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彩萌VS白虎

少し遡ること、にゃー子とはぐれたかえでと彩萌。


砂の滑り台と共に地下の奥深くまでなすすべもなく流れるままにまっ逆さまに落ちていく。


砂がクッションの役目を果たしてくれたお陰で怪我はしなかったがかえでが埋もれてしまった。


彩萌が僅かに見えたかえでの指先の元に駆けつけ、右手を掘り起こし、両手で握って引き上げる。


「助かったわ。ーーーにしても…。やってもうた。どないしよう彩萌はん」


かえでが砂を払いながら見上げる遥か頭上に僅かに見える針の穴ほどの光り。


「あんなに高いんじゃ飛び上がれないな、困ったな」


彩萌は何気なく壁に手をかける。岩壁を伝って地上に上がれないか探るためだ。


「彩萌はん、ここどっかと繋がっているんやないやろか…。燭台が向こうまで続いているし…。何かの通路のようや」


かえでの指差す方向には確かに両脇に燭台が取り付けられていた。ミミズの巣にしてはおかしい。


「確かに人の手が入っているようだね…。上に上がるよりこの道を進んでみるか…」


彩萌が手をかけていた壁の砂を払うと石垣が現れた。人骨も埋められている。彩萌は間違いなく何かの通路であることを確信する。

彩萌たちが進んでいくと燭台の灯りがポツリポツリとひとりでに灯っていく。


彩萌たちは導かれるように蝋燭の灯る道を慎重に進んでいく。


デコボコだった道は途中から石畳の道になり、切り出したまま両脇はいつしか真っ直ぐに整備されたものに変わっていた。

やがて二人の目の前には鉄の大きな扉が現れ、迷いを吹っ切るように彩萌が勢いよく開く。


ガランとした大広間。コンサートホールのような造り。彩萌の開けた扉の上には客席が広がる。このホールを囲むようにその席は広がっている。


ホールの中央に続く道には赤い絨毯が敷かれ、頭上には大きなミラーボールのようなものが浮いている。


脈打つようにそのボールが光り輝くと辺り一面が眩しいくらいに映し出される。


「ここは一体…?」


彩萌は開け放した扉に手をかけたまま呆然とホールを眺めていた。時折映し出されるホールの様子に人影がないか探す。

敵が潜んでいたら一溜まりもないからだ。


「彩萌はん?どないしたん。わっすごっ!!」


後ろにいたかえでも中々、扉の向こうに踏み出さない彩萌を不審に思い、ホールを覗き込んだのだ。


二人はしばらく見とれた後、慎重に足を踏み入れた。


「彩萌はん。四つ扉があるで…」


かえではそのうちの一つに手を伸ばした。扉は黄金の扉で、なにか文字が刻んであった。


「玄武…」


かえでは他の三つを見渡した。それぞれ白虎、青龍、朱雀の名が刻んである。


「きゃ!!」


不意に手をかけていた扉が開き、かえでは玄武の部屋に吸い込まれていく。


「蔵前くん!!」


彩萌が扉を開こうとするもびくともしない。


「いやあああ。嫌や!!こっちにくんなや」


「蔵前くん、かえで!!」


扉を叩きながら、かえでの名を呼ぶも悲鳴を発するばかりで返事がない。しばらくやりあった様子の後、静かになってしまった。


「くそ、開けろ。玄武だな」


ーーー別の扉が静かに開く。彩萌は黙ってその扉を見つめる。


白虎。彩萌はその名前に目付きが変わる。自分を助けてくれた恩人、つまり今の育ての両親の御霊を狩ろうとした神だ。


「そうかい…。ぼくの相手は君ってわけかい。蔵前くん。ちょっと待っててくれよ」


彩萌は半開きの扉を大きく開け放し、白虎の部屋に飛び込んだ。


彩萌が中へ乗り込むと、白虎が中央で腕組をしていた。甲冑や太刀が所狭しと飾られた部屋。白虎は猛獣の口元を僅かに緩ませる。


「驚いた。あの時のやせ狐がまさかここまでになるとは…」


白虎は近くの刀に手をかけると露払いをし、気合いを入れる。発せられた神波に共鳴するように部屋の中の武具が震動する。強風が吹き荒れ、彩萌が顔を両腕で覆い、目を瞑る。


白虎は間髪入れず、彩萌の元に飛び掛かり、刀を振り下ろす。


彩萌は足で刀を蹴りあげると左の拳で白虎の毛むくじゃらの右頬を殴り付ける。


「固い!!」


殴った彩萌の方が拳を押さえて転げ回る。


「いっちょまえに殴れるまでになりやがったか…。前は神波に寄り付けもしなかった野郎が」


白虎は右頬を撫でた。転げ回る彩萌にゆっくり近づくと腹を思いきり蹴り飛ばした。


あまりに重い蹴りに彩萌は格の違いを感じ取る。


「どうだ?俺の蹴りの味は。替わりが欲しければいくらでもくれてやるぞ」


白虎は刀の腹で彩萌の顔を軽く叩いた。


彩萌が白虎を睨み付ける。まだ戦う意志があることを白虎に示唆する。


彩萌の体からは紫の妖気が踊り出す。


彩萌の腹に白虎の足が蹴り落とされる。彩萌は間一髪それを避けると転がりながら片膝立ちで構えを取る。


しかし、前を見るともう白虎の姿はそこにはない。慌てる彩萌の後ろから声がかかる。


「遅い!!後ろだ」


白虎は刀の峰で彩萌の背中を強く叩く。彩萌は前のめりで倒れこむ。


「ちったあ、ましになったかと思えばこの程度か・・・。準備運動にもなりゃしねえ。買いかぶりすぎたな・・・。生け捕りにするまでもねえ。このままくたばるがいい」


刀をくるりと反転させた。鋭い刃が彩萌を睨みつけるように光り輝く。彩萌も起き上がり真っ向から白虎を睨みつける。


「くたばれ!!」


白虎が大きく踏み出す。


「狐紫炎、炎柱(こうしえん、えんちょう)」


彩萌は自分の目の前に大きな火柱を立てる。白虎がすんでのところで立ち止り、大きく跳ねもとの位置に戻る。


そこへ彩萌の妖気を纏った拳が白虎の腹めがけて飛んでくる。


「ふんぬ!!」


白虎は両足を踏ん張り、耐えるとそのまま彩萌を弾き飛ばした。彩萌は転がっていくと壁にぶつかり、そこに立てかけてあった鎧のコレクションの下敷きになってしまった。


「きかねえなあ・・・。お前のなまくらな拳じゃあ。---それに貴様は甘すぎる。神波の使い手たるもの、誰にも心の奥を悟られちゃあならねえ…。それを貴様は、駄々漏れにしていやがる」


白虎は刀を投げ捨てると牙を剥きだしにした。両手の鋭い爪が露わになり、白虎が拳を振るたびに風を激しく切る音を立てた。


「僕の・・・。僕のどんな声が聞こえるっていうんだい」


彩萌が鎧の山から現れる。


「女々しい声さ。父さん、母さん・・・。特に生みの親に対する声は聞いちゃいられねえほど大きな声で叫んでいやがる・・・。だが、もうおしまいだ。俺がこの手できっちりけじめをつけてやる」


「---なんだ、そんなことか・・・」


彩萌は安心して下を向き白虎を小馬鹿にしたように笑い始めた。 


「何が、おかしい?」


「そんなこと当たり前じゃないか・・・。大事な人のことをまったく消すことなんて僕にはできない。たとえその声が駄々漏れになっていたとしても僕は恥ずかしいなんてこれっぽちも思わない・・・。だって、だって・・・僕にこの色とこの体を与えてくれた人たちだから・・・」


彩萌の妖気がどんどん上昇していく。危険を察知した白虎が打って出る。


「死ね」


「僕はこの色とこの体で生きてきたんだ!!」


彩萌も白虎を迎え討ちに行く。


振り下ろされた白虎の爪を彩萌は左肘で受ける。じわりと血が滲む。


彩萌は退くことない。右の拳には渾身の妖気を纏った炎が静かに放たれる時を待つ。


「神通力…。狐羅舞霊翔(こらぼれいしょん)!!」


「ぬっ!?」


白虎は彩萌の肘から爪を抜くと咄嗟に体を(よじ)って攻撃を避けた。


しかし、その威力とスピードは凄まじく、肘から爪を抜いた時間の分だけ白虎は彩萌の炎を避けそびれる。


白虎の頬を掠めた。白虎の頬からは血が滴り落ちる。


危ないと感じた白虎は神通力を使い果たし崩れ落ちる彩萌の腹に拳を打ち込んで眠らせた。


白虎は横たわる彩萌を見詰め、頬の血を拭って一なめした。


「とんでもない力を秘めてやがる」


白虎はまともに食らっていたら只では済まなかった彩萌の力に驚いた。


白虎は彩萌の首に手を伸ばした時、配下の骸骨に声をかけられ手を止めた。


騒ぎを聞きつけ駆けつけたのだ。


白虎は彩萌を牢にいれておくように指示した。









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