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始まりの序章

渡辺惣右衛門は、若いが、切れ者と評判であった。


田助と相通じるところがあって身分は違ったが、お互い認めあっていた。

先日も、田助の陳情に熱心に耳を傾け、年貢の減税を筆頭家老に打診してくれたばかりである。


そんな、惣右衛門が、なぜ、田助と月千代の障害となるのか、月千代には理解できなかった。


「田助、そなたに一揆首謀の疑いがかかっておる、速やかに奉行所まで参れ」

惣右衛門は、下を向いたまま悔しげに、威厳を保って田助に告げた。


「ばかな、何かの間違いだ」


惣右衛門のもとにすがるように田助が歩みよると一斉に周りの役人が、田助を縛りあげてしまった。


村人たちが、異変に気付き役人たちはの前に立ちはだかった。


「道を開けねば切るぞ。もっとも、田助の調べがすんだら、次は、お前たちの番だがな、ヒヒヒ」


勘兵衛が気味の悪い声で笑いながら言った。


「待て、渡辺惣右衛門。そなたの目は節穴か。」


よく通る声が鳴り響いた。声の主はなつだった。

「奈津」


村人たちは口々に彼女の名を叫んだ。何事が始まるのか、みな固唾を飲んで見守っていた。


村人の前に出てきた奈津を見て、役人たちは、突き飛ばそうと手をかけた。


「さがれ、人間ごときが無礼であろう」


奈津が激しい口調で言うと、奈津に手をかけた役人たちが、ぱたりと倒れこんでしまった。


役人たちは、刀に手をかけた。


緊張がはりつめる。いまや、虫一匹の羽音さえ大きな音にきこえる。


「待て」


惣右衛門が役人を制した。


「子供よ、私のどこが節穴か申してみよ」


「そなたの横にいる、勘兵衛なる者の心の声を聴きますれば、田助の一件、全て勘兵衛が仕組んだもの。全くのでっち上げにございます。田助をなき者にし、その妻、月に地獄の悲しみと苦しみを味あわせんがための所業。理由は、田助と月への恨みにございます」


「馬鹿馬鹿しい。なにゆえ、この勘兵衛が田舎者に恨みをもたねばならないのじゃ、愚弄も甚だしい、このガキも引っ捕らえよ」


勘兵衛の言葉を合図に一斉に、役人が奈津に詰めよった。


「奴はオロチ、神通力を持つ、ヤマタノオロチだー」


奈津が捕まりながら、叫んだ。


奈津は、掴まれた手を振りほどき、天に向かって大きな×の字を切ると、次いで、手のひらをそこへかざした。


青白い光がまが玉のような形になり、空高く舞い上がった。


「ヤタノカガミよ、勘兵衛の真の姿を映しだせー」


奈津が、そう叫ぶと、カガミの光が強くなり、辺り一面を眩しく照らし出した。


やがて、一筋の光が勘兵衛へ一直線に当たると、

勘兵衛の姿がみるみる間に蛇へと変わっていった。


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