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99,9パーセントの占い師


「どうしたの、あーりん?」


愛梨沙は、ビクッと大きく反応してしまった。


そして、自分の中にあった狂気を打ち消した。


私が私を見失っていく・・・。


「なんでもないよ、にゃー子」


愛梨沙は、極めて冷静に不自然なくらいの笑顔を作った。


これは、きっと罠だ。


しかし、愛梨沙の中で一度ぐるぐると回りだしたコンパスは、主人の意思ではどうにもならなかった。


こんなときはあそこにいくしかない。


「にゃー子、ごめん。用事ができた。先帰ってて」


愛梨沙は、元来た方へ走り出した。


愛梨沙は、職員室の前にいた。


開いた窓から風が入ってきて、時々カーテンを揺らしている。


下校する生徒の声やら、部活の掛け声やら吹奏楽部のチューニングの音やらがきこえてくる。


「あの、黛先生はいらっしゃいますか?」


近くのデスクで事務をこなしていた女の先生に愛梨沙は尋ねた。


「さっき、視聴覚室へ資料を取りに行くって言ってたわね、戻ってくるとおもうけど…」


「すいません、ありがとうございました。」


愛梨沙は、そう告げると、視聴覚室へ急いだ。


かえって、職員室より都合がいい。ただ、みてもらえるかが問題なだけだ。


ミテモラウ


それは、薫子に占ってもらうということ。


自称百パーセントの占い師。


生徒の間では99、9パーセントの占い師。


他人のことはよく当たる。自分のことは当たらない。それを生徒に揶揄されているのだ。


今年は男できる。今年は結婚する。


毎年、薫子の口から聞くが、一向に春の気配がない。


一部では、占いではなく本人の願望ないし欲望と言うことで通っている。

ただ、他人の恋にはハズレたことがない。


占ってもらえれば、の話であるのだが。


と言うのも、生徒の間で評判が上がりすぎて、制限がかけられているからだ。


ひとたび、誰かが占ってもらっているとなれば、たちまち長蛇の列ができて収拾がつかなくなってしまう。


だから、週末とか学期末に予約できた数名か、薫子本人が気が向いたときぐらいしかチャンスはない。


愛梨沙はダメ元のチャンスに賭けて、視聴覚室の扉を開けた。



後ろの暗幕がかかったままで、前の照明も夕暮れ時の黄色がかった照明だけがついていただけだからだろうか。


視聴覚室のドアを開けると、薄暗い世界が広がっていた。


外は、夏の昼日中。


余計その落差に拍車をかける。


薫子は、教壇の前で、DVD数枚を横に積んで、プリントの山を整理していた。


補習の準備のためらしい。


「入ってくるときはノックしなさい、びっくりするでしょ、誰?何か用?」


薫子はさほど驚いた様子もなく、作業を続けながらのんびりと言った。


「望月です。ちょっと相談したいことが…」


どう見ても取り込み中で、話は聞いてもらえそうにないな、愛梨沙は、また今度にしようと思い、くるりと背を向けた。


「入れば。今、ひと段落ついたから」


思わぬ声が、薫子から返ってきた。



暗幕が開かれて、視聴覚室の窓が全開になった。ふいにまぶしい光を浴びて、愛梨沙は、目をつむった。


「つったてないで、こっち座んなさい。てほしいんでしょ?」


「はい」


ツイてる、愛梨沙は、めちゃくちゃ嬉しくなった。


「で、乙女の悩みは恋でいいのかな?」


トランプをいつの間にか取り出し、シャカシャカ刻みながら薫子が愛梨沙に尋ねた。

愛梨沙は、ただコクンと小さくうなづいた。


「むかしは、タロット使ってたんだけど、私にはストレートすぎてね、こっちの方がマイルドで性に合ってるのよ、ふ~ん、なるほどね」


並べ終わったカードを見て、薫子は優しい笑みを浮かべた。


「さざ波に揺れる乙女の片思い・・・。でも心配しなくていいわ。あなたの場合自分の気持ちにまっすぐでいいと思う」


「友情と板挟みになってもですか?」


「友達と好きな人がかぶってるってこと?・・・それは、ないわね。もし、そうあなたの目に映るんだとしたら・・・」


風が二人の頬を駆け抜けた。


視聴覚室のドアがバタンと開いた。


愛梨沙が入るとき、喜んだあまり半開きのままにしていたからだ。


「きゃ、ですぅ」


廊下にいた誰かと二人は目が合った。


「メイ」


「あーりん。こんなとこで何して・・・、ズルいですよー。さては、てもらってますねー。私もてもらいたいですぅ」


その声に周りの生徒が反応した。


夏休み前の放課後1時すぎだというのにかなりの数の女生徒が集まってしまった。


「あ~あ、ばれちゃったか。」


薫子は、あたまをかきかき、めんどくさそうに立ち上がると、視聴覚室のドアの前に群がる生徒たちのところへ歩いて行った。


「順番よ、ただし、今日は先着10人まで。あと並んだのは、整理券渡しておくから、終了式の後いらっしゃい。わかった?」


みんな、きゃーきゃー言いながら一列に並んだ。 薫子は、10人目以降にいつ用意したのか整理券を配り始める。


「あ、望月、悪い。こういうことだから…」


「いや、でもなんとなくわかりましたから」


愛梨沙は、立ち上がって、ぺこりと頭を下げた。


「自分を信じろ。悩んだら原点に戻れ。それと、これもってけ」


にやっとした薫子が愛梨沙に手渡したのは黒いへんてこな形をした石がぶらさがっているペンダントだった。


「これなんですか?」


「開運ペンダント。今なら5000円のところ500円」


「金とるんですか?じゃ、いいです」


愛梨沙はつっかえそうとした。


「冗談に決まってるでしょ、とにかくもってなさい。肌身離さず絶対よ」


もう、そのころには薫子は狂気の集団の渦の中で洗い物のようにもみくちゃにされていた。


愛梨沙は、その集団のヘリをうまくすりぬけて、ドアを出た。


そこには、すまなそうな顔をしたメイが分厚い本を抱えて立っていた。




























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