因縁の対決
麒麟も殺気立つ。四使徒の怒りを煽り立て、邪魔者たちを消し、最大の力を得るつもりが台無し。
誰一人脱落することなくこの会場に飛び込んできたからだ。
かといって迂闊に手を出せない。警備の鬼どもをみれば麒麟にも一目瞭然だった。
「何をしておる。鎮圧せぬか」
閻魔が声をあらげるも誰一人手出しできない。それもそのはず、飛び込んできた狼藉者の腕には四使徒の所属を表す腕章がつけられているからだ。
神は二番以上。三番は妖怪の最高位。副は左右一名ずつ。頭はその中でも一番の位。
メイは青龍隊三番副右。彩萌は白虎隊三番頭。かえでは玄武隊三番頭。にゃー子は朱雀三番頭。薫子は青龍三番頭。ナヨタケに至っては青龍一番頭。これでは誰も手はだせない。
「何をしておる、謀反ならわしが魔界の長なるぞ。四使徒なりとも遠慮は要らぬ!!」
閻魔の剣幕に額に汗を滲ませ、にゃー子たちに詰め寄るも鬼たちも半信半疑。討ってでるものは一人もいない。
「お前ら、俺様の三番頭に手を挙げればどうなるかわかっているよな」
唸り声をあげながら、白虎が見栄をきる。
会場内はどよめきが起こる。
「白虎己…。血迷うたか。父上」
華閻が閻魔を見る。
「どういうつもりだ?」
閻魔の額に汗が滲む。万が一のことがあれば娘、華閻の命が危ない。
「御政道に誤りがあれば諌めるのが僕らの仕事」
「青龍、貴様の意向か?」
閻魔はチラリと麒麟の様子を伺う。麒麟は黙って事の成り行きを見守る。首謀者とバレたところで手出しできぬよう手配済み。場合によれば華閻の影を抹殺し、自分も討ち死にすればよいだけのこと。麒麟はタイミングだけを見定める。
「閻魔法第3条但し書き。閻魔職務不能の場合、四使徒の合議により職務を全うす。職務不能とは閻魔死去、重病、若しくは巨悪により身体、財産、生命に損害を与える旨告知され、脅された時…」
玄武がぶ厚い法律書を読み上げると同時に大きな音を立て、閉じた。
「現在の状況が一番最後の…、その、つまり、何だ?ええと、それに当たるってわけよ」
頭を掻きながら朱雀が補足した。
「まてい、揃いも揃って貴様ら言いたいことを…。わらわの晴れの日を汚した上にわらわと父上が操られておるとな、無礼な証拠を見せよ!!」
華閻が怒りの矛先を四使徒にぶつける。青龍は黙って壁を指差した。
壁には式神とマユの何処かへ走っていく姿が映し出される。マユが何かを指示し、式神がそれに答えている。
青龍は壁に向かって人差し指と親指を差し出し、捻る仕草をした。
二人の会話が会場に聞こえてくる。
「マユちゃん、本当にそこでいいのか?」
「式神さん。あたしゃ地獄耳。情報整理の能力なら任せて。骸の話、四使徒さんの話、式神さんの話、ハリーやその他もろもろ盗み聞きに地図や情報を勘案すれば…」
マユが一枚の扉の前に立ちはだかる。
「88888888部屋もあっていちいち全部探していたら何日あっても足りゃしないわ」
「とりゃあ」
式神が勢いよく扉を蹴り飛ばす。真っ暗な部屋。何も見えない。式神が右手を掲げる。
炎があがり、辺りを明るく照らし出す。二人が注意深く目を凝らすと黒い鎖に繋がれた何かが蠢く。
「あれかな?」
マユが近づいた時、その傍らから何かがマユに飛び掛かる。
マユは咄嗟に黒槍で避ける。黒槍は見るまに萎れていく。
「鳳凰!!」
マユが呆然と立ち尽くす。
「マユちゃん危ない!!」
式神がマユを抱えて明るい場所まで引き下がる。式神は音を頼りに相手の位置を探る。
「そこか?」
式神は上空に右手をかざす。光り輝く物質が迸る。何かに降りかかり、物の形状が明らかになる。
マントを纏った髑髏の姿が浮かび上がる。
「てめえ…。死神だな?」
「けけけ。あの時はよくもうちの息子をいためつけてくれたな。年端もいかねえ、神波もつかえねえガキを…」
死神は上空をゆらゆらと凧のように漂う。
「いっちゃん、ムカつくコンビに会えてチョー嬉しい。ぜってー復讐。まじ復讐」
更にぐるりと回転しながら飛び回る。
「子が子なら親も親ね」
「同感だ」
式神がマユに同意する。
「すぐに減らず口叩けなくしてやんよ」
死神は赤くもえたぎる炎をマユたちに投げ付けた。
「結界!!」
式神が直ぐ様結界を張り、死神の攻撃を防ぐ。炎は結界の淵に当たるとベッタリとまとわりつくようにどす黒くなり、やがて淡雪のようにゆっくり消えていく。
「マユちゃん、一旦出るぞ。つかまって」
「え?」
「ほれほれ」
死神が更に攻撃をしてくる。式神は結界を一旦解いて大きく後ろに跳ね再び結界を張った。
そこへ目掛けて炎は軌道修正する。やはり結界の淵に当たり同様に溶けていく。
「結界自体を壊死させやがる。さすが死を司る神だぜ」
式神も気が抜けず、額に焦りと緊張の汗を滲ませる。
モニターの向こうで見ているにゃー子たちも気をもんで二人を見つめる。
「受けてばっかりでも神通力を消耗するからな。いつまで持つのか、チョー楽しみ」
死神は更に倍の炎を追加していく。式神は徐々に部屋の入り口に追いやられていく。
「受けてばっかの式神。チョー受ける」
「あたしゃどうしたら」
マユはイラついた表情で黒槍を見つめる。
「黒槍さん」
「からお手紙ついた。白槍さんから呼ばずに投げた」
マユの頬を掠めて白く長い槍が腹を抱えて笑っている死神の腕を貫く。
死神は肩を押さえ、床に落下しのたうち回る。
「誰?」
マユが振り返ると渡辺宗右衛門と実直そうな青年の姿が。
青年は黒槍に近寄ると何事か唱えた。黒槍は瞬く間に息を吹き返していく。
「マユ。すまなかった」
青年は頭を下げる。
「て言うか、誰?」
マユが未だに疑問に思っていると肩を押さえていた死神が起き上がった。
「もはや貴様に勝ち目はないぞ」
渡辺様は腰の刀を抜いて死神に向ける。
「数が多いからって俺の神通力の前では問題ねえし…。それにもうじき俺のダチがくんだからねーだ」
死神があかんべをする。
「ダチとな?」
「ばっくれんじゃねえよ。そこにいるお前の子孫にのされた疫病神と貧乏神だよ。アイツらルーズだから遅れてんだけどよ」
「コイツらか?」
青年が呆けた顔で縛り上げられた貧乏神と疫病神を指し示す。
「何だよ、それ。まじかよ。だからこねえのか。じゃ先言えよ、お前らちょーいじわりい」
死神がふてくされるように床に体を投げ出す。
「いまだ!!」
式神が術苻を投げ込んだ。死神は完全に封じられる。情けない声をあげながら顔だけを残して床に完全に同化し、動かなくなった。
「マユちゃん。あの鎖を…」
式神の促しにマユは黒槍を鎖に向かって投じた。黒槍は一直線に鎖に飛んでいき、全ての鎖を断ち切った。
繋がれていた黒い女のようなシルエットは何処へともなく飛び去っていく。
マユは額に手をあて、その飛んでいった方向を見ていた。
「マユ、すまなかった」
青年が頭を下げる。
「だから、あんた誰?」
「マユ姫、祖父にござる」
渡辺様が説明する。
「え、私のお祖父さん?」
「そうだ。許してくれ、パパとママのこと」
「え、ていうか、何で若いの?」
マユは混乱する頭を押さえた。もっとジジイな写真しか見たことがないからだ。
「こっちの世界では自分の好きな時代の姿になれるからね」
式神の説明にマユも納得する。
「お祖父ちゃん。でも何で謝るの?」
「マユのママやパパを勘当したことで俺は墓の前でお婆には叱られるし、墓の中では御先祖様たちには叱られるし…。本当は知っていたんだ。許してやらなければならないことも、二人の…、いや、マユを含めた三人の幸せを祝福してやらなければならないことも。でも自分のメンツのために片意地を張って…」
青年は頭を下げる。
「お祖父さん…」
「こんな可愛くて、出来た孫なのに」
青年の目に涙が滲む。
「ううん。ありがとう。帰ったら伝えておく」
マユはキラキラした瞳で青年に答えた。誉められたせいで心なしか頬が赤い。
「あ、そのことだけど…。黒槍があった場所。あの奥に侘び状が入っている。もしもの時に俺が書いたものだ。帰ったらそれを読んで聴かせてやってくれ」
「わかった」
マユはきりりと顔を引き締める。サムズアップでモニター越しにみんなに任務完了をアピールした。
「よっしゃ!!」
モニターの向こう側にいたにゃー子たちは歓声をあげる。
「よかったにゃ、華閻。影が帰ってくる」
にゃー子が華閻に微笑みかけた。
「うるさい!!」
華閻は忌々しげに拳を突き上げるとにゃー子目掛けて殴りかかる。
赤い妖気を纏った華閻の拳をにゃー子は咄嗟に飛び上がり避けた。後ろに跳ね、距離をとる。
「それでわらわを救ったつもりか?笑止千万。わらわの影が抜かれていたからといって操られた証拠にはならない。わらわはナオトの御霊を心底愛しておる。貴様になど負けぬ。ここまで魔界の姫をコケにした罪。その身をもって償わしてくれるわ。わらわと勝負いたせ!!」
華閻はいうが早くにゃー子に襲いかかる。華閻の蹴りを左肘で受け、払いのける。
互いに妖気を昂らせ、弾けとぶ。にゃー子は壁で、華閻は天井で反転し、再び互いに中央で拳を交える。




