ポプリ編-Ⅶ-
「久々に、遊園地にでも行かないか?」
隼人がチケットを握りしめて、開店前のホシノを訪れた。
「あら、おはよう隼人君」
「おはようございます、おばさん」
「何それ?」
「あ、これ……っとその前に!」
自然とチケットを握る手に力が入る。
「あの、事後報告で申し訳ありません! お、俺、じ、実は……紬さんと去年からお付き合いさせていただいています!」
「え!? このタイミング!?」
紬は驚いて隼人の方を見た。何となく言い出しにくくて親に内緒にしていたのに、まさかこんな形でばらされるとは。
母親の様子を伺おうとゆっくり顔を見る。
「え、知ってるわよ?」
「え!?」
「見りゃ分かるだろ、そんなもん」
「お父さんいつから!?」
「ひでぇな、ずっといたぞ? ……そんなことより隼人君、紬をよろしくな! ビシバシしてやってくれ!」
「はい! ありがとうございます!」
ビシバシってなんだ。はいって返事もどうなんだ。紬は父親と恋人のやり取りを見てそう思いつつも、交際を認めてくれたことに安堵した。
紬としては、漫画で見るような『交際を認めません!』といった展開も見てみたかった気もするが、隼人の優しさ、真面目さ、誠実さを両親が良く知っていることも分かっていた。
そしてそんな隼人だからこそ、紬だって好きになったのだ。
「じゃあ来週の土曜日でもどうかな?」
「おーけ……お父さん、お母さんいいかな?」
「おう、行ってきな」
「最近毎日お店手伝ってくれてたしね」
「たまには休んだって罰は当たんねーだろ」
「ありがとう!」
「隼人君、改めて紬をよろしくね」
「はい! こちらこそよろしくお願いします!」
この一週間、紬は誰が見ても分かるくらいそわそわしていた。
隼人と遊園地だなんていつぶりだろうか。しかも二人きりで行くのは初めてだ。
「紬、浮かれてるね!」
「そんなことないよ……へへっ」
「あー! 嬉しそう! デート! デート!」
その様子を見て、糖子は茶化しつつ自分のことのように喜んでいた。