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人間だもの

一方、これまた穴に落ちた愛梨沙たちは目の前に立ちはだかる大きな蛇と対峙していた。


腹は毒々しい黒と赤の斑模様。茶褐色の背中には幾何学的な文様が規則正しく首から尾の手前まで並んでいる。首は十股。

愛梨沙たちはあのヤマタノオロチであることがすぐにわかった。


「ヒヒヒ。久しぶりだな…。まさかこんな場所で出会えるとは。地獄がこんなに天国とは正直驚いた。なにせ、死人の魂を食い放題で何の(とが)もないのだからな。お陰でこの通り、神通力も戻った…。あの時の礼をたっぷりさせてもらうわい。ヒヒヒ」


マユと姫子が構える。愛梨沙は下を向き、おもむろに肩に担いだものを下ろした。何事か独り言のようなものを唱えている。


「覚悟せい!!」


「待ちなさい!!」


愛梨沙は飛び掛かってきた蛇に待ったをかけた。


一番弱い人間に待ったをかけられた蛇は何事かと背筋を伸ばし待機する。


どうせ大したことでもあるまい。時間を稼いだにしても猫又の仲間内でこの三人は弱い方。束になって掛かってきたところでたかが知れている。


「何事だ。弱き人間よ」


オロチは含み笑いと余裕で愛梨沙を見下ろす。


「あんたとサシで勝負よ」


「ヒヒヒヒヒヒ!!人間よあまりの恐怖に気が違ったか?コイツは面白い」


「私は本気よ」


愛梨沙は凛と立ち尽くす。


「神波も使えず、前回ですら足手まといだった貴様に何が出来るというのだ。魔界に来たからといってお前のステータスが上がるわけでもなし。貴様は所詮どこまでいこうとただの弱い人間なのだ…。それとも、どのみち助からぬ御霊なら初めに消してもらおうという算段か?周りが悶え苦しみ死んでいく姿を見ていつ自分の番かはらはらと気を揉むよりずっといいものなあ。ヒヒヒならば一思いに…」


左右に揺らす残りの鎌首諸(もろ)とも四方八方よりオロチの首が愛梨沙目掛けて牙を剥く。


「あーりん!!」


マユと姫子が叫ぶ。砂埃が舞い上がり、オロチと愛梨沙の姿が見えなくなる。オロチの唸り声だけが大きくこだまする。


視界が徐々に開けると傷だらけのオロチの姿が現れた。緑の毒々しい血を噴き上げながら、悦に入った表情で自らの体を食いちぎっていく。


オロチに対峙するように大きなクジラのような生物。たてがみをライオンのように揺らし、獣のような荒々しい爪をもった四肢が大地にしっかりと根をおろす。


その背中には腕くみしてオロチを見据える愛梨沙の姿。


「ぱっくん。お利口ね。よくやったわ。ご褒美よ」


愛梨沙は自分が乗っているクジラのような生物の頭を撫でた。そして手に持っていたデッキブラシでその生物の背中を擦りあげる。


「ごろろぉん」


生物は愛梨沙に甘えるように背中を差し出し、気持ち良さそうな顔を見せる。愛梨沙はぽんぽんとその背中を叩き、それに応える。


マユが口を開けて絶句していると、姫子が何かに気づき声をあげる。


「魔界獣。モデル、クジライオン。こいつを飼育してたんでありんすね」


「そう…。能力は相手に夢を見させ、神経から破壊する(ばく)型」


愛梨沙はぱっくんの背中から飛び降りた。


「あーりん、どういうこと?」


マユが槍を地面にさした。


「オロチは妄想の世界で私たちと戦っている。実際は自分自身の体をああやって傷つけていくことになるんだけどね。やがてオロチの奴は神通力を吸われ、生気を失い枯れていくだけ…」


「何かえげつなっ!!」


マユは身震いする。


「でもよかった。これで本当ににゃー子の敵がとれて…。リベンジできないままじゃ後味悪いからね…。ーーーただの人間なめんじゃないわよ!!」


愛梨沙はいまだ妄想と格闘し、衰えていくオロチに指差した。


「ふはははは。貴様らの悪事もそこまでだ!!」


地下道一杯に響き渡る声に愛梨沙たちは辺りを見回す。岩陰から火のついた矢が四方から愛梨沙たちめがけて降り注ぐ。


ぱっくんが身を挺して三人をかばう。矢は甲高い音を奏で地面にバラバラと落ちていく。


「大丈夫。ぱっくんの体は鉄だって通さないんだから」


愛梨沙は心配しているマユと姫子に説明する。


「誰でありんす?」


姫子がぱっくんの下から顔をだした。岩陰に隠れていた骸骨の兵士たちが甲冑の音を響かせ一斉に姿を現した。その中で一際大きく威勢のいい骸骨が刀を片手に一歩前に出た。


「ふはははは。よくぞ聞いてくれた。わが名はがい。この髑髏どくろ兵隊を率いる隊長。お前らの始末に来た!!大人しく荼毘にふすがよい」


骸は刀を高々と掲げた。周りの者もそれに続く。


「すごい数ね・・・。マユ?姫子?どうしたの」


愛梨沙は緊張した面持ちであたりを見回していたが、残りの二人は冷やかかつ侮蔑の表情で骸をじっとり見つめる。


「自分の出世のことしかかんがえてないでありんす、あいつ・・・」


「神波使えないみたいだね。心の声駄々漏れだわ」


二人に心の奥底まで見透かされた骸。三人もの一級犯罪人をやっつけて帰れば閻魔の憶えめでたく出世と褒美を山と貰えるに違いない。骨の髄まで砕かなければ我々、髑髏兵は何度でも再生できる。だから万が一にでも負けるわけがない。俺はついてる。持ってる。ふはははは。


全て二人には筒抜けだった。

「どうしよ、姫子?」


「骨まで粉々はあっちしでも無理でありんす…。こんなときダーリンさえいてくれたら」


姫子が徐々に狭まりゆく包囲網に焦りの表情を滲ませる。


ぱっくんが威嚇の唸り声を発するも無機質な骸骨は左右に体を振りながら甲冑と骨の音を絡ませてゆっくりと歩み寄ってくる。


マユが槍を構えて身構える。


「何とかなるでしょ、姫子援護お願い」


マユが敵の輪の中に躍り出る。骸骨たちは雄叫びをあげ、マユに矢の雨あられを見舞いする。


「鳳凰、黒槍!!」


マユの命令により黒槍から炎がほと走ると飛んで来る矢を次から次へと空中で撃ち落としていく。


「神通力、スタン…(がん)!!」


姫子も必死にマユを援護する。骸骨はバラバラに崩れ落ちるもすぐに元通りに戻り、再び距離を詰めてくる。


「ダメだ」


マユが手を掴まれた。


「助けて」


愛梨沙が続いて捕まった。何千人かかりでぱっくんまで縛り上げられてしまう。


「簡単に捕まるな!!二人揃って何やってますのん!!」


姫子は敵の攻撃を避けながら、わめき散らす。


「だってしょうがないじゃん。私たち人間だもの」


二人は開き直りともとれるふてぶてしさで姫子に応じる。


「だったら飛び出すな!!」


「あんた、神のはしくれでしょ?女神様なんだから何とかしなさいよ」


「こんなに囲まれて一人で対処できんでありんす」


姫子が涙目で二人に食いつく。


「ふはははは。仲間割れか、面白い。しかし、神の后とはこれまたとんだ大ホラを吹きおって」


「嘘じゃないでありんす。わっちしはスサノオノミコトが后、クシナダの稲田姫にありんす。こんなことをしたらただではすまんでありんすよ」


「わはははは。まだ言うか、この大罪人め。どこまで罪を重ねれば気が済むのじゃ。証拠を見せてみい?無いのであろう。愚か者め!!この骸。自らの手で引導を渡してくれるわ」


骸が刀を振りかぶる。


姫子が目を瞑り、両手を前にだし、固まった。


ーーーなぜか一向に襲いかかってくる気配がない。


はてな?


おそるおそる姫子が薄目を瞼をひくつかせながら開いた。


骸骨兵は一様に刀を振り上げたまま顎を外し、固まっている。


「?」


姫子が不思議がっていると骸の隣にいた兵士が姫子に近寄ってくる。


姫子は再び身を縮こませて瞼を固く閉じた。


すると兵士は姫子の手のひらから何かを奪い、みいっている。


姫子が汗を拭うためにポケットに手を入れた際、ついてきたもの。


スサノオノミコトがピンチの時に使うようにこっそり姫子に渡しておいたもの…。


それは華閻とナオトの結婚披露宴の招待状。顔写真入りの正真正銘本物である。


「本物だ」


兵士全員ロケット弾のようにぶっ飛んだ。


ーーーそこへスサノオノミコト本人が現れる。


「おお、姫子。遅いので心配していたぞ…。ん?なんじゃこの有り様は…」


「ダーリン!!実は…」


悪そうな顔で骸の顔を見つめながら姫子がスサノオノミコトに洗いざらいをぶちまける。


「なあに?」


たった三文字の気迫に骸は崩れ落ちる。


終わった…。オワタ。何もかもおわた。


どんなに崩れ落ちても元通りになる骸もあまりの精神的ショックには「っ」が吹き飛ぶほど崩れ落ちた。


こうしてスサノオノミコトの命により姫子、マユ、愛梨沙(ぱっくんつき)は披露宴会場に護衛を伴い、乗り込んでいった。





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