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風雲急を告げる 閻魔登場

彩萌が脱衣婆を倒し、にゃー子たちの元へ向かった頃、閻魔は式が執り行われる自分の城にいた。


タキシードに身を包み、時計を気にして落ち着かない様子で待合室の椅子から立ったり座ったりを繰り返していた。


娘の華閻の花嫁姿も気にかかるが、母親の脱衣が式場に現れないのが気にかかる。


今日は午前中に仕事を部下に任せ、切り上げると言っていたのだが…。


連絡さえつかないのだ。


血の繋がりはないとはいえ可愛がっていた一人娘の晴れの舞台。すっぽかすとは考えられない。


現に自前の派手なドレスも今朝一番にアイロンがけする気合いのいれようだったのだ。


閻魔が落ち着かないでいるところへ鎧を着た髑髏の兵隊が慌てたように走りより、敬礼する。


そして何事か耳打ちすると見るまに閻魔の太くうねる眉が生き物のように総毛立つ。


「なにー」


閻魔は頭から蒸気が沸かんばかりの赤ら顔になり、歯を剥き出しにして怒り狂う。


閻魔は現状を把握すべく城の石壁に手をあてると何事か唱え始めた。


壁のあちらこちらには地獄の至るところがモニター画面のように映し出される。


ランダムに映し出された映像を目で追っていく閻魔。地獄門で目が止まる。


暫く呆然と眺めていると急いで三途の川と魔界電力を探し出す。


「なんじゃこりゃ!!」


閻魔の両目は飛び出さんばかりになった。脱衣は縛られた挙げ句、完全にのされ俯いたまま動かない。


魔界電力は外壁が穴だらけになり、そこから覗き見える中の様子は天井や床が抜け落ち、至るところで火柱があがっている。


魔界電力の庭では鬼たちが富士山に匹敵するほど山積みにされひどい怪我をして唸っている。


雷神と風神も完全に失神し、動かない。


罪人はと言えば歓声をあげながら砂ほこりをまいあげ閻魔の城へ突き進んでくる。


「どうなっておるのだ?青龍、麒麟!!」


閻魔は四使途の頭、青龍と副四使途の長を務める麒麟を呼んだ。


「お呼びですか、閻魔様」


二人は整列して閻魔の前に膝まついた。


「お呼びですか、ではないわ!これはどういうことだ。今すぐ首謀者を捜しだし反乱を食い止めるのだ!!おちおち披露宴も出来んではないか!!」


閻魔はご立腹の様子で二人に喚き散らす。


麒麟は早速壁に手をあてると映像の時間を巻き戻し犯人捜しとモンタージュの製作に取りかかった。


何かあったのですか、お父上」


閻魔のひどい剣幕に控え室にいた華閻がウエディングドレス姿で顔を覗かせる。


隣には虚ろな目で佇むタキシード姿のナオトが立っていた。


「何でもない。お前が心配することはない。婿どんと向こうで式が始まるまで楽しく過ごしておれ」


閻魔は困ったように華閻の背中を押して、控え室に押し込める。


「でもお父上、母様が…」


「直に参る。お前の晴れの姿に涙が止まらず、化粧ができずにおるのだ、心配ない。さあさあ」



閻魔は控え室のドアを閉めると深いため息を吐いた。まさか母親が何者かにこてんぱんにやられ縛られているとはさすがの閻魔でも言えなかった。


「ーーー閻魔様、コイツらが首謀者です」


麒麟は石壁に映し出されたにゃー子たちのモンタージュを閻魔に指し示した。


魔界の全兵力をこいつらに傾けよ!!青龍、麒麟…」


閻魔が言いかけた言葉に青龍が待ったをかけた。


「四使途が行きますよ、副長たちはここをお願いする。では」


青龍は頭を下げるとじんわりと風景に溶けるように消えていった。


「それでは閻魔様は式の支度を…」


麒麟は閻魔を促しながらニヤリと笑う。四使途不在なら好都合。ナオトの中に溜まる月の涙と欠片の力。


華閻との誓いの口づけで結実するはずである。それを奪えば魔界を含めた世界がひっくり返る。


ナオトの体には寄生種の妖怪がとりついていた。てんとう虫のような形をしており、ナオトの首もとに張り付きナオトを操っている。


華閻の方は麒麟に影を抜かれ人質となっているのだが本人は気づいていない。閻魔だけが事実を知る。


もし閻魔が麒麟に逆らえば別の場所に封印されている華閻の影が消され、華閻は命を落としてしまうことになる。


そのため閻魔は不用意に麒麟に手出しできないのだ。誰にも相談することもできずただ麒麟の言いなりに仕事をこなす毎日。


本当は閻魔とてひどい拷問はしたくはないのだ。


たとえ汚れた御霊であっても閻魔ほどの神通力をもってすればたちまち綺麗に浄化し、清い御霊にかえることができるのだ。


そうなれば地獄は必然的にいらなくなる。


人間は生まれながらの悪党などいないのだ。色々な垢が染み付いて汚れていくに過ぎない。


みんなで助け合ってボチボチやっていけばよい、と閻魔は考えている。


既に閻魔が生まれた時にはこの地獄のシステムは構築されていた。受け継いだ閻魔はどうすることも出来なかった。


それでも行き過ぎないよう最小限に食い止める努力はしてきた。


麒麟が台頭するまでは…。


行き過ぎた正義は狂気だ。狂気は誰にも止められない。


閻魔の危惧するところは娘の華閻と共にそこにある。


閻魔は何とか打破できないか、麒麟の横顔を見詰めながら一人思案する。


一方、青龍は四使徒の控え室に到着した。誰も正装している者はいない。甲冑など各々の戦闘服に身を包んでうで組をして立っていた。


「閻魔様の命によりこれより猫又月千代とその一味を捕獲する。各自持ち場に戻られよ」


青龍の一言に白虎がまず動き出す。


「さてさてどれほどの奴らか…。ま、そこの頭でっかちの玄武よりは骨があるといいがな」


白虎は意味深に笑うと玄武を横目で見ながらドアを出る。


「白虎殿め。あのうすらトンカチはよほど見る目がないと見える。私が本気を出せば白虎など白猫同然…。私が全員まとめて捕まえてくれる」


黒縁眼鏡をずり上げながら玄武が後に続いた。


「先にいくぜ、青さん。ええと命令は…」


朱雀が頭を掻きながら青龍に指を指す。


「捕まえること…。だよ、すーさん」


青龍の返事に朱雀はポンと手を叩き、青龍を再び指差してドアから出ていった。


「さて、俺も行くか」


青龍はブルーのネクタイを締め直し、ドアを開いた。


四使徒は各々の持ち場となる洞窟へ向かった。







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