ポプリ編-Ⅰ-
「ねーえ、つーむーぎー」
「いらっしゃいませー」
「つむぎったらー!」
「こちらでよろしいですか? すぐに御用意いたしま……ぷはっ!」
「あら、どうしたの?」
「い、いえ。申し訳ございません少々お待ちください」
口元を抑えながら紬は慌てて後ろを向いた。
「あんた……あとで覚えときなさいよ!」
「ふふ、紬の負けだよ! あとで羊羹おごりね!」
「っていうか接客中に笑かさないでよね!」
「だって暇なんだもん。それに紬のお母さんも笑顔で接客っていつも言ってるよー?」
紬は、お客様の前で吹き出してしまう原因を作った糖子に小声で抗議をしたものの、糖子は無邪気に笑うだけで全く悪びれている様子はなかった。
笑顔で接客って言っても今のは違う。吹き出し笑いで接客はダメだろう。
ちらりとカウンターの方を振り返ると、案の定、不思議そうにこちらを眺めているお客様の姿が見えた。慌てて笑顔を貼りつけて、お菓子を包む。
「お待たせいたしました。羊羹二本、金平糖二袋で千五百円でございます」
慣れた手つきでレジを打ち込み、お菓子とお釣りを手渡す。
「ありがとうございましたー」
深々と頭を下げる。お客様が見えなくなったのを確認すると、紬は再び糖子の方を向いた。
「とーうーこー? 覚悟は出来てるー?」
「あ、あはは……紬ちゃん?」
「そんなにあんた……箱の中に帰りたい?」
「うわーん! ごめんなさーい!!」
糖子は紬から逃げるように背を向けた。
そして、すうっと壁をすり抜けていく。
「あ、逃げた! 通り抜けていくなんて卑怯よ!」
店には紬の声だけがこだまする。
そんな紬を、店内にいるお客さんたちは何を言っているんだろうと心配そうに見つめていた。