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そんな予感

「でも、百歩譲って、見えるとしても、この現代に田助さんが転生してるって保証はあるの?それに、日本のどこにいるのかわからないし、まして外国だったら手つけられないわ」


愛梨沙は、矢継ぎ早に、にゃー子を責め立てた。


「それなら、調べはついてるにゃ」


にゃー子は、懐から、『転生人GO!!』なる雑誌をとりだした。


アナタの転生活動をサポートするライフマガジン、知らなきゃ損する転生の常識、えっ本当?!信長も使ったマル秘転生テクニックなど読みたくなる情報満載の見出しがならんでいる。


田助のことより、愛梨沙は、一瞬そっちの誘惑にまけそうになった。


「えー、これによると田助は、間違いなく17年前、この辺の住所に転生し、この辺に住んで生きている」


「へえーツ」 


愛梨沙は、気のない返事をした。


やっぱり気になる。


雑誌の表紙を下から右に左に体を揺らしながら、覗き込んだ。


「これは、だめにゃ」


にゃー子は雑誌を後ろに隠した。


「なんで~?いいじゃん、協力するんだからちょっとぐらーい」


愛梨沙は、にゃー子の手から『転生人GO!!』奪い取ろうとした。


「これは、あの世から、ある奴を介して廃品回収に出す中からくすねて、無理やり送ってもらってるやつにゃ、閻魔にばれたら大変なことになるにゃ~。下界持ち出し禁制品の一つにゃ、生きた人間が見ると恐ろしいことになるにゃ」


何が何でも手を離さない。雑誌がちぎれないことの方が不思議なくらいだ。本気で、にゃー子が守っているとこを見ると本気でやばいらしい。




「みたらどうなる?」


愛梨沙は、一応聞いてみた。


「あっしの口からは言えねえっす」


にゃー子の化けて出てきそうな顔に、愛梨沙は、おとなしく引き下がった。


鳩時計が六時を知らせた。


「一分で十時間の睡眠。約束だったね。おやすみ。いい夢見ろよ」


そういうと、愛梨沙の額に人差し指を軽くチョンと後ろにはじくように軽く押した。


愛梨沙は、そのまま、パタンとベッドに倒れこんだ。





「ぎゃーっ」


愛梨沙は、目を覚ました瞬間、叫んでしまった。 


眠れる森の美女のように、ずいぶん長い間、寝ていた感覚があったからである。


おそるおそる、目ざまし時計を手に取った。


そして、文字盤にしばらく釘付けになりながら、昨日と同じようにベッドに正座したまま、固まった。 


「六時一分?」


愛梨沙は、拍子抜けた声をだした。見ているうちに五分になってしまったが、まぎれもなくあれから、数分しかたっていないことになる。


ひょっとして、時計が壊れているのかも・・。カーテンをめくって窓の外を覗いてみる。この季節のこの時間帯にふさわしい明るさがそこには広がっていた。


愛梨沙は、下の階へ、そっと降りてみた。


ここの時計もまた、六時を四分の一回った程度だった。


愛梨沙は、テレビのスイッチを入れてみた。あのキャスターのあの番組が左隅の時刻通りのスケジュールで進行していた。

スゲぇ、愛梨沙は、嬉しくなって朝食と弁当の支度を猛スピードではじめた。


そこへ、母が顔をだした。


「あら、ご飯をアナタが支度してるなんて珍しいこともあるのね」


「へへ、ちょっとねぇ…」

なんか訳ありそうね、彼氏でもできたかなぁ」


「そんなんじゃないけどさ、へへ」


愛梨沙は、昨日の朝、出掛けに頬ばったロールパンのことを思い出していた。


冷めたロールパンは、味気ない。どこか、昨日までの愛梨沙の日常と同じような気がした。


でも、今日からは、何かが違う気がした。


ジャムもバターも、スクランブルエッグもウインナーもついている。サラダにフルーツにコーヒーだってついている。


そんな毎日になりそうな予感がした。


にゃー子がそんな、気にさせるのだと愛梨沙は、思った。






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