あーりんの勘違い
次の日、うだるような暑さの中愛梨沙が目を覚ますとマユだけが一人元気にはしゃいでいた。
「あ、あーりん遅いじゃん。起こそうかと思ったけど、ごはん先いただいちゃったよ。メイもぐっすり寝てて起きないし。目覚ましたら、暑いじゃん。よく寝れないよねーほんと。それで汗すごいからシャワー借りちゃった、おばさんに言って・・・。って、なんか元気ない?あーりんもにゃー子も」
にゃー子も愛梨沙も元気ないに決まってんだろっと言いたいとこだったが昨晩の疲れに加えて、上昇する気温に体力がそがれ、それどころではなかった。
二人とも遅めの朝食とシャワーを頂戴して帰り支度を整えた。
メイのことはメイの父親がマユにいっておいてくれた。
そのため、マユは昨日の晩のことは全く知らない。
帰りの電車の中、愛梨沙は、あの言葉を発した者が誰だったのか考えていた。
メイなのか、マユなのか、いくら考えても埒があくわけではないのだがそれでも、ずっと考えていた。
にゃー子の方は、あのムカデがなぜ現れたのか、考えていた。
ムカデが単独で現れたとは、考えられない。とすれば、誰かが召喚したはずである。
メイやその父親ではないことは確かである。
釈然としないまま、電車は見慣れた街へと滑り込んだ。
それからしばらく経った。
あの晩のことがにゃー子も愛梨沙も嘘のように、普通の高校生のごく普通の夏休みを送っていた。
にゃー子は、街の散策も兼ねて近くのショッピングモールに来ていた。
国道よりちょっと外れた場所にあるが車で来るには便利な立地にある。よくこんなに開いた土地があったもんだと思うほど広い。前面に広い駐車場を取り、でーんとその存在を誇示する姿はこの町にあってもかなり目立つ大きさだ。
建てられたのは、一年前ほどである。
一応、大手ホームセンターの看板であるが、色んなテナントが入っていて一日ぶらぶらしていても飽きない。100円ショップ、大手家電量販店から靴、洋服、スーパーまでありとあらゆる大手の誰もが知っている店がこのモールに入っている。
夏休みとはいえ、平日である。
人の波もそれほど多いというわけではない。
それに適度な空調で快適である。
外のうだるような暑さと来たらこの上ない。
にゃー子は気ままにウインドショッピングを堪能していた。
「このあいだ、愛梨沙といた転校生の子だよね、えっと名前なんていったっけ」
にゃー子が振り向くと宇都宮リュウトがそこにいた。
「宇都宮くん・・・だね」
「覚えててくれたんだ。えっと君は…」
「橘。橘 菜子。この間は取り込んでたから、自己紹介もしてないはずにゃ、よろしくです」
にゃー子は、ぺこりと頭を下げた。
「よろしく、今日は、買い物?」
「ううん、まだ来たばっかだから散歩がてら、どんな店があるのか町を散策中、涼しいから一時ここに避難中」
「そうか、で、住みごこちはどんな?ここ」
「悪くないにゃ、今ん所」
「そう、それはよかった」
リュウトはスポーツマンらしく丸刈りの頭で背が高く、割と真面目そうであった。優しさは、その笑顔からもにじみ出ていて、悪そうには見えなかった。
そのことは、猫又レーダーでもはっきり見て取れたし、この間の態度と言い、愛梨沙と両思いなのではないかとにゃー子は勘ぐっている。
にゃー子は、リュウトに単刀直入に切り込むことにした。
「ところで、宇都宮君はあーりん好きか?」
ど真ん中のストレートにリュウトはなすすべがなく、一瞬固まった。
「え、えええ、いきなり何を。。。橘さんっていきなりそういうこと聞くんすか?いや、いきなり初対面に近い人にそんなこと聞かれても、しかも愛梨沙の友達に・・・」
リュウトは否定するでもなく顔を赤らめ下を向いたまま、ぶつぶつと独り言のようにつぶやいて、その場をちいさい円を描きながら、ぐるぐる回り始めた。
愛梨沙と似た者同士でわかりやすい。
にゃー子は、二人ならうまくいくかもしれないと思った。
「なら、なんで、藤崎琴音と付き合ったんにゃ?そして、すぐ別れたんにゃ?」
にゃー子は近所のおばさんよりずけずけとリュウトに質問をぶつけていった。
普通なら、失礼極まりない。
にゃー子が普通の女子高生で、初対面に近い異性にこんなことを言っていたらたちまちどやされていたかもしれないっていたらたちまちどやされていたかもしれない。
しかし、猫又の持つ力がリュウトに答えさせる。
「それは、ちょっと誤解があるんだ。愛梨沙には何度もメールとか会ったときとか話そうとするんだけど、聞く耳持たないというか・・・」
リュウトは言葉を選ぶように慎重に語りだし、頭を数回ポリポリと掻いた。
「あいつとは付き合ってたわけじゃないんだ、付き合ってたと言えば付き合ってたんだけど…いやいやそうじゃなくって…」
「?」
にゃー子は、リュウトに落ち着いて話すようゆっくりと諭した。
「ひと月だけ・・・。ひと月だけ付き合ってくれと言われたんだ。うそでいいから。恨みに思う女性を見返すために。まさか、それが愛梨沙のことだとは、思わなかった、『友人』の琴音を助けてやりたいと思ってたから」
「付き合う芝居をしていたのか」
にゃー子のつぶやきにリュウトはコクンとうなづいた。
「愛梨沙を怨んでたんなら、おれも琴音とは付き合わなかったし、それに俺は愛梨沙のことが・・・、まして、琴音は桜林をもともと狙ってたし…」
「にゃにwww.それは大変だ、にゃー、宇都宮君。桜林は好きな人いるのか?好物は?誕生日は?えーとそれに・・・」
にゃー子の質問の矛先は桜林の方に移った。
「ナオトのこと・・・、好きなの?競争率高いぜあいつ。好きな女の話はきいたことないな、そういえば・・・。コクって撃沈した女の話はよく聞くけど。直接聞いた方がいいんじゃないかな、個人情報は俺が言うのもなんだし」
前へずんずんと鼻息荒く出る、にゃー子に押され、たじろぎながらリュウトは答えた。
モールのエントランスの二階からソフトクリームをなめながら二つの影がそのやり取りを見ていた。にゃー子は全くそれに気付かない。
「積極的だね、転校生ガール。宇都宮押されちゃってるよん」
「あの女の目的はリュウトじゃないわ、ナオトの方よ。リュウトを使って情報収集してるんでしょ、リュウトはさしずめ愛梨沙とくっつけようという魂胆ね」
僕っ娘の緑川彩萌と琴音だった。
「へーさすがは琴音。わかっちゃうんだ、そんなこと」
ソフトクリームをひとなめしながら鼻先で二人を見下ろすように彩萌が言った。
「でも、面白いことになりそうね、ほら、彩萌」
琴音の指差す方向に携帯をいじりながら神妙な面持ちで、にゃー子たちの方に歩いてくる愛梨沙の姿があった。
愛梨沙は、何気なくふと携帯の画面から目をあげた。
焦点のぼやけた目から、前方にカップルらしき姿をとらえた。
昼間からショッピングモールでいちゃつくなよ、愛梨沙はぼやける視点でそう思った。
後ろから見ると女が積極的に男に迫っているように見えたからだ。
興味もないので、愛梨沙は携帯に目を戻そうとした時、はっとなってもう一度カップルの方に目をやった。
やった・・・。
やりやがった、泥棒猫・・・。
相手の男の顔もしっかり認識した。
間違いない。リュウトとにゃー子だ。
愛梨沙は、慎重に抜き足、差し足してその場を離れた。その時、怨念の写メを一枚おさめながら。
愛梨沙の目から一粒涙がこぼれた。
にゃー子なんか、嫌いだ、口なんて聞いてやるもんか。
愛梨沙は、走りながら家路についた。
家のドアを閉めると号泣してしまった。
何が永遠の愛。
何が300年の愛。
そして、なぜか薫子の顔が愛梨沙の頭に浮かんだ。
首からぶら下がったあの石がピクと反応していることにも気づかずに。




