特に高ぶる。


怒り。悲しみ。憎悪。


愛梨沙は、宇都宮を好きという感情がこうさせるのだとはじめは思っていた。


しかし、自分自身で説明できない違和感が体の中を駆け巡るのも事実なのだ。


何か体の中で、気持ち悪い虫がもぞもぞと動くような感情。


何か別の意思が自分にここまでの異常な感情の高ぶりを与えているのかもしれないと考えた。



感情。


愛梨沙は、こんな風に感情を理詰めで考えたことはなかった。


感情というのは、素直に感じたままのことがそのまま表に出るから感情なのだと思っていたからだ。


一方的に怨むより、思いざらいにゃー子にぶちまけてみようか。


愛梨沙は、ほかにも方法があることを冷静になって考えた。

明日は幸い学校も休みで土曜日だ。


母親にそれとなく相談することもできる。


月曜の朝までにはどうにか解決策が見つかるだろうといつもの能天気な愛梨沙の顔が少しのぞいた。


次の日、愛梨沙がまぶしい光で目をさました。


どれくらい眠っていただろうか、時計に目をやるとすでに11時近かった。


愛梨沙は、カーテンを開けて外の様子を覗いてみた。


気持ちいいくらいの青空が広がっていた。


愛梨沙は、家に籠っているのがもったいなくなった。


普段着に着替えて下に降りてみた。


母親の姿がない。


昨夜は調子悪いふりをしていたので、夕飯もろくにとっていない。朝食も食べ損ねている。


愛梨沙は、適当にすぐ食べられるものがないか、台所やテーブル、冷蔵庫などを漁ってみたがめぼしいものがなかった。


近くのコンビニに行けば、ほんの二、三分で帰ってこられるはずである。


愛梨沙は、財布をつかんで、玄関をでた。


戸締まりしてふりむくと見るからに怪しい男がにゃー子の家を伺っていた。


アロハシャツに小さな丸いサングラスをかけ、手には一杯の荷物をかかえた大柄な中年男だ。


愛梨沙は、関わらないよう気配を消してそっと男とは反対側の方へ歩きだそうとした。

「あー、娘さん。橘さんという家知らない?、住所はこの辺なんだけど…」


男は携帯を取りだして、画面を眺めたり、電話したりしながら愛梨沙の方へ近寄ってきた。


「知りません、じゃ急いでますので…」


愛梨沙は、そのまま回れ右をして、早足でその場を立ち去ろうとした。


「そんな意地悪しないで教えてよ。怪しい者じゃないから」


男はなおも食い下がってくる。


愛梨沙は、面倒臭いことになったと思った。


この場を切り抜けたとしても、この調子では、コンビニから帰ってきてもこの男はこの辺にいるだろう。


ならば、この男が不審者か否かここで白黒つけておかねば、後々厄介だ。


毎日、登下校まで心配しなければならない。


今なら、昼日中。


人通りもある。


いざとなったら警察に連絡してやる。


愛梨沙は、腹をくくって男の方へ再度向き直した。


「おじさん、誰?超怪しいんだけど」


「え?あ、怪しい?おかしいなぁ…そんなことないはずなんだけど」


男は自分の身なりを見渡した。明らかに動揺している。


その格好で怪しくないんだったら誰を怪しいといえばいいのだ、愛梨沙は、思った。


「だから、誰なんですか!言わないと警察呼びますよ」


キツイ口調に男は少しビックリした顔をしたが、サングラスを外すと、愛梨沙の顔を医者が患者を診察するかのようにのぞきこんだ。


そして、ニコッと微笑むと愛梨沙にこう言った。

「なんだ、菜子のこと知ってるじゃないか、俺は、菜子のおじで、神村トオル。菜子の母親、香織の兄。よろしく」


「なら、初めからそう言って下さい。」


愛梨沙は、気持ちを読まれたのを不思議に思ったが、半信半疑ながら少し警戒心を解いた。


「いやーしかし、驚いた。キミが怪しいなんて言い出すからてっきり神通力が解けちまったかと…、」

「神通力?」


「わ、何でもない。今のは忘れてくれ。神通力なんて忘れてくれ。うっかりキミの話術にハマるところだった。危ないぜ」


両手を振ってトオルは否定した。


ふーん。神通力使えて、人の気持ち読むなんて…、おじさん、妖怪サトリみたい」


愛梨沙は、とぼけてかまをかけてみた。


「妖怪?サトリ?し、失礼な。こう見えて俺は、式神と言って立派な…、って、わー、まただ。また、キミの術中にハマってしまった。キミは誘導尋問の天才だな、もう、これ以上は絶対喋らないからな」


トオルは口を押さえて、首を左右に大きく振った。


これが、神?と愛梨沙は、思ったが、すでに、にゃー子にムカデ、メイの覚醒と体験してきたのであまり、驚きもしなかった。


「ふーん。おじさんが式神さんなんだ。初めまして、にゃー子の友達の望月愛梨沙です。ところで、神通力で怪しまれないって言ってたけど、どういうことなの?」


トオルは、少し腕組みをして考えていたが、まあよかろうと前置きをして話し始めた。



「人間と無用な摩擦を生じないよう、神通力をつかえる輩は、人間から干渉されない信号のようなものを発しているんだ。その信号を周りの者に個別に送ることで相手の自分に対する認識をコントロールしているんだ。これにより、全く人から関心を持たれることなく移動が可能となる。夜道の一人歩きも問題ない。菜子の場合はもっとそれが長けているんだ」


「どんな風に?」


愛梨沙は、尋ねた。


「第一に人から嫌われることがない。その場で軽くねたまれるようなことはあるが、まず、継続的に嫌われるということがないんだ。第二に、好きであっても恋愛感情は転生した田助にしか抱かれない。以上のようにまことに猫らしく、都合のいいようにもとい、合理的に神通力チカラを活用しているんだ」


愛梨沙は、初めて教室に来たときのにゃー子を思い出した。確かに、教室中の誰もが虜になった。だからと言って、クラスの男子が誰ひとりにゃー子の元にはすり寄ってきてなかった。その時は、気にもしなかったが、不思議といえば、不思議だ。今、トオルから説明を聞いてなるほどと思った。


「ついでにいえば、妖怪やら神やら神通力を使える者同士ではあまり意味を持たないけどね、互いの信号を打ち消すから。もし・・・、君がにゃー子に敵意を持つことがあれば、それは、単に恋愛感情のもつれとは違って、モノノケの類がキミにそうさせているんだと思うよ、何かまではわからないけど・・・。しかし、サトリは何をしているんだ。もうキミたちの近くにいると便りを送ってきたばかりなんだが・・・」


愛梨沙は、胸に手を当てた。


ヨ マ レ テ ル ン ダ


オロチの呪のせいなのだろうか。オロチがにゃー子を呪い殺さんとして、にゃー子の恋に加担する愛梨沙をも飲み込もうとしているのだろうか、理性で何度制してもうねうねと首をもたげてくる感情の渦が、一瞬蛇の頭となって愛梨沙の心にかみついてくる妄想にかられた。


「大丈夫。まだ、オロチは機会をうかがっているだけで出てきはしない。むしろそれとは別にちゃちを入れてる者がいる」








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