表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/114

本日はお日柄もよく

一方、式神を救出に向かったナヨタケと薫子は警備の鬼と髑髏兵をなぎ倒しながら式神の囚われている洞穴の奥を目指す。

凶暴な魔界獣や妖怪が捕らえられている檻を横目に二人は突き進んでいく。


剥き出しの岩肌に掘られた横穴が二人の両脇にある。それが何段も積み重なり、二人が通りすぎるたびに悲鳴とも威嚇ともとれるうなり声が洞穴一杯に鳴り響く。


時に捕らえられた魔物の爪先が二人の体に当たるが二人は無言でそれを払っていく。


やがて二人は大広間に突き当たった。二人の真正面には鎖で繋がれた式神の姿が…。


式神は気配を感じて顔をあげた。


「お前ら…。なぜここに?」


式神は目立った外傷はないがやつれた様子は見て取れる。すぐさま警備の鬼たちがナヨタケと薫子に襲いかかる。


薫子が神通力、脳内洗浄で一気に片付ける。


「何って助けにきたんでしょ」


当たり前のように薫子が式神に言葉を返す。


「ナヨタケ…。ただじゃすまねえんだぞ」


「はなからそのつもりなのね…」


ナヨタケは式神の鎖をほどいていく。式神もこの状況に手遅れと言わんばかりに鼻から息をつく。


「嬉しいくせに」


薫子は式神の顔を覗き込む。


「ば、馬鹿野郎。お、俺はただナヨタケの身を按じてそれを隠しつつ、嬉しさではにかむ唇を噛み締めて我慢…って何を言わせんだー」


「相変わらず分かりやすい性格ね。さあ、早く出ましょう。長居は無用。直に追っ手が…」


薫子が二人を促した時、三人は何かの気配に足を止めた。とてつもなく大きな神波を纏っている。

「誰なのね」


ナヨタケが問い掛けると相手が答える前に式神の顔色が変わる。


「青龍…」


式神の言葉にナヨタケと薫子が厳しい顔つきに変わる。


「嫉妬しちゃうな、式神」


ブルーとホワイトのストライプシャツの折り目正しい青龍は壁に寄りかかりながら腕組みをしていた。


「どうして、お前がここにいるのね」


「洞窟にいても君たちこないでしょ?だったらここに来た方がアタリかなって・・・」


壁から離れると髪をかきあげ、ナヨタケたちにウインクする。ナヨタケと薫子は警戒を解かない。


「お、サトリちゃんがいるのか。これはこれはお初、お目に」


青龍は執事のように頭を下げる。


「な、何よやる気?」


なぜか薫子は顔を真っ赤にして目を輝かせる。


「お前も十分わかりやすいぞ」


「サトリが悟られるようじゃおしまいなのね」


「べ、べつにカッコいいとか思ってんじゃないからね」


薫子は髪を振り乱して抗議するも全く説得力がない。


「かなり修業を積んでるな。僕のハートもお見通しだろう。ま、ボクのスピードの方が断然速いから心を読まれるぐらいじゃあ戦闘時は差支えないけどね。問題はそこじゃない・・・。僕の計画自体がバレバレなっちゃったってことが問題だ」


「どういうことなのね?」


ナヨタケは青龍と薫子の顔を見比べる。「?」顔の薫子も必死で青龍の顔を見つめる。


「そういうこと!!」


薫子の顔が「!」のピンと立った笑顔になる。


「何がそういうことなのね?」


ナヨタケが薫子をせっつく。


「とにかく時間がない。君たちの力を貸してもらうよ」


青龍は再び式神たちに微笑みながらウインクした。


方、青龍の部屋に飛び込んだメイは誰もいない部屋の中を探索していた。なんだか珍しい骨董品の数々がきちんと手入れされ絵画やパズル模型の完成品など一日ここにいての飽きないようなものがずらりと並べられていたからだ。


メイは感嘆と共にその一つ一つに手を伸ばしていた。


「はっ!!いけません。先をいそがねば」


敵がいないことに心がほっとしてしまい落ち着いていたメイがもう一度心を奮い立たせた。


「神宮寺さん。相変わらずかっわゆいねえ」


「誰ですか?」


空から降ってくる声にメイが術符を構えた。


「俺、俺、俺だよ俺」


「おれ?」


何かの詐欺のようなニオイのトーンにメイの眉間には皺が寄る。しかもどこかで聞いたことのある声。妙な寒気すら覚える。


「つれないなー。もう忘れちゃったの?狗神だよ。狗神」


「あー」


完全に気のない侮蔑の声。メイは術符の構えを解いた。


「何だよ、久しぶりに会ったのにその態度。しかもそんな汚いものでも見るような眼で」


そんな目で見られていながらなぜか狗神は嬉しそうに尻尾を振る。


「会いたくもなかったし、声すら聞きたくもありませんでした」


素っ気ないメイの一言になぜか狗神はエビ反りで応える。


「愛されてる」


「えっと日本語通じてます?」


「十二分に通じちゃってるぜ」


狗神はサムズアップでメイに了解の意思を伝える。メイの背中に悪寒が走る。


「用がないなら私は先に進みますよ」


メイは会場に続く道を走り出した。


「おっとそのまま行かせるわけにはいかない。青龍のお頭からきつく言われてるんでね」


狗神は留まっていた岩場からメイの前に降り立った。


「バトル気ですか?」


メイが術符を再び構えた。


「ふふふ、これを見よ」


狗神は懐から数枚の写真を取り出した。あの世で撮られた沖田総司のプロマイド写真だった。


「あー、ズルいです。私、それ欲しいです」


「イヤだよーだ。欲しかったら俺のこと捕まえてみな」


あかんべしながら狗神は部屋の中を所狭しと跳ね回る。


「待ってください。狗神君」


メイもきゃっきゃとはしゃぎながら狗神を追い回す。




ーーーしばらくして・・・。


「待ちやがれ!!この狗公。ふざけてんと叩き潰すぞ、このくそがきゃあ」


メイのけりが拳が青龍の部屋を粉砕していく。


「どうなってんだ、この子」


狗神も命の危険を感じながら必死でメイの攻撃をすんでのところで避けていく。狗神はメイに稽古をつけるつもりだったのだが完全に立場は逆になってしまった。しかもメイは聞く耳を持たない。


狗神は大変なことになったと後悔した。


メイと狗神の鬼畜のような追いかけっこが始まったころ、牢獄に閉じ込められていた彩萌が目を覚ました。


燭台にろうそくの灯された岩肌剥きだしの牢屋。番をする骸骨兵が一人。椅子に腰かけてうつらうつらと舟をこいでいた。彩萌は鉄格子を押し広げようとそっと手を伸ばした。


そこへ一匹のカブトムシのような昆虫が飛んできて鉄格子に触れた。虫は大きな静電気のような音を放つと黒焦げになって地面に落ち動かなくなった。


「あぶね」


慌てて彩萌は手を引っ込める。用心のため地面に落ちていた石を鉄格子に与えてみた。やはり、虫と同じように音を立て、黒焦げになる。うかつには鉄格子に触れられない。彩萌はドカッと座り込み低く唸った。


早く皆と合流しなくては。ふと見上げた高いびきの骸骨兵の腰には牢屋のカギと思しき鍵が不用心にぶら下がっている。


「畜生、もうちょっと近くにいてくれたらな」


彩萌は腕組みをした。と何かに気付き左肩に手をやる。


「なんだこれ?」


左腕には白いスカーフのようなものがついていた。


「白虎隊三番頭・・・?」


彩萌は怪訝な様子で記されていた文字を読む。すると、首から何かが地面に落ちた。


「いけね。あ、ああ、待て」


愛梨沙から預かっていた銀狼の入った殺生石が落ちたのだ。しかも自分の意思でもあるかのように牢屋の隙間を縫って外へ飛び出す。

「わ、どうしよう」


彩萌も這いずって追いかけるが一瞬早く取り逃がしてしまった。


殺生石は骸骨兵の元へ近づくと身を震わせた。銀色の煙が部屋中に立ち込め、見る間に銀狼の姿となっていく。


「ぎ、銀狼さん!!」


声をだした彩萌を制するように銀狼は口をとがらせ、首を横に振る。彩萌も口を両手で押さえて、無言で頷く。


銀狼は前足を伸ばすと、続いて後ろ足を伸ばしあくびを一つした。骸骨兵が眠っていることを確かめると腰にぶら下がる鍵をかすめ取り、彩萌に渡した。


彩萌は鉄格子に触れないように鍵を鍵穴に指し込み回した。鉄格子は音を立てて崩れ去り、彩萌は牢屋から脱出した。


「ん、何だ?」


寝ていた骸骨兵が異変に気づき目を覚ます。銀狼の九つの尻尾が骸骨兵を弾き飛ばす。銀狼は殺生石を咥えると彩萌に背中に乗るように促した。


彩萌も素早くそれに応じて、銀狼のふんわりと柔らかな体毛にしがみつく。


「であえ、脱獄したぞ」


吹き飛ばされた骸骨兵は体がばらばらのまま仲間たちに緊急の一報を知らせた。どこからともなく骸骨兵が湧き、銀狼に刀や弓で襲い掛かってくる。


銀狼は前足を土埃を巻き上げいならせると疾風のごとく走り始めた。骸骨兵は次々と煽りを受けて、空高く骨片をまき散らされていく。銀狼はそれを後ろへ後ろへと置き去りにしながら前へ前とひた走っていく。


明るい場所に到達するころにはもう骸骨兵の姿はなかった。どうやら、彩萌は地下の洞窟に捕えられていたらしい。


しかし、地上に出たとはいえここがどこなのか彩萌には到底理解できなかった。


今までとは明らかに雰囲気が違う。ひび割れた荒野でも、砂漠でもない。手入れをされた公園のような場所だ。黄泉がところどころに湧き、のどかなベンチに草花や青々とした樹木が植えられている。



赤々とたぎる炎が時折空に向かって迸る。


彩萌が口を開けて眺めていると、銀狼は水のカーテンに敷きられた部屋の中を覗きこんでいた。


中では鬼や髑髏や人魂が和やかに談笑している。


銀狼はその様子を低い体勢で眺めると、悠然とその部屋に飛び込んでいった。


水しぶきがあがり、一斉に部屋の中のものたちが銀狼を見た。


やばい、ばれたか?


彩萌は銀狼の背中に体を埋めた。フカフカの銀色の毛が暖かく心地よい。


一瞬、彩萌は自分の置かれている立場を忘れそうになり、慌てて首を振る。


「何だ、銀狼帰ってきてたのか。ご主人様ならこの上だぞ」


一匹の鬼が骨付き肉を銀狼に放る。


銀狼はそれを一飲みにすると頭を下げてゆっくりと部屋の中央に進む。


突然、強風が下から上に吹き上げる。銀狼は慌てることなくその風に乗っていく。


「わああ、何だい?」


彩萌は吹き飛ばされないように銀狼にしがみつく。


暫くすると風は止み、銀狼はふわりと床に降り立った。さっきとは違う雰囲気の部屋である。さっきの連中が階下に見える。


どうやら、風はこの世界のエレベーターのようだ。銀狼は体を震わせると背中の彩萌の方を振り返った。


彩萌と目が合うと銀狼はニヤリと笑う。


嫌な予感が彩萌の頭をよぎる。


ーーーと、突然前を向いた銀狼は廊下を猛然と走り出す。嬉しそうな声をあげながら時に天井を、時に壁を猛然と走っていく。


銀狼の背中に張り付きながら、彩萌は翻弄されるがまま振り落とされまいと必死に食らいつく。


銀狼は結婚式会場の受付をなぎ倒して会場に飛び込んだ。


会場は何事かと一斉に振り返る。華閻が立ち上がる。


「銀狼…」


久しぶりの再会よりも晴れの日を汚された腹立たしさが先にたつ。華閻が歯ぎしりをする。


「何事じゃ!!」


閻魔も怒り心頭に立ち上がる。


「彩萌」


愛梨沙は周りに聞こえない声で囁く。隣の席に座っていた姫子も表情を歪めた。


せっかく平穏に乗り込んだというのに台無しになってしまう。


しかし、迂闊に手はだせない。途方に暮れていたその時、新郎新婦の席の後ろの壁に亀裂が入る。


壁が崩れ落ち、華閻がナオトを抱えて避難する。


「焦らしてないで早く沖田様をよこしやがれ」


メイの言葉と共に涙目の狗神が蹴り飛ばされて会場内に飛んでくる。続いてメイが…。


「メイ?」


愛梨沙が目眩を覚える。


「全く、白虎殿にしても青龍殿にしても自分の手下に対する躾がなってない。そこをいけば私の何と抜かりなきこと」


タキシードに着替え、式に列席していた玄武が得意顔で白虎と青龍を見た。


「ほう、あれのどこが躾がなってるっていうんだ」


白虎は目の前に出された料理を素手でガブリつきながら窓の外を指差す。


「うわああ、止まらん。黒次郎、主人の言うこと聞かんかい」


窓際に避難した閻魔の頭を直撃して水のカーテンを潜り抜けてきたかえでは黒次郎の背中から落下し、会場の床を転がる。


直撃された閻魔も前のめりに倒れ込む。


「あ、おっちゃん。堪忍やで。この、アホが急げゆうたらえらいスピードあげよったんで・・・。オー、みんな無事やったんやな」


かえでは彩萌とメイを確認し、姫子と愛梨沙に手を振った。


「なんか熱でそう」


「あっちしもでありんす」


更に会場の天井にひびが入る。


「今度は何?」


愛梨沙が頭を抱える。閻魔も怒りを忘れて呆然と天井を見守る。会場の警備たちもおろおろしている。


「一階間違えたのね」


「あれ、お月さんきてないや」


ナヨタケと薫子が空からがれきと共に降ってくる。


「ここにいるにゃり!!」


会場にこだまするマイクの音。司会席に皆が一斉に注目するとマイクを握るタキシード姿の女の子が一人。腰に手を当て不敵に微笑む。


「レディースあんど・・・ヤンキーじゃなかったジェントルマン!!この結婚式異議ありにゃ」


「にゃー子!!」


「お月さん、式神は救ったわ」


薫子が手を振る。


「さっきマユとすれ違った。式神とどこいったにゃ?」


「ちょっとね、それより今からが大事よ」


「そうだにゃ」


にゃー子は真剣な目で華閻を見つめる。


「おのれ、猫め。まだ、性懲りもなくわらわの邪魔だていたすか。下界のようにはいかんぞ。ここではわらわの神通力も全開で戦えるのでな」


華閻はドレスを脱ぎ捨て、桃色の着物姿に変身する。着物に刺繍された般若の顔が更に目をきつくする。赤い妖気が立ち込める。


「何をしておる皆の者出合え、出合え」


閻魔の掛け声に鬼たちが会場内になだれ込む。愛梨沙たちも戦闘態勢を整え、迎え撃つ。ナオトだけはいまだに虚ろな抜け殻のように佇んでいた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ